557 / 676
557・クロイズの実力(オルドside)
しおりを挟む
先制攻撃をしたのはオルドだった。元々満足な武装を持っていない彼には自らの肉体と拳で戦うしか方法はない。接近したオルドは下からかち上げる形で拳を繰り出す。その巨体や動きに似合わない程の拳速がクロイズに迫るが、彼はそれをじっと見つめていた。観察している様子のクロイズは右に避けるか左に避けるか悩む様に身体を動かし、結局迫りくる拳に手を当ててそっと受け流す防御を選択した。鋭い音と共に盛大に空振りをしたオルドの懐に潜り込んだクロイズ。このままでは防御の体勢が間に合わずに確実に一撃が当たる体勢だが、クロイズの瞳に油断はない。ただ相手の動きを見ているだけだ。
「【アースソーン】!」
オルドの足元の地面の一部が盛り上がり、茨の棘のようなものが複数生えてクロイズに襲い掛かる。彼の身体はまるで弾けたかのように後ろに下がり、改めて距離を取る。対するオルドは先程対峙した時と同じ構えに戻っていた。
「なるほど。力自慢一辺倒……という訳ではないようだな」
感心するクロイズ。その楽し気な様子すらどこか他人事。まるで今の戦いを第三者の目で観戦しているかのようだ。
「まだまだ! 【フィジカルブースト】!!」
同じ程度に距離が開き、最初に戻ったか……と思われた直後に再びオルドが攻勢を仕掛けた。全身に魔力が満ち溢れ、身体の筋肉が更に引き締まり、少々小さくなったかのような錯覚を周囲に与える。ファリスが目を見見開いている間にもオルドは先程とは比べ物にならない速さで距離を詰め、軽い攻撃が放たれる。最初のアッパーよりも明らかに違う速度で放たれる鋭いジャブ。あまり威力はないが、確実に相手に当てる事を意識した拳だ。
(へぇ……中々やるじゃない。魔導で身体能力の底上げを図って繰り出す軽い一撃。相手を倒す為じゃなくて次に繋げる為の技だから隙も最小限で済む。あの子の素早い身のこなしを見ての判断ね。これはわかっていてもそうそう出来る事じゃない)
クロイズの素早さに合わせた戦い方はオルド本来の戦法には適していない。彼は相手の一撃を受け止め、より重く威力のある攻撃を繰り出すことを得意としている。それは共に戦ってきて何となくファリスも理解していた。だからこそクロイズの体格や身のこなしに合わせた戦い方をするとは思わなかったのだ。
それは相対しているクロイズにも予想外の事だったらしく、剛の拳が彼の顔面を捉える。続けざまに放たれるジャブの嵐が身体中に襲い掛かる。通常の人同士の簡単な殴り合いでも体格差から鈍く重い痛みが伝わってきて行動を鈍らせるだろうに、クロイズの動きは精彩を欠かない。まるで全く効いていないかのようだ。
(くっ……平静な顔をしている。手ごたえは確かに感じているのになんだこの感じは? 嫌な予感がする。まるで大木に拳を打ち込んでいるような気分になる)
軽い攻撃ではあるものの、何度も打ち込んでいればそれなりにダメージがあって当然なのだ。徐々に握る拳が強くなり、ジャブと呼べるものからストレートな殴りに変貌していく。
「【パワーナックラー】!」
最後には魔導によって拳を強化し、一気に決めるつもりで上半身をしならせ、力の限り振り抜く。完全に相手の命を奪う一撃。しかしクロイズの目はそれを待っていたと言うかのようになる上体を倒し、迫り来る拳を顔面すれすれで避けたクロイズはそのまま手をかざして――
「【アイスバーン】」
懐に飛び込まず、魔導を発動させる。近接戦を仕掛けてくると予想していたオルドは片手で防御出来る姿勢を保っていたが、予想に反してから攻めてこなかったのに疑問を感じる。彼の放った魔導は攻撃系ではなく、地面に氷を這わせる程度のものでしかなかった。それに対して侮りや油断があったわけではない。しかしもっと強力な魔導を唱えてくると思っていたからこそ、この現象には拍子抜けしてしまった。
だからこそ気付けずに足を踏み入れてしまったのだ。力強く踏み荒せば割れてしまいそうな薄氷。無造作に踏みつけた瞬間、足元の氷は牙を剥いた。
「……な、なに!?」
ビキビキと音を立てて足と地面を縫い付けるように凍り付いてしまう。いくら足を動かそうとしてもびくともせず、完全に接着している様子だった。唯一の救いがあるとすれば足具が凍り付いているだけでオルドの足自体にはダメージがないことくらいだろう。慌てるオルドを嘲笑うように緩やかな仕草で距離を詰めたクロイズはそっとオルドの顎に手のひらを当て、素早い動きで掌底を繰り出した。まるで今から攻撃しますよと言いたげな予備動作の跡に放たれたその一撃は通常であればさほどダメージ与える事が出来ないはずだった。しかし顎に掌底を喰らったオルドはあっけなく上体を逸らし、ゆっくりと倒れる。
倒れたオルドはクロイズの【アイスバーン】の効果で身体ごと地面に縫い付けられてしまう。
「くぅっ……こ、の……!」
