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556・鮮烈な出会い(ファリスside)
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唐突な出来事に思考がついていけていない全員だったが、最初に動き出したのはファリスだった。
幸いにも転倒は免れていた為、すぐさま扉を開いて外に降り立つ。夕陽を眺めてはいるが実際は鳥車の道を塞ぐように立っているのは間違いなかった。
「……あなた、誰?」
警戒心を露わにして淡々と目の前の敵に問いかける。背格好は少年と呼ぶに相応しく、こんな道の真ん中で一人で佇んでいる。少なくともティリアース軍に黒竜人族はおらず、味方と呼ぶには乏しい現状では敵と認識しても何ら差し支えなかっただろう。
問いかけられた方は何を思っているのか軽く首を傾げてじーっと見つめていたのだ。
興味深いものでも見ているような視線。変に気持ち悪いものではなく、純粋な好奇心によるものだった。
「な、なに?」
たじろぐファリスに構わず顔を上下に動かしてまじまじと見つめる彼の視線を遮るようにワーゼルが立ちはだかる。それに対して見つめていた彼は全く興味を抱けていないのかしらっとした表情をしている。
「ふむ、これが黒の末裔――聖黒族か。なるほど……惜しいな」
「惜しい?」
一人でぶつぶつと呟いている少年の視線は絶えずファリスに向けられている。完全に無視されているワーゼルは苛立つように歩み出て少年の身体を持ち上げて適当な場所に置こうとしたのだが――それに反してするっと避けて横切るようにファリスの前に躍り出た。鮮やかなやり方。向かってきた相手と軽く横切るような真似など誰もがそう簡単に出来るものではない。
「……何? もう一度聞くけど、あなたは誰?」
他の事など眼中にないとでも言うかのような振舞いに流石にファリスも我慢が出来なくなって強い口調で尋ねた。いきなりぶつくさと独り言を呟いているなど、気味が悪い事この上ない。ファリスが起こるのも無理がなかった。
「我の事は『クロイズ』と呼んでもらっても差し支えない」
にこりとその純粋そうな顔立ちからはあまり想像がつかないような強者としての笑みを浮かべていた。
「そう。それで、なんの用? わたし達は急いでいるのだけれど」
「汝に興味があってな。つい間近で見てみようと思ったのだ」
全く悪びれもせずに無遠慮な視線を向けていたクロイズの行動に最初にキレたのはもちろんワーゼルだった。
「……おい、なんでこっちは無視するんだ!」
「ん? ああ、有象無象の者に興味など粒も湧かぬものでな。許せ」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てたおかげかようやくワーゼルの方にも意識が向いたが――それに対しても別に何の感情も篭っていないように聞こえるほどの冷淡な声音。それはより一層ワーゼルの神経を逆なでる。
「この……!」
小馬鹿にした態度にもとれるそれに限界を感じたワーゼルは怒りにまかせて拳を突き出した。しかしそれは容易く受け止められ、手首を握られ引っ張られてしまう。まさか受け止められるとは思っていなかったワーゼルは驚きのあまり何の抵抗もなく体勢を崩してしまい――何もされずにただ地面に倒れてしまう。
別にこれが彼の恩情という訳ではない。純粋に興味がなかったわけであり、ワーゼルが悪意を持って戦ってきた訳でもない事を理解していたからだ。
「……なんでもいいんですけど、その不躾な視線を向けるのはやめてくれない? かなり不快だから」
「ふむ、ならどうする? 戦うか?」
相変わらずじろじろと見ているクロイズにいい加減うんざりとしていたファリスは彼の誘いに応じる事にした。理由は至極単純。クロイズがここにいる限り自分達は先に進めないだろうという確信だ。こんな風に邪魔をしている相手がそう簡単にどこかに消えるなんて考えにくい。何度も同じやり取りを繰り返すよりはさっさと戦って満足させた方が早い。
「……はぁ、わかった。戦えばいいんでしょう?」
「ファリス様!」
若干投げやりな返答を行っていると、ようやく鳥車の外から出てきたオルドが遮るように大きな声を上げる。どうやら彼女達の話の一部始終を聞いていたそうで、肩を怒らせながらファリスとクロイズの間に立ちふさがった。
「ちょ、オットン?」
「まずは割って入る失礼にお許しを。しかし、貴女様が戦うのであればこちらも黙ってみている訳にはいきません。ククオルがリュネー姫を守ってくれるそうですので、まずは私が代わりにお相手致します」
正々堂々と見返すオルドに対し、クロイズは相変わらず興味が湧かないのかため息を一つ漏らしていた。
「哀れ。相対した者の実力すら見抜けぬとはな」
「そうよ。あなたじゃ絶対に勝てな――」
「全て承知の上です」
クロイズとファリスの言葉も今から対峙するであろう彼の実力もわかっていた。その上で、自分が立ちはだかるのだと宣言したのだ。
「理解出来ぬな。わかっているのであれば何故立ち向かう? 無意味に散らす程無価値な命でもあるまい」
「それは私がティリアースに仕えており、彼女は次期女王陛下となられる御方の大切にされている方です。守るのが私の仕事であるならば、私はそれを全うするのみ。例え強大な存在であっても」
オルドの力強い瞳にクロイズの態度は先程の様子から一変した。
「なるほど……覚悟を持った者という訳か。良いだろう。ならば前座として見事務めて見せよ」
ぐっとたたかう姿勢を取るクロイズに、合わせて様子を見るオルド。
