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654・番犬との攻防(ファリスside)
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「……随分と悪趣味な志向じゃない」
今まではどこかで見たことがあるような獣をゴーレムで再現して大きくしただけに過ぎなかった。だが、今目の前にいるのは明らかに異形の存在。二頭の犬はそれぞれが単眼であり、牙は鋭く研ぎ澄まされている。
『ガアアアアアッッッ!!』
二つの頭が同時に雄叫びを上げ、周囲に衝撃が走る。声を上げる機械というのはなんともシュールな光景ではあるが、目の前で対峙している本人からしてみたらたまったものではない。吹き飛ばされないように下半身に力を込めて身体を丸めて両腕を交差させて顔を守る。
しかしその行為は一瞬であってもキメラゴーレムを視界から外す事に違いはなく――
「――かはっ」
唐突に重い衝撃が襲い掛かり、別の意味で吹き飛ばされてしまった。背中を強かに打ち付け、肺に溜まった空気を吐き出す。それは大きな隙となりファリスに牙を剥く。
二頭の内の一つがその口を大きく開き、捕食しようとしてくる。
「……っ!」
自らの分身である【フィールコラプス】を振り、下顎を切り落とすべく刃を向ける。
振り下ろされたそれは途中で鈍く止まり、絶体絶命かに思われたが
、触れたところが黒く染まり塵になって消えるそれは口を閉ざす行為のほんの僅かな間に顎を蝕み、儚く崩れ落ちるように切り捨てられる。
黒に侵食された牙は役に立たず、噛み殺そうとした放たれた攻撃は空振りで終わってしまった。
並みの武器ならばこうはならなかっただろう。それだけの鋭さと魔力を【フィールコラプス】は秘めていた。
九死に一生を得たファリスはこのやり取りだけで目の前の敵がさほど脅威にならない事を理解した。ユミストルのような相手には効き目が薄いのだが、合成獣のような見た目をしているこのゴーレムは強度自体は他の兵器と変わらない。つまりファリスの敵ではなかった。
「手早く片付けさせてもらうわよ。【タイムアクセル】――!!」
瞬間。ファリス以外の時間がゆっくりと流れる。二つの頭が彼女の魔導に敏感に反応したが、時すでに遅し。緩やかに動く自身に襲い掛かる少女をただ見つめるだけの存在とかしたゴーレムはただ己の最期を理解出来ずに待つだけだった。
――
「……余計な傷を負ったわね」
腹いせと言わんばかりにゴーレムをごみ屑に変えてしまったファリスは苛立つようにぼやいた。彼女の回復魔導である【リ・バース】は神偽崩剣【ヴァニタス・イミテーション】によって付けられた傷にのみ作用するように仕上がっている。元々やりすぎないようにイメージして作った魔導だったが、彼女の魂の片割れは本来の形を見つけてしまった。二度と偽物が姿を表すことがない以上、【リ・バース】はただのがらくたと化してしまったのだ。より深いイメージの構築によって新しい魔導へと昇華させる事も出来るが、如何せん治癒に関するイメージが元々乏しい彼女にとっては時間が足りなかった。
(仕方ない。傷も大したことないし、このまま進むしかない)
奥へと進む少女は時折やってくる二頭の獣ゴーレムに対処しながら先へと進む。他の種類が一切出てこないところからそれらが防衛機構として働いている事は容易に推測できるが、既に戦力としての技術を見切った彼女にとってそれらは敵ではなく、ただ淡々に処理をしていくにすぎなかった。
順調に先に進んでいくファリスだったが、ここで一つの問題が生じる。それはつまり地図がないためどこに進めば正しいかいまいち判断がつかないところにあった。若干疲れを感じ始めた頃……ようやく彼女はそこへと辿り着いた。
「……何此処?」
そこは大きな空間となっていた。部屋というよりはあまりにも巨大すぎる場所。その中央に菱形の宝石のような物が安置されていて、何かのカプセルに包まれているようだった。大掛かりな装置の中に大切そうに保管されているそれは明らかに重要なものだと認識出来た。
「これね。手っ取り早く終わらせ――」
目的のものを見つけたファリスは【フィールコラプス】を構えると同時にユミストルの核の後ろにある鎧の騎士が目を覚ます。兜の奥底で赤い二つの目が光り、剣と盾を携えていた。
どう見てもユミストルの核を守るために配備された最後の防衛機構に見える。
「なるほど。こいつに勝てばいいって訳ね」
ファリスはにやりと笑う。【フィールコラプス】でユミストルの核を切り捨てればすぐに終わる。しかしこのゴーレムの外装は中々傷つける事が出来ない特殊なコーティングが施されていた。鎧の騎士を上手くかわしながら戦うよりもさっさと目の前の敵を片付けた方が早いと判断した訳だ。
今すぐにでも動き出したいところをじっくりと腰を据え、相手の出方を窺う。二頭のゴーレムとは違い、構え方がしっかりと戦える者のそれだ。弱点と言えば魔導を扱う事が出来ない一点に尽きるだろう。
「さあ、来なさい。貴方を倒して……全てを終わりにしてあげる!」
