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選択肢なんてあってないようなモノ

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 ──王都、古い酒場

 ──審問会4日前

 埃まみれの酒場。
 廃墟同然の壊れたカウンターの席には、煙にまかれた男が2人がいた。

 誰もいない、誰も来ない酒場を、自分たちだけで悠々自適に彼らが使っているのは、王都の冒険者たちなら当たり前に知っている事だ。

 活気を忘れたこの場所は、彼らのものではなかった。すくなくとも法律上、彼らは不法占拠しているという形になる。

 ただ、元の持ち主が、彼らが住み着いている事を咎めない為、今のようなアナーキーで、曖昧な状態に落ち着いているだけだ。

 酒場の前の通りを、号外を配る新聞配りの少年が駆けていく。耳にかすかに入ってくるのは、怪物学会、とかいう近頃騒がしい新興魔術組織だ。

 2人の男は、そんなことに微塵も興味はないというように、グラスに入った琥珀色の酒を、チビチビと飲んでいた。

「ふざけんじゃねえ、あのクソ女め」

 そう罵倒しながら、静寂の不文律に守られた酒場に入ってくる者がいた。

「また金だけ抜かれたのか、ジャーキー」

 カウンターで酒を楽しんでいた男のうち、浅黒い肌の男が言った。「こりないねえ」と言って、男は今しがた酒場に入ってきた馬鹿者を薄く笑った。

 清潔とはいえないボサボサの黒髪、年季の入った帽子はくたびれて痩せている。
 5分に一回は煙草に火をつける。そして、「これが人生至福の瞬間だ」と言いたげに、たまらない顔でふかしだす。

 酒と煙草と自堕落な日々。
 初対面の人間は、まず間違いなく、暇を持て余す浮浪者の印象を受けるだろう。

「ダンディ! 俺はバカじゃねえ! この世にカスみてえな女が多いだけだ!」
「てめえがカスなうちは、寄ってくる女もカスみてえになる」

 ダンディ──そう呼ばれた浮浪者は、酒をあおり飲んで、また煙草を深く吸い込む。

 女難の被害をこうむったらしい若男ジャーキーは、ズカズカと歩いて、カウンターの向こう側へ行き、酒瓶をあさりだした。

 ダンディの隣の席に座る、目に傷のある白髪の男は「もう全部無くなった」と、最後の酒瓶をゆらゆらと揺らす。

 酒場の外から足音が聞こえてきた。
 入り口が開かれる。

 ダンディには、今朝はやくに出て行った仲間の帰還だとわかった。

 ただ、本日は客人もいるらしい。

「そいつあ、誰だ」

 ダンディは視線も切らずに、グラスを眺めながら、入り口の仲間へ、同行者の所在を問う。

 入り口に立つのは、深緑色の髪をした、ダークな瞳色の20代後半の男だ。
 背中には身の丈もある黒い大剣をさげており、引き締まった肉体と、恵まれた体格から熟達の剣士であることは容易にわかる。

