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586・崩壊する。触れたもの全て(ファリスside)
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怪物達はファリスが自分達の包囲網を突破した事を確認し、大きな声を上げて再び連携を取り始める。もしこれがまともな理性を宿した者であれば油断や慢心といった負の部分が露出していただろう。そのせいで追い詰められるような事になるのだろうが……怪物達にはそれは一切なかった。ただ純粋に敵と認めた相手を狩る。それだけだ。
しかしそれが同時に彼らの限界でもあった。恐れも油断も知らない怪物はただ愚かで真っ直ぐだった。
前衛を二人。後衛を三人としてチームを組み、ファリスと直接相対する二人は自身に強化の魔導を発動させていた。動きが更に加速度的に跳ね上がり、【シックスセンシズ】であらゆる感覚を底上げしているファリスでさえ追いつけなくなりつつあるが、彼女は決して焦ってはいなかった。
(大丈夫。どんな魔導を使っても……)
新しいイメージを構築する。魔力を体中に瞬時に巡らせ、爆発的に身体能力を上げられるような。
「【フィジカルアクセル】!!」
襲ってきた怪物二人の内の一人が飛びかかって襲ってきたと同時に魔導を発動させる。短いながらも一時的に怪物達の動きを上回る。残った怪物は隙を突こうとしているのも功を奏し、突出した一人と相対する事が出来た。
自らの人造命具を構え、防御の姿勢を取りながら突撃を敢行する。通常であれば有り得ない戦法だ。彼女の使用した魔導は短い期間でしか身体能力を強化する事は出来ないし、そんなものを使ったのならばもっと攻撃的にいく者が多いだろう。その間だけでも怪物達の行動速度を上回っているなら尚更だ。
普通に考えればうって出るところを防御の体勢で突撃しているのだが――
剣身と爪がぶつかった瞬間、ファリスの表情は綻んだ。
(何も考えずに刃を合わせるなんてね)
「が、あああ、あああぁぁぁぁぁっっ!?」
激痛を受けたとでもいうかのように絶叫する怪物は無様にも隙を晒していた。今も尚自身よりも素早く動ける敵を目の前にして。
「ふふっ、さようなら」
思わずこぼれる笑い。仕掛けた罠に上手く引っかかった獲物に止めを刺し、残った四体に視線を向ける。今まで自分達に苦戦を強いられていた相手が瞬時に仲間を斬り伏せてきた。常人とは比べ物にならない程の生命力。再生力。そして身体能力。その全てが上回っていた。まるで今見た事が信じられないとでもいうかのように残った一人がジグザグに動いてファリスに迫ってくる。後衛の内一人がそれに続くように動き出し、二人が口内に魔力を溜め込み、ブレス攻撃の準備を行う。
「【シャドウウェポンズ】」
怪物を一人倒したと同時に切れた【フィジカルアクセル】によって生じた身体の違和感を掻き消すように遠くからチャージを始めた怪物達に攻撃を仕掛ける。地面を力強く踏んで溜めを始めたところから時間が掛かると予想していたからこそ攻勢に転じたのだ。
しかしただ単に魔導を放つだけでは彼らは止まらない。今までの戦いでファリスもはっきりとわかっていた。だからこその再びのイメージ。自ら放った魔導の威力を底上げする。ただそれだけの事だが、今まで誰もしてこなかった事。
「【ダメージ・ライズアップ】!」
発動した魔導は影で生み出した様々な武器に更に影が纏わりつき、より鋭く強化されていく。放たれた魔導は従来の【シャドウウェポンズ】では考えられない速度で魔力を溜めている怪物二人に迫る。避ける事をせずに次々と串刺しにされる怪物達はそれでもチャージをやめるつもりはない様子で、溜まりきったと同時に眩い光を放つ。真っ直ぐ矢のように襲い掛かる光線はファリスの身体を易々と貫いた。焼けた部分も合わせて【シックスセンシズ】で更に上がった痛覚に悶え苦しむのを必死に抑え込む。ここで身体能力を上げる魔導を発動させる訳にはいかない。身体の感覚が変化する魔導は想像以上の誤差を与える。使い慣れたものであればある程度コントロールする事も可能なのだが、ファリスの場合今生み出したばかりの魔導だ。まだどこまで魔力を注げばどれほどの効果が現れるか判明しておらず、使いこなすだけの時間もない。だからこそファリスは【フィジカルアクセル】を多用する戦法を取らずに大人しく攻撃を受ける事を選んだのだ。
命が流れ出るような痛みが襲いかかる中、追撃を仕掛けるように爪を振りかざす二人の怪物が交差する。
「――っ! 【フィジカルアクセル】!!」
――もっと速く。時を追い越すほどの力を……!!
