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603・話が好きな少年さん

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「……いいでしょう。話してみなさい」

 私としてもクロイズの言葉を聞いてみたいし、ここで最初から嘘だと断言できる程の証拠はない。

「ティ、ティア様! お待ちください。まさか彼を信じると……?」
「いいえ。信じる信じない以前に私は話を聞かないといけない。だから判断するのはその後ね」

 ジュールが声を上げるのも理解できる。というかヒューも雪風も言葉には出さないけれどそう思っている。どうせジュールが代弁してくれるだろうと思っているから口を閉ざしているだけだ。

「懸命な判断だな」
「……だが、こちらには既に拠点が明記されている地図が手元に存在する。今更お前が語る本拠地の情報なんぞ必要ないと思うがな」

 睨みつけて吐き捨てるような言葉にクロイズは肩を竦めた。

「まさかアレに書かれている情報が全てだとでも? 仮にあの地図に記載されている場所を全て攻略しても無駄だ。西大陸の本拠地を潰さない限り戦争は終わらない」
「終わらない? 随分確信めいた言葉を使うじゃない。その理由がわかるとでも?」
「逆に聞くがなぜわからない。この世界を築き上げた初代魔王の時代には死者すら復活させる魔法書が存在したというのに」

 三人ともピンと来ていないようだけど、私には思い当たる節がある。学園の図書室や館の書斎にある本にはその存在を示唆するものがあった。歴史に残っている初代魔王様の時代の激動。その一つに死人を蘇らせて戦った王の話が存在する。若干物語風に書かれているから信憑性としては薄いものとか、それがその王のみが扱えた魔導だったなど……説はいくつもある。しかし魔導にはそこまでの力はない。再生と破壊に関しては際限なく作り出すことが出来ると言われている魔導であっても死人を連れてくることは出来ない……はず。少なくとも私の知る限りではそうだ。

「冗談じゃない。そんなのおとぎ話の中の――」
「くっくっくっ、人のように成長するゴーレムや他者の血や髪を媒体にして生み出された複製体は空想の中の産物ではない。そうだろう?」

 ヒューが鼻で笑おうとしていた事をクロイズが呆れるように論破する。確かに、昔だったらそんな話を聞かされても荒唐無稽に思えた。だけど今は違う。ヒューもラミィも実在するし、初代魔王様の複製体であるファリスやローランも存在する。まるっきり空想の物語ではない。

「西の地域は遥か昔。古に滅んだ都が存在した。愚かな歴史を紡いできた哀れな種族のな。最期は龍の怒りに触れて呆気なく散っていったが」

 どこか懐かしむように遠くを眺めるクロイズの様子はまるでその時その場にいたような語り方だ。

「奴らの痕跡はいたるところに点在している。『極光の一閃』や『オーロラフラッシュ』もその一つと言える」
「……それは?」
「初代魔王の時代で用いられたとある国の王都を破壊した光。そして……汝を拠点ごと葬ろうとした光の一撃。ともにその兵器によって生み出されたものだ」

 ……なるほど。何となく理解出来た。前にザインド付近の拠点を攻略していた時に光が降り注いだことがあったから恐らくそれの事だろう。彼がなんでそこまで知っているのかはわからないけれど、その『極光の一閃』については調べればすぐわかるはずだ。信じるに値する情報だとは思う。

「獣人族の狐共――ああ、今は狐人族と明確に分かれているのだったな。彼らのように基礎魔力量が豊富な者を中に閉じ込め、魔力供給システムとして運用し、放つ。単純な仕組みだが生命ごと吸い取って撃たれるそれは威力としては申し分ない。『オーロラフラッシュ』の場合は吸収効率を上げる事によって代用できる種族を増やしているな」
「……えっと、つまり?」

 語り出したクロイズの言葉がいまいちピンとこなかったジュールは胸の位置くらいの高さまで手を上げた。ヒューも雪風もあまり理解出来てはいないみたいだ。仕組み的には簡単でも、難しく話そうとされるとよくわからなくなる。その典型を見ているようだ。

「命を使い捨てにして砲撃を行う兵器。要はそういう事でしょう?」
「ああ、端的に言ってしまえば、な」

 要約されて悲しみ悔やむのはいいけれど、もう少しわかりやすく説明して欲しいものだ。一人よがりではあまり意味がない。

「つまりそんな凶悪な兵器がいろんなところにあって、ダークエルフ族はそれを発掘して使用している……そういうことでしょう」
「それはそうなのだが……つまらんな」
「長話は後でゆっくり聞いてあげる。今は端的に話して」

 仕方ないな……みたいな顔はしないで欲しい。というか本当にちょっと前まで戦ってた人なんだよね? って聞きたくなってくる。

「ようするに、だ。本拠地を制圧しなければ奴らはすぐにでも古代の兵器や道具、魔法書を使って反撃してくるだろう。どれほどのものが埋まっているかはこの我ですら正確に把握する事は出来ぬが……それこそ今の戦況をひっくり返す事が出来るほどのものが眠っている可能性だってある。今ならば間に合うかもしれん。それならば本拠地の情報は喉から手が出るほど欲しいものになる……そうであろう?」

 にやりと不敵に笑うクロイズは周囲の気を掴んでいた。ここまで話して『だから自分を見逃して良かっただろう?』と訴えかけてきているのが見透かせる。……私の小事がそちらに揺らいでいるのも事実だし、ここは大人しく気持ちよく話をしてもらうのが良いだろう。どうせ彼を連れて近くの町に行くなんて出来なさそうだしね。

 ……はあ。
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