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エンディング
しおりを挟む世は大テイマー時代を迎えていた。
怪物学会が設立した『テイマーリーグ』は、運営開始からわずか4年で、6カ国21都市に支部を持つようになり、大陸全土で、若者たちの招来の夢には冒険者とプロテイマーが並ぶようになっていた。
アルバート・アダンの出版したベストセラー冒険小説『怪物学者シリーズ』も、そのテイマーたちのバイブルとして、流行に拍車を掛けていた。
各社出版社で編集され直したり、毎年装丁が違う限定バージョンが販売されたり、知らぬ者はいないほどの大ブームである。
その勢いは、各国の言語に翻訳され、国をまたいで大陸中で愛読されているほどだ。
ただ、良い事だけではない。
「テイマーを名乗るものは、この聖書のもと、主の教えを学ぶのです!!!!」
「主の祝福あれ!!」
アルバートのカリスマは一部の者たちに深く刺さりすぎた。看過された厄介な連中が現れたりするのは必然か、はたまた悪運であったか。今となっては触れないことだけが最善手な、面倒な連中もあらわれた。おかげで学会関連の社会的な事件・イベントは近年はよく起こる。
そんな風に世界がテイマーの話題に事欠かなくなり、世間の関心が一層熱くなった時代の最中、記念すべき祭典が行われようとしていた。
怪物学会が初めて開催した第一回大会から脈々と続き、今年で5回目の祭典。
怪物学会が設立した『テイマーリーグ』には数多くの大会があるが、そのなかでも最も由緒正しい大会が何かと聞かれれば、それはやはり最も古い大会──テイマーオリンピアだろう。
──────────────────
──『第五回テイマーオリンピア』の開催がせまった某日
近くに学会の牙城を望める真新しい闘技場。
観客の熱気は最高潮だ。
まだ開会式が終わったばかりだと言うのに、コロ・セオ闘技場が、ジャヴォーダンが揺れている。
コロ・セオ闘技場は、将来を見据えて、学会の融資で1年かけて新しく建造されたばかりだ。
だというのに、すでに席を取れずに観戦できない者もいるほど超満員となっていた。
それもそのはず。
本日の『第五回テイマーオリンピア』への参加資格をかけて行われる今回の『アルバート杯』には、実に″6万人″を越える観客が集まっていたからだ。
次世代のヒーローの誕生を期待する者。
前チャンピオン貫禄の強さの証明に身を振るわせる者。
ここには、新しい時代のエキサイティングな戦いの果てに、夢を見る者たちが集っている。
「オリンピアの前哨戦、アルバート杯で6万人だなんて……これは本命大会は凄い事になりますね!」
そう言って、瞳をキラキラさせ、大観衆に埋め尽くされた闘技場を見渡すのはオレンジ髪の女性がいる。
「す、すみません、ティナ先輩! 遅れました!」
「むむっ、ようやくお出まし! まったく、この大先輩さまに売り子をさせるなんて、きついお説教をしてあげなくてはいけませんね!」
やたらめったら先輩風を吹かすティナは、遅刻してきたバイトの女の子を凄みを効かせた顔で脅かす。
ただ、どこか迫力に欠ける。根の優しさが顔に出てしまっているらしい。
「──という事です! 売り子はテイマーリーグを支える大事な大事なお仕事なんです! 次遅刻したらもっと怖い顔で怒ります! 絶対に遅れないように!」
「「「「「ワーーーーー!!!!!」」」」」
「っ!」
ティナとバイトの女の子は、会場を破壊せんとするほどの凄まじい歓声に思わず振りかえり、闘技場の真ん中へ視線を投げた。
万の観衆が注目するそこには、選手入場ゲートから、続々と選ばれしテイマーたちが入ってきていた。
「彼らって人気なんですね」
「ふふん、だってみなさん、各国のテイマーリーグの大会で成績を収めて来てますから! アルバート杯には、負ける姿が想像できないって言われるような選手しかこれないのです!」
自慢げに解説するティナに、バイトの女の子は感心したため息をこぼす。
こんな光景かつてのどん底からは、まるで考えられないものだ。
苦しい時代も、嫌悪された時代も、終わったのだ。
「うんうん、思い出してたら涙が……っ」
「ティ、ティナ先輩?!」
「ぐすん……大丈夫ですよ! さあ、アルバート様の分も元気に声を出して、この会場を盛り上げていきますよ!」
「え、先輩も売るんですか?」
「ふふん、実はアルバート様の考案した商品がバカ売れすることに気が付いたのですよ。新人ちゃんたちに任せて、呑気にティナだけがくつろぐわけにはいきません!」
観客たちの活気に負けずに、ひと際明るい声をだして、ティナはアルバート杯限定ボトルのドリンクを売りまくるのだった。
本日もアダンのビジネスは上々である。
────────────
世間がアルバート杯の盛り上がりに注目する一方で、怪物学会学会長兼テイマーリーグ会長も兼任する重要人物は、大会会場はおろか、ジャヴォーダンにすらいなかった。
ここは誰の手も届かないふたりだけの秘密の場所。
『怪物』アルバートと『朱の令嬢』アイリスは、しばらく前から、ここにいた。正確には4日ほど前から、ここにいた。
「本当によかったの? あなたの名前を冠する祭典なのに」
「いいんだ。学会もリーグも俺がいなくてたって運営できてる」
「見に行きたいくせに。なんだかんだ一番のファンだもんね」
「だとしても、隣人のほうが大事だよ。大切な時にそばにいる事が、何事にも代えがたい瞬間だ。……今ではそう思うんだよ」
遠くに古城が見える森の中。
森の中の静かな小屋で、安楽椅子に揺られるアイリスのすぐ隣。
アルバートは腰を折り、優し気に目を細め、彼女の腕のなかでスヤスヤ眠るちいさな命を愛おしそうに見つめている。
指でつつくと、ちからいっぱいに握り返してきた。
「すごい。しっかり握ってくるぞ。この子は天才かもしれない」
「もう、またすぐそうやって。これで騒いでたら先が思いやられるわ」
「なんで笑うんだ? すごいだろう? こんな一生懸命に掴んで」
「ふふふ、そうね」
アイリスはおかしくて仕方がないように笑っていた。
普段しれっとして、研究と仕事ばかりに打ち込んでいる鉄人が、これほどに我が子に惚気るとは思っていなかった。
「それじゃ、朝ご飯にしましょう」
「ああ、いいよ、座ってて。俺が作るから」
唇に軽く口づけし、キッチンへと向かってく背中。
これ以上、何の幸せを望めばいいのか。
アイリスはゆっくり目を閉じて、長閑な木漏れ日に身をあずけた。
世界には、ふたりを邪魔するものは何もなかった。
~ Fin ~
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