上 下
27 / 49

オオカミ少年 後編

しおりを挟む

 灰色のけむくじゃらの髪。
 ひょこっと生えた耳。
 尻尾もふさふさで素晴らしい。
 
 今は涙目で血のにじむ肩をおさえて、耳をしょぼんと寝かせている。恐いんだろう。

「ケモノに触られると、俺さまもモジャモジャにされるんだ!」
「ち、ちがうよ……髪に虫がついてたから、とってあげようと思って……」

 優しそうな声で少年は言う。

「うるさい、俺さまに逆らうなよケモノ!」

 また大将が、少年を枝でたたこうとする。
 俺はその手首をつかんで止めさせた。

「他人の痛みを軽視するな。いつか返ってくるぞ」

 俺は知っている、天罰などないことを。
 虐げた連中はのうのうと生きて、被害者たちは忘れられ、泣き寝入りするしかない。
 だが、そんな残酷を子どものうちから知らなくていいだろう。どこかに希望はある、悪い事したら、その分だけ帰ってくる。
 
 そう思っていればいい。
 虐げられたすべてを救えなくても、俺は俺のできる範囲の″正義″になればいいんだ。

「お、おまえは関係ないだろ、ひっこんでろよ!」
「お前がひっこんでろ。クソガキがあんまりしゃしゃってるとぶっ飛ばすぞ」

「ひぃ……ッ?!」
「き、貴族、こわい…!」

 大将から枝をとりあげ、にらみつける。

「ぐぬぬっ、お、おまえもそいつと同じ目に逢いたいみたいだなッ! やっちまえ!」

 大将と子分たちがむかってくる。

 力量差がわからんのか。
 俺はため息をつき、腰のホルダーにおさまっている杖に手をそえた。

 不死鳥の魂よ、
  炎熱の力を与えたまへ──《ホット》

 心のなかで詠唱して子分たちのほっぺたに熱源を出現させた。50度くらいで十分か。

「熱いッ?! あ、あつ、あついよー!?」
「うぁぁああ?!」

 突然の痛みに子分たちはのたうちまわる。
 ひとりはあまりの恐怖に失禁して、俺を悪魔でもみるような眼差しで見てきた。

「身の程をわきまえろ、平民風情が。貴族への口の利き方には細心の注意をはらえ。場合によっちゃもっと酷い目にあわされるのが常だからな」
「……ッ! 魔術、魔術師……っ、アルカマジの術使いだぁー!」
「ひぃええ、ママぁああー!」

 子分たちは凄いいきおいで逃げていった。

「さて、お前も痛みを知ってもらおうか」

 ひとり残された大将を、さっき没収した枝で思い切りたたく。
 剣術によって振られた枝はムチのようにしなり、大将のほっぺたに切り傷をつけた。

「うわああん、ママァァアアー!」

「やれやれ。……で、大丈夫? ひどい怪我だけど」
「ぁ、ぅ……君は、こわくないの?」

 おびえた目で見てきていた。
 俺はその目を知っている。
 毎日を平穏にすごすため、できるだけ波風立てないよう日々を生きぬく日陰者の目だ。

 昔の俺にそっくりだった。

「こわくないよ。むしろ、その耳も尻尾も羨ましいくらい素敵だと思うよ」
「け、ケモノなのに?」
「獣じゃないさ。俺は知ってるんだ、獣人が迫害されるようなひどい人間じゃないって」

 少年はほうけた表情で見上げてくる。
 俺は微笑み、彼の灰色の髪をなでた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

闇属性転移者の冒険録

三日月新
ファンタジー
異世界に召喚された影山武(タケル)は、素敵な冒険が始まる予感がしていた。 ところが、闇属性だからと強制転移されてしまう。 頼れる者がいない異世界で、タケルは元冒険者に助けられる。生き方と戦い方を教わると、ついに彼の冒険が始まる。 強力な魔物や冒険者と死闘を繰り広げながら、タケルはSランク冒険者を目指す。

2代目剣バカ世界を歩く

赤井水
ファンタジー
 生きとし生ける全世界の人は武器術・魔術・治癒術・生産術の基本4術の中から好きな術式を最初の選択で選べ得られる。  基本4術のレベルを上げた先に試練解放があり、より上位術式を得ることが出来た。  人は皆、上位術式を得ても基本術が消えないことを不思議にも思わなかった。  しかし世界は残酷で基本4術を得た時に最初期から神に愛された者が存在した。 【祝福されし者】ギフターズと呼ばれる者達だった。  そのギフターズは最上位術式を得ており才能を使えると判断した強欲者達は  その術式の熟練度を上げる為に世界各地から腕利きが集められた。  沢山の強者であり教師役の人々はその最上位術式を得た子供達の強さと大き過ぎる才能に  心をへし折られひとり、また1人と教師役を降りた。  そんな中、後に【剣聖】と呼ばれる少女の教師役の男性は不思議な法則に気付いてしまった。 『こんな才能あるお嬢ちゃんを相手しているのにどうして基本剣術式のレベルが上がるのだ?』  全ての基礎で基本である術式の素。  それが何故上位術式に移行しても消えないのか。  誰も知らぬその先に興味を持ってしまった。  教師役の男性は少女の教育係を終えて、名誉や報奨としての権力的立場を固辞し金を貰い辺境の村へと隠居した。  ただ剣の術式の深淵を覗く為に。  長い年月が経ちその男性の隠居先には変化があった孫が一緒に住み始めていた。 「儂の剣を見せてやろう!」 「じいちゃんカッケー!! 俺も剣士になる!!」 「儂の孫最強に可愛いんじゃが?」  剣バカは孫バカにもなっていた。  そして孫バカの老人は自分の研究を孫に試し始めるのであった。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

魔女の一撃

花朝 はな
ファンタジー
アストリットは通っていた貴族学校の課外授業で、他国からの侵略者に遭遇する。攻撃を受けようとしたとき、魔女の力に目覚める。 この世界では、魔女は処刑の対象ではなく、敬われ、憧れられる存在だった。 そんな己の力を自覚したアストリットに対し、腹黒国王は父の爵位をあげ、さらに婚約者をあてがう。魔女とはいえ、貴族のアストリットは流されるかの如く、すべてを受け入れなければならなかった。 アストリットは国所属の魔女として嫌が応なしに戦に駆り出され、国防を担っていく。だが、アストリットは今の状況もすべて事前にわかっており、どうすればよいかも知っていた。頭の回転が鈍い押し付けられた婚約者の王弟も、国のためだけに働かせようとした国王も全部捨てて家族と仲の良い人々と共に暮らすために、実績作りに精を出していく。 この作品はなろうとカクヨムにも公開しています。

幻想の魔導師

深園 彩月
ファンタジー
「お前、今日でクビな」 魔導師団長である父にクビを言い渡された主人公・リオン。 人間関係修復のため、強制的に王立学園に通わされることとなったリオンだが、彼の規格外ぶりが思わぬ事態を引き起こし…… 国を揺るがす陰謀、組織の存在、そして徐々に明らかとなる過去の事件の真相がリオンに襲いかかる。 仲間と共に運命に抗う、規格外魔導師の成長物語。 ☆第1章、非公開話含め完結済。順次公開中。 ☆番外編を挟んでから第2章執筆予定。第2章完結したら順次公開します。 ☆転載防止のためカクヨム・小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...