45 / 49
氷鋼を取りに行く
しおりを挟む酒気をおびた空気ただよう右手をさけて、俺は一直線に受付へむかう。
この時間帯はクエストを終えた冒険者たちが、完了報告をするためにとても混雑する。
「懐かしい顔ぶれがいますね」
「だな。みんなちょっと変わってる」
リクだった頃の知り合い、とりわけ若い冒険者たちは、たくましくなったように思う。
年齢を重ねてる奴らは、イマイチ変化はわからない。髪型が変わったくらいだろうか。
いつもの武器、いつもの顔ぶれ、いつもの装備、いつものこの空気が俺は好きだった。
自分だけ成長できず、取り残された孤独を感じながら彼らを見つめる。
列が進み、俺たちの番がやってきた。
「冒険者登録をお願いします。俺と彼女で」
俺はゼロからのスタートに気怠さと、新鮮さを、感じながら冒険者登録をした。
──数日後
俺とラテナはキララに乗って、ガドルブック山脈ふもとのダンジョンにやってきていた。
騎馬の健脚で王都から数時間の距離にあるこのダンジョンでは、高級な魔力鉱石:氷鋼が手にはいる事で有名だ。
本日はここでお金を稼がせてもらう。
「未だにリゼットにちょっかい掛けてるらしいあの男を一刻もはやく何とかしないと」
鉱脈を発見してピッケルで掘り進めると、すぐに氷鋼の鉱石を見つけられた。
「こんな簡単に見つかるのですね!」
「これは以前に来た場所だからな。ほら、ラテナを団長のところにあずけていた時だよ」
「あぁ……あの時ですか」
暗い気持ちになりそうになる。
「はあ。……ところで、ラテナはあの時、団長に優しくしてもらえたのか?」
気持ちを切り替えるために別の質問をしてみた。
「はい、優しかったですよ。アイガスター団長は私のことは本当にお気に入りだったのでしょうね」
「そうか。ん? これは使えるかもしれないな……」
俺は思いついたことを普段から使っている手記にメモをして残しておく。
「さて、それじゃ氷鋼はこれくらいでいいだろう」
「もっと採れそうですよ?」
「これで十分だよ。ギルドに納品する分とお金に変える分があれば、もろもろ準備できるしな」
俺はあくまで魔術戦をしかけるつもりだ。
ゆえに高価な防具はいらない。
ただ、すこし前にリゼットたちと魔術街をまわったさいに、面白い霊薬や魔導具を見つけられた。
「特に炎魔術を一回無効化できるアレ。アレは最高のアイテムだ」
「そうですか? ヘンリーなら炎なんて怖くないのに」
「他にも使いでがあるって話さ」
俺とラテナは鉱石の入った袋を背負って、ガドルブック山脈をくだりはじめた。
「そういえば、氷鋼ってなんでこんなに高価なんですか?」
「まず、加工が難しいこと。次に熱に極めて強い。ひんやりした肌触りが気持ち良いこと……それと、なんたってフロストドラゴンの巣にしか採取できないからだ。……ん?」
そういえば、ドラゴンに会ってないな。
以前来た時はひどい目にあったっていうのに。
俺がそんな事を思った時だった。
背筋を凍らせるような、咆哮が背後の山肌を撫でるように響いてきたのは。
俺とラテナは慌ててふりかえる。
すると、斜面を滑り落ちるような動きで、滑空する巨大な影が向かってきていた。
0
お気に入りに追加
1,048
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
恋人の父親に「嫁にはやれん!」と云われたオレは・・・
もっちり道明寺♪
ファンタジー
恋人の父親に呼び出されたオレ!
長女が音信不通で、跡取りの可能性が高くなった彼女!
周りからは「結婚をして跡継ぎを!」と云われているのを知っていた。
そろそろ潮時だと思っていた・・・
マジ初投稿の、チョー初心者です!
一人称というか、独白(モノローグ)風にしか書けないので、少々判りにくいかもしれません。
お手柔らかにお願い致します! 2018/9/16
m(__)m
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
異世界をスキルブックと共に生きていく
大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる