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526・抜け出したもの(???side)
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時間は遡り、ファリス達が作戦を開始する前の話。傷だらけのオーク族のおかげでファリス派が一致団結したおかげで完全に浮いた立ち位置にいた彼女をダシに使おうとした者達はどうしたものかと悩んでいた。
そこを魔人族の男性でその部隊の体調を務めていたジックが――
「なら俺達で先行して、作戦開始する前に拠点の近くに潜伏して、逃げ出そうとしていた奴をぶち殺してやろうぜ」
「……大丈夫ですか? 俺達だけで勝てますかね?」
勢いよく強気な言葉を放つジックに対し、部下である魔人族の男性が不安の声を口にしていた。それも当然だ。彼もそうだが、基本的にファリスが少しは使えるように経験を積ませておこうと幾分かやりやすいように戦闘させてもらっていた連中ばかりなのだ。とてもではないがまともにぶつかって勝てる訳がない。そういう思いをしている者の一人だった。しかし彼の意見は聞き入れられることはなかった。
「あん? 問題ねぇだろ。逃げようとしている奴らなんざいわば敗残兵。そんな奴らに俺達が負けるかよ」
「待ち伏せするのはいいっすけど、それってわざわざ俺達が先行してやるもんなんっすかね?」
「そんなもん、後から来た連中には色々言ってやればいいんだよ。今は少しでも俺達でも出来るって事を知らせてやらなきゃいけないんだからな」
(はぁ……面倒くせぇな。俺の言う事を素直に聞いてりゃいいのによ)
適当に言葉で盛り上げながらジックは内心うんざりとしていた。元々兵士としても不真面目で、上司へのごますりだけで隊長までのし上がった人物だ。元々は他の領の貴族にだらだらと仕えていたのだが、今回の援軍で一貴族の私兵から国の軍部に入り込み、そこから金を好む連中に今まで貯めていた私財を少しずつ投資し、このシルケット救援が成功した暁により高みに昇る事が出来る。更なる躍進を遂げ、より裏道で金をためる事が出来る。それを繰り返してある程度の地位を手に入れて自分の好き勝手に生きる。それがジックの夢だった。
だからこそこの援軍でなんとか自分の戦果を挙げ続けなければならないのだ。幸いにもファリスがほいほいとそれを与えてくれるから困りはしなかった。だが、あと一歩。自身で勝ち得た実績というものが足りないと感じていた。
結局は聖黒族の後ろで残党狩りを行っていたと言われてしまえばそれだけの事でしかない。それでは彼の望む地位の獲得は逆に遠のきかねない。自らの策が採用された。率先して前に出てダークエルフ族と勇猛果敢に戦った……。そんな目に見える戦果がジックは欲しかったのだ。だからこそ作戦参謀のルォーグ達の策で自分の出番が少なくなることは避けたかった。彼らがより評価されるには、ダークエルフ族を多く仕留め、自らの価値を示す必要がある。
つまり、先行して自分が一番成果を上げやすい場所を確保しておこうという魂胆だった。部下達は適当に言いくるめておけば問題ない。どうせ使い捨ての駒なのには変わりないのだから。
道中では戦いになる可能性が高いだろう。もしかしたらダークエルフ族の援軍と鉢合わせするかもしれない。ならば、部下達を盾にするといい。何事も無ければ共に戦果分かち合えばいい。上手くいけばファリスの目にも留まるだろうし、国内外問わず一般人でもダークエルフ族を欲しがる貴族は多い。数人抑えておくだけでもそれなりの金額になる。隠せそうなものを持っていって、ほとぼりが覚めた頃に連れ出せばいいのだ。見張り役の者は負傷して役目不明になったとでも言っておけば通じるだろう。
ついでに自分の子分であるヒューンに声を掛ければいい――そう判断したジックは早速行動に移す。アイシカ達がいつ戻ってくるかわからないのだから早ければ早いほどいい。意気揚々とジックの案にのったヒューンの部隊と共に彼らは闇夜に紛れて行動を開始した。
(なに、例え咎められてもあの女なら気にすることはないさ。自分以外どうでもいい。そういうタイプの女だからな、ありゃ)
くっくっくっ、と嫌らしい笑みを浮かべて声と気配を潜めて先に進む。男達は周囲を警戒し、索敵の魔導で常に気を張って進んだ――
――はずだった。
「なんだ…….?」
最初に気付いたのは斥候を担当していた兵士。彼は夜目が効くように強化系の魔導を使って前を見ていたのだが、そこには異様とも思える光景が広がっていた。
森の中でも開けた場所で、月と星の光が降り注いでいる。実に神秘的ではあるが、それ以上の違和感。それは何故か黒竜人族の子供が月光浴をしていたのだ。
「……なんでこんなところにあんなのがいるんだ?」
「わからねぇ。注意しろ」
このシルケットは猫人族の国であり、黒竜人族は滅多に見かけない。それがこんなどことも分からない場所で気持ちよく月光浴を楽しんでいるなんて、どう考えてもおかしい。
しかも吸い込まれるような漆黒の黒髪に宝石よりも更に燃える赤々とした真紅色の瞳。数々の戦いを切り抜けてきた男達ですらどこか恐ろしいものを感じるその瞳は男達に気付いていたかのように当たり前のように身を起こし、ジック達と対峙するのだった。
そこを魔人族の男性でその部隊の体調を務めていたジックが――
「なら俺達で先行して、作戦開始する前に拠点の近くに潜伏して、逃げ出そうとしていた奴をぶち殺してやろうぜ」
「……大丈夫ですか? 俺達だけで勝てますかね?」
勢いよく強気な言葉を放つジックに対し、部下である魔人族の男性が不安の声を口にしていた。それも当然だ。彼もそうだが、基本的にファリスが少しは使えるように経験を積ませておこうと幾分かやりやすいように戦闘させてもらっていた連中ばかりなのだ。とてもではないがまともにぶつかって勝てる訳がない。そういう思いをしている者の一人だった。しかし彼の意見は聞き入れられることはなかった。
「あん? 問題ねぇだろ。逃げようとしている奴らなんざいわば敗残兵。そんな奴らに俺達が負けるかよ」
「待ち伏せするのはいいっすけど、それってわざわざ俺達が先行してやるもんなんっすかね?」
「そんなもん、後から来た連中には色々言ってやればいいんだよ。今は少しでも俺達でも出来るって事を知らせてやらなきゃいけないんだからな」
(はぁ……面倒くせぇな。俺の言う事を素直に聞いてりゃいいのによ)
適当に言葉で盛り上げながらジックは内心うんざりとしていた。元々兵士としても不真面目で、上司へのごますりだけで隊長までのし上がった人物だ。元々は他の領の貴族にだらだらと仕えていたのだが、今回の援軍で一貴族の私兵から国の軍部に入り込み、そこから金を好む連中に今まで貯めていた私財を少しずつ投資し、このシルケット救援が成功した暁により高みに昇る事が出来る。更なる躍進を遂げ、より裏道で金をためる事が出来る。それを繰り返してある程度の地位を手に入れて自分の好き勝手に生きる。それがジックの夢だった。
だからこそこの援軍でなんとか自分の戦果を挙げ続けなければならないのだ。幸いにもファリスがほいほいとそれを与えてくれるから困りはしなかった。だが、あと一歩。自身で勝ち得た実績というものが足りないと感じていた。
結局は聖黒族の後ろで残党狩りを行っていたと言われてしまえばそれだけの事でしかない。それでは彼の望む地位の獲得は逆に遠のきかねない。自らの策が採用された。率先して前に出てダークエルフ族と勇猛果敢に戦った……。そんな目に見える戦果がジックは欲しかったのだ。だからこそ作戦参謀のルォーグ達の策で自分の出番が少なくなることは避けたかった。彼らがより評価されるには、ダークエルフ族を多く仕留め、自らの価値を示す必要がある。
つまり、先行して自分が一番成果を上げやすい場所を確保しておこうという魂胆だった。部下達は適当に言いくるめておけば問題ない。どうせ使い捨ての駒なのには変わりないのだから。
道中では戦いになる可能性が高いだろう。もしかしたらダークエルフ族の援軍と鉢合わせするかもしれない。ならば、部下達を盾にするといい。何事も無ければ共に戦果分かち合えばいい。上手くいけばファリスの目にも留まるだろうし、国内外問わず一般人でもダークエルフ族を欲しがる貴族は多い。数人抑えておくだけでもそれなりの金額になる。隠せそうなものを持っていって、ほとぼりが覚めた頃に連れ出せばいいのだ。見張り役の者は負傷して役目不明になったとでも言っておけば通じるだろう。
ついでに自分の子分であるヒューンに声を掛ければいい――そう判断したジックは早速行動に移す。アイシカ達がいつ戻ってくるかわからないのだから早ければ早いほどいい。意気揚々とジックの案にのったヒューンの部隊と共に彼らは闇夜に紛れて行動を開始した。
(なに、例え咎められてもあの女なら気にすることはないさ。自分以外どうでもいい。そういうタイプの女だからな、ありゃ)
くっくっくっ、と嫌らしい笑みを浮かべて声と気配を潜めて先に進む。男達は周囲を警戒し、索敵の魔導で常に気を張って進んだ――
――はずだった。
「なんだ…….?」
最初に気付いたのは斥候を担当していた兵士。彼は夜目が効くように強化系の魔導を使って前を見ていたのだが、そこには異様とも思える光景が広がっていた。
森の中でも開けた場所で、月と星の光が降り注いでいる。実に神秘的ではあるが、それ以上の違和感。それは何故か黒竜人族の子供が月光浴をしていたのだ。
「……なんでこんなところにあんなのがいるんだ?」
「わからねぇ。注意しろ」
このシルケットは猫人族の国であり、黒竜人族は滅多に見かけない。それがこんなどことも分からない場所で気持ちよく月光浴を楽しんでいるなんて、どう考えてもおかしい。
しかも吸い込まれるような漆黒の黒髪に宝石よりも更に燃える赤々とした真紅色の瞳。数々の戦いを切り抜けてきた男達ですらどこか恐ろしいものを感じるその瞳は男達に気付いていたかのように当たり前のように身を起こし、ジック達と対峙するのだった。
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