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奈落へ旅行
しおりを挟むここはダンジョン。
熊級冒険者パーティ『クロガネ隊』は、ただいま魔物との一戦を終えて、近場の鉱脈をあさっていた。
「サムス! もう鉱石がいっぱいだ! おら! こっちの荷物も待てよ!」
「わかったから、少し待ってろ」
「サムスー! さっき魔物との先頭でケガしたんだけど、治癒霊薬はやくちょうだい!」
「わかったから、少し待て」
「遅ぇよ! サムス、戦ってないんだから、魔物の素材解体くらいパパッとこなせよな!」
「うるさい、今やってるだろ」
銀髪の青年はうんざりしていた。
彼の名前はサムス・アルドレア。
『クロガネ隊』の雑用係だ。
次々と入る注文に、辟易しながらも、サムスはひとつずつ仕事を片付けていく。
「たくよ、仕事がおせぇんだよ。てめぇは金だすしか能がないんだから、こういう所くらい、しっかりやれよな」
「本当、使えない無能って、邪魔ったらないわ! マジで何もできないなら引っ込んでてくれない?」
パーティリーダーの大剣使いバルドローと、風魔法使いのバネッサはニヤニヤと笑いながら不満をもらしてダンジョンを進んだ。
「おっと、すまねぇ、サムス、足が当たっちまったぁ~!」
双剣使いゴルドゥはサムスが、鉱石を集めていたリュックをわざと蹴り倒し、笑いながらリーダーたちのあとに続いた。
「チッ……くそ……」
サムスは悔しさに舌を鳴らす。
されど、それは彼らに聞こえないような、ちいさくて臆病な響きだった。
サムスは貴族アルドレア家の三男だ。
仮にも貴族である彼に、平民にして冒険者のバルドローがそんな口を聞けば、処罰は避けられない。
だが、そうはならない。
なぜなら、サムスは幼い頃からの夢である冒険者になるために、アルドレア家内での立場をあやうくしながらも、こうして現場にたっているからだ。
サムスには、ここしか無いのだ。
彼には剣の才能はなく、魔物とは戦えない。
こうして雑用係となるほかには、冒険者としての役割が存在しない。
だから、サムスは本来なら頑固で、人に頭を下げるのが大嫌いな性格を曲げてでも、バルドローたちの言うことを聞くしかないのである。
ダンジョンをしばらく進み、行き止まりにたどり着いた。
ダンジョンには、昔から宝箱が置いてあるとか、眉唾な噂を聞いていたが、当然そんなものがあるわけがない。
普通に考えて、天然洞窟の最奥には、誰が置いたかもわからない宝箱はなく、ただ行き止まりがあるだけだ。
「んだよ! ダンジョンには宝箱があるんじゃねぇのかよ!」
大剣使いバルドローが叫ぶ。
「サムスがこのダンジョンの情報持ってきたんだよな?」
サブリーダーにして、双剣使いゴルドゥは、サムスをトゲのある視線で見た。
「ちょっと、どう言うことか説明しなさいよ!」
風魔法使いバネッサも、サムスを睨みつける。
それらの、理不尽なクレームに、サムスは肩をすくめて答えた。
「常識で考えろ。アスレチックパークじゃあるまいし、宝箱なんてあるわけないだろ」
彼は腕を組んで、正論でろんした。
すると、バルドローもゴルドゥもバネッサも、とたんに険しい顔になった。
「てめぇふざけやがってえええッ!」
顔を真っ赤にして怒り狂ったバルドローが、サムスへ飛びかかっていく。
「まあまあ、落ち着けよ、リーダー!」
ゴルドゥが止めに入った。
「チッ、わあーたっよ。……もういい。帰るぞ!」
バルドローはゴルドゥと視線を短く合わせると、うなずきあい、サムスの横をぬけて、さっさと来た道を引き返し始める。
サムスはため息をつき、重さ80キロにも及ぶ、沢山の鉱石や、魔物の素材など、今回のダンジョンでの成果が詰まったリュックを背負い直して、彼らのあとに続いた。
しばらく歩くと、先頭をいくバルドローの足が止まった。
「サムス!」
「なんだ」
「リュックを置け」
「……?」
バルドローの指示の意味がわからず、サムスは首をかしげた。
ただ、拒否する理由もなかった彼は普通にリュックを地面におろしてしまう。
ふと、サムスはすぐ横の奈落へ視線を移した。
こんなところに落ちたら、ひとたまりもないな、と益体のない事を彼は思う。
「なあ、ゴルドゥ、バネッサ」
バルドローは仲間たちに呼びかけながら、サムスを指差した。
「俺、ずっと思ってたんだよなあ~。どうして、戦いもしない、クスカスが、貴族だからって偉そうにして、クエストの報酬もしっかりもらっていくかよ!」
「確かにな、雑用係には報酬なんていらないよな。戦ってない人間が、戦ってる人間とおなじ分け前もらうなんて、不公平だ。差別だろうさ」
双剣使いゴルドゥはニヤリと笑って同意する。
「じゃあ、もう雑用係なんていらないんじゃなーい? 一人分わたしたちの報酬が多くなるし、宝箱がないダンジョンに挑まされる事もないし、何より、うざったいし」
風魔法使いバネッサは、サムスをヘビのような目で見つめて言った。
サムスは生唾を飲みこみ、自分がやばい状況にいると察する。
「待てよ、こんなのおかしいだろ。俺は報酬に見合った働きをしていたはずだ」
「いいや、何もおかしくなんかないぜ、サムス」
「全部お前が無能だからだ。いらねぇんだよ、雑用係なんて」
「それに、貴族ってだけで無駄に偉そうだし! クールぶって態度はでかいし、もう死ねば?」
ジリジリと間合いを詰めてくる3人に、サムスは命の危険をさとり、ダンジョンの奥に走りだした。
雑用係の苦労も知らないクソどもめ、とサムスは心のなかで悪態をつきながら、必死に逃げる。
あんな奴らに殺されるなんて御免だ。
こんなところで死にたくない。
俺は堅苦しい家に縛られないよう、自由に生きる為に冒険者になったんだから!
サムスの心中を本音と本能が駈けぬける。
「あははは! そっちは行き止まりだろーが!」
「みっともない、サムス! 可哀想だから、ここで殺してやるわ!」
風使いのバネッサは、両手にもつ大きな杖で、魔法を行使する。
サムスの真横の空気が、魔力によって操られ、スーッと滑らかにスライドされる。
「≪ウィンド・バリケード≫! あははっ、そのまま落ちゃいなさいよ!」
「ぐっ!」
サムスの体が空気の壁に押し出されて、奈落へ移動させられる。
あ、死んだ……。
サムスはそう確信した。
奈落上の3人は、落ちていくサムスの心底楽しそうに見送っていた。
「あーあ! せいせいした!」
「よっしゃ、そんじゃ、帰るぞ! バネッサ、そのリュック持って来てくれ!」
大剣使いバルドローは、嬉々として歩きだす。
「え? わたしは持たないわよ?」
「…………は?」
バネッサはキョトンとして、バルドローを見た。
「わたしは女子なんだから、持つわけないじゃない。バルドローか、ゴルドゥのどっちか持ってよ」
「俺はリーダーだぞ! それにバスターソードが重たくて、そんなリュック背負えるわけないだろーが!」
「俺だってサブリーダーだ。技量系双剣使いで売ってんだから、こんな重たいリュック持てないに決まってる。筋肉バカじゃないんだ」
バルドローとゴルドゥは顔を合わせ、さらには、バネッサとも、ほうけた顔を見合わせた。
そして、お互いにひとつの疑問にたどり着いた。
「「「え? これ誰が持って帰るの?」」」
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