10 / 46
亡国の王の願い
しおりを挟む闘技場の奥へと進む。
古びた扉を開けると廃墟のような場所に出た。扉が5つ並んでいる。俺が出てきたのはそのうちの一つだ。
鉄筋コンクリートというより古代の遺跡とでも表現したほうがいい苔むした石煉瓦の通路だった。文明力を感じない場所だ。空気が明らかにかわった。本当に異世界にたどり着けたのだろうか。
空気が澱んでいる。
長い間人の出入りがないような、そんな雰囲気が漂っていた。
「あ、加納さん」
芽吹さんが一番左の扉から出てきた。
「早かったですね。わたしも結構素早く倒せたと思ってたんですが……流石は天才マッサージ師。凡百な殺し屋んでは敵いませんね」
「深く潜ってレベリングしてただけですよ」
「あ、そういえば今何レベなんですか?」
「249」
「………………はぁ、なんかもう次元が違うという言葉のまんまですね」
「ところで、ここがどこかわかりますか?」
「はて。全然わかりませんけど? ちょっと暗いですね。遺跡かなにかでしょうか。空気感ががらりとかわりましたね」
俺と同じような感想をのべる芽吹さん。
2人であたりを見渡しても、特に変わったモノは見つからなかった。
ので、とりあえず通路を進んでみることにした。
あとから扉を抜けてくる者もいるのだろう。
ただ、そいつがバトルロワイヤルを勝ち抜いた者だと考えるとあんまり会いたくないような気がした。
通路の奥には部屋があった。
書斎のような部屋に棺があり、その棺には「ミスター・ゴッド、ここに眠る」と書かれている。
「ミスター・ゴッド、死んでいたのか……」
棺のフタを開ける。
眠るミイラの手には手紙がおさまっていた。
─────────────────────────────────────
勇者さまへ
こんな姿で申し訳ありません。いつか現れる勇者を待つには人間の身では時間が足りないのです。最後の試練を突破せし強靭な勇者さま、これから私はお願いをします。ご用意できる報酬はすでに手に入ったことと思います。ただ、その報酬は現状のままですと期限がございます。この世界の滞在は大悪魔の討伐なくしては1年を限度としておりますので。
私の願い、それは先に述べたとおり、大悪魔を倒すことであります。かの大悪魔は我が祖国を滅亡させ、悪虐の限りを尽くしました。大悪魔は未来の世でも大きな脅威であり続けていると思います。少なくとも、あなたがここに呼ばれている以上はまだ大悪魔は生きていて、人々は苦しめられているはずです。
勇者さま、ミスター・ゴッドには異世界に来たいという願望を持つ人間を異次元の彼方より招致するように言いつけてありました。あなたは異世界に来たかったはずです。もしこの召喚行為にすこしでも恩を感じているのならば、最も繁栄した人間の国へ赴き、そこで大悪魔打倒を目指してほしいです。
私の指輪を持っていってください。あなたが勇者さまだと分かれば、きっと我が遙かなる子孫たちは丁重に歓迎してくれることでしょう。
亡国の王アルフォベータより
──────────────────────────────────────
手紙をたたみ、ミイラの指を見やる。
確かにリングが嵌っている。
右手に5つ。いろあせた金色でちいさな宝石細工があしらわれている。
アイテム名の表示を見ると『王の指輪』となっていた。
ひとつ取ってポケットにしまった。
「1年以内に大悪魔を倒さないと元の世界に戻されちゃうんですかね?」
「そういう意味でしょうね」
ここが異世界という推論は当たっていたようだ。
そして、永住できないという最初の発言も正しくそのままだ。
ミイラを見つめる。
アルフォベータ王。
ずいぶん長い間、最後の試練を突破できるだけの実力者を待っていたようだな。
指輪が5個すべて残ってるところを見れば、おそらく俺と芽吹さんが初めての勇者なのだろう。
「あとは任せてくれていいですからね」
芽吹さんはミイラから指輪をひとつ取って、優しく亡骸にささやいた。
そんな優しい言葉をかけてあげられるのに、なんで殺し屋なんかやってるんだろうか。
「他にも通過者がいるかもしれないですけど、これと言ってチームプレイを要求されてる訳じゃないです。こっちはこっちでやりますか?」
「ですね! 行きましょう、加納さん。いざ異世界へ!」
石室を抜けて進むと遺跡の出口を見つけた。
さあ、冒険をはじめよう。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
ほら、復讐者
夜桜紅葉
ファンタジー
「私の復讐を手伝ってくれない?」
個人でひっそりと便利屋をしているキリンは、店の常連であるカルミアから復讐の手伝いを依頼された。
カルミアに対して密かに想いを寄せるキリンは依頼を受け、彼女のために奔走する。
「あの女に必ず復讐してみせる」
果たして彼らは無事、復讐を遂げたのか……
※気まぐれに更新します。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+、ツギクルでも掲載してます。
外れスキル「トレース」が、修行をしたら壊れ性能になった~あれもこれもコピーし俺を閉じ込め高見の見物をしている奴を殴り飛ばす~
うみ
ファンタジー
港で荷物の上げ下ろしをしたり冒険者稼業をして暮らしていたウィレムは、女冒険者の前でいい顔をできなかった仲間の男に嫉妬され突き飛ばされる。
落とし穴に落ちたかと思ったら、彼は見たことのない小屋に転移していた。
そこはとんでもない場所で、強力なモンスターがひしめく魔窟の真っただ中だったのだ。
幸い修行をする時間があったウィレムはそこで出会った火の玉と共に厳しい修行をする。
その結果たった一つの動作をコピーするだけだった外れスキル「トレース」が、とんでもないスキルに変貌したのだった。
どんな動作でも記憶し、実行できるように進化したトレーススキルは、他のスキルの必殺技でさえ記憶し実行することができてしまう。
彼はあれもこれもコピーし、迫りくるモンスターを全て打ち倒していく。
自分をここに送った首謀者を殴り飛ばすと心の中に秘めながら。
脱出して街に戻り、待っている妹と郊外に一軒家を買う。
ささやかな夢を目標にウィレムは進む。
※以前書いた作品のスキル設定を使った作品となります。内容は全くの別物となっております。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる