589 / 676
589・そして彼は現れる(ファリスside)
しおりを挟む
一度は崩れかけていたティリアース・シルケット軍だったが、ファリスの帰還及び怪物討伐によって士気は再び盛り上がる。むしろ最初よりも向上しているようにすら思えた。複製体とはいえ聖黒族の少女。それでもたった一人では限界があるはずだ。誰もが心の中で思っていたことだ。多かれ少なかれ、そんな状態で人を信じるのは難しい。しかし、少女は行動で示した。自分こそは聖黒族であり、何も怯える必要はないのだと。
目の前を常に先導する少女は先ほどの戦い方から変わっていった。以前は相対した先に存在する王都軍の被害を可能な限り抑える為の動きだった。しかし今はそんなことなど気にしていない様子で次々と広範囲を攻撃する魔導を放っていた。
「【斬桜血華】」
桜の花びらは血で染まり、優雅に舞い上がる。
「【幽世の門】」
地面から門が浮き上がり、開かれた扉の中から紫色の蝶が飛び回り、数多の舞い散る桜の中で敵の魂を抜き出し、鬼人族に信じられているあの世への道――黄泉幽世へと誘われる。
「【散烈鬼火】」
逃げ惑う敵兵を青白い火の玉が追い回し、触れた瞬間に爆発する。それはまるで一人では死にたくない魂が道連れを探しているようにも思える光景。それら全てが少女一人によって具現化されていた。
あまりにも美しく、どうしようもなく残酷で、目が離せない程幻想的な光景。一種の聖域に近い場所を踏み荒らしていくのはティリアース・シルケット軍の兵士達だった。最初は彼らも戦々恐々していた。当然だ。これほどの魔導にデメリットが存在しないわけがない。しかし実際はこうして問題なく進軍する事が出来る。以前のファリスでは叶わなかった事。それがここに来て一気に増えている証だった。
新しく加わった【散烈鬼火】はフィシャルマーやクーティノスなどにも効果があり、当たったと同時に爆発するという性質上、図体の大きな兵器達はむしろ格好の的ですらあった。
その中を歩くとある兵士は美しいと言い、また別のある者は恐ろしいと思っていた。ダークエルフ族の連中は蝶や花びらに命を奪われていく。そんな中――突如として大きな光線が迫ってきた。
「総員、防御態勢!!」
前線で主軸となっている兵士達は盾を構え、防御関連の魔導を発動させ、敵の魔導である光線を防いでいた。先程の幻想的な光景を掻き消す程の白い光が襲い掛かり、盾役の兵士達は防具や結界がぎしぎしと音を立てるの聞きながら戦々恐々していた。いつ自分達の防御が突破され命を奪われるかわからない……そんな緊張感に包まれていた。
「……『ソウルブレス』【ディフェンスパワード】!!」
前線の兵士達が死を覚悟した中、空を裂くような声が響き渡る。今まで守りに回っていた兵士達に淡い光が纏わりつき包み込む。その瞬間に歓声が上がる。彼らは瀕死の状態で運び込まれた男の姿を見ていた。誰よりも最前線で戦い、思わぬ反撃を受けて戦線を離脱した男の事を。
「みんな、背後はぼくがなんとかするから……頑張るにゃ!!」
そこには復帰したベルンの姿があった。凛として佇む姿は重傷を負って弱っていた彼とは全く別人のようにも思える。兵士の誰もが戦線復帰した彼によって後押しされただろう。実際は治療系の魔導を最低限かけてもらい、なんとか立つ事が出来ているような状態なのだが、それを他の兵士達に悟らせない為に振舞っていた。
淡い光に包まれた兵士達は先程までぎりぎり耐えきれるかわからない状態だったのが、ベルンの支援を受けたおかげで難なく耐える事が出来た。盾はより強固になり、バリアーのような結界はひび割れ脚気ていたのが嘘のように修復されていた。
光線に耐えきった兵士達は一気に進軍する事を決意する。いくらベルンが復活したとは言ってもそう何度も耐えられないと思った指揮官の判断だった。
「進め!! ダークエルフ族共を倒し、王都を取り戻せ!!」
「「「おおおおおおおお!!」」」」
雄叫びを上げながら進む兵士達に次第にダークエルフ族も圧され、本気の抗戦を始める。幾つも放たれた光線のせいかファリスが魔力を温存しだしたせいかはわからないが、彼女の発動していた魔導は次第に収まり、本格的にぶつかり合う事になった。もはや怪物はいない。ファリスが発動していた広範囲の魔導も収まり、残ったのは純粋な力比べと言ってもいい戦い。オルドの指示により残った兵士達は精一杯の大声をあげて突撃する。攻撃系の魔導を中心としていたベルンが支援系の魔導に切り替えたおかげで落ち込んでいた兵士達の士気もあがり、じわじわと圧し返している。ファリスやベルンといった単一の存在が戦い、一気に戦況をひっくり返すようなものではない。魔導や剣の応酬。数多の一般的な兵士達の命のやり取りがそこにはあった。
