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529・無残な報告(ファリスside)
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兵士が次の口を開くのにはそう時間が掛からなかった。苛々し始めているのがファリスの態度で伝わってきたのもあるが、このまま時間を潰すのは得策ではないと彼の冷静な部分が囁いたからであった。
「実は……と目的地に到着した後、近くに敵がいないか索敵していたのですが……斥候の一人が明らかに戦闘があった後を見つけたそうで……」
「戦闘? そんなところで?」
「はい。恐らく炎系の魔導でしょう。地面はまるで融けたかのような黒い跡があり、妙な形で固まっていました。多少焦げた匂いがする事から炎だと判断した次第です」
「……へぇ」
ファリスは兵士の報告を最初は大した事ではないと思っていたようだが、最後まで聞いて多少興味が湧いてきたようだった。
戦闘が起こることなどは珍しくはない。ダークエルフ族は悪魔族以外の他種族と戦争中なのだ。近くに拠点が存在するのだから襲撃の一つもあるだろう。
では何に興味を惹かれたのか? それは単純に地面を融かす程の魔導を扱える者がいた――ということだ。
おまけに――
「……おかしいですね。いくら離れているとはいっても派手な戦闘音であれば耳に入るはずです。しかも高威力の魔導となれば尚更。静かに敵を始末するなんてこと、中々出来ませんよ」
ルォーグの言葉にファリスも言葉なく同意した。ここしばらくは特に爆発音などは聞こえてこなかった。それは他の者も同じはずだ。何かあればすぐに彼女の耳に入るのだから。
「しかし、それなりの規模の戦闘があった事は確かです。辛うじて残っていた武器の残骸から、わが軍のものである可能性が高いと判断いたしました」
「……恐らくジックとヒューンの部隊だろうな」
こちらの拠点から抜け出し、敵の防衛拠点を狙おうとする輩など彼ら以外ありえなかった。実際にそのまま音信不通になっていたのだから、尚更だろう。
しかし――
「そう」
それを知ったところで死んだ者達の事など何も気にしていなかった。馬鹿な奴は死んで当然。相手との力量もわからない程度の兵士など彼女には必要なかった。
「……二つの部隊は全滅しているだろうな」
「ゲンマン隊長もその可能性が高いと仰っておりました。しかしそうなると……」
伝令兵が言葉を濁すのもオルドはわかっていた。隊にも色々とある。ジックとヒューンを合わせて大体二十人前後といったところだ。元々ジックは明確な戦果が欲しかっただけで命を賭けたくなかった。だからこそあまり数の多い部隊の隊長になりたくなくて策を巡らせた結果だが……軍的に言えばそれは当たりだっただろう。少ない損害に態度の悪い連中を一掃する事が出来た。おまけに強敵は興が削がれてどこかに行ったのだからシルケット軍にとっては最期に役に立ってくれた存在だっただろう。
しかしファリスにとってはむしろ逆だった。強敵を倒せば多少は自分の気持ちを満足させることが出来る上、エールティアにも褒めてもらえただろうからだ。それと軍の損害を天秤に掛けれない辺りがまだ彼女が未熟である証だった。
「まだ近くにいる可能性は?」
「それは低いと思われます。戦闘の跡から索敵範囲を広げましたが、他には何も見当たりませんでした」
「そうですか。それならすぐにどうにかなる事はないですね」
まだ近辺にいたら別動隊やこの本隊が壊滅させられるかもしれない――ルォーグの頭によぎっていた。もちろん考えすぎだと彼も思っていたのだが、その可能性を捨てきれない不思議な直感があったのだ。
「うん、大体わかった。死んだのは当然だし、今は敵もいないって事でいいんだよね?」
「え……はい。その通りですが……しかし、それも絶対とは言えません。いつ戻ってくるかわからない敵を警戒しながらの作業になりますので今しばらく時間が掛かるかと……」
実際、跡形もなく数十人の兵士を消した敵が徘徊しているかもしれないなど、普通の兵士には恐怖でしかない。そんな中の作業など捗る訳もなく、常に広い範囲の警戒を絶やさずにいる。おかげで少なくなった兵士が次々とやってくるダークエルフ族の相手をしているのが現状なのだ。
「こっちは大体処理できたからそっちに兵を向けて手早く作戦を終えてちょうだい」
「わかりました」
「それで良いよね?」
命令を下した後に確認を取ってくるファリスにルォーグは呆れた顔をして頷くしかなかった。
「そうですね。部隊の編制をしてこちらにある程度部隊を残して向かいましょう。準備はこちらにお任せください」
「よろしく」
既に興味を失いかけていたファリスが適当に返事をしたのをきっかけに部隊は別動隊を支援する組と拠点に帰還する組の二つに分けられることになった。ファリスは面倒くさいと帰る方に付いて行く事にし、後の事はルォーグに任せる事にした。多少信頼した証……ではあったが、結局名前は覚えておらず、都合の良い存在に昇華しただけだとも言えたのだが、それをルォーグが知る由もなかった。
部隊の編成を終えたルォーグは別動隊と合流し、ダークエルフ族の捕虜を全て拠点に連行したのだが……それは作戦が終わった次の日の出来事だった。
「実は……と目的地に到着した後、近くに敵がいないか索敵していたのですが……斥候の一人が明らかに戦闘があった後を見つけたそうで……」
「戦闘? そんなところで?」
「はい。恐らく炎系の魔導でしょう。地面はまるで融けたかのような黒い跡があり、妙な形で固まっていました。多少焦げた匂いがする事から炎だと判断した次第です」
「……へぇ」
ファリスは兵士の報告を最初は大した事ではないと思っていたようだが、最後まで聞いて多少興味が湧いてきたようだった。
戦闘が起こることなどは珍しくはない。ダークエルフ族は悪魔族以外の他種族と戦争中なのだ。近くに拠点が存在するのだから襲撃の一つもあるだろう。
では何に興味を惹かれたのか? それは単純に地面を融かす程の魔導を扱える者がいた――ということだ。
おまけに――
「……おかしいですね。いくら離れているとはいっても派手な戦闘音であれば耳に入るはずです。しかも高威力の魔導となれば尚更。静かに敵を始末するなんてこと、中々出来ませんよ」
ルォーグの言葉にファリスも言葉なく同意した。ここしばらくは特に爆発音などは聞こえてこなかった。それは他の者も同じはずだ。何かあればすぐに彼女の耳に入るのだから。
「しかし、それなりの規模の戦闘があった事は確かです。辛うじて残っていた武器の残骸から、わが軍のものである可能性が高いと判断いたしました」
「……恐らくジックとヒューンの部隊だろうな」
こちらの拠点から抜け出し、敵の防衛拠点を狙おうとする輩など彼ら以外ありえなかった。実際にそのまま音信不通になっていたのだから、尚更だろう。
しかし――
「そう」
それを知ったところで死んだ者達の事など何も気にしていなかった。馬鹿な奴は死んで当然。相手との力量もわからない程度の兵士など彼女には必要なかった。
「……二つの部隊は全滅しているだろうな」
「ゲンマン隊長もその可能性が高いと仰っておりました。しかしそうなると……」
伝令兵が言葉を濁すのもオルドはわかっていた。隊にも色々とある。ジックとヒューンを合わせて大体二十人前後といったところだ。元々ジックは明確な戦果が欲しかっただけで命を賭けたくなかった。だからこそあまり数の多い部隊の隊長になりたくなくて策を巡らせた結果だが……軍的に言えばそれは当たりだっただろう。少ない損害に態度の悪い連中を一掃する事が出来た。おまけに強敵は興が削がれてどこかに行ったのだからシルケット軍にとっては最期に役に立ってくれた存在だっただろう。
しかしファリスにとってはむしろ逆だった。強敵を倒せば多少は自分の気持ちを満足させることが出来る上、エールティアにも褒めてもらえただろうからだ。それと軍の損害を天秤に掛けれない辺りがまだ彼女が未熟である証だった。
「まだ近くにいる可能性は?」
「それは低いと思われます。戦闘の跡から索敵範囲を広げましたが、他には何も見当たりませんでした」
「そうですか。それならすぐにどうにかなる事はないですね」
まだ近辺にいたら別動隊やこの本隊が壊滅させられるかもしれない――ルォーグの頭によぎっていた。もちろん考えすぎだと彼も思っていたのだが、その可能性を捨てきれない不思議な直感があったのだ。
「うん、大体わかった。死んだのは当然だし、今は敵もいないって事でいいんだよね?」
「え……はい。その通りですが……しかし、それも絶対とは言えません。いつ戻ってくるかわからない敵を警戒しながらの作業になりますので今しばらく時間が掛かるかと……」
実際、跡形もなく数十人の兵士を消した敵が徘徊しているかもしれないなど、普通の兵士には恐怖でしかない。そんな中の作業など捗る訳もなく、常に広い範囲の警戒を絶やさずにいる。おかげで少なくなった兵士が次々とやってくるダークエルフ族の相手をしているのが現状なのだ。
「こっちは大体処理できたからそっちに兵を向けて手早く作戦を終えてちょうだい」
「わかりました」
「それで良いよね?」
命令を下した後に確認を取ってくるファリスにルォーグは呆れた顔をして頷くしかなかった。
「そうですね。部隊の編制をしてこちらにある程度部隊を残して向かいましょう。準備はこちらにお任せください」
「よろしく」
既に興味を失いかけていたファリスが適当に返事をしたのをきっかけに部隊は別動隊を支援する組と拠点に帰還する組の二つに分けられることになった。ファリスは面倒くさいと帰る方に付いて行く事にし、後の事はルォーグに任せる事にした。多少信頼した証……ではあったが、結局名前は覚えておらず、都合の良い存在に昇華しただけだとも言えたのだが、それをルォーグが知る由もなかった。
部隊の編成を終えたルォーグは別動隊と合流し、ダークエルフ族の捕虜を全て拠点に連行したのだが……それは作戦が終わった次の日の出来事だった。
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