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576・始まりの悪夢(ファリスside)

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 戦場は正にファリスの独壇場と言っても差し支えがなかった。【幽世かくりよの門】や【メルトスノウ】などの超広範囲を敵味方関係なく無差別に葬り去る魔導を扱えなくとも、彼女には中範囲の攻撃方法を持っていた。

「【フレスシューティ】!」

 降り注ぐ炎は固まっている敵兵を焼き払い、彼らは散らばって行動する事を余儀なくされる。

「今にゃ! 二対一で敵に当たり、確実に撃破するのにゃ!」

 当たらないように広がるように逃げた者達はベルンの号令により一人ずつ確実に倒されていく。

「クーティノスが来ます!」

 魔人族の兵士が指さしながら叫ぶ。今まで前方で戦っていたであろうダークエルフ族のゴーレム達も徐々にベルン達の方へと向かってくる。狼型のクーティノス。ワニガメ型のメシャルタ。鎧に身を包んだアーマーゴレム。そして一番人型に近い学習するゴーレム・フィシャルマー。そのどれもがダークエルフ族が古代の遺跡kら発掘し、修繕・復元を繰り返して生み出された他種族を殺す兵器だった。

「鬼人族、魔人族、オーク族の兵士はクーティノスの対処を。猫人族、狐人族、ゴブリン族の兵士はメシャルタの対処をするにゃ! アーマーゴレムはその場の判断で対応していいにゃ! ただし、フィシャルマーは戦うにつれて強くなっていくにゃ。今現在どれだけ強くなっているわからない以上、下手に交戦する事は控えるようにして、ぼくかファリスに任せるにゃ!! 手が回らない可能性もあるから現状のフィシャルマーを確実に速攻で撃破出来る自信があるなら戦ってくれにゃ!」

 次々とやってくるゴーレム達の情報を頭に叩き込んでいたファリスは可能限り最善と思える組み合わせでゴーレム達と戦いを挑む。今までの戦いで手に入れた情報。ダークエルフ族の拠点に残された少ない書物の中で得られた知識を元に指示を出すが、フィシャルマーに至ってはどうしても曖昧になってしまう。それでも物理防御に長けているメシャルタには魔導が得意な種族。魔力を吸い取り魔導の威力を弱めるクーティノスには魔力を強化に回し、体外に放出しない戦い方を主軸における種族……と可能な限りの最善手と言えた。

「ファリスもそれでいいかにゃ?」
「もちろん。命令するならわたしも同じ事を言っていたしね」

 ワイバーンに乗ったままわざわざ近づいてきたベルンにファリスも笑みで返す。
 ダークエルフ族を相手にしていた兵士達はそれぞれの種族に従って別れ、小隊を組む。中には即興で組んだ者達もいるが、この際は仕方ないと誰もが割り切るしかなかった。ゴーレム共に対抗する為にはそれしか手がなかったのだ。

 最初は上手くいかず、少しずつ抑えられる場面が増えていたが、戦場は刻一刻と情勢が変化するもの。慣れ始めた彼らは各々連携を取り始め、徐々に押し返していく。

「ファリス様、フィシャルマーがそちらに行きます!」
「わかった」

 ユヒトの大きな叫びに呼応するように構え、フィシャルマーが現れたと同時に魔導を発動させる。

「【フラム・ブランライン】!」

 それは【フラムブランシュ】と酷似していた。それも当然だ。これはイメージを多少変化させただけに過ぎないのだから。しかし可能な限り範囲を絞り、その分威力を上げたそれは全く新しい魔導へと仕上がっていた。
 魔力の消費は抑えられ、焼き切るような使い方が可能になった【フラム・ブランライン】は現在のファリスとの相性も良かった。

 何も分からずに突進してくるフィシャルマーを縦に真っ二つにしたファリスは次から次へと湧いてくる敵を排除してワイバーンが飛行する空を見上げる。彼は今誰もいない最前線に躍り出て、接敵している味方の軍がいない事を確認する。

「『イグニスソレイユ』【ウェントゥスソレイユ】!!」

 上空から太陽かと見紛うほどの大きさの炎とそれが更に風を纏っている二つの球体が放たれる。ゆっくりとした速度だが、範囲が尋常ではない。ダークエルフ族が拠点にしている場所を全て覆い尽くし、確実に葬る為のものだった。ここまでの規模の魔導を放つ事は中々出来ない。魔力の消費や今後戦闘を継続出来るかを天秤にかければ躊躇ちゅうちょするレベルの代物だった。
 現にベルンは僅かに疲労を覚え始めていた。あれだけの規模の魔導を使い倒れることもない彼はそれだけ自らを鍛えていたということだ。
 ダークエルフ族が築き上げた中継地点すら焼き尽くして前と後ろで完璧分断させる事に成功したベルンは一度自らの軍が押し上げている戦線まで引き返す事を決断する。

(これ以上突出しすぎるべきじゃないにゃー。あまり長い時間ファリスや軍と離れてもいい事はないだろうしにゃー)

 ベルンは自身のみがワイバーンに乗っている事の有利をよくわかっていた。それを失えばたちまち不利に立たされるということも。
 上空からの魔道の撃ち合いであれば負けるわけがない。だからこその油断というべきか。
 自らが率いる軍に引き返している最中の出来事。不吉な予感を抱いたベルンは手綱を動かしてワイバーンに上昇するように指示を出した。
 しかし……僅かに上がると同時にワイバーンの片翼が魔力による攻撃によって撃ち抜かれ、悲鳴の声を上げながらゆっくりと墜落していくのだった。
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