638 / 676
638・内部の事情
しおりを挟む
私とヒューの魔導によって自分達の存在を視認できないようにして番兵の監視を潜り抜ける事に成功した。扉は平常時という事もあって開いていたから内部に入り込むのは結構簡単だった。あくまで聞こえなくする。見えなくするだけだから、存在を認識できなくても触れるという欠点があったから通り抜ける時はかなり緊張したけれど、実際なんの不安もなくすんなりといけた。
城内に入ってなるべく息を潜めながら周囲を観察する。範囲外からは何も聞こえないとはいえ、どれだけ効果があるかわからないからだ。
「まずはどこか小部屋に移動しましょう」
「このまま探索することは出来ないのですか?」
ジュールの提案も悪くはない。だけどそれは常に魔力を消費する事になる。もしずっと展開し続けて消耗が激しい時に戦闘に突入したら……なんてなるとまともに戦えなくなるかもしれない。
「それは最終手段として考えておきましょう。ヒューもそれでいい」
「ああ」
彼も私と同じ事を考えていたようで一も二もなく頷いてくれた。彼も魔力切れで何も出来なくなるのは避けたいのだろう。
城の中は一体どんな内装になっているのかと思いきや、案外普通だった。てっきり色んな手法で手に入れた貴重品とか堂々と飾っていると思うけど、意外にも質素で逆に驚いた。自己顕示欲が強いのにこれでよく我慢できるものだ。
「なんだか、想像とは違っていましたね」
「ですが……なんだか嫌な予感がします」
肩を震わせている雪風はどこか落ち着かないみたいだ。とりあえず適当な部屋に入って魔導を解除する。幸いにも付近には兵士もいなくて物置みたいな部屋のようだった。
「さて、これからどうしましょうか」
「一旦分かれて探索しますか?」
大勢で行動するか手分けをするか。効率を考えれば二人でペアを組んで行動した方が良い。だけどそれにはデメリットが大きい。
「戦いになった時の事を考えると一緒に行動した方が良いと思います」
「そうだな。姫様はともかく俺達が太刀打ちできない相手が出てきたら困る。逃げ延びれたとしても潜入した事はバレてしまうだろうからな」
最初に分かれるか提案してきたジュールははっとした顔で思い直していた。
「前は私と雪風。後ろはヒューとジュールが警戒して先に進む……という感じでいい?」
「わかった。いざとなったら姫様と俺の魔導で切り抜ければいい。姫様も透明化する魔導くらいならなんとか出来るだろう?」
「……効果は保障しないけれどね」
私の魔導が完全に同じになる事はない。だけど似たような効果を付与する事は出来るだろう。それでもあまり過信しないで欲しい。
作戦を決めた私達は静かに物置の部屋を出てゆっくりと奥へと進む。出来れば出会わなければいいんだけどそれはやっぱり難しい。昼間(?)という事もあって、兵士達は普通に歩いている。中には雑談をしているだけとかなんの足しにもならない話とかがちらほらと。
本当に危ない時のみヒューの魔導で姿を隠し、なるべく通路の端に寄って兵士達に気付かれないように息を潜める。【バリアサイレント】は私を中心に発動するからもちろん近くを通った兵士達にも適用される。遠くの人の話が聞こえなくなるというのは絶対におかしいと感じるはずだ。そんな事故を避けるために使わないように決めていた。
何度も注意しながら部屋の中を確認する。彼らの拠点は毎回どこかに地下への入り口が隠されているのだけれど……流石にこの場所でさらに下に降りるような場所があるとは思えない。素直に城の全体を探そうとして――それは意外とすぐに見つかった。
他の部屋とは全く違う厳重に守られた部屋。警備を担当している兵士達は番兵のようにやる気なさそうに立っている訳ではなく、目つきがちょっとぎらついている。緊張はしていないけれど絶対に誰も通さない……そんな圧力が伝わってくるようだ。
「いかにも大事なものがある……そんな雰囲気が漂っていますね」
「扉が閉まっていますが、どうしますか?」
流石に私の魔導を使っても扉自体が見えなくならない以上、誤魔化すのには限界がある。……どうしようか?
「私に任せてもらってもいいですか?」
ここで意外な事にジュールが解決すると真剣な表情で訴えかけてきた。不安げに揺れる瞳が私をまっすぐ見据えてくる。ここまで本気のこの子は中々見たことがない。
「……いいでしょう」
「おい、大丈夫なのか?」
失敗する訳にはいかない。それがわかっているからこそ、ヒューは嫌そうな顔をする。だけどもう決めたことだ。どうせ私には攻撃するしか方法がないのだから。
気合を入れたジュールは目を閉じて本気でイメージを構築しているようだ。まさかここで一から……という訳もなく、すぐに魔導を発動させる。
「【ミストヴィジョン】」
ジュールの指先から霧のようなものが出てきた。すぐに景色と同化して見えなくなる。しばらく待機していると、扉を守っている兵士に異常が生じた。さきほどまであった気合が消え失せ、どこかとろんとした顔になっていく。
「これは……?」
「説明は後です。バレない為に工夫したので効果が短くなっています。早く行きましょう」
いつの間にこんな魔導を……と素直に感心してしまう。一応ヒューには魔導を保ち続けてもらってなるべく静かに。だけど迅速に動かないといけない。
兵士達の隣を横切るとなんとも間抜けな顔を晒している。扉を開けても特に何の反応もない。恐らく霧を吸った者に影響を与える魔導なのだと思う。随分と興味深いけど、今そこを気にしている場合じゃない。苦戦すると思いきや難なく通過する事が出来たそこに広がっているのは広い部屋に階段。しかもまた深い。
……地下でも結局それなのか。となんだか脱力してしまったのは少なくとも私だけではないはず。そうだと思いたい。
城内に入ってなるべく息を潜めながら周囲を観察する。範囲外からは何も聞こえないとはいえ、どれだけ効果があるかわからないからだ。
「まずはどこか小部屋に移動しましょう」
「このまま探索することは出来ないのですか?」
ジュールの提案も悪くはない。だけどそれは常に魔力を消費する事になる。もしずっと展開し続けて消耗が激しい時に戦闘に突入したら……なんてなるとまともに戦えなくなるかもしれない。
「それは最終手段として考えておきましょう。ヒューもそれでいい」
「ああ」
彼も私と同じ事を考えていたようで一も二もなく頷いてくれた。彼も魔力切れで何も出来なくなるのは避けたいのだろう。
城の中は一体どんな内装になっているのかと思いきや、案外普通だった。てっきり色んな手法で手に入れた貴重品とか堂々と飾っていると思うけど、意外にも質素で逆に驚いた。自己顕示欲が強いのにこれでよく我慢できるものだ。
「なんだか、想像とは違っていましたね」
「ですが……なんだか嫌な予感がします」
肩を震わせている雪風はどこか落ち着かないみたいだ。とりあえず適当な部屋に入って魔導を解除する。幸いにも付近には兵士もいなくて物置みたいな部屋のようだった。
「さて、これからどうしましょうか」
「一旦分かれて探索しますか?」
大勢で行動するか手分けをするか。効率を考えれば二人でペアを組んで行動した方が良い。だけどそれにはデメリットが大きい。
「戦いになった時の事を考えると一緒に行動した方が良いと思います」
「そうだな。姫様はともかく俺達が太刀打ちできない相手が出てきたら困る。逃げ延びれたとしても潜入した事はバレてしまうだろうからな」
最初に分かれるか提案してきたジュールははっとした顔で思い直していた。
「前は私と雪風。後ろはヒューとジュールが警戒して先に進む……という感じでいい?」
「わかった。いざとなったら姫様と俺の魔導で切り抜ければいい。姫様も透明化する魔導くらいならなんとか出来るだろう?」
「……効果は保障しないけれどね」
私の魔導が完全に同じになる事はない。だけど似たような効果を付与する事は出来るだろう。それでもあまり過信しないで欲しい。
作戦を決めた私達は静かに物置の部屋を出てゆっくりと奥へと進む。出来れば出会わなければいいんだけどそれはやっぱり難しい。昼間(?)という事もあって、兵士達は普通に歩いている。中には雑談をしているだけとかなんの足しにもならない話とかがちらほらと。
本当に危ない時のみヒューの魔導で姿を隠し、なるべく通路の端に寄って兵士達に気付かれないように息を潜める。【バリアサイレント】は私を中心に発動するからもちろん近くを通った兵士達にも適用される。遠くの人の話が聞こえなくなるというのは絶対におかしいと感じるはずだ。そんな事故を避けるために使わないように決めていた。
何度も注意しながら部屋の中を確認する。彼らの拠点は毎回どこかに地下への入り口が隠されているのだけれど……流石にこの場所でさらに下に降りるような場所があるとは思えない。素直に城の全体を探そうとして――それは意外とすぐに見つかった。
他の部屋とは全く違う厳重に守られた部屋。警備を担当している兵士達は番兵のようにやる気なさそうに立っている訳ではなく、目つきがちょっとぎらついている。緊張はしていないけれど絶対に誰も通さない……そんな圧力が伝わってくるようだ。
「いかにも大事なものがある……そんな雰囲気が漂っていますね」
「扉が閉まっていますが、どうしますか?」
流石に私の魔導を使っても扉自体が見えなくならない以上、誤魔化すのには限界がある。……どうしようか?
「私に任せてもらってもいいですか?」
ここで意外な事にジュールが解決すると真剣な表情で訴えかけてきた。不安げに揺れる瞳が私をまっすぐ見据えてくる。ここまで本気のこの子は中々見たことがない。
「……いいでしょう」
「おい、大丈夫なのか?」
失敗する訳にはいかない。それがわかっているからこそ、ヒューは嫌そうな顔をする。だけどもう決めたことだ。どうせ私には攻撃するしか方法がないのだから。
気合を入れたジュールは目を閉じて本気でイメージを構築しているようだ。まさかここで一から……という訳もなく、すぐに魔導を発動させる。
「【ミストヴィジョン】」
ジュールの指先から霧のようなものが出てきた。すぐに景色と同化して見えなくなる。しばらく待機していると、扉を守っている兵士に異常が生じた。さきほどまであった気合が消え失せ、どこかとろんとした顔になっていく。
「これは……?」
「説明は後です。バレない為に工夫したので効果が短くなっています。早く行きましょう」
いつの間にこんな魔導を……と素直に感心してしまう。一応ヒューには魔導を保ち続けてもらってなるべく静かに。だけど迅速に動かないといけない。
兵士達の隣を横切るとなんとも間抜けな顔を晒している。扉を開けても特に何の反応もない。恐らく霧を吸った者に影響を与える魔導なのだと思う。随分と興味深いけど、今そこを気にしている場合じゃない。苦戦すると思いきや難なく通過する事が出来たそこに広がっているのは広い部屋に階段。しかもまた深い。
……地下でも結局それなのか。となんだか脱力してしまったのは少なくとも私だけではないはず。そうだと思いたい。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!
栗栖蛍
ファンタジー
読書好きで幼馴染みの美緒は、小柄で可愛くて巨乳だ。
ある日、俺の目の前から突然居なくなった彼女は、俺以外の全ての記憶から存在を抹消され、魔王の巨乳ハーレムに入るべく異世界へ行ってしまった。
美緒を探す俺の前に現れたのは、貧乳でハイレグ姿の綺麗なお姉さん。
彼女の話じゃ、貧乳世界の魔王が、こっちの世界の巨乳で可愛い女の子を集めているという。
美緒は確かにプリンセスストーリーに憧れていたけど、それって相手が魔王でもアリなのか?
そして俺の前に現れた魔王は、俺にとって信じがたい奴だったんだけど--。
辿り着いた異世界で少女メルの討伐隊に入れられた俺は、モンスターと戦いながら美緒の居る城を目指す。そして、魔王と世界の深層に触れて――。
果たして、巨乳女子たちが異世界に集められた本当の意味とは--?
表紙画:ロジーヌ様
※小説家になろう様、カクヨム様にも同タイトルでアップしています(完結済)。よろしくお願いします。
【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~
九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】
【HOTランキング1位獲得!】
とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。
花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
【完結】うさぎの精霊さんに選ばれたのは、姉の私でした。
紫宛
ファンタジー
短編から、長編に切り替えました。
完結しました、長らくお付き合い頂きありがとうございました。
※素人作品、ゆるふわ設定、ご都合主義、リハビリ作品※
10月1日 誤字修正 18話
無くなった→亡くなった。です
私には妹がいます。
私達は不思議な髪色をしています。
ある日、私達は貴族?の方に売られました。
妹が、新しいお父さんに媚を売ります。私は、静かに目立たないように生きる事になりそうです。
そんな時です。
私達は、精霊妃候補に選ばれました。
私達の運命は、ここで別れる事になりそうです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる