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651・巨人討伐(ファリスside)

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 激しい砲撃に晒されるファリス達は防御魔導を掛けずに駆け抜けていた。

「ちょっと……これはきつい、です!」

 息切れし始めているククオルは鳴りやまない砲撃音にうんざりしていた。今まで一切攻撃行動を取らなかったユミストルがいきなり立ち止まって延々と攻撃し続ける――少し前の様子からは考えられない動きをし続ければうんざりもするだろう。両肩の砲は全十門。それが順々に発射され、絶え間ない攻撃を実現している。

「ククオル、立ち止まるなよ!!」
「わ、わかっています!」

 狐耳が若干へたりかけた少女を横目に生き生きとしているワーゼルが魔導を剣に纏わせて砲撃を弾く。あまり武器に魔導を使用する人いない中、彼はかなり器用にこなしている。難なく戦えているところにワーゼルの才能が窺えるだろう。

「はは、あれほど不満そうにしていたのに、随分と嬉しそうだな」
「当たり前じゃないですか! 俺の斬撃が未来を拓く。あの人を先に進ませる!」

 身体能力を魔力で増幅させ、率先してファリス達を先導していた。

「楽しそうにするのも良いですけれど、きちんと周囲を確認してくださいね」

 ワーゼルの頭上から落ちてくるように降ってくる砲撃をユヒトが躍り出て受け止める。二対の短剣を交差させて勢いで弾き飛ばした彼の顔は笑みが零れていた。感情が高揚していつも以上の力を発揮できる。それに釣られるようにククオルが近づいてくる攻撃を相殺し、オルドはワーゼルが取りこぼしたものを防ぐ。それぞれがファリスが最速で進めるように防御陣形を取り、常に歩みを止めずに進んでいく。

 当初の予定では全員が攻撃に参加する予定だったが、四人の進言によりファリスのみが力を温存する方向で戦いを行っていた。彼らの誰もがユミストルに有効な一撃を与える事が出来るか怪しく、ファリスの魔導にその可能性を見出していたからだ。最初は反対していた彼女も最終的になっとくして戦いに臨んでいた。

 防御魔導によって足を止めることなくただひたすら目標に向けて走り続け、ユミストルの砲撃を防ぎ続ける。特化した魔導ではない以上、余分に魔力を消費するのだが、それも承知の上だ。

「もう少し……!」

 着々と近づいて行くにつれ攻撃が激しくなっていく。ユミストルがどう感知しているのかは彼女達にはわからないが、ファリスの魔導が最大限効果を発揮する間合いに入ると腰辺りから更に左右に三門ずつ展開され、より攻撃が苛烈になっていく。

「はっ、上等だ! 【ストムエンチャ】!」

 ワーゼルが更に血気盛んにテンションを上げ、剣に風を纏わせる。暴風と呼べるほどの激しさを宿したそれは一つ二つの攻撃など容易く撃ち返せそうな様相ですらある。
 剣を振るうと斬撃に強い風が乗り、激しい弾幕の数々を遮る。風の壁と例えるのに相応しい。

「……! 負けていられません。【烈火爆球】!」

 奮闘するワーゼルに感化されたククオルが放つ巨大な火球が襲い掛かる光線を迎撃するように飛んでいく。一つに当たると同時に大きな爆発が周辺に巻き起こり、更に多くの攻撃を防ぐように広範囲に散らばった。

「くあっ……なんですかその爆発は……!」
「ははっ、これはいい! 昂ってきたわ!」

 驚きながら撃ち漏らした攻撃を迎撃したユヒトとは対照的に鋭い笑みを浮かべ、動きに豪快さが増していくオルド。潜入作戦をしていた時と違い、大きな斧を振り回している姿は力強くあった。

「もうちょっと耐えて!」
「はははっ! ちょっとどころか……ずっと防いでみせるさ! だから後は……」
「後はお任せしました。ファリス様!」

 未だに軽口を叩いている余裕はあるが、戦況は芳しくない。味方軍は攻撃を再開しており、いつ仲間の魔導がファリス達に飛んでくるかわからないからだ。魔導砲は片足にのみ集中し、極力ファリス達に当たらないように配慮していたが、軍としての判断で彼女達側に攻撃が向く可能性が残っていた。唯一の利点と言えば軍が攻撃している側の砲門からは光線が飛んでこなくなったというところぐらいか。
 それでもたった数人が全力で防御に当たるには限界があり、ワーゼル達は既にかなり魔力を消耗していた。まだ戦う事が出来るが、常に全力でいる事は出来ない。これ以上攻撃が苛烈になっていけばそう遠くなく瓦解してしまうだろう。それでも前進を止めることなく、彼女達はとうとう目標の足元へと辿り着くことに成功した。

「さあ……ここからが本番ね」

 あれから自分の人造命具を見つめなおし、戦いに臨んだ。体調は今一番良く、最大の力を発揮できる。だからこそ――

「さあ、行くわよ。【人造命剣・フィールコラプス】!!」

 発動された魔導によってファリスが目覚めた触れる全てを崩壊させる剣。【フィールコラプス】が具現化する。未だにどれほどの性能を秘めているか不明な点が難しいところだが、少なくともファリスはこの剣に全幅の信頼を寄せていた。それは彼女の心から生まれた力。半身とも呼べる剣なのだから。

 ――かくして少女は巨人と相対する。一つの決着をつけるべく。
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