そこにベルンの支援が加わり、無感情の兵器達に一切怯む事を見せず、魔導が得意な種族。近接戦闘が得意な種族でそれぞれの特性を持つ兵器を排除していく。今まさに一丸となった彼らの姿がそこにあった。
一方ファリスは――遠くに見えたダークエルフ族の集団を追いかけていた。
目の前を常に先導する少女は先ほどの戦い方から変わっていった。以前は相対した先に存在する王都軍の被害を可能な限り抑える為の動きだった。しかし今はそんなことなど気にしていない様子で次々と広範囲を攻撃する魔導を放っていた。
「【斬桜血華】」
桜の花びらは血で染まり、優雅に舞い上がる。
「【幽世の門】」
地面から門が浮き上がり、開かれた扉の中から紫色の蝶が飛び回り、数多の舞い散る桜の中で敵の魂を抜き出し、鬼人族に信じられているあの世への道――黄泉幽世へと誘われる。
「【散烈鬼火】」
逃げ惑う敵兵を青白い火の玉が追い回し、触れた瞬間に爆発する。それはまるで一人では死にたくない魂が道連れを探しているようにも思える光景。それら全てが少女一人によって具現化されていた。
あまりにも美しく、どうしようもなく残酷で、目が離せない程幻想的な光景。一種の聖域に近い場所を踏み荒らしていくのはティリアース・シルケット軍の兵士達だった。最初は彼らも戦々恐々していた。当然だ。これほどの魔導にデメリットが存在しないわけがない。しかし実際はこうして問題なく進軍する事が出来る。以前のファリスでは叶わなかった事。それがここに来て一気に増えている証だった。
新しく加わった【散烈鬼火】はフィシャルマーやクーティノスなどにも効果があり、当たったと同時に爆発するという性質上、図体の大きな兵器達はむしろ格好の的ですらあった。
その中を歩くとある兵士は美しいと言い、また別のある者は恐ろしいと思っていた。ダークエルフ族の連中は蝶や花びらに命を奪われていく。そんな中――突如として大きな光線が迫ってきた。
「総員、防御態勢!!」
前線で主軸となっている兵士達は盾を構え、防御関連の魔導を発動させ、敵の魔導である光線を防いでいた。先程の幻想的な光景を掻き消す程の白い光が襲い掛かり、盾役の兵士達は防具や結界がぎしぎしと音を立てるの聞きながら戦々恐々していた。いつ自分達の防御が突破され命を奪われるかわからない……そんな緊張感に包まれていた。
「……『ソウルブレス』【ディフェンスパワード】!!」
前線の兵士達が死を覚悟した中、空を裂くような声が響き渡る。今まで守りに回っていた兵士達に淡い光が纏わりつき包み込む。その瞬間に歓声が上がる。彼らは瀕死の状態で運び込まれた男の姿を見ていた。誰よりも最前線で戦い、思わぬ反撃を受けて戦線を離脱した男の事を。
「みんな、背後はぼくがなんとかするから……頑張るにゃ!!」
そこには復帰したベルンの姿があった。凛として佇む姿は重傷を負って弱っていた彼とは全く別人のようにも思える。兵士の誰もが戦線復帰した彼によって後押しされただろう。実際は治療系の魔導を最低限かけてもらい、なんとか立つ事が出来ているような状態なのだが、それを他の兵士達に悟らせない為に振舞っていた。
淡い光に包まれた兵士達は先程までぎりぎり耐えきれるかわからない状態だったのが、ベルンの支援を受けたおかげで難なく耐える事が出来た。盾はより強固になり、バリアーのような結界はひび割れ脚気ていたのが嘘のように修復されていた。
光線に耐えきった兵士達は一気に進軍する事を決意する。いくらベルンが復活したとは言ってもそう何度も耐えられないと思った指揮官の判断だった。
「進め!! ダークエルフ族共を倒し、王都を取り戻せ!!」
「「「おおおおおおおお!!」」」」
雄叫びを上げながら進む兵士達に次第にダークエルフ族も圧され、本気の抗戦を始める。幾つも放たれた光線のせいかファリスが魔力を温存しだしたせいかはわからないが、彼女の発動していた魔導は次第に収まり、本格的にぶつかり合う事になった。もはや怪物はいない。ファリスが発動していた広範囲の魔導も収まり、残ったのは純粋な力比べと言ってもいい戦い。オルドの指示により残った兵士達は精一杯の大声をあげて突撃する。攻撃系の魔導を中心としていたベルンが支援系の魔導に切り替えたおかげで落ち込んでいた兵士達の士気もあがり、じわじわと圧し返している。ファリスやベルンといった単一の存在が戦い、一気に戦況をひっくり返すようなものではない。魔導や剣の応酬。数多の一般的な兵士達の命のやり取りがそこにはあった。
そこにベルンの支援が加わり、無感情の兵器達に一切怯む事を見せず、魔導が得意な種族。近接戦闘が得意な種族でそれぞれの特性を持つ兵器を排除していく。今まさに一丸となった彼らの姿がそこにあった。
一方ファリスは――遠くに見えたダークエルフ族の集団を追いかけていた。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる