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接合剤を求めて 後編

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アルバートは驚異的閃きを得ていた。

 それは、書庫の資料でチラ見した記憶のある『スライム』という単語と、それに関してなぜかエドガー・アダンは関心をもっていたことに起因していた。

 通常ならば、弱いばかりで、経験値をろくに落とさず使い用がないモンスターの筆頭候補……それが、スライムというモンスターだ。

 しかし、なぜか伝説の魔術師はそんなスライムを熱心に調べていた。

 さらに言えば、もうひとつ閃きの源泉があった。

「そうか、もしかしたら!」

 起き上がろうとするアルバート。

「おいこら、サアナ……じゃなくて、サアナ様、邪魔です、はやく退いてください!」
「ッ、今呼び捨てに──ぶへっ」

 サアナを押しのけて、アルバートは書庫へと駆けあがっていく。

 今すぐには使わないと思って、しまっておいたその資料を棚をひっくり返す勢いでさがしていく。

「錬成血液……接合剤……魔力充足……装填率、乖離、分解、構築…再生……スライム染色」

 アルバートは血液と黒液のまざりあう現象を、どこかで見たことがあった。

「父さん、あなたの研究は無駄ではなかったかもしれません」

 出来損ないの魔術師ワルポーロ・アダン。
 彼が子供の頃のアルバートによく見せていた魔術のなかに『スライムの染色』があった。

 通常、青色をしたスライムの色を赤や緑といった別の色に変えるだけの子供遊びの範疇をでない魔術。

 結局、アルバートが5歳の頃に、虹色に輝くスライムを開発してしまったせいで、ワルポーロはやる気を無くして研究をやめてしまった。

 だが、今、かつての彼のスライムの染色研究は、その題材をサウザンドラ血液とモンスターの『元』に置き換わってカタチを為そうとしている。

「これだ!」

 アルバートは古びたエドガー・アダンの資料と、比較的新しいワルポーロの著書『スライム染色の道のり』を手にとった。

 出版ギルドや魔術協会に持ち込んだが、けして世に出るのことのなかったワルポーロの本。

「使わせていただきます」

 アルバートは資料を抱えて、魔術工房へと降りていった。

 ──しばらく後

 不機嫌を顔にはりつけて、魔術工房の床を掃除するサアナはティナになぐさめられていた。

「掃除のコツをお教えしますね!」
「ぐぬぬっ、アルバート・アダンめ……!」

 当の本人はサアナなど眼中にはない。

「黒液の性質はスライムに近しい。しかし、違う」

 アルバートはファング1匹分の『元』を、金属のヘラでわけながら言う。

「あ、アルバート、それは平気なのですか?」

 通常、『元』すべてが正常にカタチになることでモンスターが誕生するのに、わけてしまっては可哀想な結果を招くのではないか?

 と、アイリスは眉をひそめていたのだ。

 しかし、結果はそうはならなかった。
 
 時間が経過してそこに現れたのは、半分になったファングの死体ではない。

「ぷるるん」
「これは……!」

 アイリスは驚きに目を見開く。

 アルバートはソレを持ち上げて、神妙な顔つきで「なるほど」とつぶやいた。

「ぷるるん」

「赤黒いスライム……はて、どうしてこんなモノが産まれるのか……」
「それも2匹です」

 アイリスも床の上のスライムを持ちあげて、抱きかかえる。

 2人の魔術師はむずかしい顔をして、お互いの持つスライムに視線を落とすのであった。

 


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