545 / 676
545・傷ついた精神(ファリスside)
しおりを挟む
手も足も枷をされ、厳重に拘束されていたリュネーはあちこちにアザが出来ており、口の中が切れていたりと怪我はあるが、扱いの割には妙に怪我をしていない。そのことに疑問を感じたファリスだったが、そういえば魔導で身体を癒していたっけと思い直していた。
「ちょっと、大丈夫?」
かなり神経が擦り切れていたのか、助けてくれた安堵からか意識を失って動かなくなってしまったのだ。ファリスはこれに困ってしまう。とりあえずなんとか背中に乗せて移動することにした。
「【アップボディ】」
(こういう時、ティアちゃんなら傷を癒したり起こしたりするんだろうな。わたしにはとても出来ないけど)
治癒魔導なんて扱える訳もないファリスは、仕方がないから全身の能力を強化する魔導を発動させてリュネーを背負う事にした。魔導を発動させているとはいえ想像以上の軽さに驚きながらもしっかりと背負い急ぎ足で来た道を引き返す。扉を吹き飛ばしてしまった以上、ここに侵入者がやってきたことはバレていると考えた方が良い。甘い妄想はしない事がファリスの考えだった。どう考えてもあり得ない事を夢想するより現実を直視して対処する。そうしなければ戦場で生きていけるはずもない。
軽やかな足取りで駆け抜ける彼女はここがダークエルフ族の地下施設ではなくて安堵をしていた。埋め立てられたり、迷路を作られて印をつけていないと道に迷ってしまったりとかもない。階段の上り下りを繰り返していてから多少改修はしている事を感じていたが、それでも彼らが直接関わったような入り組み方はしていなかったため、彼女も比較的何もせずに進んでいた。
「止まれ!!」
駆け抜けている最中、一直線になっている通路を遮るように立ちはだかるダークエルフ族の兵士。
「【フラムブランシュ】!」
威力を絞った炎の光線を繰り出す。少し迷ったようだが、今更音に気にすることはない。人造創具を手にしても良かったのだが、背負っているものが邪魔になるであろう事もあって魔導に選択した。
通路全体が炎に埋め尽くされ、消え失せた後にはその兵士は消し炭になってしまった。逃げ場はないし、魔導の発動が間に合わなかったからか防ぐ事も出来ない。必然の出来事だった。
それから二度ほど接敵するが、特に問題もなく対処。魔導による反撃もあったが、ファリスと一般兵士では戦闘力が違い過ぎた。風の球を放り投げてきたがファリスの【フラムブランシュ】によってあっという間に飲み込まれ、最初の兵士と同じ末路を辿ってしまった。
施設の外へと出て行ったファリスは出てすぐに襲撃があると思っていたのだが、予想に反して誰もいない。それどころか門の方で倒れていた兵士すらそのままの状態だった。
(おかしい。多少騒動はあったと思うのだけど、なんでほとんど人が来ないのだろう? わたし以外の誰かが囮になっているのはわかるんだけど、それでも注意がそっちに向きすぎているというか……)
「ファリス様!!」
何か違和感のある今の状況だったが、その思考を遮ったのはオルドから分かれた三人だった。
「えっと……誰?」
しかし、ファリスが彼らの事を覚えているはずもなく、心底知らない人を見るような目で彼らに接していた。もしこの中にエルフ族が存在したら間違いなく襲われていただろう程の初対面っぷりだ。その事に彼らは若干呆れた顔で彼女を見た。
「いい加減名前を覚えてくださいよ……」
「だったらもう少し強くなって」
とりあえず自分が連れてきた兵士の誰かであると判断したファリスは諫めるユヒトに辛辣に返した。強い者や自分が認めた者以外はどうでもいいという彼女の考えそのものだ。
「一応私達が誰かはわかりますよね……?」
「ドルオと一緒にきた兵士達でしょう」
「ファリス様……オルド隊長です」
がっくりと肩を落としていたワーゼルはこれ以上言っても仕方がないと気持ちを切り替える事にした。ファリスはルォーグくらいしか名前を覚えていない事を知っていたからだ。
「こほん……それで、その方がリュネー姫……ですか?」
疑問をぶつけるような顔をしていたのは、あまりにもみすぼらしい恰好をしていたからだ。猫耳と尻尾が生えていなければわからないくらいに。
「多分ね。他にこんな姿をした子はいないだろうし、他に囚われているのは猫人族ばかりだったから」
「そうですか。それで……他の囚われている人達はどうするのですか?」
それは逃亡の助けをするのかというニュアンスが含まれていた。こんなところにいればロクな目にはならないだろう。しかし――
「それはわたし達の仕事じゃない。必要のない苦労を背負って不必要な負担でリュネー姫を危険に晒すのはわたし達の役目じゃない。そうでしょう?」
「……そうですね」
少し溜めて頷いたワーゼルだったが、他の二人もどうにも神妙な顔をしていた。仕方ない。それでも助けたい。納得できない……。様々な表情はあるが、そのどれもが可能ならば助けたいという気持ちだった。
それを一蹴したファリスに思うところもあるのだろう。しかし、彼らはどんな立場で何をする為にここにいるのかはわかっていた。だからこそ、思っている事を飲み込んだのだ。
「それじゃ、まずはドオルと合流するところかしらね」
「……オルド隊長」
「諦めなさいな」
ワーゼルは最後まで悲し気な表情を浮かべていたが、結局ファリスがオルドの名前をきちんと呼ぶことはなかった。
「ちょっと、大丈夫?」
かなり神経が擦り切れていたのか、助けてくれた安堵からか意識を失って動かなくなってしまったのだ。ファリスはこれに困ってしまう。とりあえずなんとか背中に乗せて移動することにした。
「【アップボディ】」
(こういう時、ティアちゃんなら傷を癒したり起こしたりするんだろうな。わたしにはとても出来ないけど)
治癒魔導なんて扱える訳もないファリスは、仕方がないから全身の能力を強化する魔導を発動させてリュネーを背負う事にした。魔導を発動させているとはいえ想像以上の軽さに驚きながらもしっかりと背負い急ぎ足で来た道を引き返す。扉を吹き飛ばしてしまった以上、ここに侵入者がやってきたことはバレていると考えた方が良い。甘い妄想はしない事がファリスの考えだった。どう考えてもあり得ない事を夢想するより現実を直視して対処する。そうしなければ戦場で生きていけるはずもない。
軽やかな足取りで駆け抜ける彼女はここがダークエルフ族の地下施設ではなくて安堵をしていた。埋め立てられたり、迷路を作られて印をつけていないと道に迷ってしまったりとかもない。階段の上り下りを繰り返していてから多少改修はしている事を感じていたが、それでも彼らが直接関わったような入り組み方はしていなかったため、彼女も比較的何もせずに進んでいた。
「止まれ!!」
駆け抜けている最中、一直線になっている通路を遮るように立ちはだかるダークエルフ族の兵士。
「【フラムブランシュ】!」
威力を絞った炎の光線を繰り出す。少し迷ったようだが、今更音に気にすることはない。人造創具を手にしても良かったのだが、背負っているものが邪魔になるであろう事もあって魔導に選択した。
通路全体が炎に埋め尽くされ、消え失せた後にはその兵士は消し炭になってしまった。逃げ場はないし、魔導の発動が間に合わなかったからか防ぐ事も出来ない。必然の出来事だった。
それから二度ほど接敵するが、特に問題もなく対処。魔導による反撃もあったが、ファリスと一般兵士では戦闘力が違い過ぎた。風の球を放り投げてきたがファリスの【フラムブランシュ】によってあっという間に飲み込まれ、最初の兵士と同じ末路を辿ってしまった。
施設の外へと出て行ったファリスは出てすぐに襲撃があると思っていたのだが、予想に反して誰もいない。それどころか門の方で倒れていた兵士すらそのままの状態だった。
(おかしい。多少騒動はあったと思うのだけど、なんでほとんど人が来ないのだろう? わたし以外の誰かが囮になっているのはわかるんだけど、それでも注意がそっちに向きすぎているというか……)
「ファリス様!!」
何か違和感のある今の状況だったが、その思考を遮ったのはオルドから分かれた三人だった。
「えっと……誰?」
しかし、ファリスが彼らの事を覚えているはずもなく、心底知らない人を見るような目で彼らに接していた。もしこの中にエルフ族が存在したら間違いなく襲われていただろう程の初対面っぷりだ。その事に彼らは若干呆れた顔で彼女を見た。
「いい加減名前を覚えてくださいよ……」
「だったらもう少し強くなって」
とりあえず自分が連れてきた兵士の誰かであると判断したファリスは諫めるユヒトに辛辣に返した。強い者や自分が認めた者以外はどうでもいいという彼女の考えそのものだ。
「一応私達が誰かはわかりますよね……?」
「ドルオと一緒にきた兵士達でしょう」
「ファリス様……オルド隊長です」
がっくりと肩を落としていたワーゼルはこれ以上言っても仕方がないと気持ちを切り替える事にした。ファリスはルォーグくらいしか名前を覚えていない事を知っていたからだ。
「こほん……それで、その方がリュネー姫……ですか?」
疑問をぶつけるような顔をしていたのは、あまりにもみすぼらしい恰好をしていたからだ。猫耳と尻尾が生えていなければわからないくらいに。
「多分ね。他にこんな姿をした子はいないだろうし、他に囚われているのは猫人族ばかりだったから」
「そうですか。それで……他の囚われている人達はどうするのですか?」
それは逃亡の助けをするのかというニュアンスが含まれていた。こんなところにいればロクな目にはならないだろう。しかし――
「それはわたし達の仕事じゃない。必要のない苦労を背負って不必要な負担でリュネー姫を危険に晒すのはわたし達の役目じゃない。そうでしょう?」
「……そうですね」
少し溜めて頷いたワーゼルだったが、他の二人もどうにも神妙な顔をしていた。仕方ない。それでも助けたい。納得できない……。様々な表情はあるが、そのどれもが可能ならば助けたいという気持ちだった。
それを一蹴したファリスに思うところもあるのだろう。しかし、彼らはどんな立場で何をする為にここにいるのかはわかっていた。だからこそ、思っている事を飲み込んだのだ。
「それじゃ、まずはドオルと合流するところかしらね」
「……オルド隊長」
「諦めなさいな」
ワーゼルは最後まで悲し気な表情を浮かべていたが、結局ファリスがオルドの名前をきちんと呼ぶことはなかった。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる