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631・黒竜
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――唖然。
あまりの規格外さにそれでしか言い表せなかった。
「……え?」
呆然と呟かれた言葉はどこかに消えてしまって、圧倒的な存在感だけが残る。
『どうした? 早く乗るがいい』
先程までの可愛らしい少年の声とは違って重圧感を与えてくる低く響く声。これが本当にあのクロイズなのだろうか? と不思議に思うほどだ。
「えっと……クロイズ……ですよね?」
『そうだが。それより早くしろ。この器では永くもたない』
どこか苦々しい様子の彼の言う事を聞いておこう。私が率先して乗り込むと、他の三人も恐る恐るながら背中に乗ってきた。特に掴むところがないから抱き着くような形になっているけれど、思ったより吸い付くような触感。少し硬いけれどひんやりして気持ちがいい。癖になりそうだ。
「すご……」
ぼそっと呟いたそれはクロイズがゆっくりと動き出すと同時にどこかへ消えてしまった。一体どうやって飛んでいるのだろう? なんて思えるほどの巨体は翼もなしに浮いている。
「何これ……」
「こんなの初めてです!」
全く風の抵抗を感じず、重力とかそういうのにも解放された彼に乗っている私達は、普段ワイバーンに乗っている時よりも安定して乗る事が出来ていた。むしろワイバーンの方が若干心地が悪いくらいだ。
「まさか本当に【化身解放】だとはな……」
騒音も全くないからヒューの声も普通に聞こえてくる。呆然としている彼の言葉に頷くしかない。これほどの規模になるとは思っていなかった。魔導に比べると見劣ってしまうだろうとか思っていたけれど、全くそんなことなくて笑いがこみ上げてきそうになる。
「なんでこんな姿に? 誰にでも使えるのですか?」
『誰にでも使える訳ではない。【化身解放】というのは龍が本来の姿に戻る為の魔法なのだ』
「つまりこれが貴方の本来の姿……ということ?」
『そうなるな』
レイアやアルフが使っていた【化身解放】とはまた随分様変わりしたものだ。彼女達のは人型に近い竜の形態に変化する魔導で、クロイズのように自分達の体格なんて無視してこんな人を百人乗せてもまだ大丈夫そうな見た目にはならなかった。
「レイアが【化身解放】を使えますが、それとはまた違うのですか?」
一番気になっているであろう部分に遠慮なくナイフを突っ込む彼女の姿は命を賭して特攻を仕掛けてきた兵士のそれのようでもある。
『あれはあくまでオリジナルの模倣でしか過ぎぬ。これは竜の本来の姿を解放する魔法でしかない。そこに魔導と魔法の違いはさほど存在しない』
それは言えている。結局それだけの魔法をイメージで作りなおしてもあまり意味がなかったというわけだ。魔導至上主義の型にハマった結果とも言えるだろう。むしろイメージで効果が弱体化しない分魔法として扱った方が強力なのかもしれない。
『それよりも見えてきたぞ』
話していたらいつの間にか目的の近くまで飛んでいたらしい。魔導で特に強化していないから地面の地形とか全くわからないけど。
緩やかな円を描いて徐々に降下していくクロイズのおかげで本当に快適な旅だったことを改めて実感した。
――
地面に降り立った私達は普段とは少し違う空気を感じた。上手く言葉に表せないけど、どこか不穏な感じ。
「ここが……?」
ジュールも何かを感じたのか、どこか落ち着かない様子で周囲をきょろきょろ探っている。
「ふむ……予想よりも早く事は進行していそうだな」
龍の姿から戻ったクロイズは深く悩むように頭に手を当てていた。
「状況は大分悪いって事ですか?」
「そうなるな。……今、この大陸に存在する魔力が一箇所に集まろうとしている。故に世界樹に守られた土地で暮らしていた汝らには違和感があるのだろう。あれは汚れを吸い、清浄に戻してくれる始竜の一人が生み出した傑作だからな」
そうなんだ……と思ってすぐに疑問が湧いてくる。なんで彼は始竜が作ったって知っているのだろう?
この世界の歴史は初代魔王様の辺りから明確に残されるようになった。それ以前のはまるで忌み嫌われるかのように僅かな資料が残っている程度だ。なのに何で世界樹のことを知っているのか。疑問が湧いて止まらない。
「ティア様?」
「え、あ、ああ。ごめんなさい」
つい考え事をしていた私は、ジュールの言葉が耳に入っていなかった。
……そうだ。今はそんな些細なことを気にしている場合じゃない。ここは言わば敵地。いつ誰が襲ってきても不思議じゃない。気を引き締めないと……。
「それで、次はどこに行けばいい?」
「ヒューリ王の都が少々離れたところにある。あそこは今は完全に廃墟になっているが、ダークエルフ族すら使っていないから安全だ。まずはそこで一泊しよう」
私達にはここの土地勘がない。言われたままに頷いてクロイズを先頭にして彼に大人しくついていくことにした。
それから陽が傾きかけたところに町の跡……と呼ぶには更に酷い場所。家と呼べるものがほとんど残っていない場所にたどり着いたのだった。
辛うじて城のようなものが残っているここが……ヒューリ王が築き上げた都の成れの果てだった。
あまりの規格外さにそれでしか言い表せなかった。
「……え?」
呆然と呟かれた言葉はどこかに消えてしまって、圧倒的な存在感だけが残る。
『どうした? 早く乗るがいい』
先程までの可愛らしい少年の声とは違って重圧感を与えてくる低く響く声。これが本当にあのクロイズなのだろうか? と不思議に思うほどだ。
「えっと……クロイズ……ですよね?」
『そうだが。それより早くしろ。この器では永くもたない』
どこか苦々しい様子の彼の言う事を聞いておこう。私が率先して乗り込むと、他の三人も恐る恐るながら背中に乗ってきた。特に掴むところがないから抱き着くような形になっているけれど、思ったより吸い付くような触感。少し硬いけれどひんやりして気持ちがいい。癖になりそうだ。
「すご……」
ぼそっと呟いたそれはクロイズがゆっくりと動き出すと同時にどこかへ消えてしまった。一体どうやって飛んでいるのだろう? なんて思えるほどの巨体は翼もなしに浮いている。
「何これ……」
「こんなの初めてです!」
全く風の抵抗を感じず、重力とかそういうのにも解放された彼に乗っている私達は、普段ワイバーンに乗っている時よりも安定して乗る事が出来ていた。むしろワイバーンの方が若干心地が悪いくらいだ。
「まさか本当に【化身解放】だとはな……」
騒音も全くないからヒューの声も普通に聞こえてくる。呆然としている彼の言葉に頷くしかない。これほどの規模になるとは思っていなかった。魔導に比べると見劣ってしまうだろうとか思っていたけれど、全くそんなことなくて笑いがこみ上げてきそうになる。
「なんでこんな姿に? 誰にでも使えるのですか?」
『誰にでも使える訳ではない。【化身解放】というのは龍が本来の姿に戻る為の魔法なのだ』
「つまりこれが貴方の本来の姿……ということ?」
『そうなるな』
レイアやアルフが使っていた【化身解放】とはまた随分様変わりしたものだ。彼女達のは人型に近い竜の形態に変化する魔導で、クロイズのように自分達の体格なんて無視してこんな人を百人乗せてもまだ大丈夫そうな見た目にはならなかった。
「レイアが【化身解放】を使えますが、それとはまた違うのですか?」
一番気になっているであろう部分に遠慮なくナイフを突っ込む彼女の姿は命を賭して特攻を仕掛けてきた兵士のそれのようでもある。
『あれはあくまでオリジナルの模倣でしか過ぎぬ。これは竜の本来の姿を解放する魔法でしかない。そこに魔導と魔法の違いはさほど存在しない』
それは言えている。結局それだけの魔法をイメージで作りなおしてもあまり意味がなかったというわけだ。魔導至上主義の型にハマった結果とも言えるだろう。むしろイメージで効果が弱体化しない分魔法として扱った方が強力なのかもしれない。
『それよりも見えてきたぞ』
話していたらいつの間にか目的の近くまで飛んでいたらしい。魔導で特に強化していないから地面の地形とか全くわからないけど。
緩やかな円を描いて徐々に降下していくクロイズのおかげで本当に快適な旅だったことを改めて実感した。
――
地面に降り立った私達は普段とは少し違う空気を感じた。上手く言葉に表せないけど、どこか不穏な感じ。
「ここが……?」
ジュールも何かを感じたのか、どこか落ち着かない様子で周囲をきょろきょろ探っている。
「ふむ……予想よりも早く事は進行していそうだな」
龍の姿から戻ったクロイズは深く悩むように頭に手を当てていた。
「状況は大分悪いって事ですか?」
「そうなるな。……今、この大陸に存在する魔力が一箇所に集まろうとしている。故に世界樹に守られた土地で暮らしていた汝らには違和感があるのだろう。あれは汚れを吸い、清浄に戻してくれる始竜の一人が生み出した傑作だからな」
そうなんだ……と思ってすぐに疑問が湧いてくる。なんで彼は始竜が作ったって知っているのだろう?
この世界の歴史は初代魔王様の辺りから明確に残されるようになった。それ以前のはまるで忌み嫌われるかのように僅かな資料が残っている程度だ。なのに何で世界樹のことを知っているのか。疑問が湧いて止まらない。
「ティア様?」
「え、あ、ああ。ごめんなさい」
つい考え事をしていた私は、ジュールの言葉が耳に入っていなかった。
……そうだ。今はそんな些細なことを気にしている場合じゃない。ここは言わば敵地。いつ誰が襲ってきても不思議じゃない。気を引き締めないと……。
「それで、次はどこに行けばいい?」
「ヒューリ王の都が少々離れたところにある。あそこは今は完全に廃墟になっているが、ダークエルフ族すら使っていないから安全だ。まずはそこで一泊しよう」
私達にはここの土地勘がない。言われたままに頷いてクロイズを先頭にして彼に大人しくついていくことにした。
それから陽が傾きかけたところに町の跡……と呼ぶには更に酷い場所。家と呼べるものがほとんど残っていない場所にたどり着いたのだった。
辛うじて城のようなものが残っているここが……ヒューリ王が築き上げた都の成れの果てだった。
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