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667・後片付け
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たった四人でダークエルフ族の本拠地に殴り込んだ私達は本土に戻る前にティリアースから派遣された軍勢に捕まってしまった。
西地域をもう少しで抜ける――そう思った時の出来事だけに、もう少しで帰れたのに……という気持ちが湧き出てくるのも仕方ない。ちょうどお父様が率いていたらしく、兵士の人に半ば強引に連れていかれて、思いっきり怒られることになった。それでも最後には私の事を心配して抱きしめてくれた。それがすごく暖かくて……本当に大切にされているんだなって事が伝わってきた。
あの遺跡での戦いから故郷のアルファスへと戻って数日が過ぎたある日。私はやや虚脱感に身体を支配されて過ごしていた。
ヒューはあれからラミィと一緒に過ごすことにより熱心になっている。やっぱりクロイズの事をまだ引っ張っているのだろう。いずれ吹っ切れると思うけれど、それまでは不調が続くだろう。
ジュールは雪風と一緒に訓練中だ。あまり動けなかった事を引きずっているのか、連日欠かさず行っているようだ。それに付き合っている雪風も律儀というか……。
だから今は私の側には――
「ティアちゃーん! 遊ぼうー!」
――いてくれているようだ。
部屋の扉を勢いよく開けて入ってきたのはここ最近一番元気がいいファリスだった。
「遊ぶって……何をして?」
「え? お散歩とか」
きょとんとした顔で不思議そうにしている彼女が随分と可愛らしくてつい笑ってしまう。そういえば彼女とはずっと離れていたけれど、随分印象が変わったように思える。昔はもっと他人に興味がなさそうというか……。私がいればいいみたいな感じだったのに、今は色んな人と仲良くしている。直属の部下もいるみたいだし、彼らとも上手く付き合っているようだ。そんな彼女に慕われていて悪い気持ちがあるわけがなかった。
「せっかくだから町を見て回りましょう」
「――! うん!」
ぱあっと華やかな笑みを浮かべるファリスは余程嬉しいのかひょこひょこと飛び回って私の手を取って引っ張ってきた。それに釣られて歩き出した私にも、自然と笑顔が零れていた。
――
部屋から外に出ると晴れ渡るような青空が広がっていて海から漂う潮風が実に心地よかった。ファリスは相変わらず楽しそうに私の手を引っ張っているけれど、さっきのような強引さはない。
「こうしてお出かけするのも久しぶりだよね。ティアちゃんは忙しそうだったし、わたしはシルケットに行ったりしたし」
「そうね。……なんだか本当に色々あったわよね」
思わずしみじみと呟いてしまう。確か去年の冬頃に始まって――今はレキールラの十三の日。大体春と夏の中間といった感じか。長くも感じたし、一年かからなかったから短くもあった。それだけ濃密な時間を過ごしてきたという事だろう。
「ふふっ、なんだか今の言葉、おばあちゃんみたいだよ」
「そう?」
楽しそうに私を引っ張るファリスのちょっと意地悪な笑みが心の中に入ってくる。ふと遠くを見てみると戦時中よりも活気に溢れている光景が広がっていた。母親と一緒に手を繋いで歩く子供達。一生懸命客引きを行っている人。露店でスープや串焼きを売っている人達の売り文句なんかが聞こえてくる。そのどれもがダークエルフ族との戦いの時はみんな不安を感じていたからか活気がなかった。
「……これが私が取り戻した光景って事かしらね」
「わたし『達が』じゃない」
ふふふ、と笑うファリスの横顔はちょっと大人びて見えた。守るべきものを見ているような視線。本当に成長したんだなぁ……としみじみと思う。
……なんだか本当におばあちゃんになった気分だ。
「ファリスも言うようになったじゃない」
「それだけわたしも成長しているってこと。さ、行こう?」
ぐいぐいと引っ張る彼女の強引さに既に慣れながらも為すがままにされておく。こういう風に誰かに連れていかれるなんてそうそうないからね。
「どこに行くの?」
「久しぶりだから服見にいったり、ご飯食べたり海を眺めたり……ティアちゃんと一緒にやりたい事いっぱいあるんだから!」
まるで子供のように目を輝かせているファリスの熱意に押されるように従うのも悪くはない。今日は彼女のしたいままにさせてあげよう。
「ほらほら、行きたいところいっぱいあるんだから!」
「ふふ、わかったからそんなに引っ張らないで」
殺伐とした空気から一変して穏やかな雰囲気が周囲に漂う中、それに惹かれるように歩いて行く。
こうして誰かと一緒に笑って歩いて、適当な屋台で買い食いして、服にアクセサリーにと見て回って……。こんな風にゆっくりと流れる時間を満喫する事なんて随分と久しぶりだった。
最初はあまり乗り気もしなかったけれど、ファリスに連れ出されて本当によかった。おかげでこんなにも世界が輝いて見える事に気付く事が出来たのだから。
「ありがとう」
「え?」
小声の呟きが聞き取れなかったファリスは不思議そうな顔をしていて……ちょっと意地悪するように走り出した。
