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561・解放寸前の緊張感(ファリスside)
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クロイズの襲来以降、ファリス達の旅は特に何もなく平坦であった。今は護衛しなければならない者がいる以上、刺激を求める事などはあり得ないのだが、いつダークエルフ族の襲撃があるかと緊張の連続を体験するよりはいっそ襲撃されて戦った方がいくらかマシだと思う程度には張り詰めていた。
その中でもリュネーは時折目を覚まし、軽くスープなどで食事を行ってまた死んだように眠る。そんなサイクルを続けて少しでも身体を癒そうとしていたため、実質の世話が食事と身体を拭く程度で済んだ事が気休め程度ではあるが誰かの世話をする事で戦いの為に張りつめた空気を和らげられるというささやかな癒しとなっていた。
あと少し。もうちょっと。
ルドールに近づくにつれ感じる安堵に己を叱咤しながら御者をやっているワーゼルやリュネーの看病を行なっているククオル達とは違い、オルドとファリスは落ち着いたものだった。
はたから見たらクロイズという強敵を相手にした結果による燃え尽き症候群にも見えるが、彼女達の頭の中は今でも悔しさと次にどう繋がるか? この敗北をどう糧にするか? で支配されていた。
ほとんど戦っていないワーゼルは別として、オルドもファリスもこのまま引き下がれる程大人しい性格をしていなかった。
「ファリス様、もうすぐこちらの拠点に到着しますけどどうしますか? 一度寄りますか?」
既に自分達の領域に辿り着いている事やいつまでも張りつめていたせいでの疲れもあってか幾分に緊張が和らいでいるワーゼルにため息が溢れた。
いきなりの質問ではあったが、これは彼女達にとって悪くはない提案だった。疲れがピークに近く、食事も携帯食料中心だったせいで美味しい食事が出来る場所がある。暖かいベッドの中で休みたいという感情が心を鷲掴みにする。が――
「今の目的はリュネー姫を速かにルドールで待つベルン王子に届ける事。寄り道したいのはわかるけれど、もう少し我慢して」
「それなら拠点に寄ってワイバーンや鳥車で手紙を届けさせればいいのでは? ベルン王子も一刻も早くリュネー姫の無事が知りたいでしょう」
それに対して反論するユヒトに同意したのはワーゼルだけだった。ファリス以外のククオル、オルドに視線を向けても賛同されず、反対しているような視線を返されるだけ。
「今の疲れから考えると、一度あの拠点に帰ったらしばらく動けなくなるのは間違いない。全員がそれだけ疲労しているのだしね。もし下手に帰って力が抜けて動けなくなりました。後の護衛はお願いします。じゃ格好つかないでしょう?」
「それは……そう、ですね」
論破された形になったワーゼルはまだ何か言おうとしたのだが、結局考えた末に引っ込める事になった。今は同意を得られない事がよくわかったのだから。しかしそこは彼の性格。すぐに方向を切り替える事にした。
「それなら早くルドールまで行ってリュネー姫を届けましょう。俺達も休みたいですしね」
「はっはっは、無事に辿り着けたら酒場で奢ってやる。ユヒトもククオルも一緒にな」
部下を労う上司の話を聞いていたファリスは「わたしは?」と軽く困らせてやろうかと一瞬思ったが、クロイズとの一件で疲れている上に、もしそれで参加するような方向に行かれても困るからだ。酒は飲めない事はないが、他人と飲みの付き合いなんてしたこともないし、するつもりもない。誰かと馴れ合いをしたいわけではないしね……。と淡泊な思いが湧いて出ていたからだ。
「ファリス様もご一緒にどうですか?」
そんな想いを踏みにじるようにククオルがどこか期待しているような視線をファリスに送っていた。彼女はファリスの魔導――特に【幽世の門】や【斬桜血華】のイメージについて興味があった。そのどれもがセツオウカに関係する魔導名である事が理解出来たククオルは、一体どんな景色を見て、なんの書物を読んで知識を身に着け魔導を発動させるイメージに取り入れたのかなど詳しく知りたかったのだ。純粋な好奇心を含んだ誘いにどう答えようかと逡巡する事になった。
「……わたしはいい。あまり人と付き合うのが得意じゃないし。せっかくなんだから四人で思いっきり楽しみなさい」
結局あまり感情を動かさず、適当に面倒そうに話すことで乗り切る事にした。ククオルは残念そうな顔をしていた。
「仕方あるまい。ファリス様にも都合があるのだから」
どうにかして一緒に行きたいと策を弄しようとしているククオルを嗜めるようにオルドは諭した。こんな話が出来るのも既にダークエルフ族の勢力圏を抜け、ルドールまであと少しといったところだからだろう。
(……やっぱりどう言っても気が緩むものなのかも。仕方ないんだろうけどね)
