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549・投入されるもの(ファリスside)
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「ひ、引け! 全員、引けぇぇぇぇぇ!!」
二色の蝶が異なった地獄を演出していた。次々と死へと誘われる光景に恐れを抱き言葉を失っていた指揮官だったが、なんとか正気を取り戻して激怒するように大声を上げて指示を飛ばす。これ以上犠牲を増やさないようにするためには効果的であり、それはファリス達にも理想的な状況だった。
「今のうちに行きましょう!」
崩れていた敬語を元に戻したワーゼルは一目散に走る。ユヒトとククオルは彼に付いて行き、ファリスが殿となって歩き出した。三人と違って悠長なのは、それだけ自分に自信があるという証拠だろうか。
「隊長!!」
嬉しさに感極まった声音で呼びかけるワーゼルににやりと笑みで応えるオルド。しかしそれも束の間、すぐに眉をしかめて怒りの視線を向けた。
「上手くいったようだな。だったら何でここに――」
「わたしが良いって言ったの。あなたをやすやすと手放すべきじゃないってね」
本当にそう思っているのか怪しい程度に表情がわからないファリス。だがそれを気にする様子もなく、目をぱちぱちとさせるオルドは苦笑いを浮かべた。
「わざわざ来ていただけるとは思いませんでしたよ」
「一応見捨てたら後味悪いかもって思う程度には評価してるからね」
だったら名前を覚えてくださいよ……とは口には出せないワーゼルは、仕方なく顔で抗議してみる。それはやはり届かない。
「さて、合流もできたし……後は撤収するだけね」
「既に撤収というより凱旋って感じですけどね」
ファリスとククオルの魔導でダークエルフ族はかなり消耗していた。それでも戦えるのは彼らにはそれしかないからだろう。
「……みすみす逃すと思っているのか?」
近づいていた指揮官が恨みをぶつけるように睨みつける。ワーゼル達はそれに警戒するも、ファリス一人が涼しげに受け入れていた。
「思ってるけど。あなた程度じゃわたし達を止められないでしょう?」
「ちっ、一々苛立つ言い方をする女だ。流石、聖黒族の血ってわけか」
指揮官の男は侮蔑のこもった視線をファリスに向ける。聖黒族というだけで彼らにとっては忌むべき存在なのだ。例えそれが自分達の創り出したとしても。
「だがどうする? ここにはまだ兵士が大勢いる。いくら無類の強さを誇るお前達でも簡単には突破できまい。更に――」
指揮官の男が手を高く振り上げると、彼らが扱っている兵器の数々が姿を表した。狼型のゴーレム・クーティノスとワニガメ型のゴーレム・メルシャタ。そしてアーマーゴレムと見たことのない大砲のようなものをもつダークエルフ族。そして、異様な雰囲気を放つ人型の学習ゴーレム・ファシャルマー(ティリアース陣営は『グロウゴレム』と呼称しているもの)だった。
「――ッ!? 【フラムブランシュ】!!」
フィシャルマーを見た瞬間、ファリスはぞくりと背筋が凍るような感覚を味わい、条件反射のように魔導を発動させる。いきなりの出来事にワーゼル達は驚いた。彼女が顔を強張らせて唐突に魔導を放つなど有り得なかったのだ。
熱線がフィシャルマーを焼き払って周囲のダークエルフ族にも被害を及ぼす――はずだった。
「な、う、嘘……だろ……」
驚愕をそのまま声に現したのはワーゼルだった。あまりにも信じられない光景だったのか、普段の口調も全く感じさせない程の惚けた声。気持ちはククオルもユヒトも……オルドすら同じだっただろう。異様な雰囲気を放っていたフィシャルマーはファリスの全力に近い【フラムブランシュ】を真正面から受け止めたのだ。左腕に装着されていた盾を構えて腰を落とした状態で動かないその姿は、彼女の魔導を完全に受け止めた事の表れだった。
「……ふぅん。面白いじゃない」
愕然としているオルド達の中で一人。笑みを作るファリス。それは今までのどこか退屈そうな表情とはまるで違う。目の前のゴーレムを完全に敵として認識したのだ。自らが一番得意としている魔導を受け止められれば、普通ならこんな好戦的になれる訳もない。しかし、彼女は違う。聖黒族であり、エールティアを愛し、それに近づこうと奮闘している少女なのだ。並の精神をしている訳がなかった。
「は、ははは、見たか。これが対聖黒族の装備を施した『フィシャルマー・ウォーリア』だ!」
表情を引きつらせていた指揮官だったが、自分達に一切被害が出ていない事を理解すると増長し始めた。調子に乗ってしまったら口が軽くなってしまうのも致し方ない。結果、グロウゴレムの正式名称が彼らに伝わる事になり、今後はそのように呼ばれていくのだが……この時の彼らには関係のない事であった。
「ファリス様、私達はどうすれば――」
「敵への警戒を怠らない事。危険な攻撃が来ないように食糧庫を盾にしながら進んでいつでも逃走出来るようにしておくこと。最後に……」
少し溜めるファリス。
「……あれはわたしが壊す。だから下手な事はしないように、ね」
久しぶりに本気で戦える相手を見つけた。興奮した瞳は『邪魔をしたら殺す』と暗にそう語っていた。圧力を感じたワーゼル達はただ頷くしか出来ないのであった。
二色の蝶が異なった地獄を演出していた。次々と死へと誘われる光景に恐れを抱き言葉を失っていた指揮官だったが、なんとか正気を取り戻して激怒するように大声を上げて指示を飛ばす。これ以上犠牲を増やさないようにするためには効果的であり、それはファリス達にも理想的な状況だった。
「今のうちに行きましょう!」
崩れていた敬語を元に戻したワーゼルは一目散に走る。ユヒトとククオルは彼に付いて行き、ファリスが殿となって歩き出した。三人と違って悠長なのは、それだけ自分に自信があるという証拠だろうか。
「隊長!!」
嬉しさに感極まった声音で呼びかけるワーゼルににやりと笑みで応えるオルド。しかしそれも束の間、すぐに眉をしかめて怒りの視線を向けた。
「上手くいったようだな。だったら何でここに――」
「わたしが良いって言ったの。あなたをやすやすと手放すべきじゃないってね」
本当にそう思っているのか怪しい程度に表情がわからないファリス。だがそれを気にする様子もなく、目をぱちぱちとさせるオルドは苦笑いを浮かべた。
「わざわざ来ていただけるとは思いませんでしたよ」
「一応見捨てたら後味悪いかもって思う程度には評価してるからね」
だったら名前を覚えてくださいよ……とは口には出せないワーゼルは、仕方なく顔で抗議してみる。それはやはり届かない。
「さて、合流もできたし……後は撤収するだけね」
「既に撤収というより凱旋って感じですけどね」
ファリスとククオルの魔導でダークエルフ族はかなり消耗していた。それでも戦えるのは彼らにはそれしかないからだろう。
「……みすみす逃すと思っているのか?」
近づいていた指揮官が恨みをぶつけるように睨みつける。ワーゼル達はそれに警戒するも、ファリス一人が涼しげに受け入れていた。
「思ってるけど。あなた程度じゃわたし達を止められないでしょう?」
「ちっ、一々苛立つ言い方をする女だ。流石、聖黒族の血ってわけか」
指揮官の男は侮蔑のこもった視線をファリスに向ける。聖黒族というだけで彼らにとっては忌むべき存在なのだ。例えそれが自分達の創り出したとしても。
「だがどうする? ここにはまだ兵士が大勢いる。いくら無類の強さを誇るお前達でも簡単には突破できまい。更に――」
指揮官の男が手を高く振り上げると、彼らが扱っている兵器の数々が姿を表した。狼型のゴーレム・クーティノスとワニガメ型のゴーレム・メルシャタ。そしてアーマーゴレムと見たことのない大砲のようなものをもつダークエルフ族。そして、異様な雰囲気を放つ人型の学習ゴーレム・ファシャルマー(ティリアース陣営は『グロウゴレム』と呼称しているもの)だった。
「――ッ!? 【フラムブランシュ】!!」
フィシャルマーを見た瞬間、ファリスはぞくりと背筋が凍るような感覚を味わい、条件反射のように魔導を発動させる。いきなりの出来事にワーゼル達は驚いた。彼女が顔を強張らせて唐突に魔導を放つなど有り得なかったのだ。
熱線がフィシャルマーを焼き払って周囲のダークエルフ族にも被害を及ぼす――はずだった。
「な、う、嘘……だろ……」
驚愕をそのまま声に現したのはワーゼルだった。あまりにも信じられない光景だったのか、普段の口調も全く感じさせない程の惚けた声。気持ちはククオルもユヒトも……オルドすら同じだっただろう。異様な雰囲気を放っていたフィシャルマーはファリスの全力に近い【フラムブランシュ】を真正面から受け止めたのだ。左腕に装着されていた盾を構えて腰を落とした状態で動かないその姿は、彼女の魔導を完全に受け止めた事の表れだった。
「……ふぅん。面白いじゃない」
愕然としているオルド達の中で一人。笑みを作るファリス。それは今までのどこか退屈そうな表情とはまるで違う。目の前のゴーレムを完全に敵として認識したのだ。自らが一番得意としている魔導を受け止められれば、普通ならこんな好戦的になれる訳もない。しかし、彼女は違う。聖黒族であり、エールティアを愛し、それに近づこうと奮闘している少女なのだ。並の精神をしている訳がなかった。
「は、ははは、見たか。これが対聖黒族の装備を施した『フィシャルマー・ウォーリア』だ!」
表情を引きつらせていた指揮官だったが、自分達に一切被害が出ていない事を理解すると増長し始めた。調子に乗ってしまったら口が軽くなってしまうのも致し方ない。結果、グロウゴレムの正式名称が彼らに伝わる事になり、今後はそのように呼ばれていくのだが……この時の彼らには関係のない事であった。
「ファリス様、私達はどうすれば――」
「敵への警戒を怠らない事。危険な攻撃が来ないように食糧庫を盾にしながら進んでいつでも逃走出来るようにしておくこと。最後に……」
少し溜めるファリス。
「……あれはわたしが壊す。だから下手な事はしないように、ね」
久しぶりに本気で戦える相手を見つけた。興奮した瞳は『邪魔をしたら殺す』と暗にそう語っていた。圧力を感じたワーゼル達はただ頷くしか出来ないのであった。
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