駆け出したファリス。悠然と構えるユミストルの騎士に立ち向かうそれは、挑戦者が赴くようにも見えた。
今まではどこかで見たことがあるような獣をゴーレムで再現して大きくしただけに過ぎなかった。だが、今目の前にいるのは明らかに異形の存在。二頭の犬はそれぞれが単眼であり、牙は鋭く研ぎ澄まされている。
『ガアアアアアッッッ!!』
二つの頭が同時に雄叫びを上げ、周囲に衝撃が走る。声を上げる機械というのはなんともシュールな光景ではあるが、目の前で対峙している本人からしてみたらたまったものではない。吹き飛ばされないように下半身に力を込めて身体を丸めて両腕を交差させて顔を守る。
しかしその行為は一瞬であってもキメラゴーレムを視界から外す事に違いはなく――
「――かはっ」
唐突に重い衝撃が襲い掛かり、別の意味で吹き飛ばされてしまった。背中を強かに打ち付け、肺に溜まった空気を吐き出す。それは大きな隙となりファリスに牙を剥く。
二頭の内の一つがその口を大きく開き、捕食しようとしてくる。
「……っ!」
自らの分身である【フィールコラプス】を振り、下顎を切り落とすべく刃を向ける。
振り下ろされたそれは途中で鈍く止まり、絶体絶命かに思われたが
、触れたところが黒く染まり塵になって消えるそれは口を閉ざす行為のほんの僅かな間に顎を蝕み、儚く崩れ落ちるように切り捨てられる。
黒に侵食された牙は役に立たず、噛み殺そうとした放たれた攻撃は空振りで終わってしまった。
並みの武器ならばこうはならなかっただろう。それだけの鋭さと魔力を【フィールコラプス】は秘めていた。
九死に一生を得たファリスはこのやり取りだけで目の前の敵がさほど脅威にならない事を理解した。ユミストルのような相手には効き目が薄いのだが、合成獣のような見た目をしているこのゴーレムは強度自体は他の兵器と変わらない。つまりファリスの敵ではなかった。
「手早く片付けさせてもらうわよ。【タイムアクセル】――!!」
瞬間。ファリス以外の時間がゆっくりと流れる。二つの頭が彼女の魔導に敏感に反応したが、時すでに遅し。緩やかに動く自身に襲い掛かる少女をただ見つめるだけの存在とかしたゴーレムはただ己の最期を理解出来ずに待つだけだった。
――
「……余計な傷を負ったわね」
腹いせと言わんばかりにゴーレムをごみ屑に変えてしまったファリスは苛立つようにぼやいた。彼女の回復魔導である【リ・バース】は神偽崩剣【ヴァニタス・イミテーション】によって付けられた傷にのみ作用するように仕上がっている。元々やりすぎないようにイメージして作った魔導だったが、彼女の魂の片割れは本来の形を見つけてしまった。二度と偽物が姿を表すことがない以上、【リ・バース】はただのがらくたと化してしまったのだ。より深いイメージの構築によって新しい魔導へと昇華させる事も出来るが、如何せん治癒に関するイメージが元々乏しい彼女にとっては時間が足りなかった。
(仕方ない。傷も大したことないし、このまま進むしかない)
奥へと進む少女は時折やってくる二頭の獣ゴーレムに対処しながら先へと進む。他の種類が一切出てこないところからそれらが防衛機構として働いている事は容易に推測できるが、既に戦力としての技術を見切った彼女にとってそれらは敵ではなく、ただ淡々に処理をしていくにすぎなかった。
順調に先に進んでいくファリスだったが、ここで一つの問題が生じる。それはつまり地図がないためどこに進めば正しいかいまいち判断がつかないところにあった。若干疲れを感じ始めた頃……ようやく彼女はそこへと辿り着いた。
「……何此処?」
そこは大きな空間となっていた。部屋というよりはあまりにも巨大すぎる場所。その中央に菱形の宝石のような物が安置されていて、何かのカプセルに包まれているようだった。大掛かりな装置の中に大切そうに保管されているそれは明らかに重要なものだと認識出来た。
「これね。手っ取り早く終わらせ――」
目的のものを見つけたファリスは【フィールコラプス】を構えると同時にユミストルの核の後ろにある鎧の騎士が目を覚ます。兜の奥底で赤い二つの目が光り、剣と盾を携えていた。
どう見てもユミストルの核を守るために配備された最後の防衛機構に見える。
「なるほど。こいつに勝てばいいって訳ね」
ファリスはにやりと笑う。【フィールコラプス】でユミストルの核を切り捨てればすぐに終わる。しかしこのゴーレムの外装は中々傷つける事が出来ない特殊なコーティングが施されていた。鎧の騎士を上手くかわしながら戦うよりもさっさと目の前の敵を片付けた方が早いと判断した訳だ。
今すぐにでも動き出したいところをじっくりと腰を据え、相手の出方を窺う。二頭のゴーレムとは違い、構え方がしっかりと戦える者のそれだ。弱点と言えば魔導を扱う事が出来ない一点に尽きるだろう。
「さあ、来なさい。貴方を倒して……全てを終わりにしてあげる!」
駆け出したファリス。悠然と構えるユミストルの騎士に立ち向かうそれは、挑戦者が赴くようにも見えた。
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