上 下
569 / 676

569・竜のゴーレム(ファリスside)

しおりを挟む
「【フラムブランシュ】!」

 彼女お得意の白い炎を宿した熱線を放つ魔導は竜のゴーレムの上半身を包み込む。直撃を受けたそれはなすすべなく地に伏す――はずだったのだが……。

「う、嘘だろ……」

 呆然と呟くワーゼル。それもそのはず。竜を模したゴーレムは一切傷を負っておらず、普通に動いていたのだから。

「なるほど。これは頑丈ね」
「【クレイスピア】!」

 ファリスの魔導が効かなかった事を見届けたと同時にククオルの土の槍が竜のゴーレム突き刺さろうとする。……が、当たったと同時に先端が砕け、結局これもまた傷一つ与える事は出来なかった。

 しかしその攻撃が煩わしかったのか、竜のゴーレムはファリス達に向かって炎のブレスを吐き出してきた。二人がそれを避けている間……。

「くそっ……! 何やっているんだ俺は!!」

 一人置いてけぼりにされていたワーゼルはその炎から逃れる事が出来た。その事で自分の足が竦んでいる事に気付き、一喝するように声を出す。血気盛んに剣を抜き、ゴーレムに突撃していく。

「喰らえ!!」

 上手く懐に潜り込んだワーゼルは気合を入れて振り下ろした斬撃は鈍い音を立てて無防備に受け止められてしまった。

「ちっ……」

 舌打ちをしながらも切り返して再び同じ場所に斬撃を加える。一度で駄目なら二度。それも駄目なら三度。それを続けている内に煩わしくなったように前足を振り上げ、圧し潰そうとしてきた。すんでのところで避けたワーゼルと交代するようにファリスとククオルが追撃を掛ける。

「【ソイルウェポンズ】!!」
「【炎壊潰えんかいつい】!」

 地面からは様々な武器が出現し、上空からは炎の塊がハンマーを振り上げるような挙動を取り、竜のゴーレムに叩きつけた。それも全くの無傷。むしろ軽い攻撃にうんんざりするかのように叫び声をあげる。

「グルアアアアァァァァッッ!!!」

 それと同時に魔力を帯びた咆哮が地面を抉りながら周囲にいた者達を吹き飛ばす。当然ファリス達も巻き添えに。
 あくまで吹き飛ばされているだけで傷はなく、ファリスの方は難なく体勢を整える。

「魔導は効かない。物理攻撃もびくともしない。本当に厄介な相手ね」
「あの蝶が一気に湧き上がる魔導は駄目なんですか?」

 ワーゼルはファリスの【幽世かくりよの門】やククオルの【妖死燃蝶あやかしねんちょう】の事を言っていたのだが、それはファリスが首を横に振って却下した。

「わたしのもククのも生きていない物には効果がない。無駄に魔力を消費するだけ」
「そ、そうですか……じゃあ、どうしますか?」

 悔しそうに竜のゴーレムを見ているワーゼル。彼自身ククオルよりも魔導が得意ではなく、近接戦闘を主軸に置いた戦い方しか知らない。その攻撃が一切役に立たない現状では彼は敵を引き付ける囮のような存在にしかなれない。その事が非常に悔しかったのだ。

 ワーゼルが悔しい思いをしている一方、ファリスも悩んでいた。

(多分ククもワーもあれには太刀打ち出来ない。全力を込めた【フラムブランシュ】でも傷一つ吐かなかったのだもの。だったら――)

「全員離れて!! 特大の行くから!!」

 周囲でもまだ竜のゴーレムを相手取り戦っている猫人族達にも聞こえるような大声で勧告し、彼女は本気でイメージを練り込み魔導を作り上げる。かつての自分だったはずの人物がイメージした魔導。今まで手足のように使ってきたもの。自分が一から作り上げた物ではなかったがその威力から絶対的な信頼を寄せている最強の一撃。

「【エンヴェル・スタルニス】!!」

 解き放った魔導によって空がひび割れる。世界が黒い涙を一滴。竜のゴーレムが暴れまわる様に涙を流しているようにも思えるそれは静かにゴーレムの近くの地面に吸い込まれて行き、黒い魔力が球体を作って徐々に大きくなっていく。竜のゴーレムはそれに向かって炎のブレスを放つ。しかし球体はそれを飲み込みながらも徐々に拡大していき、やがて全てを飲み込んでいく。

「やった……!!」

 ファリスは後ろで聞こえるワーゼル。それに対しククオルも期待に笑みを浮かべそうになるが、彼女の表情は一気に絶望に変わってしまう。【エンヴェル・スタルニス】で展開された黒い球体が収まっていくと同時に姿を見せるのはあちこちにひびが入り、金属の身体がぼろくなってはいるものの完全に破壊するまでには至っていない。

「……嘘、だろ……」

 ぽつりと呟いた絶望。ファリスは魔導に全力の魔力を込めたのだ。まだ軽い倦怠感があるだけで戦うのになんら支障はなかったのだが、まだ戦いは続く。何発も全力でこんな大規模の魔導を放っていたらあっという間に魔力切れで戦えなくなるだろう。かつて聖黒族を統べる程の存在になった初代魔王とは違い、ファリスの魔力には自分が理解出来る上限が存在するのだから。

(……ちょっと不味いわね。この調子だったら他の魔導は効かないだろうし、残った手は――)

 竜のゴーレムがまだ健在である事実に驚愕しながら、次にどう行動しようかと作戦を考えるのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...