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592・巨大なゴーレム(ファリスside)
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天を見上げる。そんな表し方がこれほどぴったりくるような巨人にはそうそう出会う事もないだろう。ファリスも――いいや、この場で呆然とそれを眺めている誰もがこんな風に空を見上げるとは思いもしていなかった。それほどの衝撃的な光景だった。
少しの間上半身を起こしたままだったが、緩やかに立ち上がったその姿は大体世界樹の三分の一といった程度の大きさだった。人が住めるほどの高さを誇る世界樹とは比べ物にならないが、それでも巨人はファリス達から見たら遥かに大きく、同時に恐ろしさすらこみ上げてくる程だった。
脱力して座り込むファリスの手から彼女の人造命具が溢れ落ち、音を立てて消える。既に限界だった。もはやまともに動くことも叶わない。呼吸も荒く、身体に力が入らず、意識が朦朧とする彼女は静かに倒れてしまった。
気を張り、この戦いが終わるまではと踏ん張っていたファリスだったが、立て続けにしてきた無理のツケがここで回ってきてしまった。
立ち上がったユミストルはファリスに向かってゆっくりと歩きだす。このゴーレムは他の兵器と同じく理性などカケラも存在しない。違いがあるとすれば大きさに備えられた能力くらいだろう。
あまりの大きさに放心状態だったオルド達はやがて意識を取り戻し、ユミストルの行き先が王城ではない事に胸を撫で下ろす。
先程まで戦っていたダークエルフ族の兵士達は皆地面に倒れて事きれていた。あまりにも凄惨な光景ではあるが、そのどれもが苦痛を浮かべておらず、今も戦い続けているような迫力を感じる程の表情をしていた。
「みんな、無事かにゃ?」
なんとか最前線まで出てくることができたベルンはまず全員の安否を確認していた。いきなりこのような事になったのだ。もしかしたら自軍の兵士にも……などと思うのは当然の帰結だった。
「はい。ですがファリス様が……」
先ほどの戦いで独断専行していたファリスは彼らも気付かない程先へと進んでしまっていた。そのせいか彼女の場所がいまいち絞れずにいた。
「参ったにゃ……」
ユミストルがどんな行動を取るかわからない以上、可能ならば王都に残存している軍と合流して今後の対策を練る必要があった。今すぐ目の前にそびえ立つ巨人を攻略せよ……というのも無理な話だからだ。どう動くにせよユミストルの攻略には全軍で当たらなければならない。貴重な戦力であるファリスにはなんとしてでも帰ってきてもらいたいというのが切実な願いだった。
「もしかしたら……あの御方は先程まで放たれた光線の元を追っていたのではありませんか?」
「元――」
ちらりと見たのはファリスが全力で魔導を発動していた時に飛んできた巨大な光線の射線。今も深く跡が残っているからそれを辿れば簡単に見つかるだろう。そう判断したベルンの動きは早かった。
「ユヒト、ワーゼルはファリスの行方を捜索。見つけ次第速やかに保護して帰還せよ」
「わかりました!」
「はい!」
二人はベルンの命令を聞くと同時に駆け出していた。彼女と行動を共にすることが多い者達の中から選ばれた。それが嬉しくもあり、責任感を感じているようだった。
「私は……」
「オルドはあの二人にはついていけまい。今はこちらの軍勢を束ねて後退の準備をして欲しい」
「……かしこまりました」
やはり自分も行きたかったのか、オルドは若干落ち込んだ様子を見せながらもすぐに切り替え、指示を出していた。どんな時であっても上の命令は絶対。そういうスタンスを貫けるのは彼所以だろう。
――
ユヒトとワーゼルは動きだしたユミストルの動向を確認しながら可能な限り迅速にファリスの元へと向かっていた。
「あんなバカでかいのが動き出すなんてな。ダークエルフ族ってのはみんなあんなのを扱えるのかな?」
なんで動き出したのかさっぱり見当がついていないワーゼルはいきなり巨体が動き出した事に驚きを禁じ得ない。頭の中には疑問が次々と溢れ出てくる。
「さてね。私には大きすぎて想像の範囲外だよ。というか考えたくもない」
嫌そうな顔をして走るユヒトは極力ユミストルには目を向けないようにしていた。彼としては現実的にあり得ない。そんな気持ちでいっぱいだったからだ。
お互い無言になって走る。しばらく進むと大きな砲台が見えてくる。
「あれは――」
「間違いないな」
あの時放たれた光線の大きさから推測すると大体行きつくような形状をしていたそれに近づくと、何人ものダークエルフ族の死体が地面に倒れ伏し、沈黙しているところへと行きつく。二人は知らないが、そこは間違いなくファリスがエディアスと交戦していた場所だった。
きょろきょろと周囲を見渡したユヒトは同じように探索していたワーゼルと全くの同時にファリスを見つけた。二人で顔を見合わせ近づく。その間にも動き出した方が逆に安心するのだろうが、もちろんそんな甘い現実はあり得ない。ファリスは深刻だとわかるほど顔が青白くなっており、息が弱々しくなっていた。
「ファリス様!?」
ユミストルが大股で一歩ずつ迫ってくるのを肌で感じながらワーゼルは大声を上げ、ファリスに応答を呼びかける。しかし彼女は意識を失いかなり危ない状態である為か言葉すら発する事はない。
ここに来てようやく不審だと思ったユヒトはファリスに近寄り、胸に耳を当て、心臓の音を確かめ安堵する……のは良いが、ズシンズシンと近寄ってくるユミストルに若干の焦りを抱いてしまう。当然だ。どんな理由があるにせよ、あのような巨大な物が自分に近づいてきているのだから。怖いと思うのは人として当然だった。
「ワーゼル、ひとまずファリス様を安全な場所に移そう。話ならその後いくらでもすればいい」
「……わかった」
普段なら何かもう少し不満が出るところだが、ファリスの顔色から尋常ではない様子。更に背後から巨大なゴーレムが迫ってきているというこの状況。生きた心地がしない事だろう。
ワーゼルはファリスを担いで亡骸は捨ておいて走り出した。残されたのは自ら命を絶ったダークエルフ族達のみ。ユヒトとワーゼルのおかげで意識を失ったファリスはあの巨大なゴーレムの災厄から難を逃れる事が出来たのだった――。
少しの間上半身を起こしたままだったが、緩やかに立ち上がったその姿は大体世界樹の三分の一といった程度の大きさだった。人が住めるほどの高さを誇る世界樹とは比べ物にならないが、それでも巨人はファリス達から見たら遥かに大きく、同時に恐ろしさすらこみ上げてくる程だった。
脱力して座り込むファリスの手から彼女の人造命具が溢れ落ち、音を立てて消える。既に限界だった。もはやまともに動くことも叶わない。呼吸も荒く、身体に力が入らず、意識が朦朧とする彼女は静かに倒れてしまった。
気を張り、この戦いが終わるまではと踏ん張っていたファリスだったが、立て続けにしてきた無理のツケがここで回ってきてしまった。
立ち上がったユミストルはファリスに向かってゆっくりと歩きだす。このゴーレムは他の兵器と同じく理性などカケラも存在しない。違いがあるとすれば大きさに備えられた能力くらいだろう。
あまりの大きさに放心状態だったオルド達はやがて意識を取り戻し、ユミストルの行き先が王城ではない事に胸を撫で下ろす。
先程まで戦っていたダークエルフ族の兵士達は皆地面に倒れて事きれていた。あまりにも凄惨な光景ではあるが、そのどれもが苦痛を浮かべておらず、今も戦い続けているような迫力を感じる程の表情をしていた。
「みんな、無事かにゃ?」
なんとか最前線まで出てくることができたベルンはまず全員の安否を確認していた。いきなりこのような事になったのだ。もしかしたら自軍の兵士にも……などと思うのは当然の帰結だった。
「はい。ですがファリス様が……」
先ほどの戦いで独断専行していたファリスは彼らも気付かない程先へと進んでしまっていた。そのせいか彼女の場所がいまいち絞れずにいた。
「参ったにゃ……」
ユミストルがどんな行動を取るかわからない以上、可能ならば王都に残存している軍と合流して今後の対策を練る必要があった。今すぐ目の前にそびえ立つ巨人を攻略せよ……というのも無理な話だからだ。どう動くにせよユミストルの攻略には全軍で当たらなければならない。貴重な戦力であるファリスにはなんとしてでも帰ってきてもらいたいというのが切実な願いだった。
「もしかしたら……あの御方は先程まで放たれた光線の元を追っていたのではありませんか?」
「元――」
ちらりと見たのはファリスが全力で魔導を発動していた時に飛んできた巨大な光線の射線。今も深く跡が残っているからそれを辿れば簡単に見つかるだろう。そう判断したベルンの動きは早かった。
「ユヒト、ワーゼルはファリスの行方を捜索。見つけ次第速やかに保護して帰還せよ」
「わかりました!」
「はい!」
二人はベルンの命令を聞くと同時に駆け出していた。彼女と行動を共にすることが多い者達の中から選ばれた。それが嬉しくもあり、責任感を感じているようだった。
「私は……」
「オルドはあの二人にはついていけまい。今はこちらの軍勢を束ねて後退の準備をして欲しい」
「……かしこまりました」
やはり自分も行きたかったのか、オルドは若干落ち込んだ様子を見せながらもすぐに切り替え、指示を出していた。どんな時であっても上の命令は絶対。そういうスタンスを貫けるのは彼所以だろう。
――
ユヒトとワーゼルは動きだしたユミストルの動向を確認しながら可能な限り迅速にファリスの元へと向かっていた。
「あんなバカでかいのが動き出すなんてな。ダークエルフ族ってのはみんなあんなのを扱えるのかな?」
なんで動き出したのかさっぱり見当がついていないワーゼルはいきなり巨体が動き出した事に驚きを禁じ得ない。頭の中には疑問が次々と溢れ出てくる。
「さてね。私には大きすぎて想像の範囲外だよ。というか考えたくもない」
嫌そうな顔をして走るユヒトは極力ユミストルには目を向けないようにしていた。彼としては現実的にあり得ない。そんな気持ちでいっぱいだったからだ。
お互い無言になって走る。しばらく進むと大きな砲台が見えてくる。
「あれは――」
「間違いないな」
あの時放たれた光線の大きさから推測すると大体行きつくような形状をしていたそれに近づくと、何人ものダークエルフ族の死体が地面に倒れ伏し、沈黙しているところへと行きつく。二人は知らないが、そこは間違いなくファリスがエディアスと交戦していた場所だった。
きょろきょろと周囲を見渡したユヒトは同じように探索していたワーゼルと全くの同時にファリスを見つけた。二人で顔を見合わせ近づく。その間にも動き出した方が逆に安心するのだろうが、もちろんそんな甘い現実はあり得ない。ファリスは深刻だとわかるほど顔が青白くなっており、息が弱々しくなっていた。
「ファリス様!?」
ユミストルが大股で一歩ずつ迫ってくるのを肌で感じながらワーゼルは大声を上げ、ファリスに応答を呼びかける。しかし彼女は意識を失いかなり危ない状態である為か言葉すら発する事はない。
ここに来てようやく不審だと思ったユヒトはファリスに近寄り、胸に耳を当て、心臓の音を確かめ安堵する……のは良いが、ズシンズシンと近寄ってくるユミストルに若干の焦りを抱いてしまう。当然だ。どんな理由があるにせよ、あのような巨大な物が自分に近づいてきているのだから。怖いと思うのは人として当然だった。
「ワーゼル、ひとまずファリス様を安全な場所に移そう。話ならその後いくらでもすればいい」
「……わかった」
普段なら何かもう少し不満が出るところだが、ファリスの顔色から尋常ではない様子。更に背後から巨大なゴーレムが迫ってきているというこの状況。生きた心地がしない事だろう。
ワーゼルはファリスを担いで亡骸は捨ておいて走り出した。残されたのは自ら命を絶ったダークエルフ族達のみ。ユヒトとワーゼルのおかげで意識を失ったファリスはあの巨大なゴーレムの災厄から難を逃れる事が出来たのだった――。
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