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601・勝負から戦いへ
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降り注ぐ雨のような槍を掻い潜りながら二度目の【プロトンサンダー】を放つ。閃光のような雷は一帯を飲み込んでいくが、肝心のクロイズは私に迫ってきていた。
「やはり汝も違うようだな」
何が違うのかさっぱりわからないけれど、今はそれに返答している場合じゃない。距離が詰まっている状況では私の方が不利なのだから。
格闘戦の間合いまで迫ってきたクロイズの鋭い突きを受け止めるように防ぐ。腕に鈍い痛みが伝わってきて骨が折れたのではないかと思うほどだ。
「くぅっ……」
後ろに下がって上段蹴りを放つけれどそれを片腕で受け止めて蛇が絡みつくような動きで私の足を掴んでがっちりと固めてきた。
「このっ……」
「程度が知れて本当に残念だ」
何を期待していたのか知らないけれど、がっかりした顔でそんな事を言われるのは癪だ。
「まだ終わったわけじゃないのに随分余裕じゃない」
強がって鼻で笑ったけれど、目の前で片足を拘束しながら黒い槍を出現させ続けるのは軽く冷や汗が流れる。
「【ガシングフレア】!!」
もはや自分の状態なんて関係ない。距離を取る事が出来ればそれでよかった私は周辺に暗い色の炎が幾つも出現して次々と爆発する。私の自爆行為に巻き込まれる事を嫌ったクロイズは私の足を離して距離を取ってきた。周囲に毒霧が広がって私の姿を隠すけれど、吸っただけで身体がマヒするような毒。いくら私でも耐えきれるものじゃない。
「……【ガイストハイルング】」
自分の身体が暖かみのある光に包まれる。一応毒は状態異常に入るからこちらの魔導の方が合っている。毒の霧を切り裂くように突き進みながら前へ進む。もちろん近接戦で勝算があるから……という訳ではない。
「【人造命剣『ミディナルーネ』】!!」
何の躊躇いもなく人造命具を抜き放つ。私の魂。その片割れたる黒き刃。その全てに全幅の信頼を寄せて攻勢に出る。
「ふん、何をしようと無駄だ!」
吼えるクロイズから衝撃波が放たれ、黒い槍は降り注ぎ、地面からは円錐状に大地が盛り上がって襲い掛かてくる。
「全てを否定しなさい。――【ミディナルーネ】!!」
向かってくる魔導の一つ一つに合わせて剣を振るう。触れた物の存在を否定し、この世から消してしまう魔剣。それを止める魔導などこの世に存在するはずがない。襲ってくる端から斬り伏せられていく魔導を見てにやりと笑うクロイズ。それを冷静な顔で見つめる私。今彼は勝負を楽しんでいるのだろう。だが、私にとってこれは勝負から戦いに変わった。戦いならば負けてはならない。今までも、そしてこれからも。私に期待している者達の為に。例え身体能力が劣っていても。例え相手が明らかな強者であっても。
――もうこれ以上涙に濡れた負け方はしたくないから。
「ほう、なるほど。それが汝の剣か」
「ええ。存分に味わってちょうだい」
存在を否定する剣。それに斬りつけられれば死を意味する。その事実を知って尚、私はそれのカードを切る事を選択した。何も知らないクロイズは放たれた斬撃をギリギリで回避する。
……やっぱりだ。ヒューの時もそうだった。彼の時もクロイズは余裕をもって避ける事が出来たのにそれをしなかった。理由は単純だ。自分を絶対強者と信じているからだ。それほどの自信があるから薄皮一枚の攻防に命を賭けられる。だけど私相手にそんな事は許さない。
「ふふっ、どうした? そんな……、――ッッ!?」
自分の身体の違和感に気付いたのだろう。驚きの表情と共に大げさに距離を取られた。薄皮一枚。そんな傷にもならない程度のものが今の彼にはよく効いていた。
「どうしたの? 随分余裕でかわしてくれていたじゃない」
今度は私がお返しする番だ。喜色に満ちた余裕の笑みを向けてあげる。忌々しい顔を浮かべるかと思ったけれど、彼はむしろ喜んでいるようだった。
「……なるほど。その剣の効果か。面白い。少し本気を出してやろう」
大きく吼えたクロイズの口内に魔力が集まっていくのがわかる。あれは竜が使うブレス攻撃の類か。だけど溜まり具合が遅い。収束する粒がふらふらと変な軌道を描きながら彼の口内に吸い寄せられていく。今はこの程度でしかないけど十分すぎる。
「【エアルヴェ・シュネイス】!」
彼のブレス態勢が整うのを待つような悠長な性格はしていない。全力の魔導は空にヒビを入れ、白い光が世界を埋め尽くす。クロイズを含めた辺り一帯が白く染まり、掻き消えていく中でチャージまで待つ余裕がないと判断した彼は魔力の塊を噛み潰して周辺にまき散らすように解き放った。彼のまわりに土煙が舞い、姿が隠れるが【エアルヴェ・シュネイス】にとってそんなものは意味を為さない。
完全に光に埋もれたクロイズを見届けた私は――
――再び突進を選択した。
まだ終わっていない。視界から隠れている以上この攻撃で止めを刺したと思っても問題ないはず……なんだけど、今までの戦いの経験が教えてくれた。まだ戦いは終わっていない。