 彼はプラックトップと言う。
 『黒剣』の二つ名を持つ、魔術王国の冒険者の間では知らぬ者のいない最強の冒険者だ。

 プラックトップは、連れてきた同行者を一瞥して、黙ってダンディのそばへと移動した。

 「ほう」ダンディは声をもらす。
 同行者は好ましくない客人だった。

「あなたがミスター・ダンディですね」

 客人は、聞きやすい声で問いかける。

「さて、知らねえ名だなあ」
「冒険者ギルドでいつもここに居ると聞きました。あなたで間違いない」
「そうか。あそこのギルドマスターはまったく約束を守らねえな」

 ダンディは、グラスを見つめたまま言う。

 酒場の入り口にいた客人は、カウンターへ移動して、緊張した顔で固まっているジャーキーへ「失礼」といい、彼をどかす。

「ぶどう酒はないのですね」

 客人へ、ダンディは視線を向ける。

 艶色のコート、灰色のスーツを来た小綺麗な男だった。細いフレームの眼鏡に、甲に魔法陣の描かれた革手袋をしていた。

 ダンディの嫌いなインテリだ。

「にしても、こんな場所にいるなんて……どれだけ上り詰めようと、冒険者なんですから、クエストから逃げるのはどうかと思いますよ」
「黙って帰りな。スーツ野郎」
「とほほ、嫌われてしまいましたか。営業なんて誰にでもできる簡単な仕事だと思っていましたけど、以外と難しいのですね」
「聞こえなかったのかい。帰りな」
「あまり助長した態度を取るのはオススメしませんよ、ミスター・ダンディ」

 インテリは朗らかに笑みを向ける。
 ダンディがそんな彼の顔へ向けられたのは、笑みではなく″砲口″だった。

 外の喧騒がまるで聞こえない。
 世界が酒場内で完結したかのような静かさだった。

 いつ抜いたわからない早業で、ダンディはその特異な武器をインテリの頭にコツンっと当てる。

「『火薬工房』の魔道具……わかりました。ごく手短に済ませましょう」

 インテリは懐から手紙をとりだす。

「まずは、その携帯砲を下げてください。こちらは協会の使者、撃てばよくない結果を招きますよ」

 ダンディは特異な武器──『火薬工房』が10年前に世に出した変わり者しか使わない、その新型弓『魔導短砲』の砲口をさげた。

「本日はDDDの皆さんに、正式なクエスト依頼に来ました」
「残念だが、冒険者ギルドを通さないクエストは規約上受けれねえ」
「冒険者ギルド公認の依頼です。あなた方がギルドになかなか来ないと言うので、私は代行で来ただけですよ」

 インテリが差し出した手紙を、ダンディは渋々受け取り、中身をあらためる。

 2秒ほど眺めて、ほうり捨てた。

「慎重な審議の結果、受けねえ事にした。悪いな、帰ってくれ」

 ダンディの横に座る、寡黙な白髪の男は手紙を手にとる。

 手紙はプラックトップ、ジャーキーと、順々に回されていき、皆が内容を確認した。

「受けない、ですか。報奨金は並みの依頼ではありえない額なのに」
「金の話じやねえ」
「そうですか。わかりました」

 インテリは懐からもう一つ封筒を取り出した。

「協会の依頼を断るとなると、あなた方には今回の依頼内容を一切口外しないと、保証してもらわなくてはならない」
 
 カウンターに置かれた封筒には、協会法務部の文字が書かれていた。

 ダンディは封筒を見て、静かな怒りをはらんだ視線をインテリへ向ける。

「ご家族にも秘密の漏洩防止に協力していただきます」
「……なに?」
「現代では血縁関係が繋がっていると言うだけで、本人が知らない情報を抜き取る魔術が確立してきていますから、国家安全保障上、必要な処置です」
「はあ……」

 ダンディは深くため息をつき──そして、魔導短砲に手をかけた。

 瞬間、インテリは目つきを鋭くし、右腕を光の刃で包み込み武装すると、それをダンディの首へ突きつけた。

 ダンディは感情が宿ってないのか、恐怖をまるで感じていない顔で、煙草の煙を吐いている。

 現状、ダンディの命を握っているのはインテリではなかったからだ。

「暴力は好きではないのですよ」

「言い訳にしちやクールじゃないね」
「勝手なことしてると、ぶっ殺すぞ高飛車野郎ッ!」

 プラックトップはカウンターに置いてあったフォークを、ジャーキーは血管の浮き出た、紫色に腐ったような尋常ではない腕を、それぞれインテリの顔へ近づけていた。

 インテリは、銀色に輝く光を消して、武装を解除して、ダンディの首元から手を離した。

 そのまま、酒場の入り口へ歩いて行ってしまう。

「この事を検討したうえで、もし依頼を受けていただけるのでしたら、今夜、こちらの屋敷までお越しください」

 インテリは用意していたメモを、酒場の出口に貼りつける。

「ああ、そう言えば申し遅れました。私はシュヴァルツ・エンジェルズ、何か不明点がございましたら、協会法務部までお越しください。マスター級パーティなら、手厚く歓迎しますよ」

