上 下
665 / 676

665・最強の魔導 後

しおりを挟む
「な、何が起きているのですか……?」

 状況が理解できていないジュールの声が背後から聞こえる。

「戸惑うのはわかるけれど、あまり私から離れないようにね」

 振り向かずに優しく諭しながらとりあえず目の前を睨みつける。敵がどこにいるかわからないしね。
 遺跡が揺れはじめ、不穏な爆発音が響く。今外壁を貫いている最中だろう。私が普段使っている時とは比べ物にならない程の魔力を注ぎ込んで発動させた。それがたかだか古代文明の遺跡を破壊し得ないなんてある訳がない。
 しばらくすると天井が砕け、光が差し込む。破滅の光。それは闇のような優しさは一切存在しない。ただただ厳格な白。この世の全てを消し去る力だった。

『な、なにをしたぁ!? 答えろ!!』

 遺跡の外部から尋常ではない攻撃を受けているのだろう。慌てふためくジフの声に思わず笑みが溢れる。

「決まっているでしょう。このくだらない遺跡を消してあげる。こんなもの……私達の世界には必要ないものですもの」

 これを使うなら最初から遺跡内部に入らなかったらよかった……と少し後悔しながら、余裕たっぷりの態度をとる。
 クロイズの犠牲がなければ効果範囲に行けはしなかっただろう。魔力を温存する事も出来なかった。そんな彼のために。弔いの魔導を送ろう。

『【カノン】!!』

 放たれた光線は空から降る白に両断され、私達に届くことはない。

『【ランチャー】! 【ショット】! 【チェイス】!!』

 闇雲に発動させてくる魔導の数々。数人で唱えるそれはさっきまでなら脅威になっていただろう。だけど今は違う。その全てが光に消し飛ばされ、意味のなさないものへと変わっていく。

「ジュール」
「は、はい!!」

 呼ばれたことに驚いたのか、声がうわずって緊張している。後ろを向いたらかちこちになっている彼女の姿が見えてきそうだ。

「衝撃を和らげるイメージで魔導を発動させる事、出来る?」
「出来ます!」

 間髪入れずの返答に頼もしさを感じる。いつもだったら逡巡した後ぐらいだから余計にね。

「このままこの遺跡を落とすから任せたからね」
「はい!」

『落とすだと……? ふざけたことを……!!』
「やれない……とは思っていないでしょう?」

 ジフ以外のダークエルフ族が『劣等種族め』だの『道連れに出来ると思っている愚か者』だのと散々言ってくれているのが伝わってくる。そうやって自分の都合の良い感情に従っているからこんな風になるんだ。最初から誰と戦っているのかよく考えておけばこんな事も避けられただろうに。

「残念ね。貴方達の野望もこれでおしまい。劣等種と呼んで侮るからこうなるのよ!!」

 言い切ったと同時に遺跡が傾いてどんどん落下していくのがわかる。このままいったら崩落も間近だろう。古代文明の遺跡とは言っても所詮この程度だ。

「ジュール!」
「はい! 【ミティゲーション】!」

 上手くイメージする事に成功したジュールのおかげで彼女を起点にして淡い緑色の膜のようなものが発生した。私達全員を包み込んだそれのおかげでほとんど衝撃や揺れを感じる事がない。この激しい環境にいるからこそ上手くイメージ出来たのかもしれない。

「よくやったわね」
「え、えへへ」

 ふふっ、と笑みを向けてあげるとジュールは照れていた。これで本格的にこれを潰しても問題なさそうだ。そんな事を思っていると遺跡の天井が崩れて光が見えてくる。モノクロの空の中で降り注ぐ光はあらゆるものを消していった。よくもまあこんなものを生み出せたものだと昔の私に感心するくらいだ。

『ちっ……よくも……。よくもこのグランジェを!!!』

 怨嗟の声が聞こえてくる。負け犬の遠吠えともいうそれも遺跡の崩壊につられて聞こえなくなっていく。足場すらおぼつかない状態になって私達の身体も宙へと投げ出されるのだった。

 ――

 空中分解した遺跡からなんとか着地に成功した私達はジュールの魔導のおかげで無傷で済んだ。いつの間にか空には清々しい青が戻っていて、先程までモノクロの世界に包まれていたのが嘘のようだった。
 遺跡も完全に崩れていて、残骸が瓦礫の山を作っていた。

「わ、わた……いきて……ま、す?」

 慣れない事に神経を使って必要以上に魔力を消耗したのだろう。魔導を解除したジュールは息も絶え絶えになっていた。

「大丈夫ですよ。生きています」
「よ、よかった……」

 守られている側だったヒューや雪風はあまり体力を消耗していないようで、普段通りに振舞っていた。

「お、おの……れ……」

 がらがらと瓦礫が崩れて姿を表したのはジフと数人のダークエルフ族。あの時遺跡の内部にいた幹部の連中達勢揃いという訳だ。

「なるほど。遺跡の中で戦ったのは全部貴方達が作った幻という訳ね」
「ちっ……騙される程度の愚物の分際で……」
「そうね。その愚物にこうも容易く敗北する貴方もどうかと思うけれどね」
「抜かせ!!」

 大きな声で叫んだジフの顔には憎悪が満ち溢れていた。剣を抜き放ち構える彼に続いて他のダークエルフ族も各々武器を構える。切羽詰まった彼らは一斉に襲い掛かってくる。その瞳は追い詰められた獣のようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...