身動きが取れなくなったオルドは何とか身体を動かそうとするがびくともしない。その間にもクロイズは彼に手をかざし――
「終わり、ね」
ここからオルドが抜け出すことは出来ない。一歩でも動けば即座に魔導で撃ち抜かれる……。そんな状況で何か出来る訳もなく、彼が挑んだ戦いは終わりを告げてしまった。
「【アースソーン】!」
オルドの足元の地面の一部が盛り上がり、茨の棘のようなものが複数生えてクロイズに襲い掛かる。彼の身体はまるで弾けたかのように後ろに下がり、改めて距離を取る。対するオルドは先程対峙した時と同じ構えに戻っていた。
「なるほど。力自慢一辺倒……という訳ではないようだな」
感心するクロイズ。その楽し気な様子すらどこか他人事。まるで今の戦いを第三者の目で観戦しているかのようだ。
「まだまだ! 【フィジカルブースト】!!」
同じ程度に距離が開き、最初に戻ったか……と思われた直後に再びオルドが攻勢を仕掛けた。全身に魔力が満ち溢れ、身体の筋肉が更に引き締まり、少々小さくなったかのような錯覚を周囲に与える。ファリスが目を見見開いている間にもオルドは先程とは比べ物にならない速さで距離を詰め、軽い攻撃が放たれる。最初のアッパーよりも明らかに違う速度で放たれる鋭いジャブ。あまり威力はないが、確実に相手に当てる事を意識した拳だ。
(へぇ……中々やるじゃない。魔導で身体能力の底上げを図って繰り出す軽い一撃。相手を倒す為じゃなくて次に繋げる為の技だから隙も最小限で済む。あの子の素早い身のこなしを見ての判断ね。これはわかっていてもそうそう出来る事じゃない)
クロイズの素早さに合わせた戦い方はオルド本来の戦法には適していない。彼は相手の一撃を受け止め、より重く威力のある攻撃を繰り出すことを得意としている。それは共に戦ってきて何となくファリスも理解していた。だからこそクロイズの体格や身のこなしに合わせた戦い方をするとは思わなかったのだ。
それは相対しているクロイズにも予想外の事だったらしく、剛の拳が彼の顔面を捉える。続けざまに放たれるジャブの嵐が身体中に襲い掛かる。通常の人同士の簡単な殴り合いでも体格差から鈍く重い痛みが伝わってきて行動を鈍らせるだろうに、クロイズの動きは精彩を欠かない。まるで全く効いていないかのようだ。
(くっ……平静な顔をしている。手ごたえは確かに感じているのになんだこの感じは? 嫌な予感がする。まるで大木に拳を打ち込んでいるような気分になる)
軽い攻撃ではあるものの、何度も打ち込んでいればそれなりにダメージがあって当然なのだ。徐々に握る拳が強くなり、ジャブと呼べるものからストレートな殴りに変貌していく。
「【パワーナックラー】!」
最後には魔導によって拳を強化し、一気に決めるつもりで上半身をしならせ、力の限り振り抜く。完全に相手の命を奪う一撃。しかしクロイズの目はそれを待っていたと言うかのようになる上体を倒し、迫り来る拳を顔面すれすれで避けたクロイズはそのまま手をかざして――
「【アイスバーン】」
懐に飛び込まず、魔導を発動させる。近接戦を仕掛けてくると予想していたオルドは片手で防御出来る姿勢を保っていたが、予想に反してから攻めてこなかったのに疑問を感じる。彼の放った魔導は攻撃系ではなく、地面に氷を這わせる程度のものでしかなかった。それに対して侮りや油断があったわけではない。しかしもっと強力な魔導を唱えてくると思っていたからこそ、この現象には拍子抜けしてしまった。
だからこそ気付けずに足を踏み入れてしまったのだ。力強く踏み荒せば割れてしまいそうな薄氷。無造作に踏みつけた瞬間、足元の氷は牙を剥いた。
「……な、なに!?」
ビキビキと音を立てて足と地面を縫い付けるように凍り付いてしまう。いくら足を動かそうとしてもびくともせず、完全に接着している様子だった。唯一の救いがあるとすれば足具が凍り付いているだけでオルドの足自体にはダメージがないことくらいだろう。慌てるオルドを嘲笑うように緩やかな仕草で距離を詰めたクロイズはそっとオルドの顎に手のひらを当て、素早い動きで掌底を繰り出した。まるで今から攻撃しますよと言いたげな予備動作の跡に放たれたその一撃は通常であればさほどダメージ与える事が出来ないはずだった。しかし顎に掌底を喰らったオルドはあっけなく上体を逸らし、ゆっくりと倒れる。
倒れたオルドはクロイズの【アイスバーン】の効果で身体ごと地面に縫い付けられてしまう。
「くぅっ……こ、の……!」
身動きが取れなくなったオルドは何とか身体を動かそうとするがびくともしない。その間にもクロイズは彼に手をかざし――
「終わり、ね」
ここからオルドが抜け出すことは出来ない。一歩でも動けば即座に魔導で撃ち抜かれる……。そんな状況で何か出来る訳もなく、彼が挑んだ戦いは終わりを告げてしまった。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる