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託されたのは『絶倫』でした
しおりを挟む女神像のまつられた教会にて、成人の儀式が行われる。
本日の参加者は7名。
これでも多いほうだ。
「女神ソフレトよ、あなたが民へ、奇跡の恩寵を与えたまへ」
僕の名はゼット。
かつては日本で会社員をしていた頃もあったが、それはもう遠い昔の記憶だ。
今の僕はこの異世界のすみっこにある、のどかな村で平穏に生きる一人の人間だ。
「では、次はリアの番だね」
壮年の神父はそういい、村で一番の美少女であるリアを女神像のまえへ招く。
僕はそんな彼女の村人たちや、両親とともに見守っていた。
「おお、なんと言うことだ……っ! 素晴らしいぞ!」
紳士が声高に興奮しだした。
「リア、君に授けられたスキルは【聖剣】だ!」
「せ、【聖剣】ですか?」
「ああ、これは女神様からの大切な贈り物だ。近日中に王都への招集があるはずだよ。君は当代の勇者とともに旅をする一員に選ばれたのだ!」
神父にさんざん褒めちぎられるリア。
「ゼット、見てた? わたしはどうやら救世者達のひとりに選ばれちゃったみたい……」
リアは困ったように言ってくる。
彼女が気にしているのは、僕との婚約の話だろう。
儀式が終わったら、僕たちは正式に結婚をする予定だった。
これは転生して人生を本気でやり直すと決めた僕が、幼い頃から剣、芸、学の全ての分野において全力で頑張ってきた。
一目惚れして以来、彼女にふさわしい紳士となり、ともに生きていくために僕は村で一番尊敬される人間でありつづけた。
ゆえ、リアの両親は本来なら貴族の子息と結婚させて、豊かな暮らしをする計画をすてて、僕との彼女の婚約を認めてくれたのだ。
「このままだと離れ離れになっちゃうわ」
「大丈夫だよ、リア」
「ゼット?」
「僕は君のためならどこへだってついて行く。世界のなにが相手でも守ると決めたからね」
リアはほんのり頬を染めて「そ、そういうアホな事言う人は知りません!」と、わりかし強いビンタで僕をなぐった。
となりで男子たちがケラケラ笑う。
「リアに嫌われたかー?」
「かわいそうな奴ーっ!」
ふふん。
まあいい、気にしない。
僕はリアとの婚約を勝ち取れた。
彼らの心中くらい察してやれてこそ、人の気持ちがわかる紳士になれるというものだ。
「お願いします」
「よし、では、ゼット。これよりお前に女神ソフレト様の恩寵をあたえる」
女神像の前でひざまづき、瞳をとじて、神父の手を握る。
「なっ? これはまた異質なチカラの気配が…………なっ?!」
「どうしましたか? ふふ、もしかして僕にも救世主達のひとりに数えられるスキルが来ましたか?」
ちょっと調子に乗って聞いてみる。
「あ、あ…えっと…その、だな、これはぁ……」
「? どうしたんですか、教えてください。僕はどんなスキルでも受け入れる覚悟があります」
「ほ、ほんとうに? どんなスキルでも覚悟ができておるんだな?」
「ええ、もちろんですとも」
「わかった。伝えよう」
「はい」
「おぬしが授かったスキルの名は──」
教会が静寂につつまれる。
両親が手を合わせて祈るようにこちらを見ている。
リアもまた緊張の面持ちだ。
僕は期待を胸に黙った耳をかたむけた。
「……絶倫」
「?」
「おねしのスキルは【絶倫】じゃ」
教会から静寂は消えてくれなかった。
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