503 / 676
503・王子との出会い(ファリスside)
しおりを挟む
ルドールの町を抜け出したファリスは、戦場となっている場所である北東へと足を向けていた。
命からがら街に逃げ戻ったか兵士の話によると、おおよその位置は特定できており、北東を進んだところに軍隊が事を構えるのに向いている開いた草原がある場所で、普通に歩いたら大体七日程度。ファリスは自らの身体能力を強化させることが出来る為、それを大幅に短縮させることが出来る。加えて睡眠時間を削り、可能な限り地面を踏みしめ駆け抜ける足を止めないようにしていた。食事も摂らず、休みもせず……まるで獲物を見つけ狩人の目をした獣のように。標的を見失うまいと全速力をキープし続ける。
それは決して動きやすい服とは言えない格好だが、訓練された兵士達よりも圧倒的だった。
(血の匂い……まだ微かだけど、匂ってくるくらいには近づけたみたい)
感覚を鋭敏にする【シックスセンシズ】のお陰で未だ遠い戦場の匂いを感じ、改めて今進んでいる道が間違っていないことを確信したファリスは、更に速度を上げる。可能な限り素早く駆け抜け戦場へ……。そんな風に思っているファリスの行為は、他者から見たら献身的に映るのかもしれない。我が身を厭わず王子を守る為に邁進姿は心を打つものがある。ただ、ファリスにとってはベルンなんてどうでもよかった――という点を除けば、だが。
守って『いる』のではなく『あげている』。それがわかれば、彼女が如何にシルケットに興味がないか理解できるだろう。ファリスにとってはエールティアこそ至高なのだ。
メインディッシュを食するときに添え物がなにか気にするだろうか? シルケットという国自体、彼女にはその程度の認識しかなかった。
(こんなに手間取らせて……! わたしは早く終わらせたいのに!)
感情の読み取りにくいその顔からはあまり読み取れない。内に様々な感情を秘めたままどんどん戦場へと近づいてきた彼女は、一層強くなった血と焦げた匂いに眉をしかめる。
「……! ――――!!」
微かに聴こえてくる声。それは必死な応戦。罵声。悲痛な叫び。それらが容赦なく焼き払われていく。
(なるほど。随分持ちこたえているじゃない。よくもまあ頑張るものね)
冷静に状況を分析しているファリスの視界に猫人族が戦っている姿が見えてくる。【シックスセンシズ】で強化されるのは視覚も含まれている。他者には点のようにしか見えないものでも、今のファリスには鮮明に誰が何をしているかわかった。
猫人族の中に混じって魔人族が猫耳を付けたような少年がいた。多少大人びて見えるその少年は杖を片手に次々と魔導を発動させている。球体の雷が出現して、そこから電撃が放たれていたり、弾丸のように細かく小さな氷の弾が無数と呼ぶに相応しい程の量が次々と飛んでいく光景が見られる。
そしてそれを真っ向から受け止めているのはダークエルフ族の兵器達。その間を縫うように複製体と思しき者達が駆け抜ける。
「あれが……ベルゥ王子ね」
惜しい間違いを小声で呟くファリス。それを訂正する者がいないのは不幸中の幸いと言えるだろう。片手で数える程度にしか名前を覚えていない彼女にとっては些細な出来事だ。
接敵までもう少し時間が掛かるが、近づくにつれて敵の軍勢の全貌が明らかになっていく。
狼型の兵器であるクーティノス。巨大なワニガメのようなメルシャタ。そしてその間にエールティア達からグロウゴレムと呼ばれている戦闘を学習して最適化するフィシャルマー……。その全てが勢ぞろいしていた。クーティノスが近くの猫人族の魔導を無効化して、メルシャタがその強固な装甲で並の攻撃を弾き返す。そしてそれらに守られながら少しずつ育っていくフィシャルマーの三つの関係は上手くハマっており、それが余計に猫人族を消耗させていく。
ファリスの目にはベルンがかなり疲労しているように見えた。それもそのはずだ。クーティノスが周囲の魔力を阻害しているため、それなりに強い魔導を扱わざるを得ない。魔力の消費が激しく、メルシャタは通常の斬撃などで対応するのは難しかったのだ。
「【人造命具・フィリンベーニス・レプリカ】!」
発動する魔導に対し高い防御を誇るクーティノスがいる以上、事前に魔導を発動させておく。それが先の戦いで学んだ結果だった。事前に発動した魔導には影響力はそこまで高くない。呼び出す際に可能な限り魔力を練り込めば多少吸い取られたとしても変わらぬ威力を与えてくれるだろう。
現れた剣を抜き去ってどんどん近づいて行く戦場へと向かう。その足はどこか嬉しく、戦場だというのに妙に落ち着き払っていた。
流石に接近している事に気付くことが出来たのか、ちらほらとファリスの側を向く敵兵たちが増えていく。
「さあ……戦闘開始ってね」
久しぶりに戦える――そんな欲求が満たされる瞬間を想像したのか、彼女の顔は自然と綻んでいき……熱に浮かされた戦士のように笑みを浮かべてしまうには十分すぎるくらいだった。
命からがら街に逃げ戻ったか兵士の話によると、おおよその位置は特定できており、北東を進んだところに軍隊が事を構えるのに向いている開いた草原がある場所で、普通に歩いたら大体七日程度。ファリスは自らの身体能力を強化させることが出来る為、それを大幅に短縮させることが出来る。加えて睡眠時間を削り、可能な限り地面を踏みしめ駆け抜ける足を止めないようにしていた。食事も摂らず、休みもせず……まるで獲物を見つけ狩人の目をした獣のように。標的を見失うまいと全速力をキープし続ける。
それは決して動きやすい服とは言えない格好だが、訓練された兵士達よりも圧倒的だった。
(血の匂い……まだ微かだけど、匂ってくるくらいには近づけたみたい)
感覚を鋭敏にする【シックスセンシズ】のお陰で未だ遠い戦場の匂いを感じ、改めて今進んでいる道が間違っていないことを確信したファリスは、更に速度を上げる。可能な限り素早く駆け抜け戦場へ……。そんな風に思っているファリスの行為は、他者から見たら献身的に映るのかもしれない。我が身を厭わず王子を守る為に邁進姿は心を打つものがある。ただ、ファリスにとってはベルンなんてどうでもよかった――という点を除けば、だが。
守って『いる』のではなく『あげている』。それがわかれば、彼女が如何にシルケットに興味がないか理解できるだろう。ファリスにとってはエールティアこそ至高なのだ。
メインディッシュを食するときに添え物がなにか気にするだろうか? シルケットという国自体、彼女にはその程度の認識しかなかった。
(こんなに手間取らせて……! わたしは早く終わらせたいのに!)
感情の読み取りにくいその顔からはあまり読み取れない。内に様々な感情を秘めたままどんどん戦場へと近づいてきた彼女は、一層強くなった血と焦げた匂いに眉をしかめる。
「……! ――――!!」
微かに聴こえてくる声。それは必死な応戦。罵声。悲痛な叫び。それらが容赦なく焼き払われていく。
(なるほど。随分持ちこたえているじゃない。よくもまあ頑張るものね)
冷静に状況を分析しているファリスの視界に猫人族が戦っている姿が見えてくる。【シックスセンシズ】で強化されるのは視覚も含まれている。他者には点のようにしか見えないものでも、今のファリスには鮮明に誰が何をしているかわかった。
猫人族の中に混じって魔人族が猫耳を付けたような少年がいた。多少大人びて見えるその少年は杖を片手に次々と魔導を発動させている。球体の雷が出現して、そこから電撃が放たれていたり、弾丸のように細かく小さな氷の弾が無数と呼ぶに相応しい程の量が次々と飛んでいく光景が見られる。
そしてそれを真っ向から受け止めているのはダークエルフ族の兵器達。その間を縫うように複製体と思しき者達が駆け抜ける。
「あれが……ベルゥ王子ね」
惜しい間違いを小声で呟くファリス。それを訂正する者がいないのは不幸中の幸いと言えるだろう。片手で数える程度にしか名前を覚えていない彼女にとっては些細な出来事だ。
接敵までもう少し時間が掛かるが、近づくにつれて敵の軍勢の全貌が明らかになっていく。
狼型の兵器であるクーティノス。巨大なワニガメのようなメルシャタ。そしてその間にエールティア達からグロウゴレムと呼ばれている戦闘を学習して最適化するフィシャルマー……。その全てが勢ぞろいしていた。クーティノスが近くの猫人族の魔導を無効化して、メルシャタがその強固な装甲で並の攻撃を弾き返す。そしてそれらに守られながら少しずつ育っていくフィシャルマーの三つの関係は上手くハマっており、それが余計に猫人族を消耗させていく。
ファリスの目にはベルンがかなり疲労しているように見えた。それもそのはずだ。クーティノスが周囲の魔力を阻害しているため、それなりに強い魔導を扱わざるを得ない。魔力の消費が激しく、メルシャタは通常の斬撃などで対応するのは難しかったのだ。
「【人造命具・フィリンベーニス・レプリカ】!」
発動する魔導に対し高い防御を誇るクーティノスがいる以上、事前に魔導を発動させておく。それが先の戦いで学んだ結果だった。事前に発動した魔導には影響力はそこまで高くない。呼び出す際に可能な限り魔力を練り込めば多少吸い取られたとしても変わらぬ威力を与えてくれるだろう。
現れた剣を抜き去ってどんどん近づいて行く戦場へと向かう。その足はどこか嬉しく、戦場だというのに妙に落ち着き払っていた。
流石に接近している事に気付くことが出来たのか、ちらほらとファリスの側を向く敵兵たちが増えていく。
「さあ……戦闘開始ってね」
久しぶりに戦える――そんな欲求が満たされる瞬間を想像したのか、彼女の顔は自然と綻んでいき……熱に浮かされた戦士のように笑みを浮かべてしまうには十分すぎるくらいだった。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる