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第一章 再誕者の産声
アイアンコフィン
しおりを挟むゲロを吐いてはいるが、下半身の再生は止まっていない。
「ぼべええ!」
「ヒーリングは受動型の超能力だったな……」
古い知識をひっぱりだす。
超能力には大きく分けて2種類あった。
パッシブとアクティブだ。
パッシブは外的要因で発動する。
アクティブは能力者の意志で発動可能だ。
パッシブでも訓練を積んだ超能力者ならコントロールできる。
緒方みたいに偶発的に手に入れただけじゃ練度が足りないだろう。
通常、超能力者はオーバーヒートすることはない。
それは本人の架空機関の耐久力をうわまわるほどの、膨大なマナニウムを無制限に使える環境が地球上にはないからだ。
理論上ではオーバーヒート現象はありえると言われていた。
だから、可能性くらいは知っていた。
それでも、この目で見るのははじめてだった。
「止まれ、止まれぇ、ぼべえええ!」
緒方を見下ろしながら、どうするか考える。
今にもぶっ倒れて眠りたい気分だ。
気力で意識を繫いで、精一杯頭を働かせる。
「パーフェクトデザインとヒーリングがある以上、こいつはゲロ吐き続けても決して死ぬことはない……」
「ぼべええええ! ぐぼえ! 頭が溶け、る……血が固ま、る……死にたい、ぁぁ、ころして、ころして、くれえ……」
どうやらオーバーヒート後も、架空機関を酷使すると地獄のような気分をあじわえるらしい。
俺は壁からはがれた金属片で緒方の腹を突き刺す。
「うがあああああ! やめ、うああああ! ぼべえええ! おえええ!」
さて、思考に戻ろう。
「ころせ、ころしてぇ、ぇ」
「そうしたいのはやまやまだが、お前って不死だからさ」
「ぁぁあ、ああああ!」
ひとつだけアイディアがあった。
先ほど、サイコキネシスで体をバラバラにしてやった時のことだ。
緒方の体の再生の仕方に特性を見つけた。
1.分裂した肉片は十分近いと一番おおきな肉片──主体に寄っていく
2.肉片が主体から遠すぎるとそいつは諦めて動かなくなる
3.諦めた肉片分の細胞を一番おおきな肉片が再生して補う
見た感じこんなところだ。
これを利用する。
「緒方主任、あんたを封印する」
「な、なんだと……」
死にかけみたいな顔をする緒方。
目がうつろだ。
「…………もう、なにも、したくない」
想像を絶するダルさらしい。
アルティメット賢者タイムと名付けようか。
俺はサイコキネシスで緒方の体を引き裂いていく。
「うがああああああ!」
激痛を感じて、ダルさを越えて苦しむ緒方。
そのままどんどん分裂させていく。
頭、胴体胸部、胴体腹部。
右上腕、右前腕、右手。
左上腕、左前腕、左手。
右大腿、右下腿。
左大腿、左下腿。
13パーツにわけた。
この状態だと流石に苦しむとかそういう話じゃないらしい。
緒方は意識を失ったように苦しみの顔で表情を固めている。
俺は13のパーツをサイコキネシスでやんわり包みこむ。
同様に念力をもちいて、金属片を集めて、急ごしらえの棺桶をつくった。
「術式を固定するには……」
俺の視界がすこしずつ暗くなっていく。
まだだ、まだ意識を手放すな……。
俺がこの場を離れてもサイコキネシスによる拘束が解けないように、0→1のプロセスを永遠とくりかえす式が必要だ。
マナニウムによって引き起こされるサイコキネシスは、いわば魔力によって引き起こす魔術現象とおなじはず。
ならばできるはずだ。
異世界の神秘で人類進化の超常を支配することが。
俺は持てるすべての魔術知識を動員
いままでの研究で見出して来た詠唱式と魔力の流れ、それらすべてを利用して、サイコキネシスが0→1を繰り返すように簡易的な式を組みあげる。
こうすることで災害級超能力者の体は、つかずはなれず、永遠に再生の一歩手前をくりかえす。
それは磁石のS極とS極が決して交わらす、互いにくっつくことがないのと一緒だ。
「でき、た……」
独自の”超能力魔術”はこう名付けよう。
『災害封じの鉄棺』と。
術式を固定するため俺はディアゴスティーニ杖を鉄棺に突き刺した。
「これで、いい、はず……」
鉄棺を奥の通路に放置して俺は出口をめざす。
腹に空いた穴をおさせ、壁に手をつきながら、一歩ずつ進んだ。
家に帰ろう。
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