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665・最強の魔導 後
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「な、何が起きているのですか……?」
状況が理解できていないジュールの声が背後から聞こえる。
「戸惑うのはわかるけれど、あまり私から離れないようにね」
振り向かずに優しく諭しながらとりあえず目の前を睨みつける。敵がどこにいるかわからないしね。
遺跡が揺れはじめ、不穏な爆発音が響く。今外壁を貫いている最中だろう。私が普段使っている時とは比べ物にならない程の魔力を注ぎ込んで発動させた。それがたかだか古代文明の遺跡を破壊し得ないなんてある訳がない。
しばらくすると天井が砕け、光が差し込む。破滅の光。それは闇のような優しさは一切存在しない。ただただ厳格な白。この世の全てを消し去る力だった。
『な、なにをしたぁ!? 答えろ!!』
遺跡の外部から尋常ではない攻撃を受けているのだろう。慌てふためくジフの声に思わず笑みが溢れる。
「決まっているでしょう。このくだらない遺跡を消してあげる。こんなもの……私達の世界には必要ないものですもの」
これを使うなら最初から遺跡内部に入らなかったらよかった……と少し後悔しながら、余裕たっぷりの態度をとる。
クロイズの犠牲がなければ効果範囲に行けはしなかっただろう。魔力を温存する事も出来なかった。そんな彼のために。弔いの魔導を送ろう。
『【カノン】!!』
放たれた光線は空から降る白に両断され、私達に届くことはない。
『【ランチャー】! 【ショット】! 【チェイス】!!』
闇雲に発動させてくる魔導の数々。数人で唱えるそれはさっきまでなら脅威になっていただろう。だけど今は違う。その全てが光に消し飛ばされ、意味のなさないものへと変わっていく。
「ジュール」
「は、はい!!」
呼ばれたことに驚いたのか、声がうわずって緊張している。後ろを向いたらかちこちになっている彼女の姿が見えてきそうだ。
「衝撃を和らげるイメージで魔導を発動させる事、出来る?」
「出来ます!」
間髪入れずの返答に頼もしさを感じる。いつもだったら逡巡した後ぐらいだから余計にね。
「このままこの遺跡を落とすから任せたからね」
「はい!」
『落とすだと……? ふざけたことを……!!』
「やれない……とは思っていないでしょう?」
ジフ以外のダークエルフ族が『劣等種族め』だの『道連れに出来ると思っている愚か者』だのと散々言ってくれているのが伝わってくる。そうやって自分の都合の良い感情に従っているからこんな風になるんだ。最初から誰と戦っているのかよく考えておけばこんな事も避けられただろうに。
「残念ね。貴方達の野望もこれでおしまい。劣等種と呼んで侮るからこうなるのよ!!」
言い切ったと同時に遺跡が傾いてどんどん落下していくのがわかる。このままいったら崩落も間近だろう。古代文明の遺跡とは言っても所詮この程度だ。
「ジュール!」
「はい! 【ミティゲーション】!」
上手くイメージする事に成功したジュールのおかげで彼女を起点にして淡い緑色の膜のようなものが発生した。私達全員を包み込んだそれのおかげでほとんど衝撃や揺れを感じる事がない。この激しい環境にいるからこそ上手くイメージ出来たのかもしれない。
「よくやったわね」
「え、えへへ」
ふふっ、と笑みを向けてあげるとジュールは照れていた。これで本格的にこれを潰しても問題なさそうだ。そんな事を思っていると遺跡の天井が崩れて光が見えてくる。モノクロの空の中で降り注ぐ光はあらゆるものを消していった。よくもまあこんなものを生み出せたものだと昔の私に感心するくらいだ。
『ちっ……よくも……。よくもこのグランジェを!!!』
怨嗟の声が聞こえてくる。負け犬の遠吠えともいうそれも遺跡の崩壊につられて聞こえなくなっていく。足場すらおぼつかない状態になって私達の身体も宙へと投げ出されるのだった。
――
空中分解した遺跡からなんとか着地に成功した私達はジュールの魔導のおかげで無傷で済んだ。いつの間にか空には清々しい青が戻っていて、先程までモノクロの世界に包まれていたのが嘘のようだった。
遺跡も完全に崩れていて、残骸が瓦礫の山を作っていた。
「わ、わた……いきて……ま、す?」
慣れない事に神経を使って必要以上に魔力を消耗したのだろう。魔導を解除したジュールは息も絶え絶えになっていた。
「大丈夫ですよ。生きています」
「よ、よかった……」
守られている側だったヒューや雪風はあまり体力を消耗していないようで、普段通りに振舞っていた。
「お、おの……れ……」
がらがらと瓦礫が崩れて姿を表したのはジフと数人のダークエルフ族。あの時遺跡の内部にいた幹部の連中達勢揃いという訳だ。
「なるほど。遺跡の中で戦ったのは全部貴方達が作った幻という訳ね」
「ちっ……騙される程度の愚物の分際で……」
「そうね。その愚物にこうも容易く敗北する貴方もどうかと思うけれどね」
「抜かせ!!」
大きな声で叫んだジフの顔には憎悪が満ち溢れていた。剣を抜き放ち構える彼に続いて他のダークエルフ族も各々武器を構える。切羽詰まった彼らは一斉に襲い掛かってくる。その瞳は追い詰められた獣のようだった。