再びファリスの身体は『重力』という枷から解き放たれる。【シックスセンシズ】の効果も併せて全てがスローに感じる。もはや自分だけが世界に取り残されたような感覚。可能な限りを注ぎ込んだ彼女の魔導は自身の時の流れすら変えてしまった。
「……どっちかというと【タイムアクセル】って感じね」
ぼそりと呟いたファリスは剣を振り、一刀に斬り伏せる。一人、二人。彼らは斬られた事すら気付いていない。彼女のステージまで彼らは昇ってきていないのだから。
「さようなら」
激しい眩暈を感じながら【フィジカルアクセル】の効果が切れたと同時に二匹の怪物は黒ずみ散るように消えていく。
――もはや彼女を止められる存在はこの場にはいなかった。
しかしそれが同時に彼らの限界でもあった。恐れも油断も知らない怪物はただ愚かで真っ直ぐだった。
前衛を二人。後衛を三人としてチームを組み、ファリスと直接相対する二人は自身に強化の魔導を発動させていた。動きが更に加速度的に跳ね上がり、【シックスセンシズ】であらゆる感覚を底上げしているファリスでさえ追いつけなくなりつつあるが、彼女は決して焦ってはいなかった。
(大丈夫。どんな魔導を使っても……)
新しいイメージを構築する。魔力を体中に瞬時に巡らせ、爆発的に身体能力を上げられるような。
「【フィジカルアクセル】!!」
襲ってきた怪物二人の内の一人が飛びかかって襲ってきたと同時に魔導を発動させる。短いながらも一時的に怪物達の動きを上回る。残った怪物は隙を突こうとしているのも功を奏し、突出した一人と相対する事が出来た。
自らの人造命具を構え、防御の姿勢を取りながら突撃を敢行する。通常であれば有り得ない戦法だ。彼女の使用した魔導は短い期間でしか身体能力を強化する事は出来ないし、そんなものを使ったのならばもっと攻撃的にいく者が多いだろう。その間だけでも怪物達の行動速度を上回っているなら尚更だ。
普通に考えればうって出るところを防御の体勢で突撃しているのだが――
剣身と爪がぶつかった瞬間、ファリスの表情は綻んだ。
(何も考えずに刃を合わせるなんてね)
「が、あああ、あああぁぁぁぁぁっっ!?」
激痛を受けたとでもいうかのように絶叫する怪物は無様にも隙を晒していた。今も尚自身よりも素早く動ける敵を目の前にして。
「ふふっ、さようなら」
思わずこぼれる笑い。仕掛けた罠に上手く引っかかった獲物に止めを刺し、残った四体に視線を向ける。今まで自分達に苦戦を強いられていた相手が瞬時に仲間を斬り伏せてきた。常人とは比べ物にならない程の生命力。再生力。そして身体能力。その全てが上回っていた。まるで今見た事が信じられないとでもいうかのように残った一人がジグザグに動いてファリスに迫ってくる。後衛の内一人がそれに続くように動き出し、二人が口内に魔力を溜め込み、ブレス攻撃の準備を行う。
「【シャドウウェポンズ】」
怪物を一人倒したと同時に切れた【フィジカルアクセル】によって生じた身体の違和感を掻き消すように遠くからチャージを始めた怪物達に攻撃を仕掛ける。地面を力強く踏んで溜めを始めたところから時間が掛かると予想していたからこそ攻勢に転じたのだ。
しかしただ単に魔導を放つだけでは彼らは止まらない。今までの戦いでファリスもはっきりとわかっていた。だからこその再びのイメージ。自ら放った魔導の威力を底上げする。ただそれだけの事だが、今まで誰もしてこなかった事。
「【ダメージ・ライズアップ】!」
発動した魔導は影で生み出した様々な武器に更に影が纏わりつき、より鋭く強化されていく。放たれた魔導は従来の【シャドウウェポンズ】では考えられない速度で魔力を溜めている怪物二人に迫る。避ける事をせずに次々と串刺しにされる怪物達はそれでもチャージをやめるつもりはない様子で、溜まりきったと同時に眩い光を放つ。真っ直ぐ矢のように襲い掛かる光線はファリスの身体を易々と貫いた。焼けた部分も合わせて【シックスセンシズ】で更に上がった痛覚に悶え苦しむのを必死に抑え込む。ここで身体能力を上げる魔導を発動させる訳にはいかない。身体の感覚が変化する魔導は想像以上の誤差を与える。使い慣れたものであればある程度コントロールする事も可能なのだが、ファリスの場合今生み出したばかりの魔導だ。まだどこまで魔力を注げばどれほどの効果が現れるか判明しておらず、使いこなすだけの時間もない。だからこそファリスは【フィジカルアクセル】を多用する戦法を取らずに大人しく攻撃を受ける事を選んだのだ。
命が流れ出るような痛みが襲いかかる中、追撃を仕掛けるように爪を振りかざす二人の怪物が交差する。
「――っ! 【フィジカルアクセル】!!」
――もっと速く。時を追い越すほどの力を……!!
再びファリスの身体は『重力』という枷から解き放たれる。【シックスセンシズ】の効果も併せて全てがスローに感じる。もはや自分だけが世界に取り残されたような感覚。可能な限りを注ぎ込んだ彼女の魔導は自身の時の流れすら変えてしまった。
「……どっちかというと【タイムアクセル】って感じね」
ぼそりと呟いたファリスは剣を振り、一刀に斬り伏せる。一人、二人。彼らは斬られた事すら気付いていない。彼女のステージまで彼らは昇ってきていないのだから。
「さようなら」
激しい眩暈を感じながら【フィジカルアクセル】の効果が切れたと同時に二匹の怪物は黒ずみ散るように消えていく。
――もはや彼女を止められる存在はこの場にはいなかった。
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