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649・巨人との戦い 前(ファリスside)

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 いきなり予想外の攻撃を受けた軍勢は手痛いダメージを受けた。幸いにも死者はいなかったものの、全力で防御に当たった兵士達は魔力切れに陥ってしまい、戦闘不能になってしまった。今まで考えられなかったユミストルの行動は軍全体に動揺を広げ、本当に破壊する事が出来るのかという疑心感を植え付ける。肝心の敵は二射目を準備中らしく、不気味に佇んでいる。

「参ったわね……」

 ファリスの呟きは今の現状を物語っていた。あのような攻撃が何度も続くようではとてもではないが耐えられない。ユミストルの元に辿り着き、戦闘を始めるまでにあとどれくらいあの砲撃を受ければいいのかわからない以上、ここで撤退すべきかどうかが視野に入ってくる。

 しかし――

「ザンド、どうする?」
「今撤退すれば二度目の出撃はないでしょう。もう目に見えている以上、このまま進軍するのがよろしいかと」

 軍の指揮を任されている魔人族のジンマとリザードマン族のザンドがファリスの後ろで話し合っている。進言しているザンドの言葉は間違っていなかった。今から退却したとして次の軍編成までユミストルが呑気に待っているとは到底思えない。既にアルファスは目と鼻の先なのだ。のこのこ出ていって一発当てられたので引き返しました。なんて言い訳は通用しないところまで来ている。このまま戦うしかない。それが彼らの共通認識だった。

「……魔力切れの者は後方に下がらせ回復薬を飲ませろ。そのまま進軍を続け予定通り陣を張る。二射目の事を考え、比較的魔力が多く防御魔導を扱える者を前線に据えろ」
「はっ!」

 伝令兵が分散して各小隊に話を繋げる。ここで撤退しても未来はない。入念に準備をしてここまでやってきたのだ。今更退けるわけがない。

「ファリス様、我らはこのまま進軍します。貴女様はどうされますか?」

 指示を飛ばしたジンマがファリスの元に近づく。彼の瞳は既に覚悟に染まり、命を賭すことも厭わない様子なのが伝わってきた。

「わたしがのこのこと帰ったらそれこそ笑いものになるでしょう。まさか、このわたしを腰抜けにしたいの?」
「しかし……!」
「貴方が覚悟を持っているようにわたしにだって強者としての矜持がある。ここで情けなく退くくらいなら貴方達全員と戦って凱旋する。違わない?」

 ファリスの真っ直ぐな視線にジンマは何も言えなくなった。聖黒族といえどとうの昔に成人しているジンマからしてみたらまだ幼い少女でしかなかった。しかしその視線はそんな感情を打ち捨てるには十分なほどの力を秘めていた。
 ジンマや他の兵士達はこの場で死ぬ覚悟をしている。例え死んでも必ず敵を倒し、祖国を守るという絶対的な誓い。ファリスの瞳にはそれに類する輝きがあった。

「……差し出がましい事を口にしました。申し訳ありません」
「構わないわ。それより、早く行きましょう。国を……エールティア様の大切なものを守りにね」
「はい!!」

 僅かなやり取りだったが、ファリスの離脱がない事が知れ渡り、ジンマ指揮官との会話も広がり、落ち掛けていた士気が回復してくる。まだ最強の戦力である彼女が諦めていない。全員で帰ろうと言ってくれている。
 徐々に接近しているユミストルの巨大さに竦む足を震え立たせるには十分だった。

「全軍! 展開せよ!!」

 危惧された二射目が放たれる事なく攻撃陣形を取ることが出来たリシュファス軍は半月のように広がり、ユミストルを囲う。魔力切れを起こしていた兵士達も回復薬で復帰して戦線に加わっており、戦う準備は整った。

「これよりユミストル討伐作戦を実行する!! 全軍足に魔導を叩き込め! 魔力が切れそうになったものはすぐに回復に戻れ! 近距離が得意なものは決して無理に近づこうとするな! 全員生きて帰るぞ!!」

 力強く吠える。自身を鼓舞し、抜剣と同時に振り上げ、ユミストルに突きつけるように一気に振り下ろした。

「作戦……開始ぃぃぃぃぃ!!」

 号令と同時に放たれる魔導の数々。防御に余力を残すべき者は支援を。それ以外の者は攻撃に重点を置いて。
 属性で反発しないように相克となる火と水は決して交わらせないように間隔を空ける。
 両足に集中する攻撃魔導が焼き、刻み、凍てつかせ、砕かんと襲い掛かるが、そのどれもが遠く及ばない。ユミストルの巨体を支える足はその程度ではびくともしなかった。

 ありったけをぶつけても第一波で破壊されることはなかった。そもそも傷がついたかどうかすら怪しい。

「報告は?」
「向かわせた斥候によるとほとんど無傷のようです。第二陣の準備、既に整っております」
「よし。魔導砲の発射用意! 射線にいる部隊には早急に離れるように伝令を飛ばせ!」

 ジンマ指揮官の指示によって鳥車を用いた伝令部隊が前線で戦っている者達に指示を飛ばし、ユミストルへの道が開かれる。そこにやってきたのはユミストルの大砲には劣るがそれなりに大きな砲台。兵士達の魔力を溜め込んで膨大な威力を秘めている事が発射寸前の様子から読み取れた。

「全員射線から離れました!」
「よし、発射!!」

 号令と共に魔導砲からは凄まじい魔力が光線となって解き放たれる。先程の魔導とは比べ物にならない程の熱量がユミストルに襲い掛かる。当たったと同時に爆発が引き起こり、ユミストルの巨体を確かに揺るがした。傷がつき明らかにひびが入っているものもあり、他の攻撃とは違い効いている様子だった。
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