上 下
37 / 49

王都アライアンス 前編

しおりを挟む

 キララを走らせて4日目。
 俺たちは王都アライアンスへやってきていた。
 
「戻ってきた」
「ヘンリー、帰って来ましたよ、私たち」

 高い市壁に囲まれた向こう側。
 そして、開発が進んで市壁におさまらなくなったこちら側。

 二つの街をもつこの景色がなつかしい。
 クエストから帰って来たときには、よくこの雄大なる人の作り上げたフロンティアを誇らしく見ていたものだ。

 ……今は内側にひそむ、汚濁のような暗い部分ばかり気になってしまうが。

 それらにぐるっと360度囲まれるようにして、市壁の内側の最中央に湖があり、その真ん中に岩山があり、さらにその岩山のうえの城壁に囲まれているのが王城だ。

「あの城を攻め落とすのを難しそうですね」
「貴族家がまとめて謀反をおこしても、太刀打ちできるだけの備えがあるらしい。って言っても、俺たちは別に騎士王を暗殺しようってわけじゃない」

 向かうのあの王城ではなく、湖のほとりに広いスペースを確保されてつくられた、アライアンスが誇る不死鳥騎士団の本拠地だ。
 
 毎年、新しい入団者たちが湖に身をしずめて魂を浄化し、騎士団への真の忠誠を誓う──という名目のこの儀式には、3つの騎士団、騎士王、四天王、各地の貴族たち、おおくが出席して儀式の完了を見守る。

 俺は雑用係として当日も休みなく働いていたために、実際に儀式の様子は見ていない。
 
 ただ、まあ、軍をのぞいた国家兵力のほとんどが集結するんだ。
 お祭り騒ぎになるのは間違いない。

「騎士団洗礼式をせいぜい上手く使わせてもらおう」

 
 ──しばらく後

 
 王都の市壁外にある街にたどりついた俺たちは、通りを歩いていた。
 2年と半年。
 久しぶりに帰ってきた王都は相変わらず活気に満ち溢れていた。

 騎士団洗礼式は2週間後に行われる。
 まだまだ時間はあるのに、皆、気がはやい。

「これは何を売ってるんだ?」

 俺はキララの手綱をひいて歩きながら、屋台の店主に話しかける。

「うちは骨董屋さ。このしばらくの祭りのために秘蔵の品を大解放しようってな!」

 定型の挨拶をしてきたあたりで、店主の顔が「ん? 子供じゃねえか」と不思議そうなものにかわる。

「旅の格好してるな。その歳でひとりで王都にやってきたのか?」
「そうなりますね。それほど遠い道のりじゃなかったですよ。すぐ近くです」
「近くってたら、スカイハイから来たのかい?」

 スカイハイ。
 街の空を飛竜が飛びまわっていて、空挺騎士団の本拠地があるっていう都市だな。

「そこです。スカイハイ。騎士団に憧れてるので洗礼式を見に来たんですよ」
「おうおう、まだちいせえのにちゃんと喋るこった」

 店主はニコニコ笑顔でうなずく。
 遠回しに9歳の受け答えじゃない、と指摘されて肝をひやす。

 俺の正体は知られてはいけないのだからな。

「ところでおじさん、ここら辺に魔導具を扱っている店はありますか?」
「おうおう、魔導具っつたら2年前の条約締結以来、アルカマジからどんどん入ってきてるっていうアレか。悪いが俺はそういうの疎くてなぁ。あんまし魔術とか信用してねえんだよ」

 アライアンスの庶民の反応はそれぞれだ。
 もう国交が開かれて2年も経つというのに、いちばんの都会に住む市民でさえ、ヒトが使役した神秘にたいして理解が浅い。

「ただまあ、そういう不思議な道具をあつかってふ店があるとは聞いてるけどな」
「魔法の杖とかですか?」
「そうそう、そういうのだよ。よく知ってるじゃねえか、ぼうず」

 冒険者時代にも治癒霊薬や、洞窟の水を安全に浄化する薬など、クエストに役立つ道具はアイテムショップで飼っていた。
 ただ、知る限りでは杖を大々的にあつかっている店はなかった。
 これも俺が死んでからの街の変化か。
 
 俺は店主にかるく礼をいって、キララをひいて王都へ市壁をめざす。

 魔術や魔導具はまだその多くがアルカマジから仕入れた品物だ。
 手間がかかっている分、アライアンスじゃ、高く取引されているはず……となると、必然的に市壁の外の屋台より、内側で建物に店を構えているところへ行くべきだろう。

「ふくふくー」

 キララを引く俺のもとへラテナがかえってきた。
 まわりの人間に聞こえないように耳打ちしてくる。

「杖を売ってそうな店は外にはないですね」
「そっか。騎士団の兵舎に近づくまえに、武器を揃えたかったけど……仕方ないな」

 王都のなかじゃ何があるかわからない。
 杖なしでも炎も氷も使えるが、やはりあるのと無いのとでは、魔術の威力、精度、魔力消費量に大きな差が出てくる。

 早急に手に入れたいところだ。

「よし、それじゃ市壁の向こうで会おう」
「はい、気をつけてくださいね」

 俺はラテナを空へとはなつ。
 彼女は飛んで市壁を乗り越えて、王都へと入っていった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

2代目剣バカ世界を歩く

赤井水
ファンタジー
 生きとし生ける全世界の人は武器術・魔術・治癒術・生産術の基本4術の中から好きな術式を最初の選択で選べ得られる。  基本4術のレベルを上げた先に試練解放があり、より上位術式を得ることが出来た。  人は皆、上位術式を得ても基本術が消えないことを不思議にも思わなかった。  しかし世界は残酷で基本4術を得た時に最初期から神に愛された者が存在した。 【祝福されし者】ギフターズと呼ばれる者達だった。  そのギフターズは最上位術式を得ており才能を使えると判断した強欲者達は  その術式の熟練度を上げる為に世界各地から腕利きが集められた。  沢山の強者であり教師役の人々はその最上位術式を得た子供達の強さと大き過ぎる才能に  心をへし折られひとり、また1人と教師役を降りた。  そんな中、後に【剣聖】と呼ばれる少女の教師役の男性は不思議な法則に気付いてしまった。 『こんな才能あるお嬢ちゃんを相手しているのにどうして基本剣術式のレベルが上がるのだ?』  全ての基礎で基本である術式の素。  それが何故上位術式に移行しても消えないのか。  誰も知らぬその先に興味を持ってしまった。  教師役の男性は少女の教育係を終えて、名誉や報奨としての権力的立場を固辞し金を貰い辺境の村へと隠居した。  ただ剣の術式の深淵を覗く為に。  長い年月が経ちその男性の隠居先には変化があった孫が一緒に住み始めていた。 「儂の剣を見せてやろう!」 「じいちゃんカッケー!! 俺も剣士になる!!」 「儂の孫最強に可愛いんじゃが?」  剣バカは孫バカにもなっていた。  そして孫バカの老人は自分の研究を孫に試し始めるのであった。

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

闇属性転移者の冒険録

三日月新
ファンタジー
異世界に召喚された影山武(タケル)は、素敵な冒険が始まる予感がしていた。 ところが、闇属性だからと強制転移されてしまう。 頼れる者がいない異世界で、タケルは元冒険者に助けられる。生き方と戦い方を教わると、ついに彼の冒険が始まる。 強力な魔物や冒険者と死闘を繰り広げながら、タケルはSランク冒険者を目指す。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

異世界でスローライフを満喫

美鈴
ファンタジー
タイトル通り異世界に行った主人公が異世界でスローライフを満喫…。出来たらいいなというお話です! ※カクヨム様にも投稿しております ※イラストはAIアートイラストを使用

異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D
ファンタジー
異世界に召喚されて魔王を倒す……そんなありふれた冒険を終えた主人公・八雲勇治は日本へと帰還した。 異世界に残って英雄として暮らし、お姫様と結婚したり、ハーレムを築くことだってできたというのに、あえて日本に帰ることを選択した。その理由は家族同然に付き合っている隣の四姉妹と再会するためである。 隣に住んでいる日下部家の四姉妹には子供の頃から世話になっており、恩返しがしたい、これからも見守ってあげたいと思っていたのだ。 だが……帰還した勇治に次々と襲いかかってくるのは四姉妹のハニートラップ? 奇跡としか思えないようなラッキースケベの連続だった。 おまけに、四姉妹は勇治と同じようにおかしな事情を抱えているようで……? はたして、勇治と四姉妹はこれからも平穏な日常を送ることができるのだろうか!? 

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

処理中です...