後方から爆発が起こった時には信じる気持ちが確信に変わった。軌道から見て上空からの一撃だと判断した私が見上げると……そこには多少ボロボロにはなっているものの五体満足なクロイズが翼を用いて空を飛んでいたのだった。
「やはり汝も違うようだな」
何が違うのかさっぱりわからないけれど、今はそれに返答している場合じゃない。距離が詰まっている状況では私の方が不利なのだから。
格闘戦の間合いまで迫ってきたクロイズの鋭い突きを受け止めるように防ぐ。腕に鈍い痛みが伝わってきて骨が折れたのではないかと思うほどだ。
「くぅっ……」
後ろに下がって上段蹴りを放つけれどそれを片腕で受け止めて蛇が絡みつくような動きで私の足を掴んでがっちりと固めてきた。
「このっ……」
「程度が知れて本当に残念だ」
何を期待していたのか知らないけれど、がっかりした顔でそんな事を言われるのは癪だ。
「まだ終わったわけじゃないのに随分余裕じゃない」
強がって鼻で笑ったけれど、目の前で片足を拘束しながら黒い槍を出現させ続けるのは軽く冷や汗が流れる。
「【ガシングフレア】!!」
もはや自分の状態なんて関係ない。距離を取る事が出来ればそれでよかった私は周辺に暗い色の炎が幾つも出現して次々と爆発する。私の自爆行為に巻き込まれる事を嫌ったクロイズは私の足を離して距離を取ってきた。周囲に毒霧が広がって私の姿を隠すけれど、吸っただけで身体がマヒするような毒。いくら私でも耐えきれるものじゃない。
「……【ガイストハイルング】」
自分の身体が暖かみのある光に包まれる。一応毒は状態異常に入るからこちらの魔導の方が合っている。毒の霧を切り裂くように突き進みながら前へ進む。もちろん近接戦で勝算があるから……という訳ではない。
「【人造命剣『ミディナルーネ』】!!」
何の躊躇いもなく人造命具を抜き放つ。私の魂。その片割れたる黒き刃。その全てに全幅の信頼を寄せて攻勢に出る。
「ふん、何をしようと無駄だ!」
吼えるクロイズから衝撃波が放たれ、黒い槍は降り注ぎ、地面からは円錐状に大地が盛り上がって襲い掛かてくる。
「全てを否定しなさい。――【ミディナルーネ】!!」
向かってくる魔導の一つ一つに合わせて剣を振るう。触れた物の存在を否定し、この世から消してしまう魔剣。それを止める魔導などこの世に存在するはずがない。襲ってくる端から斬り伏せられていく魔導を見てにやりと笑うクロイズ。それを冷静な顔で見つめる私。今彼は勝負を楽しんでいるのだろう。だが、私にとってこれは勝負から戦いに変わった。戦いならば負けてはならない。今までも、そしてこれからも。私に期待している者達の為に。例え身体能力が劣っていても。例え相手が明らかな強者であっても。
――もうこれ以上涙に濡れた負け方はしたくないから。
「ほう、なるほど。それが汝の剣か」
「ええ。存分に味わってちょうだい」
存在を否定する剣。それに斬りつけられれば死を意味する。その事実を知って尚、私はそれのカードを切る事を選択した。何も知らないクロイズは放たれた斬撃をギリギリで回避する。
……やっぱりだ。ヒューの時もそうだった。彼の時もクロイズは余裕をもって避ける事が出来たのにそれをしなかった。理由は単純だ。自分を絶対強者と信じているからだ。それほどの自信があるから薄皮一枚の攻防に命を賭けられる。だけど私相手にそんな事は許さない。
「ふふっ、どうした? そんな……、――ッッ!?」
自分の身体の違和感に気付いたのだろう。驚きの表情と共に大げさに距離を取られた。薄皮一枚。そんな傷にもならない程度のものが今の彼にはよく効いていた。
「どうしたの? 随分余裕でかわしてくれていたじゃない」
今度は私がお返しする番だ。喜色に満ちた余裕の笑みを向けてあげる。忌々しい顔を浮かべるかと思ったけれど、彼はむしろ喜んでいるようだった。
「……なるほど。その剣の効果か。面白い。少し本気を出してやろう」
大きく吼えたクロイズの口内に魔力が集まっていくのがわかる。あれは竜が使うブレス攻撃の類か。だけど溜まり具合が遅い。収束する粒がふらふらと変な軌道を描きながら彼の口内に吸い寄せられていく。今はこの程度でしかないけど十分すぎる。
「【エアルヴェ・シュネイス】!」
彼のブレス態勢が整うのを待つような悠長な性格はしていない。全力の魔導は空にヒビを入れ、白い光が世界を埋め尽くす。クロイズを含めた辺り一帯が白く染まり、掻き消えていく中でチャージまで待つ余裕がないと判断した彼は魔力の塊を噛み潰して周辺にまき散らすように解き放った。彼のまわりに土煙が舞い、姿が隠れるが【エアルヴェ・シュネイス】にとってそんなものは意味を為さない。
完全に光に埋もれたクロイズを見届けた私は――
――再び突進を選択した。
まだ終わっていない。視界から隠れている以上この攻撃で止めを刺したと思っても問題ないはず……なんだけど、今までの戦いの経験が教えてくれた。まだ戦いは終わっていない。
後方から爆発が起こった時には信じる気持ちが確信に変わった。軌道から見て上空からの一撃だと判断した私が見上げると……そこには多少ボロボロにはなっているものの五体満足なクロイズが翼を用いて空を飛んでいたのだった。
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