そして残されたのは、仕方ないから戦ってやるかと面倒臭そうにしていたファリスと、あまりの急な展開についていけないククオルだけだった。
幸いにも転倒は免れていた為、すぐさま扉を開いて外に降り立つ。夕陽を眺めてはいるが実際は鳥車の道を塞ぐように立っているのは間違いなかった。
「……あなた、誰?」
警戒心を露わにして淡々と目の前の敵に問いかける。背格好は少年と呼ぶに相応しく、こんな道の真ん中で一人で佇んでいる。少なくともティリアース軍に黒竜人族はおらず、味方と呼ぶには乏しい現状では敵と認識しても何ら差し支えなかっただろう。
問いかけられた方は何を思っているのか軽く首を傾げてじーっと見つめていたのだ。
興味深いものでも見ているような視線。変に気持ち悪いものではなく、純粋な好奇心によるものだった。
「な、なに?」
たじろぐファリスに構わず顔を上下に動かしてまじまじと見つめる彼の視線を遮るようにワーゼルが立ちはだかる。それに対して見つめていた彼は全く興味を抱けていないのかしらっとした表情をしている。
「ふむ、これが黒の末裔――聖黒族か。なるほど……惜しいな」
「惜しい?」
一人でぶつぶつと呟いている少年の視線は絶えずファリスに向けられている。完全に無視されているワーゼルは苛立つように歩み出て少年の身体を持ち上げて適当な場所に置こうとしたのだが――それに反してするっと避けて横切るようにファリスの前に躍り出た。鮮やかなやり方。向かってきた相手と軽く横切るような真似など誰もがそう簡単に出来るものではない。
「……何? もう一度聞くけど、あなたは誰?」
他の事など眼中にないとでも言うかのような振舞いに流石にファリスも我慢が出来なくなって強い口調で尋ねた。いきなりぶつくさと独り言を呟いているなど、気味が悪い事この上ない。ファリスが起こるのも無理がなかった。
「我の事は『クロイズ』と呼んでもらっても差し支えない」
にこりとその純粋そうな顔立ちからはあまり想像がつかないような強者としての笑みを浮かべていた。
「そう。それで、なんの用? わたし達は急いでいるのだけれど」
「汝に興味があってな。つい間近で見てみようと思ったのだ」
全く悪びれもせずに無遠慮な視線を向けていたクロイズの行動に最初にキレたのはもちろんワーゼルだった。
「……おい、なんでこっちは無視するんだ!」
「ん? ああ、有象無象の者に興味など粒も湧かぬものでな。許せ」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てたおかげかようやくワーゼルの方にも意識が向いたが――それに対しても別に何の感情も篭っていないように聞こえるほどの冷淡な声音。それはより一層ワーゼルの神経を逆なでる。
「この……!」
小馬鹿にした態度にもとれるそれに限界を感じたワーゼルは怒りにまかせて拳を突き出した。しかしそれは容易く受け止められ、手首を握られ引っ張られてしまう。まさか受け止められるとは思っていなかったワーゼルは驚きのあまり何の抵抗もなく体勢を崩してしまい――何もされずにただ地面に倒れてしまう。
別にこれが彼の恩情という訳ではない。純粋に興味がなかったわけであり、ワーゼルが悪意を持って戦ってきた訳でもない事を理解していたからだ。
「……なんでもいいんですけど、その不躾な視線を向けるのはやめてくれない? かなり不快だから」
「ふむ、ならどうする? 戦うか?」
相変わらずじろじろと見ているクロイズにいい加減うんざりとしていたファリスは彼の誘いに応じる事にした。理由は至極単純。クロイズがここにいる限り自分達は先に進めないだろうという確信だ。こんな風に邪魔をしている相手がそう簡単にどこかに消えるなんて考えにくい。何度も同じやり取りを繰り返すよりはさっさと戦って満足させた方が早い。
「……はぁ、わかった。戦えばいいんでしょう?」
「ファリス様!」
若干投げやりな返答を行っていると、ようやく鳥車の外から出てきたオルドが遮るように大きな声を上げる。どうやら彼女達の話の一部始終を聞いていたそうで、肩を怒らせながらファリスとクロイズの間に立ちふさがった。
「ちょ、オットン?」
「まずは割って入る失礼にお許しを。しかし、貴女様が戦うのであればこちらも黙ってみている訳にはいきません。ククオルがリュネー姫を守ってくれるそうですので、まずは私が代わりにお相手致します」
正々堂々と見返すオルドに対し、クロイズは相変わらず興味が湧かないのかため息を一つ漏らしていた。
「哀れ。相対した者の実力すら見抜けぬとはな」
「そうよ。あなたじゃ絶対に勝てな――」
「全て承知の上です」
クロイズとファリスの言葉も今から対峙するであろう彼の実力もわかっていた。その上で、自分が立ちはだかるのだと宣言したのだ。
「理解出来ぬな。わかっているのであれば何故立ち向かう? 無意味に散らす程無価値な命でもあるまい」
「それは私がティリアースに仕えており、彼女は次期女王陛下となられる御方の大切にされている方です。守るのが私の仕事であるならば、私はそれを全うするのみ。例え強大な存在であっても」
オルドの力強い瞳にクロイズの態度は先程の様子から一変した。
「なるほど……覚悟を持った者という訳か。良いだろう。ならば前座として見事務めて見せよ」
ぐっとたたかう姿勢を取るクロイズに、合わせて様子を見るオルド。
そして残されたのは、仕方ないから戦ってやるかと面倒臭そうにしていたファリスと、あまりの急な展開についていけないククオルだけだった。
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