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646・水色従者(ファリスside)
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ファリスは結局怪しいメイドの少女の話を聞くことにした。どんな目的があるかわからないが、彼女であれば自分を害する事はない。彼女はそう直感していた。
「それで……一体どうやって元に戻してくれるというの?」
「ふふふ、案外素直に聞いてくれるのですね。ではこちらを……」
少女はスカートの中から小瓶を取り出し、ファリスに手渡した。中身は透き通った青色で、どことなく彼女を彷彿とさせるものだった。
受け取ったファリスはその小瓶を揺らしてみる。ちゃぷちゃぷと小さな音を立てるそれは美味しそうではある。
「……何これ?」
「魔力を回復してくれるお薬ですよ。効き目抜群です」
にこりと微笑む少女の顔は実に穏やかだった。改めて視線を小瓶に移したファリスは、少女を信用しかけていた自分に呆れそうになった。若干美味しそうに見えるそれが自身の魔力を回復させてくれるなんて到底思えなかったのだ。
「……本当に大丈夫なの?」
「効き目は保証しますよ。怪しい私でよろしければね」
少女は『ささっ、早くどうぞ』とでも言いたげに促す。少女の顔と小瓶を交互に眺め……意を決して蓋を外し、一気に中身をあおった。
(……意外と美味しい!?)
すっきりとした味わいに目が覚めるような感じすらある。後味は仄かな甘みでファリスの舌に完全にマッチしていた。飲み終えると同時に湧き上がるのは充足感。身体の芯から自分のよく知る力が蘇り、全てが満たされるようですらある。
「……嘘でしょう」
気だるかった身体は完全に力を取り戻し、シルケットで戦っていた頃よりも調子がいいようですらあった。
「今は危ないですから後で魔導を使用して感覚を確かめておいてください」
「……ええ」
今でも自分の状況が信じられないファリスは今すぐにでも自分の力を試してみたい衝動に駆られる。それでもすぐさま外に飛び出さないのは彼女の理性がまだ強く残っている証拠だろう。
「なんで私を助けるの? 貴女の事なんて全く知らないのに」
「ふふふ、それは内緒です。あまり色々喋るのは禁止されていますから」
それだけ告げると少女は窓に近づく。まるでそこに扉があるかのように自然な装いゆえに、このままではいなくなるのではないかと焦ったファリスは慌てて引き止める。
「ちょ、ちょっとまって! せめて名前だけでも……」
「ふふふ、またいつかお会いいたしましょう。失礼いたします」
少女はファリスの問いかけに答える事もなく、さっさと窓から外へと出ていった締まった。まるでそこに進むべき道があるかのように。
あまりにも自然体過ぎてそこから出ていくのが当然みたいな顔をしていたファリスは、しばらく惚けていた後でここが二階だと気付いた。窓の外を見ると既に少女の姿は消え失せ、本当に存在したのかすら怪しい気もするが、残った小瓶とすこぶる快調な身体がその存在を証明していた。
「……まあ、いいか」
今は完全に回復した身体がある。これでまた戦えるとわかると、自然と足取りも軽くなった。
うきうき気分で外に出ようとすると、扉の近くで待機していたククオルと視線があった。
「ファリス様。どうされましたか?」
随分と浮かれている様子のファリスが不思議なのか、首を傾げているククオル。その様子すら楽しそうに感じている自分の事すら心地いい程ある少女は嬉しそうにウインクをする。
「ふふふっ、ちょっと魔導の練習をしようかなってね」
「え、ですが……」
「いいからいいから」
戸惑うククオルの手を引っ張っていくファリス。早く自分の力を試してみたくてウキウキしている様子はまるで子供のようでもあった。もちろん彼女に起きたことなど露とも知らないククオルは戸惑うばかりだった。
館の外にある訓練場を訪れたファリスは久しぶりに満ち溢れる力を試してみたくて仕方がない様子だった。
「あの、本当に大丈夫なのですか?」
「ふふふ、まあ見ていなさい」
せっかくだから新しい魔導を使ってみようと思い至ったファリスは深くイメージをしてみた。最初から持っていた記憶と今の自分が紡いできた思い出。そこから導き出されるものは黒い雷。溢れ出る魔力を自由に放出し、収縮する。結果――
――ドゴォォォォォォン!!
ファリスの魔導は訓練場を破壊し、一月は修復が必要な程の損害を与え、アルシェラにこっぴどく叱られる事になったのはまた別の話。
ついでに何故魔力が完全回復したのかを小一時間問い詰められることになったが、結局ファリスは満足に答えることが出来なかった。それは当然だろう。彼女が感じたなんとも言えない親近感は説明できるものではないし、他人から見たらいきなり現れた怪しいメイドの薬を疑うことなく飲み干したおバカな少女でしかなかったのだ。そんな事をほいほい説明して呆れられるようなミスを彼女が犯すはずがなかった。ならばなんとか濁しながらする他に道はない。
どっぷりと沈んでいく夕日。そのまま月が仕事を始めてもファリスは解放されることはなかった。
「それで……一体どうやって元に戻してくれるというの?」
「ふふふ、案外素直に聞いてくれるのですね。ではこちらを……」
少女はスカートの中から小瓶を取り出し、ファリスに手渡した。中身は透き通った青色で、どことなく彼女を彷彿とさせるものだった。
受け取ったファリスはその小瓶を揺らしてみる。ちゃぷちゃぷと小さな音を立てるそれは美味しそうではある。
「……何これ?」
「魔力を回復してくれるお薬ですよ。効き目抜群です」
にこりと微笑む少女の顔は実に穏やかだった。改めて視線を小瓶に移したファリスは、少女を信用しかけていた自分に呆れそうになった。若干美味しそうに見えるそれが自身の魔力を回復させてくれるなんて到底思えなかったのだ。
「……本当に大丈夫なの?」
「効き目は保証しますよ。怪しい私でよろしければね」
少女は『ささっ、早くどうぞ』とでも言いたげに促す。少女の顔と小瓶を交互に眺め……意を決して蓋を外し、一気に中身をあおった。
(……意外と美味しい!?)
すっきりとした味わいに目が覚めるような感じすらある。後味は仄かな甘みでファリスの舌に完全にマッチしていた。飲み終えると同時に湧き上がるのは充足感。身体の芯から自分のよく知る力が蘇り、全てが満たされるようですらある。
「……嘘でしょう」
気だるかった身体は完全に力を取り戻し、シルケットで戦っていた頃よりも調子がいいようですらあった。
「今は危ないですから後で魔導を使用して感覚を確かめておいてください」
「……ええ」
今でも自分の状況が信じられないファリスは今すぐにでも自分の力を試してみたい衝動に駆られる。それでもすぐさま外に飛び出さないのは彼女の理性がまだ強く残っている証拠だろう。
「なんで私を助けるの? 貴女の事なんて全く知らないのに」
「ふふふ、それは内緒です。あまり色々喋るのは禁止されていますから」
それだけ告げると少女は窓に近づく。まるでそこに扉があるかのように自然な装いゆえに、このままではいなくなるのではないかと焦ったファリスは慌てて引き止める。
「ちょ、ちょっとまって! せめて名前だけでも……」
「ふふふ、またいつかお会いいたしましょう。失礼いたします」
少女はファリスの問いかけに答える事もなく、さっさと窓から外へと出ていった締まった。まるでそこに進むべき道があるかのように。
あまりにも自然体過ぎてそこから出ていくのが当然みたいな顔をしていたファリスは、しばらく惚けていた後でここが二階だと気付いた。窓の外を見ると既に少女の姿は消え失せ、本当に存在したのかすら怪しい気もするが、残った小瓶とすこぶる快調な身体がその存在を証明していた。
「……まあ、いいか」
今は完全に回復した身体がある。これでまた戦えるとわかると、自然と足取りも軽くなった。
うきうき気分で外に出ようとすると、扉の近くで待機していたククオルと視線があった。
「ファリス様。どうされましたか?」
随分と浮かれている様子のファリスが不思議なのか、首を傾げているククオル。その様子すら楽しそうに感じている自分の事すら心地いい程ある少女は嬉しそうにウインクをする。
「ふふふっ、ちょっと魔導の練習をしようかなってね」
「え、ですが……」
「いいからいいから」
戸惑うククオルの手を引っ張っていくファリス。早く自分の力を試してみたくてウキウキしている様子はまるで子供のようでもあった。もちろん彼女に起きたことなど露とも知らないククオルは戸惑うばかりだった。
館の外にある訓練場を訪れたファリスは久しぶりに満ち溢れる力を試してみたくて仕方がない様子だった。
「あの、本当に大丈夫なのですか?」
「ふふふ、まあ見ていなさい」
せっかくだから新しい魔導を使ってみようと思い至ったファリスは深くイメージをしてみた。最初から持っていた記憶と今の自分が紡いできた思い出。そこから導き出されるものは黒い雷。溢れ出る魔力を自由に放出し、収縮する。結果――
――ドゴォォォォォォン!!
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ついでに何故魔力が完全回復したのかを小一時間問い詰められることになったが、結局ファリスは満足に答えることが出来なかった。それは当然だろう。彼女が感じたなんとも言えない親近感は説明できるものではないし、他人から見たらいきなり現れた怪しいメイドの薬を疑うことなく飲み干したおバカな少女でしかなかったのだ。そんな事をほいほい説明して呆れられるようなミスを彼女が犯すはずがなかった。ならばなんとか濁しながらする他に道はない。
どっぷりと沈んでいく夕日。そのまま月が仕事を始めてもファリスは解放されることはなかった。
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