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563・兄弟の再会(ファリスside)
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「やっぱり注目されていますね」
町の中に入ったファリス達を出迎えたのは何が起こっているのかと興味の視線を向けている町の人達だった。ティリアースが援軍に来ている事は理解できているし、魔人族にゴブリン族。鳥車の中には狐人族やオーク族の姿が見えるのだから珍しいものを見たさに視線が向くだろう。もしリュネーの姿が見えていたらそれどころでは済まないところだった。ダークエルフ族の拠点から手に入れた少々頑丈な作りと見た目をしていたのも原因の一つだろう。
「仕方あるまい。そろそろ館に着くのだから我慢するしかないな」
オルドは慣れているからいいが、人に注目されるのに慣れていないワーゼルはどこか落ち着かない様子だった。人が全くいないかあまり多くない村や戦争の影響で閑散としている町を進んできたからまだ問題なかったが、今回は貿易の要となっているルドールの街並みだ。それはもう緊張するのも仕方がないだろう。
「手綱を持つ手が硬いけど大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫だ。問題ない」
ユヒトの心配をよそに結局緊張したまま、ワーゼルはベルンがいる館へと鳥車を進めるのだった。
――
門を守っていた兵士の案内を受けて中に入るとぱたぱたと走ってくる音がした。猫人族の臣下を率いて現れたベルンだった。
彼の表情は真剣そのもので、どれだけリュネーを心配しているか伝わってくる程だ。急ぎながらも決して慌てないように努めながらやってくる姿を確認したワーゼルは静かに鳥車を停める。すぐさま扉を開けてオルドがリュネーをお姫様抱っこして緩やかな動作で降りた。
「リュネー!!」
久しぶりに妹の姿を見たベルンは疲れたように眠っている姿を見ていたたまれない気持ちで声を張り上げていた。汚れた身体やボロボロの服では流石に会わせられないから身なりだけは整えていたが、あざや傷は完全に消すことが出来なかった。治療系の魔導はイメージをするのが難しく、戦争で人が少なくなった町では怪我には塗り薬や包帯で手当てをすることで精一杯というのが現状だった。
ベルンはオルドからリュネーを受け取り、大切そうに抱きしめていた。
「ベルン様。早くお部屋に……」
「頼むにゃ」
受け取ったリュネーを臣下に託し、館の中まで消えるのを見送り、改めてワーゼル達に向き直る。
「ありがとうにゃ。貴殿たちのおかげで無事に妹を取り戻すことが出来たにゃ。本当に感謝しかないにゃ」
そこで頭を下げかけたところをオルドは首を振ってそれを否定する。
「おやめください。私たちは上の命令に従いそれをこなしただけにすぎません。それを次期国王である貴方様が無闇に頭を下げられては、他の兵士達の指揮にも影響します」
「だけど……」
「お気持ちだけありがたく受け取らせていただきます。ですからどうぞそのままでいてください」
感謝だけを受け取ったオルドの言葉を素直に聞いたベルンは少しだけ感極まっている様子だった。王子としての立場や権力を考えればオルドの言う通りであり、例え妹の命を救う事が出来たとしても気軽に頭を下げるべきではないのだ。上の者が下の者にそれをするだけで周囲の者がどう勘違いするかわかったものではないのだから。
「わかったにゃ。この礼は必ずするにゃ。それくらいはいいかにゃ?」
「ありがとうございます」
「今日からしばらくはゆっくりするといいにゃ。食事や泊まるところはボクが手配しているから、気兼ねなく休んで次に備えておいて欲しいにゃ」
オルドの返答を聞いて笑みを浮かべたベルンは即座に踵を返し館に戻っていく。それを見送ったオルドの後ろで安堵するように息を吐いたワーゼルはようやく終わったと気分が晴れた顔をしていた。
「お前達もよくやった。これで私達の任務は終わりだ。まだ戦時中だから気を抜くことは出来ないが、ベルン王子の好意はありがたく受け取っておこう」
とりあえず鳥車を館の広場の隅に止め、全員がそこから降りる。
解放された自由に身体を伸ばし、思い思いに動かしながらひと段落着いたと嬉しそうにしていた。
「今日はひとまず解散。ベルン王子が用意してくださっている宿で身体を休めた後、食事に行こう。各々自由にしていいぞ」
「やっと終わったな」
ワーゼルの言葉にククオルとユヒトもようやく実感を得られたようだ。彼ほどではないが二人とも喜んでいるようだった。肝心のファリスだけはいつも通り。彼女の性格ばっかりは変えようがないだろう。
「ファリス様、お疲れ様です」
「ええ。みんなもご苦労様。王子様の好意を受け取って休んでおいてね」
相変わらず名前は覚えられないから『王子様』とだけ呼んだファリスに『相変わらずだなぁ……』と苦笑いする面々。それでも名前を間違えられるよりはマシだ。オルドなど、未だに覚えられていないのだから。
「ほら、行くわよ。クク、ユヒ、ワー、オルド」
一瞬その場にいる全員がぽかんとした間抜けな表情を浮かべてた。まさか名前を呼ばれる日が来るとは思っていなかったからこそ湧き上がる感情。ファリスが何気なく呼んだからこそ、込み上げてくる思いもひとしおだった。
『はい!』