少しだけ浮ついている雰囲気の四人を見ながらこんな雰囲気も悪くないなー、とファリスは思った。
その日は結局ルドールへ辿り着くことが出来ず、更に野宿を過ごす事になった。そして次の日の夕方。ファリス達はようやく目的地を遠目に確認したのだった。
その中でもリュネーは時折目を覚まし、軽くスープなどで食事を行ってまた死んだように眠る。そんなサイクルを続けて少しでも身体を癒そうとしていたため、実質の世話が食事と身体を拭く程度で済んだ事が気休め程度ではあるが誰かの世話をする事で戦いの為に張りつめた空気を和らげられるというささやかな癒しとなっていた。
あと少し。もうちょっと。
ルドールに近づくにつれ感じる安堵に己を叱咤しながら御者をやっているワーゼルやリュネーの看病を行なっているククオル達とは違い、オルドとファリスは落ち着いたものだった。
はたから見たらクロイズという強敵を相手にした結果による燃え尽き症候群にも見えるが、彼女達の頭の中は今でも悔しさと次にどう繋がるか? この敗北をどう糧にするか? で支配されていた。
ほとんど戦っていないワーゼルは別として、オルドもファリスもこのまま引き下がれる程大人しい性格をしていなかった。
「ファリス様、もうすぐこちらの拠点に到着しますけどどうしますか? 一度寄りますか?」
既に自分達の領域に辿り着いている事やいつまでも張りつめていたせいでの疲れもあってか幾分に緊張が和らいでいるワーゼルにため息が溢れた。
いきなりの質問ではあったが、これは彼女達にとって悪くはない提案だった。疲れがピークに近く、食事も携帯食料中心だったせいで美味しい食事が出来る場所がある。暖かいベッドの中で休みたいという感情が心を鷲掴みにする。が――
「今の目的はリュネー姫を速かにルドールで待つベルン王子に届ける事。寄り道したいのはわかるけれど、もう少し我慢して」
「それなら拠点に寄ってワイバーンや鳥車で手紙を届けさせればいいのでは? ベルン王子も一刻も早くリュネー姫の無事が知りたいでしょう」
それに対して反論するユヒトに同意したのはワーゼルだけだった。ファリス以外のククオル、オルドに視線を向けても賛同されず、反対しているような視線を返されるだけ。
「今の疲れから考えると、一度あの拠点に帰ったらしばらく動けなくなるのは間違いない。全員がそれだけ疲労しているのだしね。もし下手に帰って力が抜けて動けなくなりました。後の護衛はお願いします。じゃ格好つかないでしょう?」
「それは……そう、ですね」
論破された形になったワーゼルはまだ何か言おうとしたのだが、結局考えた末に引っ込める事になった。今は同意を得られない事がよくわかったのだから。しかしそこは彼の性格。すぐに方向を切り替える事にした。
「それなら早くルドールまで行ってリュネー姫を届けましょう。俺達も休みたいですしね」
「はっはっは、無事に辿り着けたら酒場で奢ってやる。ユヒトもククオルも一緒にな」
部下を労う上司の話を聞いていたファリスは「わたしは?」と軽く困らせてやろうかと一瞬思ったが、クロイズとの一件で疲れている上に、もしそれで参加するような方向に行かれても困るからだ。酒は飲めない事はないが、他人と飲みの付き合いなんてしたこともないし、するつもりもない。誰かと馴れ合いをしたいわけではないしね……。と淡泊な思いが湧いて出ていたからだ。
「ファリス様もご一緒にどうですか?」
そんな想いを踏みにじるようにククオルがどこか期待しているような視線をファリスに送っていた。彼女はファリスの魔導――特に【幽世の門】や【斬桜血華】のイメージについて興味があった。そのどれもがセツオウカに関係する魔導名である事が理解出来たククオルは、一体どんな景色を見て、なんの書物を読んで知識を身に着け魔導を発動させるイメージに取り入れたのかなど詳しく知りたかったのだ。純粋な好奇心を含んだ誘いにどう答えようかと逡巡する事になった。
「……わたしはいい。あまり人と付き合うのが得意じゃないし。せっかくなんだから四人で思いっきり楽しみなさい」
結局あまり感情を動かさず、適当に面倒そうに話すことで乗り切る事にした。ククオルは残念そうな顔をしていた。
「仕方あるまい。ファリス様にも都合があるのだから」
どうにかして一緒に行きたいと策を弄しようとしているククオルを嗜めるようにオルドは諭した。こんな話が出来るのも既にダークエルフ族の勢力圏を抜け、ルドールまであと少しといったところだからだろう。
(……やっぱりどう言っても気が緩むものなのかも。仕方ないんだろうけどね)
少しだけ浮ついている雰囲気の四人を見ながらこんな雰囲気も悪くないなー、とファリスは思った。
その日は結局ルドールへ辿り着くことが出来ず、更に野宿を過ごす事になった。そして次の日の夕方。ファリス達はようやく目的地を遠目に確認したのだった。
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