「なんでもない」
「ティアちゃん! 待ってよー!」
年相応に笑う彼女の顔が見ていたくて……もうちょっとだけこのままでいたい。そう思った。
西地域をもう少しで抜ける――そう思った時の出来事だけに、もう少しで帰れたのに……という気持ちが湧き出てくるのも仕方ない。ちょうどお父様が率いていたらしく、兵士の人に半ば強引に連れていかれて、思いっきり怒られることになった。それでも最後には私の事を心配して抱きしめてくれた。それがすごく暖かくて……本当に大切にされているんだなって事が伝わってきた。
あの遺跡での戦いから故郷のアルファスへと戻って数日が過ぎたある日。私はやや虚脱感に身体を支配されて過ごしていた。
ヒューはあれからラミィと一緒に過ごすことにより熱心になっている。やっぱりクロイズの事をまだ引っ張っているのだろう。いずれ吹っ切れると思うけれど、それまでは不調が続くだろう。
ジュールは雪風と一緒に訓練中だ。あまり動けなかった事を引きずっているのか、連日欠かさず行っているようだ。それに付き合っている雪風も律儀というか……。
だから今は私の側には――
「ティアちゃーん! 遊ぼうー!」
――いてくれているようだ。
部屋の扉を勢いよく開けて入ってきたのはここ最近一番元気がいいファリスだった。
「遊ぶって……何をして?」
「え? お散歩とか」
きょとんとした顔で不思議そうにしている彼女が随分と可愛らしくてつい笑ってしまう。そういえば彼女とはずっと離れていたけれど、随分印象が変わったように思える。昔はもっと他人に興味がなさそうというか……。私がいればいいみたいな感じだったのに、今は色んな人と仲良くしている。直属の部下もいるみたいだし、彼らとも上手く付き合っているようだ。そんな彼女に慕われていて悪い気持ちがあるわけがなかった。
「せっかくだから町を見て回りましょう」
「――! うん!」
ぱあっと華やかな笑みを浮かべるファリスは余程嬉しいのかひょこひょこと飛び回って私の手を取って引っ張ってきた。それに釣られて歩き出した私にも、自然と笑顔が零れていた。
――
部屋から外に出ると晴れ渡るような青空が広がっていて海から漂う潮風が実に心地よかった。ファリスは相変わらず楽しそうに私の手を引っ張っているけれど、さっきのような強引さはない。
「こうしてお出かけするのも久しぶりだよね。ティアちゃんは忙しそうだったし、わたしはシルケットに行ったりしたし」
「そうね。……なんだか本当に色々あったわよね」
思わずしみじみと呟いてしまう。確か去年の冬頃に始まって――今はレキールラの十三の日。大体春と夏の中間といった感じか。長くも感じたし、一年かからなかったから短くもあった。それだけ濃密な時間を過ごしてきたという事だろう。
「ふふっ、なんだか今の言葉、おばあちゃんみたいだよ」
「そう?」
楽しそうに私を引っ張るファリスのちょっと意地悪な笑みが心の中に入ってくる。ふと遠くを見てみると戦時中よりも活気に溢れている光景が広がっていた。母親と一緒に手を繋いで歩く子供達。一生懸命客引きを行っている人。露店でスープや串焼きを売っている人達の売り文句なんかが聞こえてくる。そのどれもがダークエルフ族との戦いの時はみんな不安を感じていたからか活気がなかった。
「……これが私が取り戻した光景って事かしらね」
「わたし『達が』じゃない」
ふふふ、と笑うファリスの横顔はちょっと大人びて見えた。守るべきものを見ているような視線。本当に成長したんだなぁ……としみじみと思う。
……なんだか本当におばあちゃんになった気分だ。
「ファリスも言うようになったじゃない」
「それだけわたしも成長しているってこと。さ、行こう?」
ぐいぐいと引っ張る彼女の強引さに既に慣れながらも為すがままにされておく。こういう風に誰かに連れていかれるなんてそうそうないからね。
「どこに行くの?」
「久しぶりだから服見にいったり、ご飯食べたり海を眺めたり……ティアちゃんと一緒にやりたい事いっぱいあるんだから!」
まるで子供のように目を輝かせているファリスの熱意に押されるように従うのも悪くはない。今日は彼女のしたいままにさせてあげよう。
「ほらほら、行きたいところいっぱいあるんだから!」
「ふふ、わかったからそんなに引っ張らないで」
殺伐とした空気から一変して穏やかな雰囲気が周囲に漂う中、それに惹かれるように歩いて行く。
こうして誰かと一緒に笑って歩いて、適当な屋台で買い食いして、服にアクセサリーにと見て回って……。こんな風にゆっくりと流れる時間を満喫する事なんて随分と久しぶりだった。
最初はあまり乗り気もしなかったけれど、ファリスに連れ出されて本当によかった。おかげでこんなにも世界が輝いて見える事に気付く事が出来たのだから。
「ありがとう」
「え?」
小声の呟きが聞き取れなかったファリスは不思議そうな顔をしていて……ちょっと意地悪するように走り出した。
「なんでもない」
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