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613・欠陥品
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「な、なんだあれは……」
近くにいた兵士の呟きが聞こえる。大きな竜は上空を見上げ、大きく咆哮した。
『グギャァァァァアアアア!!!!』
ビリビリと振動が伝わってくる。それだけで兵士達は士気が落ち、心が砕けそうになるものまで出てきた。
何しろその竜は一体ではないのだ。五体。ずらっと揃えられた大きな首長竜は一つ、また一つと産声を上げるように吠えている。
別にアレに感情などない。吠える事に何の意味もないのだけれど……こちらの戦意を砕くという観点から見たら一定の効果を上げている。何しろあまりの恐怖に腰を抜かしている者まで出てくる始末なのだから。
「怯えるな! この国の最も頂点に近しい御方の前で無様な醜態を晒す気か!!」
私が何とかしようと声を出そうと瞬間。遮るような怒声が響いた。それはヒューのものであり、普段面倒臭そうにしている彼とは違ってキリッとした目をしている。先程とは随分と印象が違って見える。
「立ち上がれ! 俺達には戦の女神が付いている! 竜が神に勝てる道理はない!! 神兵達よ、立ち上がって我らが女神に道を切り拓け!!」
勇ましいヒューの言葉に兵士たちの視線は一斉に私に集まる。それはまるで救いを求める者のようであり、一縷の望みを託そうときているようでもあった。
一歩歩くたびに声が上がり、ちらりとヒューを見ると自分の役割は果たしたとでも言いたげに胸を張っていた。
……全く、何が戦の女神だか。自分もそんな風に思っていないだろうに。
「何の心配も必要ない。道は私が拓く。あの竜達は私が始末する!」
駆け出した私の道を邪魔する者はいなかった。敵も味方も道を作る。味方は私に想いを託して。敵は恐怖ゆえ死にたくないが為に。
思っていることは違えど、やってる事は同じだった。
時折空気を読まずに仕掛けてくるダークエルフ族が特攻してくるけれど、それくらいの障害、私からしてみたらある何の意味もなさない。適当にあしらって竜型のゴーレムを目の前にして立ち塞がる者が現れた。
「申し訳ありませんが、これ以上通すことは出来ませんな」
「……黒竜人族」
それは多種多様な姿をした黒竜人族。オーク族のように恰幅が良い者もいれば、獣人族の血が流れているのか手足が毛で覆われている者いた。傍から見たら異形そのもの。リザードマン族との交配も行われたのだろう。限りなく彼らに近い姿をしている者もいる。
パッと見ただけではどのような種族なのかわからない彼らでも、黒い髪や毛は共通していた。鱗が黒いのもあって、他の種族にはまず見られない彼らだけの特徴だ。
……逆にいえばそれが異端の証でもある。混血種であり、嫌われている証明。彼らにとっては忌まわしい黒色だ。
「残念ね。貴方達が私に牙を向けるなんて。レイアとは大違い」
「黙れ! お前のような輩に何がわかる!? 俺達がどれだけ肩身が狭かったか……! それもこれも、全部お前達のせいだろうが!!」
礼儀正しかった比較的竜に近い老人に皮肉を言った途端、獣人族の手足を持つ男が吠えた。それに同意するように殺意を向けてくる連中がいて、自分達こそが被害者なのだと訴えてきているのは哀れでしかない。
「自分達が何をしたのか忘れたの?」
「俺達が何もしていない! お前達が――」
「――聖黒族の少女を誘拐した。それもダークエルフ族と手を組んで卑劣な行為を行い、助け出された時には既に事切れていて、凄惨な姿を晒す事になった」
「そんなのはずっと昔の話だろう! 俺達には関係ない!!」
「そうだ! それなのにいつまでも……!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる連中に賛同している者達。私が黙っているのを良い事に言いたい放題言ってくれている。
……全く、どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。
「……いい加減にしなさい」
自分でも底冷えするような声を上げたと思う。目の前で散々泣きわめいていた輩が一斉に押し黙ってしまった。
「関係ない? 確かにそうね。貴方達の先祖がやったことは関係ない。でもね、だから自分達は被害者なんだって顔するのは違うでしょう。地位向上の為に動くこともないし、学園に粗雑な輩を送り込んでやりたい放題した挙句、イレアル男爵を通じてお父様に抗議を上げるなんておかしい。そうでしょう?」
じりじりと詰め寄る私に一歩ずつ下がっていく彼ら。何か言いたげだったけど、口を開いた瞬間魔導で射貫いてやろうという心構えで彼らの前に立っている私に対し、貝のように閉ざすしかなかった。
「まあいいわ。貴方達にいくら言っても仕方ないでしょう。ほら、相手をしてあげる。死にたいトカゲさんから前に出ておいで。この世では生き辛いでしょうからせめて苦しまずに殺してあげる」
結構苛立っているのが自分でもわかる。彼らは言いたい放題言って、結局何もしない愚物。本当に何とかして欲しいのなら行動を起こすしかない。それすらせずに自分達の前の世代のせいにして駄々をこねる子供に対し苛立つ気持ちが湧き上がるのも仕方がない。
自分達を欠陥品だと思っているのなら、素直にそのままでいてくれればよかったのだ。そうすれば……ここで全滅する事はなかっただろう。
近くにいた兵士の呟きが聞こえる。大きな竜は上空を見上げ、大きく咆哮した。
『グギャァァァァアアアア!!!!』
ビリビリと振動が伝わってくる。それだけで兵士達は士気が落ち、心が砕けそうになるものまで出てきた。
何しろその竜は一体ではないのだ。五体。ずらっと揃えられた大きな首長竜は一つ、また一つと産声を上げるように吠えている。
別にアレに感情などない。吠える事に何の意味もないのだけれど……こちらの戦意を砕くという観点から見たら一定の効果を上げている。何しろあまりの恐怖に腰を抜かしている者まで出てくる始末なのだから。
「怯えるな! この国の最も頂点に近しい御方の前で無様な醜態を晒す気か!!」
私が何とかしようと声を出そうと瞬間。遮るような怒声が響いた。それはヒューのものであり、普段面倒臭そうにしている彼とは違ってキリッとした目をしている。先程とは随分と印象が違って見える。
「立ち上がれ! 俺達には戦の女神が付いている! 竜が神に勝てる道理はない!! 神兵達よ、立ち上がって我らが女神に道を切り拓け!!」
勇ましいヒューの言葉に兵士たちの視線は一斉に私に集まる。それはまるで救いを求める者のようであり、一縷の望みを託そうときているようでもあった。
一歩歩くたびに声が上がり、ちらりとヒューを見ると自分の役割は果たしたとでも言いたげに胸を張っていた。
……全く、何が戦の女神だか。自分もそんな風に思っていないだろうに。
「何の心配も必要ない。道は私が拓く。あの竜達は私が始末する!」
駆け出した私の道を邪魔する者はいなかった。敵も味方も道を作る。味方は私に想いを託して。敵は恐怖ゆえ死にたくないが為に。
思っていることは違えど、やってる事は同じだった。
時折空気を読まずに仕掛けてくるダークエルフ族が特攻してくるけれど、それくらいの障害、私からしてみたらある何の意味もなさない。適当にあしらって竜型のゴーレムを目の前にして立ち塞がる者が現れた。
「申し訳ありませんが、これ以上通すことは出来ませんな」
「……黒竜人族」
それは多種多様な姿をした黒竜人族。オーク族のように恰幅が良い者もいれば、獣人族の血が流れているのか手足が毛で覆われている者いた。傍から見たら異形そのもの。リザードマン族との交配も行われたのだろう。限りなく彼らに近い姿をしている者もいる。
パッと見ただけではどのような種族なのかわからない彼らでも、黒い髪や毛は共通していた。鱗が黒いのもあって、他の種族にはまず見られない彼らだけの特徴だ。
……逆にいえばそれが異端の証でもある。混血種であり、嫌われている証明。彼らにとっては忌まわしい黒色だ。
「残念ね。貴方達が私に牙を向けるなんて。レイアとは大違い」
「黙れ! お前のような輩に何がわかる!? 俺達がどれだけ肩身が狭かったか……! それもこれも、全部お前達のせいだろうが!!」
礼儀正しかった比較的竜に近い老人に皮肉を言った途端、獣人族の手足を持つ男が吠えた。それに同意するように殺意を向けてくる連中がいて、自分達こそが被害者なのだと訴えてきているのは哀れでしかない。
「自分達が何をしたのか忘れたの?」
「俺達が何もしていない! お前達が――」
「――聖黒族の少女を誘拐した。それもダークエルフ族と手を組んで卑劣な行為を行い、助け出された時には既に事切れていて、凄惨な姿を晒す事になった」
「そんなのはずっと昔の話だろう! 俺達には関係ない!!」
「そうだ! それなのにいつまでも……!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる連中に賛同している者達。私が黙っているのを良い事に言いたい放題言ってくれている。
……全く、どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。
「……いい加減にしなさい」
自分でも底冷えするような声を上げたと思う。目の前で散々泣きわめいていた輩が一斉に押し黙ってしまった。
「関係ない? 確かにそうね。貴方達の先祖がやったことは関係ない。でもね、だから自分達は被害者なんだって顔するのは違うでしょう。地位向上の為に動くこともないし、学園に粗雑な輩を送り込んでやりたい放題した挙句、イレアル男爵を通じてお父様に抗議を上げるなんておかしい。そうでしょう?」
じりじりと詰め寄る私に一歩ずつ下がっていく彼ら。何か言いたげだったけど、口を開いた瞬間魔導で射貫いてやろうという心構えで彼らの前に立っている私に対し、貝のように閉ざすしかなかった。
「まあいいわ。貴方達にいくら言っても仕方ないでしょう。ほら、相手をしてあげる。死にたいトカゲさんから前に出ておいで。この世では生き辛いでしょうからせめて苦しまずに殺してあげる」
結構苛立っているのが自分でもわかる。彼らは言いたい放題言って、結局何もしない愚物。本当に何とかして欲しいのなら行動を起こすしかない。それすらせずに自分達の前の世代のせいにして駄々をこねる子供に対し苛立つ気持ちが湧き上がるのも仕方がない。
自分達を欠陥品だと思っているのなら、素直にそのままでいてくれればよかったのだ。そうすれば……ここで全滅する事はなかっただろう。
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