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614・混血の黒竜人族

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 私の挑発に乗った形で先程まで吠えていた獣人族の血が混じった男が持っていた刃が分厚い剣を振り回して襲い掛かってくる。今まで戦ってきた相手の事を考えると随分悠長な動きに見える。その間に数人の混血の黒竜人族が魔導を発動させていて、各々炎や雷の球や矢を放とうとしていた。

 ……全く。この程度の攻撃で私を挑発してくれるなんてね。随分舐められたものだ。

「【ガシングフレア】」

 広範囲に毒の霧が広がり、黒竜人族を包み込む。そして霧に誘爆するような形で次々と爆発が引き起こり、黒い炎が敵を飲み込んでいく。

「ぎゃあああああ!?」
「ちっ、くそ……」

 私の魔導を打ち消せるはずもなく、彼らの魔導は掻き消え、結果的に炎に焼かれることになった。

「な……え……?」
「【トキシックスピア】」

 ぼーっと今おこったことを眺めている敵の顔面に毒の槍を投げて仕留める。戦場で悠長な事をしているなんて殺してくれと言っているようなものだ。

「ほら、次行くわよ。【ガイアクラスター】」

 周辺の土が浮き上がって一つの大きな塊を作り出し、黒竜人族に向かって襲い掛かる。今回の【ガイアクラスター】は更にイメージを成熟させている。その成果として土塊にヒビが入り、周辺に散らばった破片は弾丸が飛んでいくような速度で黒竜人族を蹂躙する。

「っ……! 【フレアウェーブ】!」

 発動者を中心に炎の波が広がっていき、私に襲い掛かってくる。なんとも可愛らしい魔導だ。先程の偽ワイバーンの攻撃とは大違い。

「【プロトンサンダー】!」

 敵の【フレアウェーブ】を掻き消す程の雷の光線。あっという間に先程までいた黒竜人族の半数以上が眠りについた。

「こ、のおおおおお!!」

 次々とやられていく同胞の姿を見て恐怖か愚かなのか、雄叫びを上げながら攻撃を仕掛けてくる。左斜めから振り下ろされる斬撃に始まり、返す刃で振り上げ、その流れで身体を回転させて横薙ぎの一閃。どれも鋭い速度でなるほど……これで剣を自慢するのは何となくわかる。だけど、こんなものは達人同士の戦いを見てきた私からすると児戯もいいところだ。

 易々と避け切った私は至近距離で炎のまどうを発動させ、更に一人を仕留める」

「くっ……聖黒族がここまでとは……!」

 どうやら自分達でも案外なんとか出来るもんだとでも思っていたのだろう。ちょうろうと思しきジん物が驚愕の表情で私を睨んでいた。

「……こうなる事はわかっていたはず。貴方達と私の実力には天と地ほどの差があると」

 それでもまだ向かって来ているのだから大した根性だと思う。いくら魔導をぶち込んで周囲の仲間を吹き飛ばしても、彼らは更に闘志を燃やして襲い掛かってくる。それを彼らの地位向上の為に向けてくれていたら……。そう思うと本当に残念で仕方がない。

「ば、化け物め……!!」
「貴方達はそれしかないのね」

 自分では圧倒的に敵わない。そんな存在に出会った者は大抵同じ事を口走る。それが相手の神経を逆撫でる結果になるなんて露とも思わずにね。残念だけど、これ以上彼らの相手をしている暇はない。私にはまだ果たすべき役目が残っており、それを待ってくれている人がいるのだから。

「【ルインミーティア】」

 忌々しいものを見る目を向けてくる彼らの事を無視するように隕石を呼び出してそれらを一掃する。結局何を言っても自分達の思い通りにしたがる人には通じない。かける言葉が存在しないのなら、戦うしかないのなら……こうなるしかなかった。

「よ、よくも……。聖黒族め……。この恨みは必ず……」
「そんな未来は永遠に来ない。貴方達はここで終わる。種族ごと、ね」

 今回の戦いが終わっても自分達の村が残っていると思っているのかは知らないけれど、ここまでの事を起こしてしまったのだ。一度や二度は許しても、三度目はない。反乱分子になりうる存在にそう何度も目をつむる程甘いわけがないのに、彼らはまだ自分達が生き延びて聖黒族に復讐する事を望んでいる。

「【フレアフォールン】」

 魔導を発動すると同時に駆け出した。既にボロボロの彼らを無視して一直線。竜のゴーレムがいるところへと歩みを進める。

「ま――」

 誰かが何かを言おうとした。だけどそれは太陽のように輝く炎に押し潰されて搔き消える。悲鳴と爆音。焼ける風、燃える音。様々なものが怨嗟のように重なって聞こえてくる。それを背にして走る私は、他人から見たら恐ろしく映るだろう。
 これが彼らが選んだ最期。望んだ末路。少しでも考え方が変わっていたらこうなることはなかっただろう。

 弱者が強者を妬み、恨み、何も考えずに挑んだ結果だ。

 唯一心残りなのはレイアが帰る場所をこの手で潰す事になった。この国にはまだ戻らない彼女が知ったらどんな気持ちになるだろう?

「考えても仕方ないか」

 既に終わった事を振り返ってもどうすることも出来ない。思考を振り切って走り続ける。

 既に見えていたゴーレムは近づくにつれてその巨大さを見せつけてくれるみたいだ。

「よくもこんな大袈裟なものを……」

 思わずため息と共に漏れた言葉。それは竜のゴーレムのあまりの大きさに儚く消えていくだけだった。
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