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第三章 闇の住まう深緑

やわらか天国

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 俺はカティヤにいろいろ尋ねてみた。

「魔術師さまってゲンゼディーフのことですか?」

 核心をついて聞いてみた。
 俺の直感はゲンゼの存在を確信している。

 だが、答えてはくれなかった。
 カティヤは魔術師さまの正体を語りたがらないかった。

「ここはどこてすか?」
「言ってもわからないと思うぞ」
「教えてください、カティヤさん」
「ルルクス森林のアマゾーナ、ジュブウバリ族の里だ」

 本当にわからなかった。
 アマゾーナってのはアンナから聞いたような気はするけど、何だったかは覚えてない。
 ジュブウバリ族には国家という概念がなく、森の外の人間のことは外人として一緒くたにしているようだった。
 なので、地理的にここがどこなのかもわからない。
 推測はできる。
 冬の真っただ中だったローレシア魔法王国とまったく違う気温。
 湿度の高さから考えて、かなり南のほうの地域だと漠然とした推測を打ち立てることは出来る。
 ただそれ以上の事は、現時点では知りようがなかった。

 1日の多くをカティヤに話かけて過ごした。
 10日もすると、彼女の態度は柔らかくなり、たまに外の話をしてくれるようになった。

「ひと月ほどまえ外人と交渉したのだ。布と果実と皮を取引して、たくさん服を手に入れたのだ」

 誇らしげに功績を伝えて来る彼女とそれなりに仲良くなってからも、俺からの話題が変わることはなかった。
 時間が経つほどに焦りばかりが募っていった。

「アンナですよ。アンナ・エースカロリ。可愛い感じの顔で、梅色の髪してて──。テニールです、テニール・レザージャック、灰色の髪のじいさんですよ──。俺はどうやってここに来たんですか?」

 アンナもテニールも知らないと言う。
 俺のことは魔術師さまとやらが森の奥で拾って、この里に連れてきたらしい。

「魔術師さまは優しく、強大な力をもったお方だ」

 魔術師さまについて、少しだけ話してくれた。

 魔術師さまはこの里に数年前から滞在して、魔術を使って、ジュブウバリ族の生活を豊かにしていた。
 だが、俺を拾ってきてから、すぐにその人は姿を消してしまったという。
 俺のことをカティヤに任せて、ひっそりと里を出て行ったのだ。

「僕のせいでしょうか」
「いいや、そうではない。魔術師さまは放浪する身なのだと言っていた。同じ場所に長くとどまる訳にはいかない理由があるとも言っていた」

 気になる事が多すぎる。
 こんなところで寝ている場合ではないんじゃないか?
 なにかひとつでも情報収集するべきだ。

 カティヤがいない隙に抜け出して、外を歩いた。
 壁伝いに体を支えて歩けば、それなりに移動することはできた。

 部屋を出て見て驚いた。
 俺は空のうえにいたのだ。
 というのも、高さ70m以上もの超デカい木のうえに俺の生活していた部屋はあったのだ。
 ジュブウバリ族はこの馬鹿デカい霊木をつり橋で繫いだり、幹をほりだして家にしたり、ツリーハウスを取り付けたりして、立体的な里を形成しているのだ。

 驚愕である。
 
 落ちないように気をつけながら俺は里を散策した。
 里の者はみな大変に美人な女性ばかりだと気づいたのはこの時だ。
 天国に迷いこんだような気分だった。

 とはいえ、彼女らはみんな肌身離さず剣やら槍やら持っている。
 下手なことをすれば痛い目にあいそうだ。
 まあ、下手なことをする度胸なんてないのですが、ええ。

 文明レベルはローレシア魔法王国より低そうだが、この土地の住民が野蛮とかそういうことはなく、普通に会話ができそうだった。
 しかし、重大な問題あることに気がついた。

「ウダ、ホバ!」
「ホバ、ホバ、アーカム!」

 ジュブウバリ族はアマゾーナ独自の言語を使うため、エーテル語では会話できないのだ。

「なにをしている、アーカム! なぜ出歩いているのだ!」

 カティヤの目が吊り上がっている。
 捕まったらボコされるだけじゃ済まないかもしれない。

 俺は逃走をはかった。
 2秒で捕まった。
 取り押さえられた時にカティヤの豊かな胸に思わずふれてしまう。
 彼女は気にした風もなく、ぐいぐい柔らかい形を卑猥にゆがめて押し付けてくる。
 厳密に言えば押し付けてるわけじゃなく俺を裸締めにしているだけなのだが──。

 うッ、発作が!
 童貞の呪いが……! これが狙いか貴様!
 ありがとうござい、ます……──

 目が覚めた時、俺はベッドに押し込まれていた。
 それからは俺のベッドに見張りがつくようになった。

 見張りの女の子もまた大変に可愛らしい子だった。
 俺がベッドから出ようとすると「ウダっ!」と言って、キリっとして俺の押さえつけてくるのだ。
 夜になると、カティヤと見張りの女の子が、俺のベッドにもぐりこんできて一緒に寝た。なんで。監視ですか。効果ありすぎです。この布団一生離れたくないもん。

「う、ウダぁ」

 カティヤも見張りの女の子も、必ずと言っていいほど俺を抱き枕にしてくる。
 熱い吐息を耳の裏にかけられながら、細い腕に掴まるのは最高の気分だ。
 ただ、すぐ気絶するのであまり嬉しくはない。

 見張りがついてから2週間ほどして、俺は見張りの少女に話しかけてみた。

「ウダ?」
「ホバ、ウダ」
「ウダウ、ホバ!」

 2カ月が経つ頃には、流暢に会話ができるようになった。
 見張りの子はサーナと言う名らしかった。
 サーナとはすぐに仲良くなれたが、情報を引き出そうとすると「めっ! アーカム様にはなにも言えませんっ!」とたしなめられてしまう。
 流石はカティヤの部下だ。上官命令は忠実に守っているようだ。
 
「アーカムはとても頭がいいのだな!」
「私、男の人みるのはじめて!」
「ねえ、ほんとうに小股に獣の槍をもっているの!?」

 俺がアマゾーナ語を話せるとジュブウバリ族の間で有名になってからは、毎日、話し相手には困らなくなった。
 里の多くの人間と会話して、この部族の文化にそれなりに詳しくなった。
 次第に俺との会話はひとり10分までというルールが追加され、俺は1日60人近くのアマゾーナの美しい少女やお姉さんに興味津々で話しかけられる日々を送ることになった。

 童貞にはいささか以上に堪える時間で、嬉しいのやら、苦しいのやら、よくわからない精神状態になりつづけていた。

 だって、ジュブウバリの方みんな無防備だ。
 服装の肌面積もやたら多い。いや、熱帯気候だから仕方ないけどね。
 それと、うかつに童貞に触らないでくれますか。
 こっちはすぐ勘違いしちゃうんですから。
 うん、もっと端的に言おう。アマゾーナえっちすぎます。
 もうちょっと自重して。
 特に横よ。横のTITIよ。
 視線誘導強すぎます。
 万乳引力強すぎます。
 お願いだから装甲厚くする文化もって。
 呪い発動しすぎて特級呪霊になりそうです。
 
 とはいえ、こんなことを考えているのは俺だけだ。
 アマゾーナという部族は、美しい女性だけで構成されており、男という概念がないので、色気的な認識が非常に薄い。
 ほとんど裸の美少女が出歩いてるのはそのためだ。

 彼女たちは生まれながらの戦士らしい。
 全員が戦士に育て上げられる。
 皆がそうあるべきと共通のイデオロギーをも持っている
 弓、槍、剣、なんでも使えて、全員が狩りをし、全員が里の守り手になる。
 それがアマゾーナの生き方。

 なかなか興味深い部族だ。
 ところで繁殖に関してはどうしているのだろうか。
 流石に女性だけだと難しそうだが……木からから産まれてくるのかな?
 訊けば教えてくれそうだ。
 まあ、俺に訊けるわけもないんだけど。

 そうこうして、ベッドのうえで安静にする未開の地での時間はあっというまに過ぎていき、やわらか天国での日々は3カ月が経とうとしていた。
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