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604・本拠地の情報
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「それで、本拠地は西地域のどこなの?」
完全に焦らされている私の姿に満足したクロイズは優越感に浸っているような笑みを浮かべていた。
「かつてティファリス女王と戦ったヒューリ王が構えていた死者の都。その先にある大きな木を北西に向かった先に遺跡がある。そこから西に向かうと野原が広がり、小さな花畑がある。その付近になにかを掘り返した跡があるはずだ」
またえらく面倒そうな場所にある。目印が簡単に潰せる上にいまいちはっきりしない。
「……で、そこにある証拠はあるのか?」
「ない。が、我があないしよう。罠に掛けたりは決してしない。約束しようではないか」
「……あない?」
「鬼人族の古い言葉で『案内』って意味ですよ」
胡散臭いものを見るような目を向ける雪風の気持ちが伝わってくる。ついでにジュールの疑問に答えてくれている辺りに優しさを感じる。私も何言っているのかな? って思っていたからありがたい。
「信じられんな。攻撃を仕掛けてきた奴の話を素直に聞くとでも?」
「思わんな。しかし、我の存在はより高まったと思うが? 馬鹿正直に信じる事はできぬとも、与太話と切り捨てるには難しいはずだが」
「……あの、雪風――」
「後で教えてあげます」
湧いて出た疑問を聞こうとしたジュールの言葉は遮られてしまった。ま、まあ仕方ない。私が抱いた疑問と多分同じだろうから聞きたかったけれど。
「……そうね。とりあえず案内してもらいましょうか。その代わり嘘だとわかったら――」
「好きにするといい。我も自ら認めた者に謀を仕掛けるような卑劣漢ではないと証明しようではないか」
話は決まった。いまいち信用できない点を除けば役に立ちそうな案内役を手に入れた。これで本当にダークエルフ族の本拠地がわかったら状況は一気に好転するはずだ。これ以上彼らに変な魔導具を採掘されたくないし、危険なものは可能な限り処分したい。
「それじゃあ――」
早速行こうか。そんな言葉が出そうになってすぐに口を閉ざした。今ここでそれを言えば間違いなく面倒なことになる。すっかり陽は傾いていつ落ちるかわからない。なんとか夕暮れ時までに話を聞けたのだから今すぐ行動に移すなんて愚の骨頂だ。
「――まずは宿を確保しましょう。その後でリシュファス領に戻ってお母様に話をして、女王陛下の判断を仰ぐ。それで良い?」
私が引き連れてきた三人はそれで構わないと言ってくれた。肝心のクロイズは少々微妙そうな顔をしているけれど声を上げないということはひとまず問題ないと捉えておこう。
――
クロイズの長い話も終わり、イロクスの宿に泊まる事が出来た私は、他の誰もいない部屋で羽を伸ばしていた。予想以上に早く終わったし、今まで少し働きすぎていた。夜くらいゆっくりとした時間を過ごそう――そんな事を思っていた時、ノックが響く。
「誰?」
ヒューはお土産を買いに行っており、雪風とジュールはクロイズ戦に関する感想をお互いに述べている最中だったから必然的に限られてくるんだけど、敢えて聞いてみる。
「我だ」
するとやはりクロイズが扉を開けて入ってきた。堂々としているその姿はとても負けた人のそれではない。
「……どうしたの?」
「いやなに。一つ、伝え忘れたことがあってな」
含むような笑い方をされるとそれは実は『忘れていた』訳じゃなくて『わざと言わなかった』の間違いなんじゃないかと思えてくる。胡乱な目を向けても全く効果がない。
「なに、そんなに面倒な話ではない。奴らが発掘した兵器の中でも巨大なゴーレムが存在する。汝らが今まで戦ってきたものよりも遥かに巨大な代物だ」
私の視線を無視して話し始めたけれど、そんな巨大なゴーレムなんて見当もつかない。今まで見たことないし、まだ実用化されていないと思って間違いないだろう。
「それはどれくらい脅威なの?」
「龍の血筋が残っていれば容易いだろうが……まあそれは絶望的であろうな。汝ならば相手が出来るだろうが、なんせ相手は古代の遺物。苦戦は必至。そして汝の護衛程度の腕前の者が相対するならば――例えるなら自ら頭を垂れて死を懇願しているのと同じだろう」
要は相当強いって事だろう。もう少し端的に言って欲しいものだけど……それは結構困る。ヒューも雪風もこの国では相当な実力者だ。そう簡単にやられるような人物ではない事はよく知っている。それでもクロイズから見たら足りないらしい。
「発動条件を満たすことがなければ起動すらしないのだが、それでも最悪を想定する事が悪くない。長話はあまり気に入らないようだから実際相対した時に改めて話そう。しかしその巨人――ユミストルの名前だけは覚えていて損ではない。心に留めておくといい」
「ちょっと――」
「伝えたいことは伝えた。我はそろそろ休ませてもらおう」
好き放題言ってクロイズは去っていった。去り際に愉快そうに笑っていたところから想像するに、私が困るとわかっていて敢えて説明しなかったんじゃないかと勘ぐってしまう。私の決定も気に入らなかったみたいだし、報復しようとしているんじゃないだろうか?
本当にいやだけど、それは私によく効いた。結局悩んであまり安らぐ事の出来ない夜を過ごすことになったからだ。
……なんでこんな個性が強い人ばかり集まるのだろうか?
完全に焦らされている私の姿に満足したクロイズは優越感に浸っているような笑みを浮かべていた。
「かつてティファリス女王と戦ったヒューリ王が構えていた死者の都。その先にある大きな木を北西に向かった先に遺跡がある。そこから西に向かうと野原が広がり、小さな花畑がある。その付近になにかを掘り返した跡があるはずだ」
またえらく面倒そうな場所にある。目印が簡単に潰せる上にいまいちはっきりしない。
「……で、そこにある証拠はあるのか?」
「ない。が、我があないしよう。罠に掛けたりは決してしない。約束しようではないか」
「……あない?」
「鬼人族の古い言葉で『案内』って意味ですよ」
胡散臭いものを見るような目を向ける雪風の気持ちが伝わってくる。ついでにジュールの疑問に答えてくれている辺りに優しさを感じる。私も何言っているのかな? って思っていたからありがたい。
「信じられんな。攻撃を仕掛けてきた奴の話を素直に聞くとでも?」
「思わんな。しかし、我の存在はより高まったと思うが? 馬鹿正直に信じる事はできぬとも、与太話と切り捨てるには難しいはずだが」
「……あの、雪風――」
「後で教えてあげます」
湧いて出た疑問を聞こうとしたジュールの言葉は遮られてしまった。ま、まあ仕方ない。私が抱いた疑問と多分同じだろうから聞きたかったけれど。
「……そうね。とりあえず案内してもらいましょうか。その代わり嘘だとわかったら――」
「好きにするといい。我も自ら認めた者に謀を仕掛けるような卑劣漢ではないと証明しようではないか」
話は決まった。いまいち信用できない点を除けば役に立ちそうな案内役を手に入れた。これで本当にダークエルフ族の本拠地がわかったら状況は一気に好転するはずだ。これ以上彼らに変な魔導具を採掘されたくないし、危険なものは可能な限り処分したい。
「それじゃあ――」
早速行こうか。そんな言葉が出そうになってすぐに口を閉ざした。今ここでそれを言えば間違いなく面倒なことになる。すっかり陽は傾いていつ落ちるかわからない。なんとか夕暮れ時までに話を聞けたのだから今すぐ行動に移すなんて愚の骨頂だ。
「――まずは宿を確保しましょう。その後でリシュファス領に戻ってお母様に話をして、女王陛下の判断を仰ぐ。それで良い?」
私が引き連れてきた三人はそれで構わないと言ってくれた。肝心のクロイズは少々微妙そうな顔をしているけれど声を上げないということはひとまず問題ないと捉えておこう。
――
クロイズの長い話も終わり、イロクスの宿に泊まる事が出来た私は、他の誰もいない部屋で羽を伸ばしていた。予想以上に早く終わったし、今まで少し働きすぎていた。夜くらいゆっくりとした時間を過ごそう――そんな事を思っていた時、ノックが響く。
「誰?」
ヒューはお土産を買いに行っており、雪風とジュールはクロイズ戦に関する感想をお互いに述べている最中だったから必然的に限られてくるんだけど、敢えて聞いてみる。
「我だ」
するとやはりクロイズが扉を開けて入ってきた。堂々としているその姿はとても負けた人のそれではない。
「……どうしたの?」
「いやなに。一つ、伝え忘れたことがあってな」
含むような笑い方をされるとそれは実は『忘れていた』訳じゃなくて『わざと言わなかった』の間違いなんじゃないかと思えてくる。胡乱な目を向けても全く効果がない。
「なに、そんなに面倒な話ではない。奴らが発掘した兵器の中でも巨大なゴーレムが存在する。汝らが今まで戦ってきたものよりも遥かに巨大な代物だ」
私の視線を無視して話し始めたけれど、そんな巨大なゴーレムなんて見当もつかない。今まで見たことないし、まだ実用化されていないと思って間違いないだろう。
「それはどれくらい脅威なの?」
「龍の血筋が残っていれば容易いだろうが……まあそれは絶望的であろうな。汝ならば相手が出来るだろうが、なんせ相手は古代の遺物。苦戦は必至。そして汝の護衛程度の腕前の者が相対するならば――例えるなら自ら頭を垂れて死を懇願しているのと同じだろう」
要は相当強いって事だろう。もう少し端的に言って欲しいものだけど……それは結構困る。ヒューも雪風もこの国では相当な実力者だ。そう簡単にやられるような人物ではない事はよく知っている。それでもクロイズから見たら足りないらしい。
「発動条件を満たすことがなければ起動すらしないのだが、それでも最悪を想定する事が悪くない。長話はあまり気に入らないようだから実際相対した時に改めて話そう。しかしその巨人――ユミストルの名前だけは覚えていて損ではない。心に留めておくといい」
「ちょっと――」
「伝えたいことは伝えた。我はそろそろ休ませてもらおう」
好き放題言ってクロイズは去っていった。去り際に愉快そうに笑っていたところから想像するに、私が困るとわかっていて敢えて説明しなかったんじゃないかと勘ぐってしまう。私の決定も気に入らなかったみたいだし、報復しようとしているんじゃないだろうか?
本当にいやだけど、それは私によく効いた。結局悩んであまり安らぐ事の出来ない夜を過ごすことになったからだ。
……なんでこんな個性が強い人ばかり集まるのだろうか?
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