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506・一つの結末(ファリスside)

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 ファリスが攻撃を止め、武器を収めた時。戦いの音が消え、猫人族の兵士達が気が付いた時にはダークエルフ族の軍は壊滅していた。敵と思われる者達は地に伏しているか、兵器ならば首を落とされ、砕かれ――無残にもその役目を失っていた。

 周囲に味方は誰もおらず、瓦礫と死体の山を築き上げた少女が一人。傍から見れば、それは恐ろしくもあり、何を思っているのかよくわからない表情を浮かべているそれが美しくもあった。

「あ、あの……」

 ある意味一枚の絵になっているそこに勇気を出した兵士が一人、おずおずと声を掛ける。振り返った彼女の顔を見た兵士は、少し見惚れてしまった。普段は同じ猫人族に惹かれる彼であったが、この時ばかりはファリスに心を奪われてしまった。その事をのちに仲間に冷やかされてしまうのだが、それはまた別の話。

「……リシュファス公爵閣下の命を受けて援軍に来たファリスだけど、ベルン王子は?」

 兵士に声を掛けられた瞬間、最初はどう反応しようか悩んでいたファリスだったが、結局普段と外面の中間みたいな態度が出てしまってバツが悪くなった顔をしたが、それを気にしている者は彼女以外いなかった。

「ボクがベルン・シルケットですにゃ。お初にお目にかかるのにゃー」

 奥から身なりの良い猫人族と魔人族の混血である猫耳と尻尾を生やした少年が姿を現した。

(……なんだか、見た感じ獣人族だよね)
「今、獣人族っぽいって思ってなかったかにゃー?」

 まるで見透かすような言葉に驚きの表情を隠せなかったファリスに、『やっぱりなぁ』みたいな顔をしたベルン。今まででも何度も同じことがあったのだろう。それほどまで知っていた対応の仕方だった。
 様々な動物の耳と尻尾を生やしている獣人族だが、猫、狐、狼の三種類は存在しない。この三種類はそれぞれの種として確立しているからだ。あまり魔力を持たない獣人族と同一視されるのも混血児が敬遠される理由の一つだった。

「あまりボク達の事を知らない人達は大体そう思うから仕方ないのにゃー」
「わたしはファリス。ティアちゃ――エールティア様の配下の一人だよ」

 散々悩んだ末、結局いつもの話し方をする事にしたファリスだが、流石に『ティアちゃん』と呼ぶのはやめたようだった。

(ここまで強い子が配下の一人だなんて、聖黒族は本当に侮れないにゃー……)

 強者が下に付くという事は、その者が更なる強者であるか何か惹かれる者を持っているかのどちらかである。ベルンは魔王祭でエールティアがファリスに勝利しているところを見ているからこそ、前者の理由でファリスを従えていると思っていた。実際のところはその両方なのだが、今はそれを知る術はなかった。

「助けていただいてありがとうございますにゃ。流石聖黒族。噂に違わない実力の持ち主ですにゃ」

 本心の言葉だったが、それはファリスにはあまり届いていないようだった。彼女はあくまで複製体でしかなく、聖黒族としての矜持きょうじもなければかくあれと育ってきたわけではない。流石と言われてもピンとこないのも仕方がない事だろう。

「遅くなってごめんなさい。あれ、あの……偉い猫人族に外に出るなって言われたから苦労したかな」
「そうかにゃー。それは申し訳ない事をしたのにゃー」

 名前を思い出せずにとりあえず偉い人だったことは覚えていたせいでいまいちはっきりとしなかったが、一応ベルンには伝わっていた。

「そこは気にしなくて大丈夫。おかげで結構うさばらし出来たし……」
「え?」
「何も」

 流石におおっぴらに言うのもアレだったからか、『おかげで~』の辺りからは小声で言っていた。ベルンには聞こえなかったようで、とりあえず会話を終わらせることにしたファリスは、周囲に座っている兵士達の姿を見た。各々疲れ切った顔をしており、どれだけの激戦を潜り抜けてきたのかが伝わってくるようであった。

「食糧とかはどうなってるの?」
「ああ、最低限は持って来ているにゃー。撤退戦となれば余計な荷物は持てないかにゃー」

 逃げるのに必要なのは迅速に行動出来る足であり、可能な限り軽装が望ましい。それを踏まえて考えれば、一番手放しやすい食糧を置き去りにするのは仕方のない事だろう。

「なら、一度ここで小休止を取ってから町に帰ろう。今は多分、動けないだろうし」

 ベルンの目にも兵士達の疲労度が極限に近い状態であることがわかった。元々一緒に戦ってきたのだから当然でもあるが。

 それでも歩けていたのは町が近く、逃げる事に必死になっていたからだ。ファリスがそれを排除した結果、緊張の糸はぷつんと切れてその疲労感を一気に知覚してしまった。それが今、目に見えて出ているという訳だ。

「……そうだにゃー。みんな! 一度ここで軽く休んでから町に戻るにゃー!」

 兵士達の状況や他に敵軍が追撃を仕掛けてくる可能性。それらを考慮した結果、一度休息を入れる事にしたのだった。呆気ない幕切れではあったが、ベルン達にとっては正に救いのある終わり方だった。
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