状況が理解できていないジュールの声が背後から聞こえる。
「戸惑うのはわかるけれど、あまり私から離れないようにね」
振り向かずに優しく諭しながらとりあえず目の前を睨みつける。敵がどこにいるかわからないしね。
遺跡が揺れはじめ、不穏な爆発音が響く。今外壁を貫いている最中だろう。私が普段使っている時とは比べ物にならない程の魔力を注ぎ込んで発動させた。それがたかだか古代文明の遺跡を破壊し得ないなんてある訳がない。
しばらくすると天井が砕け、光が差し込む。破滅の光。それは闇のような優しさは一切存在しない。ただただ厳格な白。この世の全てを消し去る力だった。
『な、なにをしたぁ!? 答えろ!!』
遺跡の外部から尋常ではない攻撃を受けているのだろう。慌てふためくジフの声に思わず笑みが溢れる。
「決まっているでしょう。このくだらない遺跡を消してあげる。こんなもの……私達の世界には必要ないものですもの」
これを使うなら最初から遺跡内部に入らなかったらよかった……と少し後悔しながら、余裕たっぷりの態度をとる。
クロイズの犠牲がなければ効果範囲に行けはしなかっただろう。魔力を温存する事も出来なかった。そんな彼のために。弔いの魔導を送ろう。
『【カノン】!!』
放たれた光線は空から降る白に両断され、私達に届くことはない。
『【ランチャー】! 【ショット】! 【チェイス】!!』
闇雲に発動させてくる魔導の数々。数人で唱えるそれはさっきまでなら脅威になっていただろう。だけど今は違う。その全てが光に消し飛ばされ、意味のなさないものへと変わっていく。
「ジュール」
「は、はい!!」
呼ばれたことに驚いたのか、声がうわずって緊張している。後ろを向いたらかちこちになっている彼女の姿が見えてきそうだ。
「衝撃を和らげるイメージで魔導を発動させる事、出来る?」
「出来ます!」
間髪入れずの返答に頼もしさを感じる。いつもだったら逡巡した後ぐらいだから余計にね。
「このままこの遺跡を落とすから任せたからね」
「はい!」
『落とすだと……? ふざけたことを……!!』
「やれない……とは思っていないでしょう?」
ジフ以外のダークエルフ族が『劣等種族め』だの『道連れに出来ると思っている愚か者』だのと散々言ってくれているのが伝わってくる。そうやって自分の都合の良い感情に従っているからこんな風になるんだ。最初から誰と戦っているのかよく考えておけばこんな事も避けられただろうに。
「残念ね。貴方達の野望もこれでおしまい。劣等種と呼んで侮るからこうなるのよ!!」
言い切ったと同時に遺跡が傾いてどんどん落下していくのがわかる。このままいったら崩落も間近だろう。古代文明の遺跡とは言っても所詮この程度だ。
「ジュール!」
「はい! 【ミティゲーション】!」
上手くイメージする事に成功したジュールのおかげで彼女を起点にして淡い緑色の膜のようなものが発生した。私達全員を包み込んだそれのおかげでほとんど衝撃や揺れを感じる事がない。この激しい環境にいるからこそ上手くイメージ出来たのかもしれない。
「よくやったわね」
「え、えへへ」
ふふっ、と笑みを向けてあげるとジュールは照れていた。これで本格的にこれを潰しても問題なさそうだ。そんな事を思っていると遺跡の天井が崩れて光が見えてくる。モノクロの空の中で降り注ぐ光はあらゆるものを消していった。よくもまあこんなものを生み出せたものだと昔の私に感心するくらいだ。
『ちっ……よくも……。よくもこのグランジェを!!!』
怨嗟の声が聞こえてくる。負け犬の遠吠えともいうそれも遺跡の崩壊につられて聞こえなくなっていく。足場すらおぼつかない状態になって私達の身体も宙へと投げ出されるのだった。
――
空中分解した遺跡からなんとか着地に成功した私達はジュールの魔導のおかげで無傷で済んだ。いつの間にか空には清々しい青が戻っていて、先程までモノクロの世界に包まれていたのが嘘のようだった。
遺跡も完全に崩れていて、残骸が瓦礫の山を作っていた。
「わ、わた……いきて……ま、す?」
慣れない事に神経を使って必要以上に魔力を消耗したのだろう。魔導を解除したジュールは息も絶え絶えになっていた。
「大丈夫ですよ。生きています」
「よ、よかった……」
守られている側だったヒューや雪風はあまり体力を消耗していないようで、普段通りに振舞っていた。
「お、おの……れ……」
がらがらと瓦礫が崩れて姿を表したのはジフと数人のダークエルフ族。あの時遺跡の内部にいた幹部の連中達勢揃いという訳だ。
「なるほど。遺跡の中で戦ったのは全部貴方達が作った幻という訳ね」
「ちっ……騙される程度の愚物の分際で……」
「そうね。その愚物にこうも容易く敗北する貴方もどうかと思うけれどね」
「抜かせ!!」
大きな声で叫んだジフの顔には憎悪が満ち溢れていた。剣を抜き放ち構える彼に続いて他のダークエルフ族も各々武器を構える。切羽詰まった彼らは一斉に襲い掛かってくる。その瞳は追い詰められた獣のようだった。
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