 シュヴァルツは「では、良い返事を期待しています」と言い残して、酒場を出て行った。

「クソが……選択肢なんてあってないようなもんじやあねえか」

 ダンディは出口のメモを雑に剥がした。

 ──その夜

 冒険者パーティ『DDD』──ダンディ・ダンシン・ダンデライオン──の4人は、王都の一等地にある大きな屋敷へとやってきた。

「城かあ、こりや」
 
 ダンディはくたびれた帽子から、うっすらと視線を通して、見上げる高さのレンガの壁を右から左へと見渡した。

「ダンディやべーよ、えげつないデカさだぜ!」ジャーキーは無邪気にはしゃいでいる。

「権威の象徴みてえなサイズだ、クールじゃないね」プラックトップは冷めた声で言う。
 
「ダンディ、良かったのか」

 白髪の男は聞く。

「進めど、引けど、どっちも墓穴さ」
「進んだ方が深そうだ」
「違いない。だが、飛び越える選択肢はあるだろう、ハドソン」

 ダンディは白髪の男──ハドソンへ、野性味のある笑みを向ける。
 
 ハドソンは大きなため息をつき、縦長の楽器ケースを背負い直す。

 DDDは、門の中へと足を踏み入れた。

 立派な騎士が門のすぐ近くに立っており、身分を告げる。彼らは、驚いたような顔になり「ようこそお越しくださいました」と丁重にもてなし、4人が滞在する部屋へと案内した。

 4人は部屋に入り、荷物を下ろすなり、すぐに床や壁や天井に魔術の術式を探しはじめた。

「あった」
 プラックトップが部屋の壁に、隠された設置方魔術を発見する。
「壊しとけ」
 ダンディは煙草に火をつけながら言う。

 プラックトップは指輪型の魔力触媒に、微弱な火の魔力を流して、部屋全体に作用する範囲魔術式を焼き切った。

「オレたち信用されてないのかよ!」
 ジャーキーが吠える。
「主席からすれば、冒険者なんて取るに足らない存在だ。クールじゃないが」
 
 その後、4人は騎士に連れられ、屋敷の中のホールへとやってきた。パーティ開催の為に、使われるような大きな部屋だった。

 ホールには縦長の机が置かれ、そこに白いテーブルクロスがしかれ、上には燭台と、美味そうな料理と、酒が用意されており、来場者は自由に飲み食いできるようになっていた。

 DDDのほかにも、王都では名の知れた、腕利きの冒険者たちが多数集められていた。

 加えて、殺人に慣れてそうなプロの傭兵団や、暗殺ギルドから来たと思われる黒服たち、小綺麗な格好をした協会の魔術師もいた。

 ただ、そんなツワモノたちが集められたホールの中でも、DDDは異色の注目をされていた。

「ありゃ、まさかDDDか?」
「ビビったな。本物かよ」
「いくら積んだんだ? あいつらが動くのって何年振りなんだろうな」
「せっかく、舎弟たちを呼び戻したのに……ミスター・ダンディと『黒剣』がいるんなら、俺らの仕事はないかもしれん」

 皆が魔術王国冒険者ギルド唯一にして、最高の栄誉を持つマスター級冒険者パーティの活躍に、各々の期待を示していた。
 
 すぐのち、ホールの奥にある壇上にひとりの老人が姿を表した。ホールのツワモノたちがざわめく。主席魔術師フレデリック・ガン・サウザンドラの登場だった。

 フレデリックは今回の招集に応じた者たちへ感謝をのべ、今回の依頼を再確認させた。

「敵は『最悪の犯罪者』アルバート・アダン。やつはどんな卑劣な手段でも平気で使ってくる、誇りを知らぬ下衆の輩である。奴と同じ都市にいるというだけで、安心して眠ることもできない。ゆえに、諸君らには審問会が終わるまで、サウザンドラの屋敷、および私の身を守っていただきたいと思う」

 細々とした説明をしたのち、フレデリックは「怪物学会のモンスターを殺した功績に応じて、基本報酬に上乗せで、討伐報酬を乗せさせてもらおうとも思っておる」とおちゃらけた笑みを浮かべて、指を擦り合わせる。

 ホールの各所から笑いが聞こえ、雇われた者たちの士気があがった。それから、激励の言葉をすこし話したのち、フレデリックは「今夜は楽しんでくれ」と言って挨拶を終えた。

「ハドソンさん! オレたち、つまり学会のモンスターを殺しまくればいいって事か!」
「フラン、ジャーキーを頼む」
「また俺ですかハドソンさん……。はあ、ジャーキー、お前は美味いもん食って屋敷にいればいいってことだ。クールにな」

 すこし知恵遅れ気味なところのあるジャーキーの面倒を見るのは、プラックトップの担当だった。

 ハドソンは拍手で退場するフレデリックを横目に見ながら、「ダンディ、話がある」と耳打ちした。
 
 ダンディとハドソンは、ホールを抜けて煙草を口に咥えながら、すぐに行動を開始した。

 審問会までの4日間。
 いつ戦いが起こるかわからない。
 その瞬間は1秒後かもしれない。
 
 呑気に美食に舌を唸らせてる時間はなかった。

「そっちは屋敷周辺の地図と、下水道の地図、屋敷の地図、あと屋敷の隠し通路を洗っておけ。それと使用人に俺たちに好感のあるやつらが何人かいた。使えるかもしれない」
「了解だ。ダンディはどうする」
「学会側の戦力をぼちぼち探るさ。聞いてるだろ、先日のジャヴォーダンの一件」
「『修羅の六騎士』を投入して、数時間で撤退。いったいどんな化け物を動かしんだ、学会長とかいう若造は」
「さてな。数日でわかるんじやあねえか?」

 ダンディとハドソンは、手っ取り早く話をつけていく。移動しながら1分で打ち合わせを終わらせると、T字に分かれる廊下で足を止めた。

「こいつが終わったら国を出よう」
「魔法王国か? 帝国か? 人間国でもいいが、あんたが入れるかはわからんぞ」
「どこでも良いさ。魔術師がいない場所に行きたてえな」
「そうか。まあ、俺はダンディについてくだけだが」

 ハドソンは「もちろん、ジャーキーとフランもな」と付け加えて、長年の相棒の肩を叩く。

「──もしもし、あなた達がDDDの『暁』様と『高塔』様ですか?」

 背後から、突如として聞こえる可憐な声。

 急に現れた気配に、ダンディとハドソンは大きく飛びのいて、2人とも腰の短砲に手をかけた。

 両者まったく同じ動きだった。

「あっ、ごめんなさい、驚かせるつもりはなくって……」

 可憐な声は語尾を小さくしていく。

 艶やかな金髪、深紅の瞳、シンプルなデザインの赤いドレスを着た麗しい少女がいた。

 ハドソンは頭の中の人物図鑑から、すぐに誰かわかった。そして、短砲に掛けた手をゆっくりと外して、服の乱れを整えた。

「ダンディ、敵じゃない。雇い主の娘だ」

 ハドソンはちいさな声でそう言って黙る。
 慣習的に、話すのはダンディの仕事だった。

「こいつあ失礼、レディ・アイリス。このような大きな屋敷は慣れていないもんでして」

 ダンディは、そう言い、ぎこちない笑顔を浮かべて「緊張しちまってるです」と、くたびれた帽子を取って会釈をする。

 アイリスは礼節にのっとって、ドレスの端をつまみ、カーテシーを行う。
 こうして気品ある丁寧な挨拶と、愛らしい笑みを浮かべられれば、大抵の男性はだらしなく鼻の下を伸ばすものだ。

 とはいえ、ダンディもハドソンも、良くも悪くも疲れてしまった中年だ。
 なので「良いものを見せてもらった」とちょっと得した気分になるだけだった。

「DDDの『暁』ミスター・ダンディと『高塔』ハドソン、まさか、依頼を受けていただけるとは」
「俺たちの方が驚いてますがね。その美しさは本物だ」
「ありがとうございます」

 アイリスは意味のない会話をすぐに終わらせて「実は、あなた達に折り合って依頼がありまして」と本題を切り出した。

 ダンディとハドソンは、どうやって背後を取られたのか、いつから後ろにいたのか、先程の打ち合わせは聞かれていたのか、様々気になったが、わざわざ墓穴を掘るような事はしない。

「依頼ですかい? 俺たちや、その依頼のために来てるんですがね、レディ・アイリス」
「いえ、そうではないのですよ、ミスター・ダンディ。これはサウザンドラ卿とは、また別の依頼です」
「ほう。何か事情がありそうですなあ」
「廊下で話すことではないので、どうぞこちらへ」

 3人はすこし歩き部屋に入り、席についた。紅茶が手早く出される。
 給仕をしてくれたのは、銀色の髪を短く切りそろえた少女だ。剣を下げているので、血の騎士だ、とダンディとハドソンは思った。

「それで、依頼とはなんですかい」
「大変な依頼です。聞いたのなら、『破れぬ誓約』で黙秘を誓ってもらうほどです」
「『破れぬ誓約』を口封じの手段として使ってくれるだけで、あんたあ、信頼できそうですなあ」
「わかりました。では、単刀直入に聞きます。主席魔術師を殺しても咎められない免罪符があるとしたら、サウザンドラ卿を殺してくれますか?」
「…………こらあ、また大変な依頼なこって」

 ダンディは額をつたう冷や汗を誤魔化すように、紅茶を口元へ運んだ。聞かなければよかった。

 ──しばらく後

 部屋を出ていく客人たちを見送り、アイリスは疲れたようにソファに腰掛けた。

 付き人のサアナは、アイリスが最近気に入っているクリームたっぷりのケーキを机に置く。

「彼らは引き受けてくれるでしょうか」
「わからないわね。でも、2個目の方は恐らく受けてくれるわ」
「ですが、それではフレデリック様との戦いを避けられません」
「血の呪縛がある限り、選択肢なんてあってないようなモノ。こればっかりは仕方ないわよ」

 アイリスは気丈に笑みを浮かべた。

 サアナは目尻を下げ、アイリスの気高さの象徴のような、その美しい刻印に視線を落とす。

「大丈夫よ、サアナ」
「ですが、このままでは、サウザンドラは今代で直系の刻印を失ってしまいます」
「失うものより、残るものを数えるの。だってアルバートなら、そうするでしょう?」

 地位を失い、婚約者を失い、莫大な借金を抱え、家を無くし、使用人を殺され、唯一の肉親も消えて……でも、10歳の彼には出来た。
 
 なら、自分にできない道理はない。
 なぜなら、自分は、かの天才アルバート・アダンと肩を並べる魔術師なのだから。

 アイリスの小さな野望は、すべてがおさまったら、アルバートに「流石は、俺のアイリス、なんて傑物なんだ!!」と誇られる事だ。

「それでねそれでね、アルバートが、この独り言を書斎でつぶやいているところを、覗いていたわたしは颯爽と参上して言うの『あら、アルバート、今なにか言ってたかしら?』って! アルバートは慌てふためくわ。でも、顔には出さない。知ってるわ、だって彼はクールだからね。常に余裕を持つ。紳士だからよ。でも、内心は嵐よ……ふっふふ、楽しみね」
「アイリス様……まさか、まだ病気が……」

 サアナはかつての主人の奇行を思い出して、頭を抱えてしまった。
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