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585・破壊の想い(ファリスside)
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オルドが帰還を信じているファリスは魔導で生み出された槍に囲まれ、今まさに絶体絶命の瞬間を迎えていた。もはやできる事は残されていない。……いや、ただ一つ。魔導でも移動でも、何か一つだけならば行動を起こせる程度の余裕はあった。しかしそれが出来てどうなるだろう? 発動に時間の掛かる【エアルヴェ・シュネイス】は全てを飲み込めるようになる前に発動者本人が串刺しになって死亡する未来しか見えない。
かといって【プロテマジク】では防ぎきれず、もはや成すすべなく刻一刻と迫ってくる死へのカウントダウンを待つしかなかった。そんな中、自然と時間が緩やかに訪れるのも仕方のない事で……ファリスは今、最後の旅路を進んでいた。蘇る記憶。複製体として生を受け、過去の記憶の大体を持っていた事に対する苦悩。目の前で弱い複製体の子が虐げられるのを見ながら『なんで自分がここにいるのか?』と疑問する毎日。生きる目的もなく、生まれた意味すら知らず、ただ過去の痛みと渇望に支配され、無気力状態の日々。エールティアの存在を知り、彼女の事だけを想って過ごすだけの日々。まともな思い出がないが、いざ最後となればそのどれもが自分を構築しているものなのだと教えてくれているようだった。
(……そうだ。まだ死にたくない。わたし、まだ……ティアちゃんに好きだって、愛しているって伝えてない……!)
ファリスは今まで相手を傷つけて親愛を表現する事が当然だと思っていた。いや、それは今でも思っているだろう。しかしそれ以外に想いを伝える方法はないのだろうか? 嫌々ながらもシルケットに来て、オルドやククオルといった人達と触れ、少しは思うところに変化が生じ始めた……その矢先の出来事なのだ。
――死にきれない。
ファリスは『死にたくない』と思った。しかし、元々死ぬ事に恐れを抱いていない彼女にとってその言葉は間違いに近かった。このまま簡単に散って、エールティアにも会えなくなって、自分の想いがどうなるのかすら見届けられず終わる。そんな事は会ってはならない。死んだとしても化けて出そうなほどの悔いが残る。ならばどうする? 決まっている。もはやたった一つの行動しか出来ないファリスにとってイメージする事こそが全て。
魔力こそが聖黒族の源。魔導こそが過去から授かった叡智の結晶。誰でもない。昔に生きた初代魔王の依り代ではない。本当の自分。今生まれつつある真の自我によるイメージ。彼女は今ここで新しい魔導――『人造命具』を構築しようとしていた。
自らの奥底に沈んでいくような感覚。その途中で自分の中にある剣を見つける。彼女が使っていた人造命具『フィリンベーニス・ファクティス』がぽつんと宙に浮いていた。ファリスがほとんど使用していなかったその剣は心なしかヒビが入り、今でも砕けそうでもある。本来ならばこの場で唯一使える人造命具だが、これは本来ファリスの所有物ではない。あくまで記憶の中にある『フィリンベーニス』が劣化変化しただけの存在でしかない。本当の望む物を求めた彼女にとって、それはもはや不要なものだった。
――愛するという事がどういう事かわからない。恐れるものも多く、触れるものは壊れてしまうことさえある。退屈であり孤独であり、自ら望んだ力ではなかった。だが……それが避けられぬのならば。いっそのこと壊してしまえばいい。望んでいようとなかろうと、自らの力の思うまま。
心の奥底。ファリスは自分の中で蠢くものが何かささやくような気がした。
「……そう。それがわたしの心の在り方って訳ね。良いじゃない」
自嘲気味に笑う。結局自分には他者を傷つける能力しかなかった。しかしそれでも誰かを……今この瞬間にも自分を信じて戦ってくれている人達の事を守れるなら。
――それでもいい。むしろそれがいい。
ファリスの感情は決まっていた。既に神偽崩具は呼ぶ事ができず、【フィリンベーニス・ファクティス】では力不足を感じ、自分の物であるという実感が存在しなかった。
「【人造命剣『フィールコラプス』】」
新しい魔導を発動させる。それは今までのファリスとは全く違う剣。刃はそれなりに厚く、両刃剣。所々に傷がついていて、先端は少し幅が広く、持ち手に近い部分にはおうとつが存在し、刃を折る事を目的にしているように見える。柄は無骨な感じすらする。決して少女が持つような剣ではない。
魔導を発動した辺りからイメージの中から現実世界に戻ってきたファリスは、周囲から迫ってくる槍を知覚し、新しい剣を持って真っ直ぐ怪物たちに向かって走る。その場に留まればどんなに戦っても被弾する事を十分わかっている対処の仕方だった。
「さあ、その力を見せて!」
その目に一切の迷いは見られない。ただ純粋に新しい人造命具を信じ、力を解放する。
振るった刃に触れた槍はその瞬間に黒ずんで砕け、粉々になってしまう。魔力によって作られた槍は相打ちなら爆発したり、砕けるにしてもその属性にあった散り方をする。このような事象を引き起こすこと自体まずない。新しい剣の能力を確認し、ファリスの顔は自然と綻んでいた。
かといって【プロテマジク】では防ぎきれず、もはや成すすべなく刻一刻と迫ってくる死へのカウントダウンを待つしかなかった。そんな中、自然と時間が緩やかに訪れるのも仕方のない事で……ファリスは今、最後の旅路を進んでいた。蘇る記憶。複製体として生を受け、過去の記憶の大体を持っていた事に対する苦悩。目の前で弱い複製体の子が虐げられるのを見ながら『なんで自分がここにいるのか?』と疑問する毎日。生きる目的もなく、生まれた意味すら知らず、ただ過去の痛みと渇望に支配され、無気力状態の日々。エールティアの存在を知り、彼女の事だけを想って過ごすだけの日々。まともな思い出がないが、いざ最後となればそのどれもが自分を構築しているものなのだと教えてくれているようだった。
(……そうだ。まだ死にたくない。わたし、まだ……ティアちゃんに好きだって、愛しているって伝えてない……!)
ファリスは今まで相手を傷つけて親愛を表現する事が当然だと思っていた。いや、それは今でも思っているだろう。しかしそれ以外に想いを伝える方法はないのだろうか? 嫌々ながらもシルケットに来て、オルドやククオルといった人達と触れ、少しは思うところに変化が生じ始めた……その矢先の出来事なのだ。
――死にきれない。
ファリスは『死にたくない』と思った。しかし、元々死ぬ事に恐れを抱いていない彼女にとってその言葉は間違いに近かった。このまま簡単に散って、エールティアにも会えなくなって、自分の想いがどうなるのかすら見届けられず終わる。そんな事は会ってはならない。死んだとしても化けて出そうなほどの悔いが残る。ならばどうする? 決まっている。もはやたった一つの行動しか出来ないファリスにとってイメージする事こそが全て。
魔力こそが聖黒族の源。魔導こそが過去から授かった叡智の結晶。誰でもない。昔に生きた初代魔王の依り代ではない。本当の自分。今生まれつつある真の自我によるイメージ。彼女は今ここで新しい魔導――『人造命具』を構築しようとしていた。
自らの奥底に沈んでいくような感覚。その途中で自分の中にある剣を見つける。彼女が使っていた人造命具『フィリンベーニス・ファクティス』がぽつんと宙に浮いていた。ファリスがほとんど使用していなかったその剣は心なしかヒビが入り、今でも砕けそうでもある。本来ならばこの場で唯一使える人造命具だが、これは本来ファリスの所有物ではない。あくまで記憶の中にある『フィリンベーニス』が劣化変化しただけの存在でしかない。本当の望む物を求めた彼女にとって、それはもはや不要なものだった。
――愛するという事がどういう事かわからない。恐れるものも多く、触れるものは壊れてしまうことさえある。退屈であり孤独であり、自ら望んだ力ではなかった。だが……それが避けられぬのならば。いっそのこと壊してしまえばいい。望んでいようとなかろうと、自らの力の思うまま。
心の奥底。ファリスは自分の中で蠢くものが何かささやくような気がした。
「……そう。それがわたしの心の在り方って訳ね。良いじゃない」
自嘲気味に笑う。結局自分には他者を傷つける能力しかなかった。しかしそれでも誰かを……今この瞬間にも自分を信じて戦ってくれている人達の事を守れるなら。
――それでもいい。むしろそれがいい。
ファリスの感情は決まっていた。既に神偽崩具は呼ぶ事ができず、【フィリンベーニス・ファクティス】では力不足を感じ、自分の物であるという実感が存在しなかった。
「【人造命剣『フィールコラプス』】」
新しい魔導を発動させる。それは今までのファリスとは全く違う剣。刃はそれなりに厚く、両刃剣。所々に傷がついていて、先端は少し幅が広く、持ち手に近い部分にはおうとつが存在し、刃を折る事を目的にしているように見える。柄は無骨な感じすらする。決して少女が持つような剣ではない。
魔導を発動した辺りからイメージの中から現実世界に戻ってきたファリスは、周囲から迫ってくる槍を知覚し、新しい剣を持って真っ直ぐ怪物たちに向かって走る。その場に留まればどんなに戦っても被弾する事を十分わかっている対処の仕方だった。
「さあ、その力を見せて!」
その目に一切の迷いは見られない。ただ純粋に新しい人造命具を信じ、力を解放する。
振るった刃に触れた槍はその瞬間に黒ずんで砕け、粉々になってしまう。魔力によって作られた槍は相打ちなら爆発したり、砕けるにしてもその属性にあった散り方をする。このような事象を引き起こすこと自体まずない。新しい剣の能力を確認し、ファリスの顔は自然と綻んでいた。
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