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508・王子からの招待(ファリスside)
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ベルン王子が帰還した次の日。町は賑わいに包まれていた。それはファリスが滞在していた中でも最も楽し気で、まだ戦いは続いているはずなのに戦勝ムードに包まれていた。
「呑気なものね」
約束の時間までまだ少し時間があったファリスは、騒いでいる町の中を適当に歩き回っていた。このルドールにやってきてから幾度となく繰り返した行為。ただ前と違うのは帰還した兵士達の影響か、ファリスの事を英雄と崇めているものが出はじめているという点だった。
ファリスは地位や名声なんてものは縁遠い存在だった。故にそれを涼し気な顔で受け流してしまい……それがまたクールな感じがして良いと言ってくる人物も現れ始めた。もてはやされる一方、圧倒的な力に恐怖する者もいた。好意的な目と否定的な視線に晒されても、ファリスは何も動じなかった。元々負の感情をぶつけられることは慣れていたし、他者にさほど関心がなかったというのも理由の一つに挙げられるだろう。
結果、いつもと全く変わらない散歩を楽しんだ彼女は、大体この時間でいいだろうと思った頃合いに王族が使っているという館に向かった。少し前まで町の中に閉じ込められていた為、様々な場所を歩き回っていたからかすぐに到着する。
「ファリス様、ですかにゃあ?」
聞き慣れない声に目を向けると、猫人族の少女が様子を窺うように立っていた。通常、猫人族の性別は同じ種族同士でなければ中々判別がつかない。基本的に体系の差異は少なく、ぱっと見ただけでは外見の違いなど見分ける事が難しいからだ。ならば何故ファリスは女だと思ったのか?
それはその少女がメイド服にその身を包んでいたからだった。猫人族以外の種族にも性別をわかりやすくするため、服には明確な違いを持っている。他種族と接する時は自らの性別にあった服装をする。それが叶わない場合はアクセサリーを着用するようになっていた。ただ、それはほんの一年前の話であり、未だに浸透していないのが難点ではあるが、少なくとも今回に限ってはしっかりと効果を発揮していた。
「そうだけど……貴女は?」
「私はトーケですにゃあ。この館で働いていますにゃあ」
ぺこりと丁寧に頭を下げた猫人族の少女の片耳がピコっと動く姿に可愛さを感じたファリスの口の端が少し緩む。それは誰かに気付かれない程のささやかなもので、目の前の少女も全く気付いていなかった。
「ベルン様がお待ちしておりますにゃあ。よろしければご案内いたしますが……」
「よろしく」
間髪入れずに返答したファリスは、そのままトーケと名乗った猫人族のメイドの後ろをついて行く。
初めて入る館の中は、基本的に魔人族などの人の形をしている種族が使えるように出来ていた。これでは猫人族が作業しにくいだろうに……などと思いながら黙ってついて行った先には両手開きの扉があった。
何の躊躇もなく開いたそこには大きなテーブルが鎮座していて、対面するようにベルンが座っていた。
「やあ、待っていたにゃー」
優し気に微笑むその姿は普通の女子なら文字通りイチコロと言えるだろう。もっとも、ファリスは『並』ではなかったから微動だにしないのだが。
「迎えの者が行ったはずだけど、無事に会えたみたいだにゃー」
「迎え?」
ファリスが首を傾げたのと同じ仕草をベルンもしてっ不思議そうな顔をする。実はベルンはファリスがいるであろう駐留所に人を送っていたのだが、肝心の本人は適当に散歩に出て時間を潰してから直接こちらにきた始末。そもそも出会えてすらいなかった。
「場所がわからないと困るだろうから迎えの者を送ったんだけど……一緒に来なかったのかにゃ?」
「……うん。誰も来てなかったけど」
短いやり取りだが、それだけですれ違いになったのだろう事を察したベルンは、迎えに送った人物に心中謝っておくことにした。ファリス自身悪気が全くなかっただけに責めるのも筋違いだったからだ。
「……仕方ないのにゃー。それじゃ、まずは食事にしませんかにゃー?」
こくりと頷いてそのまま近くの椅子に腰を下ろしたファリスを確認すると、すぐそばに置いてあった呼び鈴を鳴らす。それと同時にメイドの一人が姿を現し、ベルンが頷くと同時に指示を理解して引っ込む。それだけファリスが来た時の対処を考えていたということの表れでもあった。
「女性と二人っきりの食事というのも久しぶりですにゃー。最近は戦いばっかりで忙しいからにゃー」
「そうでしょうね」
にゃははー、と軽い笑いを浮かべたベルンだったが、ほとんど無反応と言っていいくらいのそっけない返し方をされてしまい、ベルンの笑みも少し乾いていく。
「こほん、エールティア姫にはあれだけ熱烈だったのに、結構冷めてるのにゃー」
「わたしにはティアちゃんだけいればいいもの」
(……なんだかすごく愛が重い気がするにゃー。あの方は好かれ過ぎなのも問題かもにゃー)
ベルンの更に笑みが引きつる。これではいけないと思っていると食事が運ばれてくる。どうにも場が盛り上がらなかったが仕方がない。気持ちを切り替えて食事をしつつ、ファリスから話を聞こうと考えたベルンだったが、苦戦するのは想像に難くなかった。
「呑気なものね」
約束の時間までまだ少し時間があったファリスは、騒いでいる町の中を適当に歩き回っていた。このルドールにやってきてから幾度となく繰り返した行為。ただ前と違うのは帰還した兵士達の影響か、ファリスの事を英雄と崇めているものが出はじめているという点だった。
ファリスは地位や名声なんてものは縁遠い存在だった。故にそれを涼し気な顔で受け流してしまい……それがまたクールな感じがして良いと言ってくる人物も現れ始めた。もてはやされる一方、圧倒的な力に恐怖する者もいた。好意的な目と否定的な視線に晒されても、ファリスは何も動じなかった。元々負の感情をぶつけられることは慣れていたし、他者にさほど関心がなかったというのも理由の一つに挙げられるだろう。
結果、いつもと全く変わらない散歩を楽しんだ彼女は、大体この時間でいいだろうと思った頃合いに王族が使っているという館に向かった。少し前まで町の中に閉じ込められていた為、様々な場所を歩き回っていたからかすぐに到着する。
「ファリス様、ですかにゃあ?」
聞き慣れない声に目を向けると、猫人族の少女が様子を窺うように立っていた。通常、猫人族の性別は同じ種族同士でなければ中々判別がつかない。基本的に体系の差異は少なく、ぱっと見ただけでは外見の違いなど見分ける事が難しいからだ。ならば何故ファリスは女だと思ったのか?
それはその少女がメイド服にその身を包んでいたからだった。猫人族以外の種族にも性別をわかりやすくするため、服には明確な違いを持っている。他種族と接する時は自らの性別にあった服装をする。それが叶わない場合はアクセサリーを着用するようになっていた。ただ、それはほんの一年前の話であり、未だに浸透していないのが難点ではあるが、少なくとも今回に限ってはしっかりと効果を発揮していた。
「そうだけど……貴女は?」
「私はトーケですにゃあ。この館で働いていますにゃあ」
ぺこりと丁寧に頭を下げた猫人族の少女の片耳がピコっと動く姿に可愛さを感じたファリスの口の端が少し緩む。それは誰かに気付かれない程のささやかなもので、目の前の少女も全く気付いていなかった。
「ベルン様がお待ちしておりますにゃあ。よろしければご案内いたしますが……」
「よろしく」
間髪入れずに返答したファリスは、そのままトーケと名乗った猫人族のメイドの後ろをついて行く。
初めて入る館の中は、基本的に魔人族などの人の形をしている種族が使えるように出来ていた。これでは猫人族が作業しにくいだろうに……などと思いながら黙ってついて行った先には両手開きの扉があった。
何の躊躇もなく開いたそこには大きなテーブルが鎮座していて、対面するようにベルンが座っていた。
「やあ、待っていたにゃー」
優し気に微笑むその姿は普通の女子なら文字通りイチコロと言えるだろう。もっとも、ファリスは『並』ではなかったから微動だにしないのだが。
「迎えの者が行ったはずだけど、無事に会えたみたいだにゃー」
「迎え?」
ファリスが首を傾げたのと同じ仕草をベルンもしてっ不思議そうな顔をする。実はベルンはファリスがいるであろう駐留所に人を送っていたのだが、肝心の本人は適当に散歩に出て時間を潰してから直接こちらにきた始末。そもそも出会えてすらいなかった。
「場所がわからないと困るだろうから迎えの者を送ったんだけど……一緒に来なかったのかにゃ?」
「……うん。誰も来てなかったけど」
短いやり取りだが、それだけですれ違いになったのだろう事を察したベルンは、迎えに送った人物に心中謝っておくことにした。ファリス自身悪気が全くなかっただけに責めるのも筋違いだったからだ。
「……仕方ないのにゃー。それじゃ、まずは食事にしませんかにゃー?」
こくりと頷いてそのまま近くの椅子に腰を下ろしたファリスを確認すると、すぐそばに置いてあった呼び鈴を鳴らす。それと同時にメイドの一人が姿を現し、ベルンが頷くと同時に指示を理解して引っ込む。それだけファリスが来た時の対処を考えていたということの表れでもあった。
「女性と二人っきりの食事というのも久しぶりですにゃー。最近は戦いばっかりで忙しいからにゃー」
「そうでしょうね」
にゃははー、と軽い笑いを浮かべたベルンだったが、ほとんど無反応と言っていいくらいのそっけない返し方をされてしまい、ベルンの笑みも少し乾いていく。
「こほん、エールティア姫にはあれだけ熱烈だったのに、結構冷めてるのにゃー」
「わたしにはティアちゃんだけいればいいもの」
(……なんだかすごく愛が重い気がするにゃー。あの方は好かれ過ぎなのも問題かもにゃー)
ベルンの更に笑みが引きつる。これではいけないと思っていると食事が運ばれてくる。どうにも場が盛り上がらなかったが仕方がない。気持ちを切り替えて食事をしつつ、ファリスから話を聞こうと考えたベルンだったが、苦戦するのは想像に難くなかった。
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