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574・先制攻撃(ファリスside)

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 拠点に立ち寄るまでの期間はそれなりに準備をしていただけあって、そこから王都ケルトまでの移動を一日で成し遂げた。偶に出没するダークエルフ族の斥候と思しき人物も黒服の猫人族の兵士が速やかに制圧していた為、特に問題なく進むことが出来た。

 そして鳥車に揺られ……彼らはその光景を目の当たりにする。

 大きな兵器が複数点在し、光線を放つ両手で持てる程度に小さい大砲が火を吹き、彼らの目の前で必死に防戦している猫人族を焼き払っていた。普通であれば持ちこたえる事が出来ない程の力の差が存在するだろう。しかしシャケル王は積極的な攻撃を諦め、防御に全てを集中させることでそれを凌いでいた。焼かれた者達は魔導の力によって致命傷は避けられ、即座に治療室へと運ばれる。消極的に建ちまわりながら僅かずつでも傲慢に油断しているダークエルフ族を減らし、彼らが痺れを切らしたところで大きな一撃をシャケル王自身が与える。そうする事で少しずつ被害を拡大させ撤退へと追いやるという戦法が続けられたのだ。
 しかし、それだけで制圧できる程彼らは弱くはない。蓄積された疲労と心労がシャケル王の精鋭とも呼べる兵士達に重くのしかかり、いつ崩れ落ちてもおかしくない状況。そんな時にファリス達は救援へと向かい、この場に立つ事がd成功した。それは類を見ない程の幸運と言っても良いだろう。ワイバーンを駆るベルンは拡声魔法を使用して大声を上げる。

『我らが強者たちよ! 一斉攻勢を仕掛け、シャケル王の軍勢と共に挟撃を行うのにゃ!!』

 王子が叫んだと同時にファリスが立ち上がる。鳥車は今まで以上に速度を出し、立つ事さえ難しい中での出来事だ。

「ファ、ファリス様?」
「わたしも行ってくる」
「行くって……今は鳥車から降りるのは危険ですよ!?」

 ククオルが信じられないと口にしながら驚愕に顔が歪む。しかしファリスは落ち着いたままだ。走行中の鳥車から降りればどうなるかなどはファリス本人が十分に理解出来ていた。それでも、やらなければベルンに追いつくことは出来ない。陸のラントルオ。空のワイバーンと言われていても実際は僅かにワイバーンの方が早いし障害物は存在しない。ワイバーンは周囲の風を魔力によって穏やかにして安定した飛行を可能としてくれるからだ。
 しかし今となってはそれはデメリットでしかない。鳥車の速度に合わせて飛行していたワイバーンは一気に戦場に向かって加速して先陣を切っている。どう考えても先に接敵するのはベルンになってしまう。彼は一国の王子だ。いくら死んでも云々とは言っても、一人で突撃して勝手に死んで行きました――なんて生き残った国民が納得するはずがない。結果、少しでも追いすがる為にファリスも洗濯せざるを得なかったという訳だ。

「【フロート】」

 鳥車の扉を開けたと同時に外に飛び出たファリスは身体を浮遊させる魔導を発動させ、衝撃を殺して地面に着地する。

「【アジャイルブースト】」

 力強く地面を蹴りながら発動した魔導によって爆発的な加速力を得たファリスは一気に鳥車を追い抜かして攻防を繰り広げている戦場へと向かう。効果が短いから長距離を走るのには向いていないが、ここまで迫っていればなんの問題もなかった。問題は敵がファリス達に気付かないかだが、幸いにも気付いていなかった。

「さあ、開戦の一発目を浴びせようじゃない。【シャドウウェポンズ】!」

 ファリスの影から生み出された様々な武具は一斉に敵のいる方向へと飛んでいく。影で作られた剣がダークエルフ族の一人を貫くまで彼らは全く気付いていなかったが、突き刺され、悲鳴を上げた同胞を見つけた時は流石に呑気してはいなかった。

「何が……。き、貴様は誰だ!」
「【フレスシューティ】」

 ダークエルフ族の兵士が問いかけながら戦闘態勢に入っている間に炎の矢を雨のように降らせ、更に被害を拡大させていく。

「戦場にいるんだから問いかける前に攻撃ぐらいしないとね。【アクラスール】!」

 自らの頭上に巨大な水球を生み出し、その水球から槍が次々と飛ばされていく。それに対応するように徐々に小さくなっていくところを見ると放てる槍に限りはあるようだが。

「『ラピッド・ガンコルド』【ラピッド・ガントルネ】!!」

 ファリスが暴れ出したころにようやく追いついたベルンも空中から攻撃に参加する。彼の周囲に展開された風と氷の弾丸は次々と地表のダークエルフ族を撃ち抜いて行く。エールティアと戦った時以上に洗練された彼の魔導はファリスも感嘆する程のものだった。相当努力を積んできた証だ。

 やがて遅れて到着した軍勢も戦いに参加し、二人が展開していた広範囲を攻撃する魔導は収束する。前方で戦っているシャケル王の軍に当たらない後方だったからこそ使えた魔導だったのだ。味方が追い付いた以上巻き込んでしまう可能性があった。ダークエルフ族の戦力を完全に把握していない以上、それは避けなければならない。少しでも戦力を削ぎたいのなら、ぶつかり合いながら隙を窺ってまとめて殲滅出来る魔導をぶつけるしかないというわけだ。

 いよいよ軍と軍のぶつかり合いが始まり、ダークエルフ族と猫人族の生存を賭けた最終局面が幕を開ける。
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