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598・再来の少年
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完全に足を止めた鳥車から降りた私は改めて少年と相対する。不躾な視線を向けてくる彼からは気負うような何かは到底感じられず、聖黒族と出逢えて純粋に嬉しいといった様子だ。
「なるほど。確かに黒の一族としての力は備えている。多少混ざりはあるものの、磨き上げられた血を感じるな」
愉快そうに目を細めている少年。不気味さは感じないそれだけど、雪風とジュールには違うように映ったらしく、私を守るように前に立ち、少年を牽制していた。
「……貴方は何者ですか?」
「ふむ、我は汝らが黒竜人族と呼んでいるものの一種と言えるだろう。長き刻を経た末がこれでは、クロの名折れでしかないがな」
「な、名前を聞いているんですよ!」
見当違いの答えが返ってくるとは思ってなかった雪風は呆れ、ジュールががーっと声を上げる。それを涼しげな表情で受け流している少年の方が少し大人びているような感じすらする。
「ああ、名は……クロイズとでも呼んでくれればいい」
まるで名前なんてどうでもいいような言い方に何か言いたい事がある様子のジュール。だけどそれをしなかったのは彼に感じている威圧におされているからだろう。クロイズと名乗った少年はそのままちらりとヒューに視線を移した……かと思うと再び私の方を向いていた。どうやら彼はお気に召さなかったようだ。
「それで……汝の名前を教えてもらっても良いかな?」
「……エールティア・リシュファスと申します」
「中々良い名だな。響きが心地よい」
うんうん頷いているクロイズはまるで貴族のパーティーでどこかの令嬢にでも出会ったかのように深々と礼をする。仰々しい態度のせいで演技しているのが丸わかりだけど、私はそこまで悪くは感じない。残った三人は違うみたいだけど。
「……妙な奴が出てきたな。エールティア様に関わる連中はみんなこんなのなのか?」
「その中に貴方も含まれているのを自覚してくださいね」
「わかっているつもりだ」
私と関わる人達が一癖も二癖もあるような言い方だけど、案外否定する事が出来ない。個性的で愉快な人達も多いしね。
「……それで、クロイズさんはどんな御用なのですか?」
その中でも私の側を離れず身構えているジュールは二人の話はまるで耳に入っていなかった。クロイズは穏やかな笑みを浮かべたままだが、今までの事を考えたら何を言いたいか大体伝わってくる。
「私達を襲う……ってわけね」
「正確にはエールティア。汝と手合わせをしたいのだがな」
それまで言い合いっていた雪風とヒューもジュールと同じように立ち塞がり、クロイズの事を睨んでいた。何か言っても最終的には私の事を守ろうとしてくれる。だけど、ちょっと……いやかなり分が悪いのも事実だろう。クロイズの威圧感は私ですら多少気圧されてしまうくらいだ。そんな相手と戦っても彼らが倒せる未来が見えない。
「やはりこうなるか。特にそこのは我との力量差が理解出来ぬ程愚鈍には見えぬのだがな」
「……まあそうだな。俺はあんたには勝てない。はっきりわかるよ」
「な、なにを――!?」
まさか開口一番諦めが出るとは思ってなかったのか、ジュールは声を荒げたが、ヒューが手で遮ってきたから中途半端に止められてしまった。
「だけどよ、エールティア様には借りがある。この雪風にもな。返せるかわからないでっかい借りだ。だから――」
鳥車から降りた時に携えていたのだろう。大剣を構えていつでも飛びかかれる準備をしているヒューは他の誰よりも先んじて攻撃を仕掛けそうな気配を漂わせていた。
「面倒くさいけど、黙って引き下がれないって事だな。ま、諦めて俺と戦ってくれよ」
「……ふん。死をも恐れぬという訳か。執着がある分まだマシではあるが。良いだろう。それに……ファリスと同じ汝とも興味がある」
ヒューが引かないとわかるとクロイズも諦めて戦う事にしたようだ。それでも『殺す』や『始末する』ではなくて『倒す』と言っている辺り、彼がどんな考えで戦いを挑もうとしているのかよくわかる。
「……また随分意外な名前が出てきましたね」
「そうね。ファリスを知っているという事は、彼はシルケットから来たのでしょうね」
あの子がもしクロイズの事を知っていたら真っ先に教えてくれていただろうし、この存在感は中々忘れる事はないはずだ。もし忘れててもローランが覚えている可能性が高いはず。それを踏まえるとクロイズとファリスが出会えたのはシルケットでしかあり得ない。
……今頃あの子は何をしているだろうか? あの子はあまり他の人と行動する事が得意じゃないから単独行動ばかりに走ってなければいいけど。
「二人とも、彼らの戦いをよく見ておきなさい」
「クロイズさんが負けたら次は私達が戦うから、ですよね。わかりました!」
いや、二人とも恐らくクロイズには及ばないから少しでも戦いを見て何かを学んでほしいって事だったんだけど……まあいいか。それくらいの気概で見てくれた方が勉強になるだろうしね。
「なるほど。確かに黒の一族としての力は備えている。多少混ざりはあるものの、磨き上げられた血を感じるな」
愉快そうに目を細めている少年。不気味さは感じないそれだけど、雪風とジュールには違うように映ったらしく、私を守るように前に立ち、少年を牽制していた。
「……貴方は何者ですか?」
「ふむ、我は汝らが黒竜人族と呼んでいるものの一種と言えるだろう。長き刻を経た末がこれでは、クロの名折れでしかないがな」
「な、名前を聞いているんですよ!」
見当違いの答えが返ってくるとは思ってなかった雪風は呆れ、ジュールががーっと声を上げる。それを涼しげな表情で受け流している少年の方が少し大人びているような感じすらする。
「ああ、名は……クロイズとでも呼んでくれればいい」
まるで名前なんてどうでもいいような言い方に何か言いたい事がある様子のジュール。だけどそれをしなかったのは彼に感じている威圧におされているからだろう。クロイズと名乗った少年はそのままちらりとヒューに視線を移した……かと思うと再び私の方を向いていた。どうやら彼はお気に召さなかったようだ。
「それで……汝の名前を教えてもらっても良いかな?」
「……エールティア・リシュファスと申します」
「中々良い名だな。響きが心地よい」
うんうん頷いているクロイズはまるで貴族のパーティーでどこかの令嬢にでも出会ったかのように深々と礼をする。仰々しい態度のせいで演技しているのが丸わかりだけど、私はそこまで悪くは感じない。残った三人は違うみたいだけど。
「……妙な奴が出てきたな。エールティア様に関わる連中はみんなこんなのなのか?」
「その中に貴方も含まれているのを自覚してくださいね」
「わかっているつもりだ」
私と関わる人達が一癖も二癖もあるような言い方だけど、案外否定する事が出来ない。個性的で愉快な人達も多いしね。
「……それで、クロイズさんはどんな御用なのですか?」
その中でも私の側を離れず身構えているジュールは二人の話はまるで耳に入っていなかった。クロイズは穏やかな笑みを浮かべたままだが、今までの事を考えたら何を言いたいか大体伝わってくる。
「私達を襲う……ってわけね」
「正確にはエールティア。汝と手合わせをしたいのだがな」
それまで言い合いっていた雪風とヒューもジュールと同じように立ち塞がり、クロイズの事を睨んでいた。何か言っても最終的には私の事を守ろうとしてくれる。だけど、ちょっと……いやかなり分が悪いのも事実だろう。クロイズの威圧感は私ですら多少気圧されてしまうくらいだ。そんな相手と戦っても彼らが倒せる未来が見えない。
「やはりこうなるか。特にそこのは我との力量差が理解出来ぬ程愚鈍には見えぬのだがな」
「……まあそうだな。俺はあんたには勝てない。はっきりわかるよ」
「な、なにを――!?」
まさか開口一番諦めが出るとは思ってなかったのか、ジュールは声を荒げたが、ヒューが手で遮ってきたから中途半端に止められてしまった。
「だけどよ、エールティア様には借りがある。この雪風にもな。返せるかわからないでっかい借りだ。だから――」
鳥車から降りた時に携えていたのだろう。大剣を構えていつでも飛びかかれる準備をしているヒューは他の誰よりも先んじて攻撃を仕掛けそうな気配を漂わせていた。
「面倒くさいけど、黙って引き下がれないって事だな。ま、諦めて俺と戦ってくれよ」
「……ふん。死をも恐れぬという訳か。執着がある分まだマシではあるが。良いだろう。それに……ファリスと同じ汝とも興味がある」
ヒューが引かないとわかるとクロイズも諦めて戦う事にしたようだ。それでも『殺す』や『始末する』ではなくて『倒す』と言っている辺り、彼がどんな考えで戦いを挑もうとしているのかよくわかる。
「……また随分意外な名前が出てきましたね」
「そうね。ファリスを知っているという事は、彼はシルケットから来たのでしょうね」
あの子がもしクロイズの事を知っていたら真っ先に教えてくれていただろうし、この存在感は中々忘れる事はないはずだ。もし忘れててもローランが覚えている可能性が高いはず。それを踏まえるとクロイズとファリスが出会えたのはシルケットでしかあり得ない。
……今頃あの子は何をしているだろうか? あの子はあまり他の人と行動する事が得意じゃないから単独行動ばかりに走ってなければいいけど。
「二人とも、彼らの戦いをよく見ておきなさい」
「クロイズさんが負けたら次は私達が戦うから、ですよね。わかりました!」
いや、二人とも恐らくクロイズには及ばないから少しでも戦いを見て何かを学んでほしいって事だったんだけど……まあいいか。それくらいの気概で見てくれた方が勉強になるだろうしね。
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