異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第一章 再誕者の産声

イセカイテック社研究部、カテゴリー4、災害の男 緒方京介

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 壁に叩きつけられ、床のうえにぼさっと落下する緒方。

 緒方の右胸に大穴があいていた。
 向こう側が見える。
 嵐の槍が骨肉を削りつらぬき破壊したのだ。
 素人目にも即死は明らかだ。

「なにが超能力者だ。あんたは覚醒しても三流だったってことを証明しただけじゃないか」

 最後の悪態をつく。
 なんとなく居心地が悪くなった。
 人殺しは初めてではない。
 イセカイテックの研究員やってれば危険なことはままあった。
 
 ふと緒方の胸の社員証が目に入る。
 俺がいた時とデザインが一新されている。
 さしたる意味はないが、それを手に取ろうとした。

 瞬間、手首をつかまれる。

「は?」
「てん、せいくん、超能力者を、なめるなッ!!」

 凄まじい力でぶん投げられる。
 背中から鋼鉄の壁に叩きつけられる。
 衝撃に内臓が破裂したとすら思った。
 肺の空気がおしだされ、猛烈にえづく。

「ごはッ、がはっ!」
「忘れたのかね、『災害の子供達サンズ・オブ・ディザスター』を。彼らのもつ驚異的な超能力の数々を!」

 緒方の胸の穴がみるみるうちにふさがっていく。

「ばか、な……あんた、サイコキネシスの超能力者じゃない、のか……」
「これはヒーリング。そして、これは」

 緒方は雨でも確認するように手をうえへ向ける。
 宙空に火炎が出現した。みるみるうちに大きくなる。

「──パイロキネシスだ」

 火炎をぶん投げてくる緒方。

「≪アルト・ウォーラ≫!!」
 
 火炎を水の盾で受け止める。
 水蒸気がふくれあがり操縦室が白きにつつまれる。
 そこへ死蛍の青い発光が乱反射する。
 視界がいちじるしく悪くなった。

「どこへ隠れた天成くん! 出てきたまへ!」
「≪アルト・ウィンダ≫!」
「そこか!」

 気づかれはするが、緒方の頭を撃ちぬくことに成功する。
 これ流石に死んでくれ──

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!」
「っ、嘘だろ?!」

 緒方は脳みそを露出させたままサイコキネシスで潰そうとしてくる。
 とっさに≪アルト・ウィンダ≫で吹っ飛ばして距離をとる。
 頭が半分なくなり、胸に大穴あいても、なおこちらを睨みつける緒方。

 まずい、来る。
 とっさに俺を中心に、外側への嵐を展開した。
 サイコキネシスとだろうとそれは物理的干渉力に準拠した事象だ。
 
 これでガードできる。
 だが、

「うぐぐぐッ!」
「いつまで耐えられるかね」

 すさまじい圧力で全方位からプレスされている。
 耐え難い痛みが手足を襲ってくる。
 骨が軋む音さえした。
 サイコキネシスという名の巨人の手に掴まってしまった。

 緒方は高笑いをして近くのチェアで足を組んで座る。
 余裕の表情だ。

「そうだ、今思い出したよ。天成、君は2101年にこの世界へ送られたんだった。では、彼らを知らないわけだね」
「うぐ、ぐ!」
「『災害の子供達サンズ・オブ・ディザスター』は2103年に旧ロシアの廃都で発見された6人の少年少女のことだ。彼らはそれまでの超能力学の常識をくつがえす人智を越えた能力をもっていた」

 緒方は頭部を再生させながら続ける。

「君が知っている超能力じゃない。例えば、ヒーリング。切断された腕が1年後には生えてくるとして医学界に積極的に研究されていたが、子供たちのヒーリングはそんなちゃちなものじゃなかった。一瞬で失った体を復元できる超再生能力だ。個人差はあるがこれは6人全員がもっていた。そして、サイコキネシス。指でなぞれば鋼を出力の念力だ。これも全員もっていた。そして、次が驚きだ。彼らにのみ許されたパーフェクトデザイン。この能力の保有者は”死なない”」

 そんな馬鹿なことがありえるのか?
 緒方が死なないのはパーフェクトデザインも持っているから?

「完成された生物ということだ。頭を吹き飛ばしても、心臓を穿とうとも死なない。通常ヒーリングの超能力は致命傷までは治せない。だが、彼らは即死級のダメージも瞬時に再生させる。もちろん、老衰もしないぞ。だから、6人は年をとっていない。いや、正確に言えば年齢を自由に変更できる。肉体のおおきさも人間の常識の範囲ならいくらでも変化する」

 緒方の見た目が若返っていく。
 不健康そうだった顔は血色がよくなり、こけていた頬には肉がついていく。
 圧巻だった。なんてことだ。
 
「私は災害の6人と同じ力を手に入れたんだよ、この世界の潤沢なマナニウムのおかげでね。私は死なない。お前に勝ち目はないのだ!」

 緒方は火炎をつくりだす。
 それはどんどん高温になっていきバーナーのような青い炎となった。

「我が能力パイロキネシスよ、裏切者を焼き穿て──サイコバーナー」

 炎が槍となって射出された。
 腹部に猛烈な痛みを感じた。
 緒方はサイコキネシスを解除して勝ち誇った笑みを向けてくる。
 俺も風の防御を解除して、くたびれて膝をついた。
 
 まっくろに焦げた穴が俺の腹に空いていた。
 直径1センチほどの黒い点が、俺の腹筋をいともたやすく貫通している。

 俺は「チート野郎……」とつぶやき床に伏した。

「どうだね。まだ異世界人類に希望があるとでも?」
「……はあ、はあ」
「いいことを教えてやる。私はカテゴリー0の超能力者だった。つまり、最低品質のエンジンだ。なのに、十分な燃料を搭載したらカテゴリー4『災害の子供達サンズ・オブ・ディザスター』とそん色ないパーフォーマンスができた」
「…………」
「わかるだろう? 地球で超能力に目覚めてなければ転移時ので発狂して死ぬ。だが、すくなくとも覚醒さえしていれば、こうして生き延び最強のチカラを手に入れられる。私以上のエンジンを搭載したカテゴリー1、2、3、あるいはあの6人がこの世界に来たのなら、もはやその先は語るべくもない」

 てめえの世界の資源を喰いつくしたからって、汚ねえ手で異世界の人々を殺して、土地も資源も尊厳もなにもかも奪うだと?

「これは生存競争だ。マナニウムを正しく利用できなこの世界が悪い。すべては異世界側の自己責任だよ」

 そんな理不尽まかりとおらせるか。
 そんないじめを許すか。
 卑怯なやつらめ。
 責任転換はなはだしい。
 欺瞞でぬりかためた大義の旗で不幸をまき散らす。
 
 理不尽、卑怯、欺瞞、不幸、いじめ……そういうのは大嫌いだ。

 俺はこの世界で幸せを見つけたんだ。
 踏み荒らさせるか。
 てめえら全員殺してやる。

「あ……」

 その時だった。
 カチッ、となにかのスイッチが入った音がした。
 内側でなにかが燃えはじめるのを感じた。
 体がどんどん熱くなっていく。

「伊介天成くん。君の父親と同じように人知れず葬ってやろう」

 緒方がまたパイロキネシスの青の火槍をつくりはじめる。

 俺は床の伏しながら眼だけで睨みつける。
 死は目前だ。すぐそこにいるのがわかる。

 だが、心は穏やかだった。
 かつてないほどに冷静だった。
 されど熱い。これは怒り。烈火のごとき憤怒。
 しかし……赤くはない。燃える氷のようだ。

「さようなら。ここが二度目の人生の終着点だよ」

 サイコバーナーの一撃。
 目前にせまる青熱の槍。
 
 俺はそれを睨みつけ──
 火炎は破裂して、目の前で四散して消える。

「………………は?」

 感じる。この懐かしい力。
 だが、かつてより遥かに強力だ。
 すべてをコントロールできる。
 万能感。全能感。無敵感。

「ば、かな……ど、どうして……」

 あとずさる緒方。
 俺はゆっくり立ちあがる。
 腹が死ぬほど痛い。
 だが、アドレナリンの大量分泌で我慢はできる。

 俺は本能の教えのままに右手をもちあげる
 中指と親指をこすりあわせて乾いた音を鳴らした。
 
 直後、猛烈な念力が緒方を叩き、いともたやすく吹き飛ばした。

「ぁ、あり……ぇ、なぃ……っ、そ、そん、な、バカなこと、が……!」
「緒方……第二ステージだ。付き合えよ」
 
 俺はもう一度、指を鳴らした。
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