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625・戦後処理の苦しさ
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見覚えのあるポレック家を象徴する紋章が掲げられたテントの中には既に伯爵。その隣には見慣れない士官がいる。服装がちょっと大きめのローブと明らかに兵士のそれではないところから間違いなく文官の類だろう。
「ポレック伯爵、お待たせしました」
「いいえ。そろそろいらっしゃる頃だと思ってこうして準備していたところです」
促されるままに対面するように座る。ジュールに視線を送りテントの外に出てもらう。どうせ長くなるのだし、つまらない話にいつまでも彼女を付き合わせるのは忍びない。だから席を外してもらった。ポレック伯爵もそこについては理解がある為、特に気にする事もなく話が始まる。
「まず軍の被害やイレアル男爵の内情把握について文書としてまとめたものをこちらで用意しました」
伯爵の側で控えていた士官が配ってくれた報告書は今回の戦いで被った損害が剣一本まで事細かに記されていた。ちらりと彼の顔を見ると案外涼しい顔をしている割には目の下にうっすら隈のようなものが見える。これを用意する為に寝るのを惜しんで仕事していたのだろう。
「お疲れ様」
「……! 滅相もございません」
これほど丁寧な書類を見たことがなかったからよほど念入りに書き記したのだろうと思って感謝の気持ちと共に言葉にしたのだけれど、何故か畏まれてしまった。
「ふふっ、私以外からはあまり言われ慣れていませんので驚いたのでしょう。気を悪くされたのでしたら申し訳ありません」
「いいえ。構いませんわ」
別に怒っているわけでもないし、これ以上色々と言う必要はない。改めて報告書の方に目を通す。これはあとでお母様に報告してある程度予算を回してもらわないといけないからしっかりと確認しないとね。
「思ったより損害が少ないですね」
「当然です。今回の戦いは殿下や御付の方々のおかげで非常に士気が高い時間が続きました。あの竜の爆発に巻き込まれた者も少なくて済みました。こちらの練度が高かったのも要因の一つでしょうがな」
私達の活躍で損害が減ったというのなら良かった。少しでも人死にが減ったのなら頑張った甲斐があるというものだ。その点については何の問題もない。
「このイレアル男爵の件だけど――」
「それはやはり殿下がお決めになるのが筋かと」
これだ。私は彼らの立場なんて知った事ではない。攻められたのはポレック伯爵の管理している領地なのになぜかイレアル男爵の処遇を私に決めさせようとしてくる。何度も断ったのに一向に折れる気配がない。既に何度もしてきたやり取りだけに多少うんざりしてきた。
「確かにここは私が治める土地です。が、彼らの目的は最終的にリシュファス公爵領の中心に違いはありません。でしたらここはその血統であるティファリス殿下が処罰を降すのが妥当です。それに考えてもみてください」
明らかに表情に出ていたのだろう。どこか悲し気な表情を浮かべて少し間を溜めた。
「私も殿下と共に前線で戦っていたのでしたらまだしも、殿下御一人を戦場に送り出しあまつさえあの兵器達の爆発に巻き込ませてしまう結果となりました。いくら御身が無傷だったとはいえ、ここで私が男爵の処分を決めてしまえば都合の良いところは全て自分勝手に裁定する男だと誹りを受ける事となるでしょう。周りの者の反応も考えた結果なのです」
目を伏せる伯爵を見ているとなんだか自分が悪い事をしているように思えてくる。別に意固地になって『やらない!』なんて言う必要もない。深いため息が漏れ出てしまったが、それで私が折れたと判断したのか明るい顔をして期待の眼差しを向けてきた。
「……まずイレアル男爵は爵位剥奪の要請をしましょう。それまでは逃げ出さないように牢で監視。彼の私兵については全てポレック伯爵にお任せする。ダークエルフ族と黒竜人族に関しては保留。この反乱が収まってから女王陛下にご報告して判断を仰ぐ――それでよろしい?」
「かしこまりました。では剥奪の件はアルシェラ様にお伝えしましょう。ダークエルフ族達の件に関してはここから離れた場所に監獄を建築し、逃げ出す事のないように兵士達に見張らせます。建築に関しては降伏した男爵軍の中でもこちらに反逆の意志がない者を選抜して行えばこちらの負担も減って問題ありますまい。残った者達に関しては後日どのような裁定を下したか書類にまとめてリシュファス公や殿下にご報告しましょう」
それでいい……と頷いたところで今回の会議の大部分が終了した。私の一番の悩みの種が多少なりとも改善したからようやく一つの荷が降りたと言えるだろう。このせいでここに留まる事になっていたと言えなくもないしね。後は反乱が静まれば私もまた本格的に動けるようになる。以前に教えてもらったダークエルフ族の本拠地を探しに行く事も出来るだろう。
急いで彼らを叩かなくてはならないのだけど……今はまだ辛抱の時。そう自分に言い聞かせておかないといけない。この出来事が時間稼ぎになって後々足を引っ張られるような事にならなければいい。そう願う限りだ。
……そういえば今まで忘れていたけれど、クロイズはどこにいったのだろう?
「ポレック伯爵、お待たせしました」
「いいえ。そろそろいらっしゃる頃だと思ってこうして準備していたところです」
促されるままに対面するように座る。ジュールに視線を送りテントの外に出てもらう。どうせ長くなるのだし、つまらない話にいつまでも彼女を付き合わせるのは忍びない。だから席を外してもらった。ポレック伯爵もそこについては理解がある為、特に気にする事もなく話が始まる。
「まず軍の被害やイレアル男爵の内情把握について文書としてまとめたものをこちらで用意しました」
伯爵の側で控えていた士官が配ってくれた報告書は今回の戦いで被った損害が剣一本まで事細かに記されていた。ちらりと彼の顔を見ると案外涼しい顔をしている割には目の下にうっすら隈のようなものが見える。これを用意する為に寝るのを惜しんで仕事していたのだろう。
「お疲れ様」
「……! 滅相もございません」
これほど丁寧な書類を見たことがなかったからよほど念入りに書き記したのだろうと思って感謝の気持ちと共に言葉にしたのだけれど、何故か畏まれてしまった。
「ふふっ、私以外からはあまり言われ慣れていませんので驚いたのでしょう。気を悪くされたのでしたら申し訳ありません」
「いいえ。構いませんわ」
別に怒っているわけでもないし、これ以上色々と言う必要はない。改めて報告書の方に目を通す。これはあとでお母様に報告してある程度予算を回してもらわないといけないからしっかりと確認しないとね。
「思ったより損害が少ないですね」
「当然です。今回の戦いは殿下や御付の方々のおかげで非常に士気が高い時間が続きました。あの竜の爆発に巻き込まれた者も少なくて済みました。こちらの練度が高かったのも要因の一つでしょうがな」
私達の活躍で損害が減ったというのなら良かった。少しでも人死にが減ったのなら頑張った甲斐があるというものだ。その点については何の問題もない。
「このイレアル男爵の件だけど――」
「それはやはり殿下がお決めになるのが筋かと」
これだ。私は彼らの立場なんて知った事ではない。攻められたのはポレック伯爵の管理している領地なのになぜかイレアル男爵の処遇を私に決めさせようとしてくる。何度も断ったのに一向に折れる気配がない。既に何度もしてきたやり取りだけに多少うんざりしてきた。
「確かにここは私が治める土地です。が、彼らの目的は最終的にリシュファス公爵領の中心に違いはありません。でしたらここはその血統であるティファリス殿下が処罰を降すのが妥当です。それに考えてもみてください」
明らかに表情に出ていたのだろう。どこか悲し気な表情を浮かべて少し間を溜めた。
「私も殿下と共に前線で戦っていたのでしたらまだしも、殿下御一人を戦場に送り出しあまつさえあの兵器達の爆発に巻き込ませてしまう結果となりました。いくら御身が無傷だったとはいえ、ここで私が男爵の処分を決めてしまえば都合の良いところは全て自分勝手に裁定する男だと誹りを受ける事となるでしょう。周りの者の反応も考えた結果なのです」
目を伏せる伯爵を見ているとなんだか自分が悪い事をしているように思えてくる。別に意固地になって『やらない!』なんて言う必要もない。深いため息が漏れ出てしまったが、それで私が折れたと判断したのか明るい顔をして期待の眼差しを向けてきた。
「……まずイレアル男爵は爵位剥奪の要請をしましょう。それまでは逃げ出さないように牢で監視。彼の私兵については全てポレック伯爵にお任せする。ダークエルフ族と黒竜人族に関しては保留。この反乱が収まってから女王陛下にご報告して判断を仰ぐ――それでよろしい?」
「かしこまりました。では剥奪の件はアルシェラ様にお伝えしましょう。ダークエルフ族達の件に関してはここから離れた場所に監獄を建築し、逃げ出す事のないように兵士達に見張らせます。建築に関しては降伏した男爵軍の中でもこちらに反逆の意志がない者を選抜して行えばこちらの負担も減って問題ありますまい。残った者達に関しては後日どのような裁定を下したか書類にまとめてリシュファス公や殿下にご報告しましょう」
それでいい……と頷いたところで今回の会議の大部分が終了した。私の一番の悩みの種が多少なりとも改善したからようやく一つの荷が降りたと言えるだろう。このせいでここに留まる事になっていたと言えなくもないしね。後は反乱が静まれば私もまた本格的に動けるようになる。以前に教えてもらったダークエルフ族の本拠地を探しに行く事も出来るだろう。
急いで彼らを叩かなくてはならないのだけど……今はまだ辛抱の時。そう自分に言い聞かせておかないといけない。この出来事が時間稼ぎになって後々足を引っ張られるような事にならなければいい。そう願う限りだ。
……そういえば今まで忘れていたけれど、クロイズはどこにいったのだろう?
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