元気よく寄り添うようについてくる四人。当たり前のように振る舞うファリスは少し満足げだった。
町の中に入ったファリス達を出迎えたのは何が起こっているのかと興味の視線を向けている町の人達だった。ティリアースが援軍に来ている事は理解できているし、魔人族にゴブリン族。鳥車の中には狐人族やオーク族の姿が見えるのだから珍しいものを見たさに視線が向くだろう。もしリュネーの姿が見えていたらそれどころでは済まないところだった。ダークエルフ族の拠点から手に入れた少々頑丈な作りと見た目をしていたのも原因の一つだろう。
「仕方あるまい。そろそろ館に着くのだから我慢するしかないな」
オルドは慣れているからいいが、人に注目されるのに慣れていないワーゼルはどこか落ち着かない様子だった。人が全くいないかあまり多くない村や戦争の影響で閑散としている町を進んできたからまだ問題なかったが、今回は貿易の要となっているルドールの街並みだ。それはもう緊張するのも仕方がないだろう。
「手綱を持つ手が硬いけど大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫だ。問題ない」
ユヒトの心配をよそに結局緊張したまま、ワーゼルはベルンがいる館へと鳥車を進めるのだった。
――
門を守っていた兵士の案内を受けて中に入るとぱたぱたと走ってくる音がした。猫人族の臣下を率いて現れたベルンだった。
彼の表情は真剣そのもので、どれだけリュネーを心配しているか伝わってくる程だ。急ぎながらも決して慌てないように努めながらやってくる姿を確認したワーゼルは静かに鳥車を停める。すぐさま扉を開けてオルドがリュネーをお姫様抱っこして緩やかな動作で降りた。
「リュネー!!」
久しぶりに妹の姿を見たベルンは疲れたように眠っている姿を見ていたたまれない気持ちで声を張り上げていた。汚れた身体やボロボロの服では流石に会わせられないから身なりだけは整えていたが、あざや傷は完全に消すことが出来なかった。治療系の魔導はイメージをするのが難しく、戦争で人が少なくなった町では怪我には塗り薬や包帯で手当てをすることで精一杯というのが現状だった。
ベルンはオルドからリュネーを受け取り、大切そうに抱きしめていた。
「ベルン様。早くお部屋に……」
「頼むにゃ」
受け取ったリュネーを臣下に託し、館の中まで消えるのを見送り、改めてワーゼル達に向き直る。
「ありがとうにゃ。貴殿たちのおかげで無事に妹を取り戻すことが出来たにゃ。本当に感謝しかないにゃ」
そこで頭を下げかけたところをオルドは首を振ってそれを否定する。
「おやめください。私たちは上の命令に従いそれをこなしただけにすぎません。それを次期国王である貴方様が無闇に頭を下げられては、他の兵士達の指揮にも影響します」
「だけど……」
「お気持ちだけありがたく受け取らせていただきます。ですからどうぞそのままでいてください」
感謝だけを受け取ったオルドの言葉を素直に聞いたベルンは少しだけ感極まっている様子だった。王子としての立場や権力を考えればオルドの言う通りであり、例え妹の命を救う事が出来たとしても気軽に頭を下げるべきではないのだ。上の者が下の者にそれをするだけで周囲の者がどう勘違いするかわかったものではないのだから。
「わかったにゃ。この礼は必ずするにゃ。それくらいはいいかにゃ?」
「ありがとうございます」
「今日からしばらくはゆっくりするといいにゃ。食事や泊まるところはボクが手配しているから、気兼ねなく休んで次に備えておいて欲しいにゃ」
オルドの返答を聞いて笑みを浮かべたベルンは即座に踵を返し館に戻っていく。それを見送ったオルドの後ろで安堵するように息を吐いたワーゼルはようやく終わったと気分が晴れた顔をしていた。
「お前達もよくやった。これで私達の任務は終わりだ。まだ戦時中だから気を抜くことは出来ないが、ベルン王子の好意はありがたく受け取っておこう」
とりあえず鳥車を館の広場の隅に止め、全員がそこから降りる。
解放された自由に身体を伸ばし、思い思いに動かしながらひと段落着いたと嬉しそうにしていた。
「今日はひとまず解散。ベルン王子が用意してくださっている宿で身体を休めた後、食事に行こう。各々自由にしていいぞ」
「やっと終わったな」
ワーゼルの言葉にククオルとユヒトもようやく実感を得られたようだ。彼ほどではないが二人とも喜んでいるようだった。肝心のファリスだけはいつも通り。彼女の性格ばっかりは変えようがないだろう。
「ファリス様、お疲れ様です」
「ええ。みんなもご苦労様。王子様の好意を受け取って休んでおいてね」
相変わらず名前は覚えられないから『王子様』とだけ呼んだファリスに『相変わらずだなぁ……』と苦笑いする面々。それでも名前を間違えられるよりはマシだ。オルドなど、未だに覚えられていないのだから。
「ほら、行くわよ。クク、ユヒ、ワー、オルド」
一瞬その場にいる全員がぽかんとした間抜けな表情を浮かべてた。まさか名前を呼ばれる日が来るとは思っていなかったからこそ湧き上がる感情。ファリスが何気なく呼んだからこそ、込み上げてくる思いもひとしおだった。
『はい!』
元気よく寄り添うようについてくる四人。当たり前のように振る舞うファリスは少し満足げだった。
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