32 / 306
第二章 怪物殺しの古狩人
超能力者化
しおりを挟む平穏とゲンゼを失ってからの時間は超能力者化の試行錯誤とともにあった。
────
新暦3054年 春一月
いっこうにハイパーモードを操れるようにならない。
エーラは最近俺に冷たくなってきた気がする。
なんというか言う事を聞いてくれない。
気のせいだろうか。
────
新暦3054年 春二月
進展なし。
そもそもなぜ肉体が伊介天成ではないのに超能力を使えるのだろうか。
トレーニングとともに理由も考える日々がはじまった。
アディが無事帰って来た。
ちゃんと三式の属性式魔術の本を抱えていた。
魔術の勉強も並行して進めて行こうと思う。
魔法魔術大学は10歳から入学できるらしい。
王都まで赴いてくれていたらしく、学校にも行って来たようだ。
アディの母校なので、学生時代の恩師に挨拶したとかでなんだか嬉しそうだった。
ちなまに、その恩師に「天才がレトレシアにやってきますよ」と宣戦布告をしたとか。
恥ずかしいから本当にやめて欲しい。
────
新暦3054年 春三月
部屋でゲンゼの手紙を読み返していた。
別になにか発見があるわけじゃない。
なんとなくだ。
彼女がいなくなってから4カ月が経とうとしている。
あの怒涛の出来事がはるか昔のことのようだ。
だが、俺が異世界転移船に行くたびに、あれが夢などではなかったのだと何度でも思い出させてくる。
────
新暦3054年 夏二月
やっぱり、エーラが俺の言う事を聞いてくれなくなった。
なにをお願いしても「やだっ!」と言ってそっぽを向かれる。
数カ月前から兆候はあったが、最近は本当にひどい。
ハイパーモードの掌握は上手くいかない。
魔力がもったいない。
ハイパーモードのトレーニングのせいで、本来練習できるはずの三式魔術の訓練がおろそかになっている。
これでは本末転倒だ。
超能力のコントロールを諦めるべきだろうか?
────
新暦3055年 冬二月
ゲンゼが姿を消して1年が経過する。
俺は8歳になり、彼女との記憶はもはや過去の出来事としか認識できなくなりつつある。
君の勝ちかもしれない。
俺はきっと何もかも忘れてしまう。
それがたまらず恐ろしい。
───
新暦3055年 春二月
ハイパーモードの習得を諦めた。
魔力の無駄遣いだ。
今朝、アリスがエーラを叩いていた。
やだやだ言うのが気に食わないらしい。
「お兄さまに失礼でしょ!」「やだやだ!」
ずっとそんなやりとりが続いている。
エーラがお姉ちゃんなのに、すっかりおかしな関係性になってきてる。
アディの論文は魔術協会で高い評価を受けたらしい。
近いうちに魔術協会の本部のある隣国アーケストレス魔術王国の学会にでるようだ。
我が父が順調そうでなによりである。
────
新暦3056年 冬一月
俺は9歳になった。
時々、ゲンゼの手紙を読み返す。
彼女はいまどこにいるのだろうか。
それを知ってどうするのだろうか。
彼女は俺を拒絶しているというのに。
未練がましいことだ。
────
新暦3056年 冬二月
三式魔術を火属性、水属性、風属性で習得した。
アディに報告したらめっちゃ誇らしげに「流石は俺の息子だ」と頭を撫でられた。
『風と水と火の三式魔術師』を名乗れるようになった。
エーラが俺に仲良くしてくれるようになった。
のちに知ったのだが、やだやだ季なるものが子どもにはあるらしい。
俺はやだやだ季の犠牲者になっていたようだ。
最近はアリスとの姉妹喧嘩もしてない気がする。
エヴァの心労も無くなりつつあるようだ。
魔術の勉強がひと段落着いたので、新しい力を求めて剣術に手を出してみた。
エヴァはクルクマの騎士貴族当主だ。
はじめて知ったのだが、狩人流《かりうど》剣術三段のめちゃくちゃ強い剣士らしい。
剣術は初段にはじまり、二段、三段、四段、五段とつづく。
そして、六段にて剣の究極にたどり着く。
すると、エヴァは三式の魔術師とおなじくらい尊敬されるえげつない実力者なのではないだろうか?
俺は恵まれている。
今日からエヴァに剣を教えてもらうことにしよう。
───
新暦3056年 春一月
エヴァが泣きながらアディに抱き着いた。
俺は「稀代の天才剣士だわっ!! アークは世界最高の天才よ!!」と絶賛されるくらい剣のセンスがあるらしい。
俺はすでに狩人流の初段をもらっている。
だいたい2か月。80日程度で習得した。
だが、本来は段位獲得には3年の修業が必要とされている。
おかしい。
何かがおかしい。
流石に俺天才すぎる。
俺の才能にはなにか理由があると考えるべき段階だろう。
原因を調べる必要がある。
────
新暦3056年 春二月
俺は剣術の理を知るとともに、ある感覚に目覚めていた。
自分の感情をコントロールする方法と言うべきだろうか。
剣での超近接戦に身を投じると、恐怖をコントロールする必要が出てくる。
それゆえの気づきだ。
もしかしたら、ハイパーモードを御することができるかもしれない。
────
新暦3056年 秋三月
年末の風のなか、俺は狩人流剣術二段を取得した。
同時にハイパーモードの制御にもはじめて成功した。
剣術の精神洗練こそが暴走する破壊衝動を操るカギだったのだ。
────
新暦3057年 冬一月
10歳になった。
日々、ハイパーモードの制御の練習をしている。
現状、フィンガースナップによるサイコキネシス発動は全体魔力量の20%を勝手に放出する程度まで抑えることができた。
だが、ハイパーモードの真価はサイコキネシスにはない。
・自分の体を念動力で覆うことによる絶対防御力
・体内に念動力を流し疑似筋肉を作り出すことで得られる驚異的身体能力。
簡単に言えば、無双状態だ。
あの状態になればもはや何にも負ける気がしない。
俺は超能力を完全に支配した。
長い戦いはここに終結を迎えたのだ。
0
お気に入りに追加
573
あなたにおすすめの小説
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す
大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。
その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。
地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。
失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。
「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」
そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。
この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に
これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。
とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~
剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。
平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる