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決別 前編

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 ──転生から2年6ヶ月が経過した

 浮雲屋敷をでて半年。
 ルベントス家に住んで半年。
 弟子をとって半年とも言えるだろうか。
 
「見てみて、ヘンリー!」
「ん、なんだい、弟子くん」

 俺はラテナに手紙をもたせて空へ返しながら、すっかり練習場とかした廃屋でアルウへとむきなおった。
 
 最近、オオカミ獣人の彼女は夏毛仕様となっており、結構、モフ味はすくなくなった。
 が、以前として感情をよくあらわす尻尾とピンとたったり、シュンとしぼんだりする耳が愛らしい。

「見ててね。ふーん、うーん! はぁああ~…………《ファイアボール》!」

 アルウが持つ俺の杖から、いきおいよく火炎の球が飛び出した。
 それは、すっかり瓦礫の山とかした元・納屋を盛大に吹っ飛ばして炎を撒き散らす。

 凄まじい威力だ。

「ていうか無詠唱じゃん……」

 とっくに気がついていたことだが、俺の弟子アルウ・ルベントスは″バケモノ″だ。
 これは差別的な意味で言っているのではなく、彼女にねむる魔術の才能がバケモノ級と言っているのだ。

 そのすさまじさは、彼女は俺が自分の修行の片手間に教えたたったの6ヶ月で、火属性第三式魔術に到達してしまったほどである。

 俺みたいな素人の教育でこれほど成長するなんて、元がよほど良くないと、ここまでの成長はしない。

 王立魔術学院卒業のあの人を師にもった俺とは、いろいろと規格が違う気がする……。

 まあ、ゆいいつ負け惜しみを語るなら、アルウは血がいいことか。
 アランいわく母親がアルカマジに住んでいて魔術家系の出身らしい。

 とはいえ、あまりにも天才凄すぎるが。

 これが血の厳選がされた、本物の魔術師だとでも言うのだろうか。
 ポッと出のホットでごまかし続けてるなんちゃって賢者とは違うとでも?

「どうだった、ねえ、どうだった!」
「……凄い。すごいよ。うん。師匠として誇らしい気持ちです」

 嘘だ。
 死ぬほど悔しい。
 俺はフォッコ師匠に「100年に1度の天才です!」「神の傑作とはあなたのような子ことを言うのでしょうね」「世界にひとつだけの才能」「神武以来の秀才」などとさんざん褒めちぎられたというのに、俺より才能豊かだと?

 悔しい。
 アルウを師匠にだけは会わせたくない。

「はぁ……嫉妬なんてしてる場合かって」
「よーし、それじゃヘンリーみたいに氷魔術も練習しはじめよっかなー!」
「っ! ダメだ。それだけはやめて」

 俺のアイデンティティまで奪うつもりか。
 この可愛いイヌッコロめ。

「氷の魔術は極めて危険だからな。まずは、ほかの属性式魔術もコンプリートして、支援魔術とか、回復魔術とか勉強して……とりあえず、氷はダメ」
「ヘンリーのケチ」
「こら、師匠になんてこと言うんだ。謝りなさい」
「ひっ……ご、ごめんなさい」
「素直か」

 アルウの頭をポンポン撫でて、しっぽをもふって癒される。

「さてと……それじゃ、今日の練習はおしまいな」
「えー、ボクまだまだ出来るよ」
「ダメだ。俺は俺の勉強に戻らないと」
「ヘンリーはいつも1人で勉強してる! なんでボクに秘密にするの!」

 アルウは「アゥゥウウウ」と狼みたいに威嚇するうなり声をあげて不機嫌をあらわす。

「アルウは弟子。俺は師匠だ。師匠命令は絶対だ」
「そんな理不尽なこと言わないでよー!」

 はぁ……くそ。
 失敗だった。
 本当にすべてを間違えた。

 こいつがいるせいで、アルウがいるせいで、あの時のように──師匠の時のように、本来の使命を見失いそうだ。

 俺は行く。
 こいつを置いて。

「……まあ、お前も立派になった。もう俺がいなくても十分にやっていけるよ」

 俺はアルウの持つ杖を渡すように、手のひらをうえにしてだす。
 アルウはしぶしぶ杖を返してくれた。
 彼女の頭をわしわし撫でて背を向ける。

 本来ならここから俺は森に入って数時間後に家に帰るというのが常だ。

 だが、今日は違う。
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