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573・援軍出陣(ファリスside)

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 ダークエルフ族の拠点が近くに存在せず、王城へと比較的近い距離にあり、かつ大規模な軍勢が在留出来る場所といえば限られている。辛うじて発見したそこに自らの拠点を構築したが、それの発見も時間の問題である事は周知の事実だった。それでも作戦行動に即座に移らなかったのは彼らの疲労を少しでも取り除く為だった。

 いつダークエルフ族の者達にバレて戦争行動へと発展するかわからない中でどれだけ休まるかは不明であるが……それでも作戦決行時には気力の溢れる人材達に仕上がっていた。

 町に最低限の守りを残し、ティリアース・シルケット連合軍の総勢はおよそ八千。一万にも満たない数ではあるものの、可能な限りかき集めた者達であり、ティリアース軍に至っては精鋭揃いであり、屈強な身体を有している者多かった。

「皆、揃ったかにゃ」

 勢揃いして列をなし、隊を作っている兵士たちの前に現れたベルンはたった一言。彼の顔は今まで温厚な雰囲気を出していたそれではない。怒気を孕んだ決死の表情。普段の彼からは想像もつかない程であり、誰もがその様子にごくりと唾を飲んだ。

「知っているかと思うけど、今から我らが連合軍は憎きダークエルフ族の者どもが侵略行為を行なっている王都へと向かうにゃ。誰もが……全員が無事に帰れるとは思わないにゃ。このぼくですら死ぬかもしれないにゃ」

 兵士達の中に動揺が走る。彼が死ねば連合軍は旗印を失う事になる。そんな状態では戦えないのではないか? 不安が広がり、一部の兵士達の間では不信感すら湧き上がる。

「しかし、それは当然のことなのにゃ。ぼく達は戦いに来ている。この国をこれ以上蹂躙させない為に戦っているのにゃ!! ぼくが最前線で戦う! 君たちと共に!! 最強の聖黒族の一人であるファリスと共に!!」

 淡々と告げていたベルンは突如として大きな声を張り上げ、力強く訴えかけるように怒号を飛ばす。その様子に一番驚いたのは間違いなくファリスだった。彼女としては大将なのだから後ろででんと構えて指示を出してくれるだけでいい。そう思っていたし、話し合いの時も『後ろで安心していろ』と伝えていた。それがまさかこんな事態に発展するとは思ってもみなかったのだ。

「兵士達よ思い出すにゃ! 自分と隣にいた者達のことを!! 守りたい、守り抜くべき者達のことを!! ぼくは民のために、愛すべき妹達の為に戦うにゃ! 決して命を投げ捨てず、最期まで生き抜け! 生き抜いて戦い抜いて……それでもぼくが死ぬのなら、君たちが思いを引き継いで欲しいにゃ!! 国の為に、愛する者達の為に……そしてこれから死にゆく者達の為に! 今ここでぼくと共に……生きる為に死んでくれ!!」

 ベルンの訴えは覚悟のあり方だった。例え最期まで生きることを諦めない。しかし死ぬ時は必ず死ぬ。万が一にでも死ぬようなことがあれば、お前達がそれを引き継げ。

 そんな思いを自分の言葉で宣言し、高らかに右腕を振り上げる。強く握った拳から彼の覚悟が伝わるようでもあった。
 シーンと静まり返った状態。しかしそれはすぐさま歓声へと変わる。総勢八千の軍勢による雄叫び。魂を震わせるような大地を揺るがす大声は周囲に広がり、伝染していく。その中には必ず生きて帰ると心に決めている者。これから死ぬのかもしれないと覚悟する者……多種多様の感情が、想いが、そこにはあった。

「全軍! 目指すはシャケル王が懸命に守っている王都ケルト! ダークエルフ族を殲滅し、我らが愛すべき故郷を、祖国を! この手で救うのにゃ!!」
『おおおおおおおおお!!!』

 儀礼的に身に着けていた装飾の多い剣を抜き天高く掲げ、王都がある方向を指し示す。それだけで歓声が上がり、全員が鳥車に乗り込み、ベルンは拠点に用意されていたシルケットでも数の少ない王家専用のワイバーンに乗り込んで空へと舞い上がる。

「……随分気合の入った演説をしてくれたけれど、今する必要あった?」

 いつもの面子で鳥車に乗り込んだファリスは出発すると同時にため息を吐いた。最初は盛り上げているなとも思っていたのだが、最前線にやってくるだろうベルンと共闘する事になって微妙な気持ちになってしまったのだから当然と言えば当然か。
 散々士気を高める為に鼓舞した挙句鳥車に乗って現場まで……なら最初から向こうに着いてから簡単に済ませればいいのにと思っていたのも事実だ。

「向こうに着いてからはすぐに戦闘に入るでしょうから士気を上げるのは難しいのでしょう。少し冷静になって不安に押しつぶされる事になったとしても、今ここで言わなければならなかったのでしょう」
「……そういうものなのね」

 彼女は鼓舞されてもあまり変わらないからそう思うのも仕方のない事だろう。どんな心境であっても戦えるのが彼女なのだから。そういうのもあるのかとそれなりに納得したファリスは外の景色がビュンビュン流れていくのを横目に、目的地もう目と鼻の先なのである事を肌で感じていた。
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