515 / 676
515・作戦参謀達との対立(ファリスside)
しおりを挟む
あまり意図せず対立する事になったファリスとルォーグだが、その理由は単純明快。ファリスは自分がルォーグを信用していない事に他にならない。そもそも彼女がルォーグと初めて出会ったのは今回の援軍要請が初めてだったのだ。今まで面識もなかった彼に慣れるという事自体がファリスにはそもそも無謀だった。
「……ファリス様、私の事が気に食わないのはわかりました。貴女には戦う術を持たない私達が鬱陶しいのでしょう。話合えばなんとか出来ると思いましたが……貴女は聞く耳すら持たないと。そういう事ですか」
震える拳を握り締め、睨みつけるルォーグの視線を涼し気な表情で受け止めるファリス。それに更に血が昇るのは彼らだった。
――一触即発。張りつめた空気が場を支配し、ファリス派と反ファリス派はいつ戦いが始まってもおかしくない状況にあった。唯一中立を保っている者達が一歩距離を置いた様子で見守っていた。
「はっきり言わないとわからない?」
「……どういう意味ですか」
「私達は命を賭けているの。命のやり取りをしているのに、貴方達は外から安全な場所で物を言うだけ。随分楽な仕事よね」
その言葉にファリスに賛同している者は頷き、怒りと共に参謀達を睨む。中には甘い汁を吸おうとするふざけた輩がいるのも事実だが、純粋に彼女を慕っている者もいる。彼らはそういう類の集まりだった。
「確かに、私達は戦っている間は戦場とは無関係です。ですが、私達の役目はその先や間にあります。貴方達が戦っている間、どれだけ被害を少なくするか……それを考えるのが私達のはずです」
うんうんと頷くのはルォーグと同じようにファリスの個人主義に賛成できず、ファリス派と対立している参謀を中心としている者達。それが火に油を注ぐ結果になったのか、更に剣呑な雰囲気になっていく。
「そう。それで、実際被害は減ってるの?」
「それは……」
「今わたしが戦わないって言ったら、どれだけ被害を抑える事が出来る?」
「まさか、傍観するつもりなのかにゃ!?」
見当違いの暴論を繰り出した猫人族だが、それは許さないと言いたげな視線は彼らの心境を如実に語っていた。
「別にそれでもいいけど……わたしがいたからここまでほとんど無傷でいられたのを忘れていないかってこと。今まで王子様の指揮があったからなんとかなっていたけれど、それがなかったらなんとか出来た? 援軍で一緒に来た人たちはともかく、猫人族の人たちはどうにか出来る自信なんてあったの?」
「それは――」
「なかったよね。この人たちはそれを知ってるからわたしを頼っているの。使い捨てにされるにしても、ただ無為に死ぬよりはずっとマシ。そんな風に思っているからわたしを支持している。それだけの人が多いの」
反ファリス派の魔人族は不満げな表情を続けているが、猫人族の方は黙って下を向いてしまった。彼らはベルン王子が合流するまで軍をいたずらに浪費し、合流後は作戦に参加すらさせてもらう事も出来ずに傍観させられていた連中だった。
今回の行軍に同行させてもらったのはなんとか汚名返上を目論んでいたからであり、ベルン王子もファリスの意見に触れれば目を覚ますだろうと思って送られてきたメンツだった。
いわば町の守りに組み込んでも役に立ちそうもない連中を体よく押し付けられたということなのだが、ファリスにとってはどうでもよかった。
「わたしは後ろで何も考えずに『作戦』を練っている連中の言う事なんてこれっぽっちも信じていない。だって、彼らは机の上でうんうん唸ってるだけで何とかなると思っているような人たちなんだもの。これまでの戦いだって、あなたたちは何か言った? わたしが先陣切って敵を蹴散らして、勢いに乗った彼らが残党処理をする。その間でも何か一つでも案があった?」
その言葉に誰もが沈黙してしまう。全てファリスを矢面に立たせ、彼女の持つ圧倒的な戦力で敵をねじ伏せ、残った敵を兵士達が討伐していた。その間、参謀はただ付いて行くだけ。非常に楽な移動を行っていたと言える。もちろん何もしなかったわけではない。食糧の管理や陣形の確認。洗い出された敵の兵力を参考に様々な作戦を立案。彼らがしている仕事は数多くある。
しかし、それはどれも直接戦場に結び付くものではなかった。作戦の立案も、ファリスという戦力さえいれば必要としない。目に見える成果がなければ、こうなる事もまた必然だった。
「し、しかし、私達の仕事は決して疎かにしていいものではありません。貴方達が戦場を駆け抜けている間、町や拠点の守りを務めるのも私達のやり方です!」
「だったら納得できるほどの戦果を見せて。わたしは譲歩した。魔導で拠点一帯を全て灰にしてもいいところを、それじゃ困るからっていうからやめた。隠密の二人が戻った後も状況によってはあなたたちに任せる。あまりにひどい作戦じゃなかったら従ってあげる事も約束する。それでも文句を言うのなら、付き合ってられないから勝手にやって」
「まっ――」
言いたいだけ言って去ったファリスの後ろ姿を、ルォーグを含めた参謀達は悔しそうに見つめていた。猫人族の彼らはなんともやるせなく、言い返す事も出来ずに情けない気持ちに。
残った魔人族などの他の種族の参謀はここまで言われて言い返す事の出来ない程度の功績しかない事への歯がゆさに……それぞれ苛まれるのだった。
「……ファリス様、私の事が気に食わないのはわかりました。貴女には戦う術を持たない私達が鬱陶しいのでしょう。話合えばなんとか出来ると思いましたが……貴女は聞く耳すら持たないと。そういう事ですか」
震える拳を握り締め、睨みつけるルォーグの視線を涼し気な表情で受け止めるファリス。それに更に血が昇るのは彼らだった。
――一触即発。張りつめた空気が場を支配し、ファリス派と反ファリス派はいつ戦いが始まってもおかしくない状況にあった。唯一中立を保っている者達が一歩距離を置いた様子で見守っていた。
「はっきり言わないとわからない?」
「……どういう意味ですか」
「私達は命を賭けているの。命のやり取りをしているのに、貴方達は外から安全な場所で物を言うだけ。随分楽な仕事よね」
その言葉にファリスに賛同している者は頷き、怒りと共に参謀達を睨む。中には甘い汁を吸おうとするふざけた輩がいるのも事実だが、純粋に彼女を慕っている者もいる。彼らはそういう類の集まりだった。
「確かに、私達は戦っている間は戦場とは無関係です。ですが、私達の役目はその先や間にあります。貴方達が戦っている間、どれだけ被害を少なくするか……それを考えるのが私達のはずです」
うんうんと頷くのはルォーグと同じようにファリスの個人主義に賛成できず、ファリス派と対立している参謀を中心としている者達。それが火に油を注ぐ結果になったのか、更に剣呑な雰囲気になっていく。
「そう。それで、実際被害は減ってるの?」
「それは……」
「今わたしが戦わないって言ったら、どれだけ被害を抑える事が出来る?」
「まさか、傍観するつもりなのかにゃ!?」
見当違いの暴論を繰り出した猫人族だが、それは許さないと言いたげな視線は彼らの心境を如実に語っていた。
「別にそれでもいいけど……わたしがいたからここまでほとんど無傷でいられたのを忘れていないかってこと。今まで王子様の指揮があったからなんとかなっていたけれど、それがなかったらなんとか出来た? 援軍で一緒に来た人たちはともかく、猫人族の人たちはどうにか出来る自信なんてあったの?」
「それは――」
「なかったよね。この人たちはそれを知ってるからわたしを頼っているの。使い捨てにされるにしても、ただ無為に死ぬよりはずっとマシ。そんな風に思っているからわたしを支持している。それだけの人が多いの」
反ファリス派の魔人族は不満げな表情を続けているが、猫人族の方は黙って下を向いてしまった。彼らはベルン王子が合流するまで軍をいたずらに浪費し、合流後は作戦に参加すらさせてもらう事も出来ずに傍観させられていた連中だった。
今回の行軍に同行させてもらったのはなんとか汚名返上を目論んでいたからであり、ベルン王子もファリスの意見に触れれば目を覚ますだろうと思って送られてきたメンツだった。
いわば町の守りに組み込んでも役に立ちそうもない連中を体よく押し付けられたということなのだが、ファリスにとってはどうでもよかった。
「わたしは後ろで何も考えずに『作戦』を練っている連中の言う事なんてこれっぽっちも信じていない。だって、彼らは机の上でうんうん唸ってるだけで何とかなると思っているような人たちなんだもの。これまでの戦いだって、あなたたちは何か言った? わたしが先陣切って敵を蹴散らして、勢いに乗った彼らが残党処理をする。その間でも何か一つでも案があった?」
その言葉に誰もが沈黙してしまう。全てファリスを矢面に立たせ、彼女の持つ圧倒的な戦力で敵をねじ伏せ、残った敵を兵士達が討伐していた。その間、参謀はただ付いて行くだけ。非常に楽な移動を行っていたと言える。もちろん何もしなかったわけではない。食糧の管理や陣形の確認。洗い出された敵の兵力を参考に様々な作戦を立案。彼らがしている仕事は数多くある。
しかし、それはどれも直接戦場に結び付くものではなかった。作戦の立案も、ファリスという戦力さえいれば必要としない。目に見える成果がなければ、こうなる事もまた必然だった。
「し、しかし、私達の仕事は決して疎かにしていいものではありません。貴方達が戦場を駆け抜けている間、町や拠点の守りを務めるのも私達のやり方です!」
「だったら納得できるほどの戦果を見せて。わたしは譲歩した。魔導で拠点一帯を全て灰にしてもいいところを、それじゃ困るからっていうからやめた。隠密の二人が戻った後も状況によってはあなたたちに任せる。あまりにひどい作戦じゃなかったら従ってあげる事も約束する。それでも文句を言うのなら、付き合ってられないから勝手にやって」
「まっ――」
言いたいだけ言って去ったファリスの後ろ姿を、ルォーグを含めた参謀達は悔しそうに見つめていた。猫人族の彼らはなんともやるせなく、言い返す事も出来ずに情けない気持ちに。
残った魔人族などの他の種族の参謀はここまで言われて言い返す事の出来ない程度の功績しかない事への歯がゆさに……それぞれ苛まれるのだった。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~
九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】
【HOTランキング1位獲得!】
とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。
花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる