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トラップルーム

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 ──翌日

 ゲールズ三姉妹の魔力クリスタル運搬部隊と、無限外套の二段構え。詰め込み放題において隙のない布陣を完成させた我ら連合攻略家チームは結晶ダンジョンへ突入した。

「ダンジョンはだいたい1週間~10日でその様相が変化するんですよぉ」

 とのこと。
 なので運が良くて10日でどこまで登れるかが、最高階層到達のカギとなるようだ。

「ダンジョンが姿を変える時、ダンジョン内に残っているとそのまま異次元に飲まれてしまうようですよぉ」

 とのこと。
 なのでダンジョンハウスは1週間周期でダンジョンを数日間閉鎖し、異次元遭難者を出さないように規制をかけるらしい。
 
 思えばミスター・ゴッドが俺たちは転移者にチュートリアルダンジョンを使わせたのも1週間だけだった。
 その秘密はダンジョンの構造変化にあるのかもしれない。

「結晶ダンジョンの最高到達階層は18階ですねぇ」
「そこでも、最奥アーティファクトは見つからなかったって言うんです。やはり、A級ダンジョンの壁は厚いですよね」
「私たちのカノウさんならきっと最奥アーティファクトも手に入れられるのですっ!」
 
 最奥アーティファクト。
 それはダンジョンの秘宝のなかの秘宝である。
 アーティファクトには一級、二級、三級のランク付けがされるるしいが、最奥アーティファクトは必ず一級か、あるいは一級を超えた超一級アーティファクトに分類されるらしい。
 
 ハウスマスターがあれほど驚愕していた『追跡者の目』が超一級のアーティファクトにあたるので、最奥アーティファクトとはそれほどに貴重で価値のあるものなのだろう。

 話をしながら3階層まで適度にモンスターを倒しながら昇ってきた。
 階層が深くなるほど、より貴重な魔力クリスタルをドロップする確率があがるので、浅い階層で狩りをするよりもさっさと進んだ方が効率は良い。

 4階層へ昇っても相変わらず地面を這いつくばっているクリスタルコロガリムシを倒す絵面がつづく。

「戦闘は最低限でとどめて、進めるところまで進む方向でいきます」

 俺は効率重視でそう告げた。
 すぐに5階層へ登る階段を見つける。
 4階層にあがって1時間後のことだった。

「加納さん、まるで階段の位置がわかってるみたいな動きでしたね」
「このサングラスでは足跡が見えているのは言ったのを覚えてますか? ちょっとまえから足跡の残り方に規則性があるのに気づいたんですよ」

 ダンジョンのモンスターの配置には意味がある。
 モンスターの遭遇頻度は奥へ進むほど高まる。つまりモンスター配置の密度が高まる。
 そのため、モンスターの足跡の密度が高いほうへ高いほうへ進むことで、必然と次の階層へ進む道を見つけやすくなるのだ。
 『追跡者の眼』は有能である。
 流石は超一級のアーティファクトだ。

 5階層を進む。
 ドロップする魔力クリスタルが平均的に大きくなったきた気がする。
 
 そのまま進み続けると、ふと、おかしな空間を見つけた。
 結晶ダンジョンは縦横3mほどの通路が無限に続いているような迷路なのだが、その迷路のさなかに学校の体育館ほどの広々とした空間を見つけたのだ。

「これ知ってますか?」
「いえ、あたしたちは初めて見ましたよ」
「私もですねぇ。なんでしょうかぁ」
「なんだか怪しいですけど、カノウさんがいれば安心なのですよっ!」

 ゲールズ三姉妹はお互いに頷き合って、俺に判断を委ねてくる。
 芽吹さんを見やれば「足跡の密度はどうですかね?」と訊いてくる。

 広い空間の奥。
 確かに複数のモンスターの足跡が折り重なっている。
 重なり重なり、濃いオレンジ色になっている。間違いなくこの先が6階層への階段だ。

 相談の結果、進んでみることにした。

「なんにも起こらないです」
「トラップルームの類かと思いましたが違うようですねぇ」
「カノウさんがいたからトラップルームの方から逃げたのかもしれないですねっ!」

 リィの理屈は良くわからないが、何も起こらないならそれでいい。

 そう思い、さらに奥へ進もうとした時。
 足元の結晶が一気に崩れ出した。

「あああああ! やっぱりトラップルームです!」
「これは落ちちゃいますよぉ……////」
「カノウさんっ! カノウさんっ! 助けて欲しいのですっ!」
「落とし穴……! 古典的な罠ですね……!」

 俺たちは10秒は落下し続けた。
 明らかに5階層分以上落ち、なおも落下していく。
 どこへ落ちるのだ。
 そう思っていると、ようやく地面が見えてきた。
 青白い結晶だ。
 結晶ダンジョンのなかではあるらしい。
 そんなことを思いながら、一番体重の重たい俺が、一足先に着地する。

 俺は鍛えているので大丈夫だ。
 だが、ほかのみんなはそうはいかない。
 俺は落ちてくる順番に、少女たちを受け止める。
 受け止める時、腰と肘をうまく使って衝撃を吸収すれば、無傷で助けることができた。
 ただ、芽吹さんは特に問題なかったようで、普通に着地していた。
 
「あ、ありがとうございます……」
「もうこりごりですねぇ……」
「カノウじゃん、ぅう、カノウじゃん……っ!」

 あまりの恐怖にへたれこむサドゥ、ルーヴァ。泣きじゃくるリィ。澄ました顔の芽吹さん。
 流石は芽吹さん。これくらいの修羅場くぐり抜けている顔つきだ。

「慣れてるんですか?」
「まさか。大統領暗殺の高高度降下作戦でパラシュートが開かないトラブルにあった時に比べたら、マシなだけですよ」

 なんでこの人まだ生きてるのかな?

『警告! 探索許可の降りていない階層です!』
 
 いきなり、そんな声が聞こえて来た。
 全員のギルドカードが騒がしく鳴り出していた。
 ギルドカードには現在攻略中ダンジョンの階層が表示される。
 その表示を見ると──

「え? 24階層?」

 サドゥが目を丸く来てつぶやいた。
 どうにも予想外のことが起きてるらしい。
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